PLAY16 オヴリヴィオン⑤
罪滅ぼし。
その言葉を聞いてアキは理解していた。
自分のせいで人の人生が滅茶苦茶になったのだ。
もしかしたらあの時コーフィンを追っていた人達も、同じことになってしまったかもしれない。
たとえ誤射であっても結果は結果。
結果論という言葉があるだろう。
結果がすべて。
良くも悪くも……、結果こそがすべてなのだ。
だから、アキは銃を下したまま……、動こうとも、よけようとも思えずにいた。
コーフィンは拳銃の引き金を引こうとしたとき……、はっと何かを感じた表情になり、すぐに背後を見た。
アキはそんな光景を見て、目を見開いた。
そう。
コーフィンの背後で、シュレディンガーとの対戦を終え、加勢に来たキョウヤが、小さく跳躍したまま槍を振り上げて、そのまま一気に振り降ろそうとしている姿が見えたのだ。
「ッ!? マサカ!」
「見つかっちまったけど……、不意打ち――」
二人の前に現れた存在――キョウヤは槍を一気に振り降ろそうとする。
それと同時にコーフィンもアーマライトもとい『アダルター』を持って、キョウヤに向かってそれを打ち込もうとした。が……。
キョウヤの方が早かった。
「――失礼っっ!」
ぶぅんっと言う風を切る音。
それと同時に来た圧。
コーフィンは即座に『アダルター』を攻撃から防御に――つまりは銃の銃口筒を使って防御した。
ドォンッ! と来る衝撃と、ごぉんっと来た金属のいびつな音。
キョウヤの槍も硬いが、それと同等に『アダルター』も硬い。ゆえに折れなかった。
キョウヤはそれを見て、その『アダルター』を足場にして、一旦足を着けて勢いよく跳んだ。
「っ!」
それも、コーフィンの頭上を通り過ぎるように、グルンッと空中で一回転して。
――ナンテ身体能力! ゲーム上ノ動キデハ再現デキナイッ!
そう思いながらも、コーフィンはまた懐から拳銃を、あの『KILLER』ではない拳銃を取り出した。
それは現実ではベレッタ九二と言う名前で量産されているものだが、ここでは違う。
モデルは一緒だが、ところどころに青い線が彫られているところから、青い爪痕と称して『ブルーファング』と呼ばれているもの。
「また拳銃! どこから出してんだ!」
キョウヤは跳びながもい突っ込むと、コーフィンは『ブルーファング』をキョウヤに向けて引き金を引いた。
パァンパァンパァンパァンパァンパァン!
六発撃ったのだが、それは難なく躱されて、キョウヤは難なくアキの前に着地して、武器である槍を構えながらアキを見ずに大声を張った。
「アキ! 早くこいつを倒すぞ!」
「あ。あ……ああ」
「なにきょどってんだよっ。いつものドSはどうした! 早くしねえと妹があぶねえんだぞ!?」
「そ、それはわかっている……っ! わかっている……けど」
アキ達の会話を聞いてか、コーフィンは投げ捨てたペストマスクを手に取り、くつくつ笑いながらアキ達に向かってこう言った。
「ソウカ」
「「?」」
コーフィンはペストマスクを着けながら、コーフィンはアキに向かって、くつくつ笑っていた。
キョウヤはそれを見て、「何が、おかしいんだ?」と聞く。
それに対しコーフィンは「イヤナ」と言って、彼はマスク越しで笑みを作ってこう言った。
「ソノ妹ハ――アキノ大切ナモノナンダロウ?」
「っっ!?」
「ま」
アキがその言葉に大袈裟にびくつき、キョウヤもまさかと思いながら聞こうとした時には、既にコーフィンは行動に移していた。
コーフィンは懐から出した三つ目の拳銃『ファイナー』を出した。
「だからどんだけ銃持ってんだっての!」
キョウヤは駆け出して槍でそれを叩き落とそうとした。
が。
片手に『ファイナー』
そしてもう片方には……『KILLER』
「っ!?」
「あ! 離れろ!」
「っ! おぅ!?」
アキは即座に、キョウヤの肩を掴んで押し出す。
アキはその銃の前に立って、牽制を立てようとした。しかし……、コーフィンを見て、アキは強張ってしまう。
あの言葉が、あの光景が脳裏に浮かぶ。
と同時に、コーフィンはその二丁の引き金を引いた。スキルを発動しながら。
「『ストロングショット』」
バァンっと――アキの右足首に直撃した銃弾。それはアキの足首を貫通し、アキは痛みで顔を歪ませる。そして畳み掛けるように――
「『ストロングショット』、『ストロングショット』、『ストロングショット』、『ストロングショット』、『ストロングショット』」
バン、バン、バン、バン、バンと――
それぞれ手に持っている拳銃を、それぞれ左右の足に向けて銃弾を放つ。
それが当たり、アキは顔を歪ませて、ぐらっとバランスを崩した瞬間……。
「がぁっ!」
どちゃぁっと――頭から倒れてしまう。
それを見たキョウヤは、アキの名を呼びながら駆け寄る。そして足を見て……、その表情を驚愕のそれに変えて、アキのバングルを見る……。
赤と青の帯線の画面上に、何かが差し入れられたかのように、赤く点滅している人間のマーク。そのマークの両足は黒くなっていて、下にはこう書かれていた。
LEG GOAと――
「足の……部位破壊……っ! てめぇ!」
キョウヤはすぐにコーフィンを見た。コーフィンはくつくつ笑いながらふっと、とある方向に向けて足を動かす。
その方向は……、斬首霊廟の道。
「妹ヲ見殺シニスル。ソレコソガ……、オ前ガ最モ嫌ガルコト。復讐ニ値スルッ!」
そう言って、コーフィンはダッと逃げてしまった。
キョウヤはそれを見て、「くそ」と苦虫を噛みしめるように唸ると、アキを見降ろし、聞いた。
「おいアキ! あいつハンナを殺す気だぞ! 俺が担ぐか」
「……報い、なのかもしれない」
「……はぁ?」
唐突にアキは地面の顔を擦っているようなそれで、アキはキョウヤを見ずに言った。
「あの人は、俺の上司なんだ……。しかも、俺に銃のことを教えてくれた……」
「師匠的な? ってか、今はそんなこと」
「ああ、確かにそんなことだ。さっきまで罪悪感しかなかった。なんであんなことをしてしまったんだろうって思った。ぐちゃぐちゃだった。でも……、そんなこと、今はどうでもいい」
「ん?」
おいおい……、今言っていたことと、たった今言った言葉、なんか矛盾してねえか……?
そうキョウヤは内心何言ってるんだこいつと思っていた。
しかしアキは、本気だった。
アキがぐっと、握り拳を作り、そのまま立ち上がろうとする。壊れてしまった足など関係なく……。力いっぱい、手で立ち上がろうとする。
「コーフィンさん……、なんて言っていた……?」
「あ? えっと、お前の復讐とか言ってて、思うとを殺すとか……」
「…………………す」
「へ?」
キョウヤはアキの低い声を聞いて、そして察した。
何日しか共にしていないが、アキの大まかな性格はだいたい理解していると思っている。
そう、アキは……。
「――コーフィンさんであろうと……、ハンナを傷つけるなら無礼講上等っ! ぶっ殺すっっ!!」
「…………はぁ」
コーフィンが重度のガンマニアならば……、アキは重度のシスコン。
要は、妹に手を出そうとしたコーフィンは、アキの地雷を踏んでしまったということだ。
罪滅ぼしよりもハンナの方が大事……。どんな思考回路なんだ……。さっきのシリアスを返せ。そうキョウヤは内心呆れながら見降ろしていた……。
「キョウヤァ!」
「あ、はいっ!」
アキの怒号を聞いて、キョウヤは思わずびくついて返事をしてしまった。
アキはキョウヤを見上げて――とあることを言った。
◆ ◆
その頃、コーフィンは斬首霊廟に向かって走っていた。
(霊廟ニ向カエバ、アノ小娘トENPCヘルナイトガイル。ソシテ、計画ガ多イニ狂イスギタガ……、カイルモイル)
(シカシ本当ニライジンヲ制御デキルノカ? アイツハ出来ルト言ッテイタガ……)
コーフィンは走りながら思っていた。
今回の計画のこともあるが、それ以前に……。
(オヴリヴィオン。日本語デ言ウト忘却、無意識ト訳サレル。俺達ハショセン寄セ集メノ集団。新参デ、ギルドニ正式申請シテイナイチーム)
(ツマリハ、忘レ去ラレル集団)
(アノ青二才ハ何モワカッテナイ。コノ世界ノルールデサエモ、ワカッテナイ。スベテ自分ヲ中心ニ回ッテイルト誤解シテイル愚か者)
(ダガ……)
と思い、コーフィンはふと、自分の素顔を見たアキを思い出す。
あの顔は……後悔や罪悪感がつまりに詰まった顔……。
「モウ、イイノカモシレナイ」
そう言った瞬間だった。
ふっと、コーフィンの目の前に落ちてきた鉄の球。
それを見たコーフィンは足を止めてしまった。そしてすぐに来た……。
ぼしゅうううっと出る白い煙。
「ッ!」
コーフィンは驚くが、すぐに『KILLER』を手に持ってきょろきょろと辺りを見回す。辺りは白い煙で何も見えない。
しかし見えないだけで、すべてが遮断されたわけではない。
コーフィンは冷静になる。そして……耳を澄ます。
――ズズッ。
「! ソコダ」
コーフィンは『KILLER』を構え、音がした方向に銃を放った。
パァンパァンパァンッ!
乾いた銃声の音。
一回撃ち方をやめて、撃ったその場所を見ると……。
煙を纏うように、高速で動く何か。
「ッ!?」
コーフィンは見上げる。そして、後ろを見た瞬間……。すべてを知る。
彼の後ろには――キョウヤが彼に向かって走ってきていた。アキはいない。置いてきたのだろうか。しかしそれを考える暇はない。キョウヤの右手には槍。そして左手には、さっきコーフィンの目の前に落ちてきた球があった。
(アノ鉄ノ球ヲ使ッテ! 目クラマシ!)
そう思いながらコーフィンは懐から左手に持った『アダルター』を出して、それをキョウヤに向けて発砲しようとした。
しかしキョウヤはそれを読んでいるかのように、ジグザグに動きながら銃口から逸らそうとして走ってくる。
「ッ!」
コーフィンはぐらぐらする焦点の中、なんとかキョウヤを捉えようとする。
そして、キョウヤがダンッと地面を踏んだ瞬間――彼は好機と見て、ペストマスク越しで口元に弧を描いた。
(チャンス!)
そう思って『アダルター』の引き金を引く。
刹那。
ガチッ。
ゴギュッ!
「?」
ボォンッッ!
「ウガァ!」
コーフィンが持っていた『アダルター』が、銃口の筒の内側から爆発した。それも異常な音を立てて。
「っ!」
(ナッ!? 弾詰リッ!? アリエナイッ! 一発シカ撃ッテイナイノニ!)
慌てながらもショットガンであるその『アダルター』の銃口の筒を見た。
その筒を見て、コーフィンは驚愕に顔を染めた。
微妙だが、真っ直ぐな銃口が……、曲がっていた。その曲がっているところが破裂していたのだ。
思い当たることはたった一つ。
(アノ時――攻撃ヲ防御シタ時!)
現実ではありえないような事態である。しかし起こったことは事実。コーフィンは多大なダメージを負った左手に鞭を打ち付けながら、すかさずほかの拳銃を取り出そうとしたとき、煙は晴れて、キョウヤがそこにいた。
コーフィンは驚く。キョウヤはそのまま、右手に持っていた槍を、コーフィンを叩き倒すように時計回りに薙ごうとした。
それを見たコーフィンは、すぐに――
キョウヤが薙いだ瞬間、それを縄跳びのように跳んで回避した。
「ソレガオ前ノ秘策カッ!? 甘イゾ! 俺ハマダ、得物ヲ持ッテイル! 俺ノ勝チダ!」
そう言って、自分の勝利をを確信したかのように言うコーフィン。両手に二丁の拳銃を持って構えた瞬間、目を疑った。
キョウヤはまだ槍を振っていた。否――回っている。
右足を軸にして、時計回りに。
そして、彼が後ろを向いた瞬間……、コーフィンはペストマスク越しに、ギョロ目を更にギョロつかせるように見開いた。
キョウヤの背後……、否、キョウヤの尻尾に巻きつけられて、手にはアサルトライフル『ホークス』を持って、自分に狙いを定めているアキが、おしくらまんじゅうでもするかのように、キョウヤと背中わせとなって、そこにいた。
足は使い物にならない状態のまま、彼は残っている武器で、コーフィンに狙いを定めて……。
「止め――」
アキがそう言った瞬間、黒い煙が立ち込める夜のアムスノームに、銃の連射音が響いていたが、あまり人の耳には届かなかった。
アキは『ホークス』を下す。キョウヤはその光景を、後ろを見て横目で見る。
コーフィンの手足には、無数の弾丸が貫通した痕が残っている。そしてそれを受けてぐらつき……、背中から思いっきり倒れた。大の字になって、赤い血溜まりを作りながら……、コーフィンは倒れた。
幸い『デス・カウンター』は出ていない。
しかし……。
「四肢ノ部位破壊……。荒イ攻撃ダナ」
オ前ラシクナイ。
そうコーフィンは言った。
それを聞いて、キョウヤの尻尾に絡まれたアキは、それを見降ろすかのようにして言った。今更来た、罪悪感を乗せて……。
「……頭に、血が上っていました」
「ソレハ、俺ガ、オ前ヲ殺ソウトシタカラダロウ? 日本デ言ウ正当防衛。ダロ?」
「いえ……。妹を殺すって聞いて……、それで」
「ハ?」
コーフィンも素っ頓狂な声を上げて驚いた。アキを見上げると、アキは少し恥ずかしそうにして……「いえ、その、先輩のことに関しては十分後悔しているんです……」と言って、「でも」と付け加えて、アキは言った。
「それよりも、妹を傷つけると聞いて……、怒りが収まらなくなって……」と、だんだん小さくなってくる声に、コーフィンはペストマスク越しで呆れていた。キョウヤも同じように呆れて聞いていた。
しかしコーフィンは、ははっと、乾いた笑いを出して……。
「オ前ラシイ」と言った。
それを聞いて、アキはきょとんっとしてしまう。キョウヤも同じように、それを聞いてきょとんっとして話を聞いていた。
「……正直、復讐ハ諦メテイタ。トイウカ、馬鹿ラシイト思ッテイタ。退社シテカラズットナ」
「え?」
アキはそのコーフィンの言葉に驚きを隠せずにいて、「で、でも俺のことを恨んで」と慌てながら言うと、コーフィンは対照的な表情と声色でこう言った。
「タシカニ、コウナッタトキハ、アキ――オ前ヲ恨ンデイタ。シカシ考エヲ変エテミレバ、コレハ自業自得デモアッタ。俺ガアノ時、調子コイテ三人相手ニシナケレバ、アノ時実力負ケシテ逃ゲナケレバ、コウナラナカッタノカモシレナイ。退社シテ、病院デリハビリヲシナガラ、フト思ッタコトダ。過去ノコトニツイテ引キズリナガラ生キルナンテコトハシナイ。アレハ俺ノセイデモアル。アキダケノ責任ジャナイ。ダカラ復讐ハ嘘ダ。スマンナ」
「じゃあなんであんなことを?」
そうキョウヤがふとした疑問を口にすると、コーフィンは「アア」と言って、彼はたった一言……。
「――タダノジョーク。ダ……。日本デ言ウ手ノ込ンダ冗談ダ。オ前ハマジメデ、キットフサギ込ンデイルト思ッテ、ナ。余計ナオ世話ダッタガ……イイ芝居ダッタダロウ? 俺ノ演技」
そしてコーフィンは更に言葉を続ける。
「後輩ノコトヲ心配スルノハ、先輩トシテ当タリ前ダ。ソシテ……、生キ急イデイル後輩ヲ励マシ、背中ヲ押スタメニ体ヲ張ルノハ、先輩ノ特権ダト俺ハ思ッテイタンダガ?」
そう言ったコーフィンの言葉にアキは俯いて黙ってしまうが、その後黙ってしまったその口を無理矢理動かすように一言……。
「マジで、怖かったです」と、アキははっきりと言った。
それを見て、聞いていたキョウヤはほくそ笑みながらこう思った。
――後輩想いな人だなー。と……。
「――妹サン。アノ霊廟ニイルンダロウ?」
「「!」」
コーフィンの言葉に二人ははっとする。アキはコーフィンを見降ろし、彼に向けて言った。
「オヴリヴィオンのリーダーがいる場所……教えてください」
「簡単ダ」
そうアキの言葉に、コーフィンはこう言った。
オヴリヴィオン――カイルがいる場所を。
「斬首霊廟ノ最深部――ライジンガ潜伏シテイル下層ダ」