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PLAY16 オヴリヴィオン③

 時間をキョウヤ達のところに戻す。


 キョウヤは現在、斬首霊廟に向かったハンナ達を見送り、内心がんばれと応援しながら見送っていた。


 左で攻撃を繰り返しているシュレディンガーの攻撃を軽く捌きながら。


 槍の攻撃は大抵突きの攻撃だが、その突きの攻撃を予測しているかのように、見ないでそれを捌いているキョウヤ。


 シュレディンガーは苛立った顔をしながら突きの攻撃を強くする。しかしそれでも捌いてしまうキョウヤ。


 素人と天賦の才。


 これほど実力の差が生まれるのだ……。


「だあああああああああああああっっっ!」


 シュレディンガーは苛立ちを露わにしてキョウヤに一太刀入れようと突きを繰り返す。それを感じていたキョウヤは……内心呆れながらこう思った。


 ――こいつ、動きが雑だなー。


 と。


 しかしシュレディンガーは手を緩めず、更に連撃を強めて――


「『氷河槍(ヒョドガ・ランス)』ッ!」

「っ!」


 キョウヤは突然左頬に当たる冷気を感じ、彼はふっと、その攻撃を槍では止めずに後ろに反るように避けた。


 ぶぅんっと風を切るようにしてきたのは――氷を纏った槍だった。


 鉱物でできた……と言っても、それは宝石のそれで、薄水色の鉱物で出来た槍の刃に纏わりつく氷。


 それを見たキョウヤは、内心冷や汗を浮かべていた。


 キョウヤはそのまま尻尾の先を地面につけて、とんっと後ろに跳躍し、そして次に己の足で着地しては跳びながら空中で一回転して着地する。


 その攻撃を見ながら、キョウヤは……。


 ――厄介と言うか、あいつ……そう言うタイプなのな。


 と思いながら氷の槍を構え、にやりと笑みを浮かべて槍の刃を斜め下にして構えているシュレディンガーを見た。


「キョウヤ!」


 アキが叫ぶと同時に、組み敷こうとしていたコーフィンを蹴飛ばす。


「グゥッ!」


 コーフィンは唸りながら体制を崩してしまう。その隙を突いてアキは銃を構えようとしたとき……。


「アキ――お前はそこにいる鳥男の相手をしててくれ」

「はぁ!?」


 キョウヤの言葉に、アキはぎょっと驚きながら声を荒げた。


「何言ってるんだ! 槍相手なら、遠距離攻撃ができる」

「槍相手ならなおさら、オレが相手した方が効率がいいと思う」

「っ」

「それに」


 と、キョウヤはアキの目の前で、ゆっくりと立ち上がってアキを睨むコーフィンを見て、アキを見て言った。


「あいつはお前の方がいいらしい……。てなわけで、オレはこっちの相手をする」


 いいな? とニカッと笑うキョウヤ。それを見て、アキは腑に落ちないような表情をしたが、すぐに「わかった」と言って銃口をコーフィンに向けた。


 キョウヤは未だに氷を纏ってる槍を振り回しているシュレディンガーを見て、思い出す。


 タイプ。


 それは攻撃手段のタイプのことである。


 スキルは確かにSPを使ってスキルを取得することができる。


 しかしそれに伴って、ポイントを消費するシステムなのであると同時に……、優劣が決まってしまう。


 例えば――ハンナで言うと、『回復スキル』と『盾スキル』。そして『浄化スキル』という三つの項目がある。


 そのスキルでも細分化するとかなりの量となる。


 最初に三ポイント。一レベルが上がるにつれて二ポイント。


 総計で二百一ポイントとなる。


 そのポイントの振り分けにも十分悩めるところがあり、それを極めるかでその人がどんな所属のエキスパートなのかがわかる。


 ハンナなら回復に特化している『回復スキル』に多くのスキルポイントを使っている。ゆえに『回復スキル』が得意であるということになる。


 盾を極めたい人は『盾スキル』に多くのスキルポイントを使い、『浄化スキル』を極めたい人は浄化スキルに多くのスキルポイントを使う。


『バランス型』と言う人もいるが、大まかにいうと、その偏りタイプ型が多いのも事実。


 それからすると、キョウヤは『物理槍術スキル』。


 そして……、シュレディンガーは『属性槍術スキル』ということになるのだ。


「属性って……、お前等のところには魔導師の奴がいないのか?」


 キョウヤは聞く。


 しかしシュレディンガーはその言葉に対し、はっと鼻でキョウヤを笑いながらこう言った。


「そんなの決まってんだろ? スキルの配分で決まる分、一人で生き残るためには属性を覚えた方がいいって」

「………それだったら魔導師選べよ」

「悪いね。俺はそういったことはしない。直接手を下す武器がない所属にはなりたくない。早めに武器で痛めつける所属は、戦士に限るって思ったんだ」

「……あんた、何でこんなことをしてんだ? まさか、ティックディックと同じような、オヴリヴィオンの仲間か……?」

「そうだな。俺はオヴリヴィオンのメンバーにして、リーダーの右腕! ってところだ」


 そのくらい強いって感じはしない。


 そう思いながらキョウヤは槍を構え……、ようとしたが、キョウヤは目の前で氷を纏った槍を振り回し、臨戦態勢になっているシュレディンガーに向かって彼は聞く。


「……というか、なんでこんなことをしてんだ?」

「あ?」


 その言葉に、シュレディンガーは素っ頓狂な声を上げて疑問の声を出した。


「何言ってんだ? お前。今俺達は殺し合ってるんだろ? 殺しているんだよな? なんでそんな野暮なことを聞くんだ?」

「……なんでそんな風に、殺すことに固執してんだ?」

「決まってるじゃんか」


 シュレディンガーは言った。



()()()()じゃ()()



 その言葉はあまりにも残酷で、気持ちが悪い言葉でもあった。


 キョウヤはそれを聞いて、ぎゅっと、槍を握る力を強めた。


 それを見ていないシュレディンガーは続けてこう言う。


「親の言いつけで、抑圧された感情は爆発する。俺はそんな環境で生まれて生きてきた。親は子供を世間体の道具としてしか、俺を見なかった。だから俺は親のことを恨んで恨みまくった。でも殺せねえし、負のスパイラルだろ? だから俺は()()()殴ったり叩いたりしてストレスを解消していた」

「…………へぇ」

「そんな生活はうんざりだった。もうすっきりしてぇっと思った時、アップデート(こんなこと)になって、リーダーと出会って、殺してもいいって言われた! なにせ、これからはいやな奴は殺しても構わねえ! なぜって? 俺を裁く人間が居ねえからだ!」


 最高の国だ。ここは。


 そうシュレディンガーは昂揚とした笑みで言う。それを見たキョウヤは、ますます気持ち悪くなってきた。


 彼の腐りに腐った人格を。


 そして……、その思考を、思想に……。



 呆れていた。



「…………………………………………だからか?」

「あ?」


 キョウヤはシュレディンガーに聞き、内心こう思いながら聞いた。


「お前がランサーである理由。それに固執する理由は、単純な話」


(こんなやつらがアムスノームを支配? アズールを支配?)


「お前はその槍で突いて、遠くから人を刺したかった。返り血が嫌だったからそれにしたって話だろ?」


(こんなやつらが支配する世界は、黒い世界しか生まねえ)


「銃を使いたくても知識がない。それって結局は――我儘だろうが。お前の欲張りで、傷ついてるんだぞ?」


(そんなの許せねえし……、そんな理由で、ちっぽけな理由で……)


 キョウヤの言葉を聞き、シュレディンガーは苛立った音色で「何言ってんだ……?」と言葉を零すと、キョウヤはぶんっと尻尾を振る上げて、勢いよく地面に向けて――


 バチィィィンッッ! と、響き渡るように叩きつけた。


 それを聞いて、見て、シュレディンガーはぎょっとした顔をして強張らせていた。


 キョウヤの顔――それは静かな怒りではない。激昂そのもの。


 叩きつけた尻尾のところは、地面が砕けていた。それくらい……、キョウヤは怒っている。


「んな理由でなぁ……、殺そうとか思ってんじゃねえ」


 ぎりっと歯を食いしばって、キョウヤは、怒りを露にして……、自分が持っていた槍を、近くの地面に突き刺して、彼は怒鳴った。



「お前の我儘に、そんな捻じ曲がった感情に……人を巻き込むなっっ!」



「……何言ってんだ?」


 にたりと、シュレディンガーはニヤつき、怒りを露にしたキョウヤに向かって、彼はくつくつ笑いながらこう言った。


「ここの奴らはコンピューターなんだぜ? 殺してもいいじゃねえか? だって人じゃねえんだし。殺しても罪にならねえ。ゲームだろ? この世界は! いいじゃねえか殺しても! なぁ!?」

「そう言うことじゃねえ」


 キョウヤは首を横に振り、シュレディンガーを見て彼は静かに、怒りを露にした目で彼を見て言う。


「生きてるだろうが。さっきの親子だって、怖くて震えて、悲しんでいた」

「そういう風にインプットされてんだろ? プログラムされてんだろ? いいじゃねえかよ! 別に殺しても!」

「…………………………もう言っても無駄だ」


 そう言ってキョウヤはふっと頭を下げて小さく言うと同時に、顔を上げてシュレディンガーを見た。


 その眼は呆れたという目で、彼を見下すようにキョウヤは武器を持たず、怒りの目で見下して言った。


「話しても無駄だってことはわかった。だからここで気絶させる。己の得物を持たずに、な」

「ぐぅううううっっ!」

 シュレディンガーはそれを聞いて、ぎりぎりと歯が擦り切れるのではないか? と言うくらい歯軋りをして、彼は足に踏み込む力を入れた。


 そして――氷の槍の刃をキョウヤに向けて……。




「――ふざけてんじゃねえええええっっっ!」




 ダンッと姿勢を低くして駆け出す。


 駆け出す速さはキョウヤより劣る。ゆえに、キョウヤには見えていた。


 シュレディンガーは感情のままに、何も考えずにキョウヤの顔の左目めがけて突きを入れる。


 それを目で視認し、そのまま右に傾くように避けると同時に、刃がキョウヤの顔を通り過ぎた時、キョウヤはシュレディンガーの槍の刃と棒の接合部を、右手でがっしりと掴んだ。


「っ!?」


 要は刃の根っこを掴んだと言っても過言ではない。


 そのままキョウヤは左足を軸とし、右足を上げてシュレディンガーの腹部に強く蹴りを入れる。めぎりと、めり込むくらい。


「かはぁ!」


 シュレディンガーは腹部の圧迫を感じて、槍を掴んでいた手を緩めてしまった。その隙に、キョウヤはその槍をぐいんっと上げて、シュレディンガーから武器を奪う形で、槍をくるんっと回転させて、持った。


 それを見て、腹部の痛みを感じながら、シュレディンガーは勢いよく駆け出して……。


「か、返」

「『アン・ザ・ランス』」


 キョウヤは低い声で、隙を作らせないように、刃を後ろにしたまま、石突きというところで、シュレディンガーの額めがけてスキルを使い、強めの突きを使う。


 シュレディンガーは驚いて後退しようとしたが、それも遅く。


 ごんっと、大きな音を立てて「がっ!」と声を上げてしまう。


 額に手を当てて痛みに耐えている間に、キョウヤはだんっと、一歩前に左足を出して――


「『デュー・ランス』」


 シュレディンガーの量からの関節を狙って、ドスッ! ドスッ! と――二突き。


「ぐぎゃぁ!」


 シュレディンガーは肩の痛みに唸りながらよろめく。それでもキョウヤの猛攻は、ここで決まる!


「『トロァ・ランス』」


 シュレディンガーの槍の石突きを使って、キョウヤはシュレディンガーの足の付け根と、腹部目掛けて、渾身の突きをシュレディンガーに向ける。


 足の付け根から歪な音が聞こえて、腹部に来た強烈な突きを体験したシュレディンガーは――


「~~~~~っっっ! っっっ!」


 最初こそ耐えたが、次第に意識が飛んでいき、ぐりんっと白目を剥いたと同時にその衝撃に耐えきれず、どんっという衝撃音と共に飛んでしまった。


 それは漫画のような光景ではある。


 しかしそれくらい、強く突いた。スキルがあって更に威力は倍増。


 シュレディンガーは勢いよく吹き飛んで、広間にある柱に直撃してしまう。


 それも、ボゴォッと大きく鈍い音が出るくらい、煙の中から覗くシルエットが傾くくらい……強めに攻撃した。


 土煙を見て、晴れた時――シュレディンガーは白目を剥いたまま気を失っていた。頭の上に『デス・カウンター』は出ていない。


 キョウヤはそれを見て、手に持っていたシュレディンガーの槍を上に向けて投げた。


 すぐに自分の得物を持ち、くるくると落ちてくるシュレディンガーの槍を見ずに彼は小さく……。


()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()、言ってねえよ」と言って……。


 あと数センチというところで、槍の刃の先がキョウヤの髪を掠めようとした時だった。


 キョウヤはすっと後ろに下がりながら得物を上に上げ、それをブンッと空中に浮いて落ちて来る槍に向けて、上から下に向けて叩き落とすように槍を振り降ろす。


 すると――


 バギィンッと鉱物で出来た槍は真っ二つになり、使い物にならなくなってしまった。


 それを冷めた目で見るキョウヤ。


 まるでどこかの剣豪がやる離れ業。


 それをキョウヤは槍でやってしまったのだ。


 真っ二つとなった槍は地面に落ち、ガシャンガシャンッと言う音を立てながら粉々になってしまった。


 それを見ながらキョウヤは小さい声で、自分にしか聞こえない声量で……、悔しそうにこう言った……。


「じいちゃんが生きがいにしていた槍を、そんな風に使うんじゃねえ……」

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