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PLAY16 オヴリヴィオン①

 ハンナ達が話をしているその時、時間は――零時であると同時に、決行の時間でもあった。


 その丁度零時。


 ヘルナイトはギルドの前で辺りを見回していた。


 それは癖と言うものであり、鬼士としては当たり前の行動。でもあった……。


 ……まぁ、今となっては不必要な行動であろうが……。


 そんな中でも、ヘルナイトはその警戒を怠らなかった。



(昔と比べると、夜の街は静かだ……)


 記憶がないということもあってか、ヘルナイトは街の変化を見てほんの少しだけだがそれを楽しんでみていることもあった。


 だが、(おも)にこれは何かがあった時に、即座に行動するための警戒と見張り。


 趣味などは後回しである。


(でも、このアムスノームは本当に平和だ……。あんなことがあったとは思えない……)


(思えない……。それは、私の過信でもあるのだろうか……)


 そう思いながらヘルナイトは己の手をじっと見る。


(私はなぜ……この国で最強の鬼士なのだろうか……)


 空を見上げて彼は思う。


 自分の強さを。


(私以上にその力に長けている奴だっている。私よりも強いものもいる。それなのに、私は……、アズール最強の鬼士で、この『断罪の晩餐』に選ばれた存在……)


「……()()ならば……、その答えを知っているのだろうか……。?」


()()?)


 一体誰のことだろうか。


 ヘルナイトは頭を抱えて、思い出そうとする。


 しかし……、思い出せない。


 ヘルナイトはそっと頭から手を離し……、ふっと自嘲気味に笑みを零し……。


「……そう都合よく、思い出せないか」と言った。


 その時だった。



 ――ボン。



「?」


 静けさが似合う夜の街に、変な音が聞こえた。


 それは自然ではない。人為的なそれだった。


 ヘルナイトはその音を微かだが聞き取り、なんだと思って辺りを再度見回そうとした時――



 ――ボオオオオオオオオオオンッ!!



「っ!?」


 突然の爆発音に、ヘルナイトははっとして上を見上げた。


 見上げた方向には、黒い煙と赤い光。


 完全なる非常事態そのもので、ヘルナイトは即座に動いた。


 ハンナ達がいるその場所では、きっとマティリーナが何とかしてくれる。


 そう思ってはいたが、やはり離れることが心苦しいという気持ちも微かにある。


 そんな中、ヘルナイトは悲鳴が大きくなっている噴水がある広場に向かっていた。


 が、ヘルナイトは違和感を覚えながら、走っていた。


(妙だ。人が少なすぎる)


 そう、少なすぎるのだ。


 彼等がいた場所は比較的人が多い通りで、夜でもそれはあまり変わらない場所でもあった。だが人が少なすぎる。朝と昼を比べても、それは段違いだ。


(時代が変わるにつれて、一通りにも変化が……?)


(……今はそんなことを考えている暇はないっ)


 そう思いながら、ヘルナイトは駆け出し、そして噴水広場についた瞬間、すぐに大剣を引き抜いた。


 彼が見た光景は、すでに火の海だった。


 ところどころで悲鳴を上げて鳴き叫んでいる五人のアムスノームの住人。その広場の中央で、とある二人組がその住人に何かを言って、威嚇をしているようにも見えた。


「ぎゃはははははははっっ!」


 夜空に向かって狂気に満ちた笑いを上げては、燃えて黒煙を上げているそれを背景にして、キョウヤとは違う槍を持った男は住人を見下して、笑っていた。


 その下で見下されている、偶然噴水広場に来ていたのだろう……。男が娘を守るように抱きしめながら震えていた。


「いいよなぁ。こう言う解放感いいよなぁっっ! えぇっ!?」

「うわぁぁーんっ!」

「っ!」


 ずぃっと近付けては、狂気の威嚇をする槍を持った男。聞いているのに答えが一択のようなそれを聞いて、娘は泣きだし、娘を守るように抱きしめてギッと睨む男。


 それを見た男は、ふっと笑みを失っては――


 ――どすっと男の足に槍の刃を突き刺した。


「あ、あぁっ! がぁああああっっ!」

「お、お父さんっ!」


 子供が男の叫びを聞いて、泣きながら心配の声を上げる。それを見ながらも、槍を持った男はぐりぐりと傷口を大きくするような行動をしてギョロっとした目で男と娘を睨む。


 無表情のそれで、男は言った。


「なぁ? なんでコンピューターごときが、俺の言葉を無視するんだよぉ? あれか? 学習する装置がついているから、俺が質問しても答えねえっていうシステムがインプットされてんのか? あぁ? むかつくなぁ。コンピューターの分際で」

「ヤメテオケ。シュレディンガー」


 その声を聞いて、槍を持った男――シュレディンガーはじろっと後ろを向いて――


「なんだよコーフィン。俺に命令してんのか?」と苛立った音色で聞く。


 ペストマスクの男――コーフィンは、首を横に振って、手に持っていた獲物をぐっと城の兵士の額に強く突きつけながら、独特な喋りでこう言った。


「ソウデハナイ。タダ目的ヲ忘レルナ。カイルハスデニ次ノ行動ニ移シテイル。俺達モココデ道草ヲ食ッテイル暇ナドナイダロウ? 計画ハ円滑ニ。ソレガ仕事ト言ウモノダ」

「っち! 陰湿野郎め」


 そうシュレディンガーは言って、目の前の男の足に突き刺していた槍を乱暴に引き抜き、男の叫びを聞きながらにたりと笑みを浮かべ、そして彼は言った。


「でも……ここなら、殺しても構わねえよなぁ?」


 法はない。


 そうシュレディンガーは言って、ぐんっとその槍の刃を、男と娘を串刺しにするように、彼は狂気の笑みのまま、叫ぶ。


「法律もねえ! ここでなら殺しがし放題だ! それにこいつらは人じゃねえ……、れっきとした……。ニセモンだからなぁっっっ!」


 そう言って、シュレディンガーはぐんっと二人の親子に槍を突き刺そうとした。その時だった。


 キィィィンッッ!


 ……金属がかち合う音。


 それを聞いて、男は強く瞑った目を開ける。そして目の前を見た瞬間……。


 生きている……。そう思って安心し、次に――


 まさか。と驚いた。


 腕の中にいた娘は男を見上げ「お父さぁんっ!」と泣きながら男の抱き着く。


 それを聞きながら、男は娘を抱きしめて、目の前にいる。白銀の騎士を見上げ……、男は小さく、言った。



「『12鬼士』……なのか?」



 その言葉を聞いて、ヘルナイトはすぐに、シュレディンガーを押し出して転ばせ、銃を構えたコーフィンに向かって駆け出しながら、彼は言った。


「遅くなってすまない」



 □     □



 広場に来たと同時に、私はすかさず銃を持っている人を相手に戦っているヘルナイトさんの背後にいる親子に手をかざして……。


「っ! 『集団中治癒(エリア・ヒーリー)』ッ!」


 スキルを発動する。


 それと同時に、親子の周りに緑色の淡い光が包み込んで、親子はそれを見て驚いてあたりを見回していた。


 私はキョウヤさんから降りて、そして辺りを見回す。


 そこは確かに、ロフィーゼさんがいた広場なんだけど……、あまり人がいない。


 いるとすれば……、目で数えても五人だ。


 あまり人がいないことは奇跡に近いけど……、でも、震えて怖がっている人が多い……。


「み、みなさんっ!」


 私は声を張り上げて叫ぶ。すると私の声を聞いて、五人の住人が私を見た。


 それを見て、親子がいるところに向かって走って近付き言う。


「い、今からみなさんを」

「なにでしゃばってんだクソ囮ふぜいがぁっ!」

「っ!?」


 突然来た槍を持った男の人は、私に向かってその槍を頭から突き刺そうとしていた。怒りに満ちていて、それでいてなんだか……、楽しんでいる……。


「…………っ!」


 そうだ。


 この人から出ていたんだ……っ!


 あの異常なもしゃもしゃは……っ!


「っ!」


 私はすぐに、その親子の盾になるように覆いかぶさって、その衝撃に耐えるように――


「『囲強盾(エリア・シェルラ)』ッ!」


 私達を覆うように、スキルを発動させる。


 ガンッと当たる槍の音。


 その音がまるでエストゥガのような音と同じだったけど、それが――


「ダンゴ虫のように縮こまってんじゃねええええっっ!」


 ガンガンガンガンッッッ! と、何度も何度も叩く。


 私が発動した『囲強盾』を壊すように。


「っ!」

「うわぁぁぁんっ! 怖いよぉおお!」

「………………すまない……、冒険者さん。俺達のために……」


 ……そんな辛い言葉を聞き、私は首を横に振りながら、親子に向かって優しく、不安にさせないような音色で言った。


「いいんです。私には、これしかできないから」

「そうだよなぁ! こんの屑女があああああっ!」


 そう言って、槍を持った男はぐんっと、今度は強く叩くように槍を上に持ち上げる。


 私はそれを見て、ぎゅっと親子を抱きしめて今度こそ衝撃に備える。すでにスキルの盾も壊れかけている……。


 このままでは……。


「――ハンナッ!」


 ヘルナイトさんは銃を持っていた鳥マスクの人から一旦離れて、私達がいるところに向かって――大剣をまるでやり投げのように投擲した。


 それを見た槍を持った男は、すぐに避けて、私達の目の前にその大剣がばぎゃりと地面を壊すように突き刺さった。


「ひぃ!」

「いやぁ!」


 親子はそれを聞いて驚きの声を上げる。


 私はそれを見て驚いて、すぐに駆け寄って「大丈夫か?」と聞いてきたヘルナイトさんを見て……。


「もう少しで、当たりそうでした……。危ないです。あれ」

「む? ぬ……ぅ」


 その私の言葉を聞いて、ヘルナイトさんは困った音色で剣を引き抜いて、「すまなかった」と謝る。本当に危なかったからそう指摘したのだけど……、少し言い過ぎたかな……。


「ハンナの言うとおり――」


 と言って、私の前に出てヘルナイトさんと肩を並べるように出てきたアキにぃとキョウヤさん。アキにぃはそんなヘルナイトさんを見てにやにやしながら「少しは限度ってもんを考えた方がいいんじゃない?」と言った。


 私は二人の名を呼んで、ほっと胸を撫で下ろす。そして覆い被さっていた親子の上から降りて、私は親子の二人に言う。


「治療は済ませました。早くここから……」

「あ、ああ。そうだな! すまない! ほら行くよ……」

「うんっ! ありがとう! 冒険者のお姉ちゃん!」


 そう言いながら父親は女の子の手を引いて逃げている三人と一緒に走る。女の子は私を見て、手を振りながら笑って走って行ってしまった。


「さぁ! 早く城へ!」

「あの姉ちゃんの言うとおり、テロは起きたぞ!」

「早く逃げないとっ!」


 なんだろう……。


 ここでも違和感が……。そう思ってヘルナイトさんを見上げると、すぐに三人は武器を構えていた。目の前にペストマスクをつけた人と槍を持った人が立っていて、二人共バングルを着けていた。槍を持った人は大きく舌打ちをして逃げていく人たちを見ながら……。


「なんだってんだ……っ! ()()()()()()()()()()()()()……? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……っ。偶然にしてはできすぎている……っ!」

「ソウ怒ルナ。シュレディンガー。ソウ言ウコトモアル。仕事トハ円滑ニ進メヨウトシテモ、デキナイトキダッテアル」


 ……槍を持っている人は、シュレディンガーって人なんだ……。そして鳥マスクの人は、聞き取りにくい言葉を話しながらとある方向を見る。


 その方向を見て、鳥マスクの人は言った。


「アトハ()()()()()……。俺モ、ココデ決着ヲツケタイ」


 そう言った瞬間だった。


「え?」


 呆けた声を出したアキにぃの声を聞き、私達はアキにぃを見た瞬間……目を疑った。


 鳥マスクの人はアキにぃに向かって、すでに至近距離にいた状態で、懐から黒い鉄のそれを出した。


 それは――拳銃。





「オ前ニナァ! ()()()アアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!」





「っ! あ、くぅ!」


 アキにぃは驚いていたけど、拳銃を持った鳥マスクの人の腕を掴んで、それを無理やりアキにぃから見て左に逸らした。でも鳥マスクの人はそれを見越してなのか、ぐんっと左足を上げてアキにぃの胴に向けて、足を踏みつける。


「ごぉっ!」

「アキにぃ!」


 私は叫んでしまう。アキにぃは私の横を通り過ぎるように飛んでゴロンゴロンっと転がってしまい、その隙を突いて鳥マスクの人は手に得物を持って、アキにぃを組み敷く。


「っ! うううううううぐううううううっ!」

「ウウゥ! ウウガアアアアアアアッッ!」


 アキにぃは鳥マスクの人が持っていたであろうナイフの柄を掴んで、そのまま拮抗を保つように互いに震えながら押しつけて、押し返そうとしている……。


 でも、アキにぃの方が押し返す力がないのか……、劣勢だ。


 私はすぐに駆け出そうとしたのだけど……。


「ハンナ。ヘルナイト。あとは任せろ。行ってこい」

「っ!?」

「!」


 突然キョウヤさんは私達に言った。私はその言葉に反論しようとしたのだけど、キョウヤさんの左から来るシュレディンガーを見て声を上げようとした。危ないと。


 でも……、キョウヤさんはその槍の攻撃を、片手で持っている槍で難なく捌いてしまう。


 くるんっと振り回しただけなのに、シュレディンガーの攻撃がはじかれるように後ろに逸れてしまう。


 それを見て、私は再度キョウヤさんの槍の天賦の才を垣間見てから……私はキョウヤさんを見上げてアキにぃを見る。


「アキのことが心配なんだろうけど――あいつなら大丈夫だろう。兄で、信じているなら」

「!」


 キョウヤさんの言葉に私は顔を上げる。するとキョウヤさんはにっと笑みを作りながら私に言う。


 その背後では、片手で難なく捌いてはキョウヤさんに一太刀入れることすらできないシュレディンガーを見ないでキョウヤさんは言った……。


 私はちょっと気にしたけど……。


「でも大丈夫だ。あの鳥マスクの言っていたことを思い出せ。この町で処刑と言えば……」

「……っ! 斬首霊廟……っ!」


 そこは確か、色んな罪人を斬首した()()()でもあり……()()()()()()()()()()()()……っ!


「最初にこの町を……牛耳るなら……」

「っ!? いったい何の話を……?」


 そうヘルナイトさんは私を見て聞く。


 そうか……、ヘルナイトさんは知らないんだ。私はキョウヤさんを見上げて頷く。そしてアキにぃを見て私は大声で言った。


「アキにぃ! 私――ヘルナイトさんと一緒に霊廟に行く!」

「へ!?」


 アキにぃは驚いた声で言っていたけど、その先を聞かずに、私はヘルナイトさんの手を引いて駆け出す。ヘルナイトさんは驚きながら私にされるがままになっている。


「行こう――ライジンがいるダンジョンへ」

「っ? ハンナ――」

「大丈夫です。話はあとでします。今は早く」

「…………わかった。しかし――先に謝っておく」

「? ひゃぁ!」


 ヘルナイトさんは手を引いていた私の手を一瞬ぱっと離して、ぐっと今度は私の手首を掴んでそのままふわっと持ち上げて私を横抱きにする。


 さっきまで私が前だったのに、今ではヘルナイトさんが私を抱えて走っている。


 私はそれを感じながらヘルナイトさんを見上げると……。


「言っただろう? 先に謝っておく。そして、この方が早い」


 そう言って、駆け出すヘルナイトさん。


 キョウヤさんと同じなんだけど……、やっぱりなんだか違う。そう思いながら私は気持ちを切り替えて、ライジンがいるダンジョン――斬首霊廟にヘルナイトさんと共に向かった。

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