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PLAY15 計画⑤

 マティリーナさんに言われて、私達はすぐに装備を着てから武器を持って (私はないけど……)すぐに外を出た。


 その世界を見て再度認識する。


 地獄のような世界と悲鳴。


 それを聞いた私は、ぎゅっとそれを聞いて感じた。


 至る所から湧き出てくる青黒いもしゃもしゃや青いもしゃもしゃ。


 そして一際大きい赤黒いもしゃもしゃとオレンジが混ざっているもしゃもしゃを感じて……。


「っ! いや……っ!」


 私は頭を抱えて目を瞑ってしまった。


 アキにぃはそれを見て私の肩を掴んで「大丈夫かっ!?」と心配してくれる声が聞こえたけど、それを聞く暇がなかった。


 答えるそれができなかった……。


 現実ではありえないようなことが、今起こっている。


 こんなことがあってもいいのか?


 そう頭の片隅で思いながら次々と来るもしゃもしゃを感じて、私の頭はパンクしそうになっていた。


 パンクの原因……それは……。


「おい大丈夫かっ!?」


 キョウヤさんも私の異変に気付いて駆け寄ってくれて、マティリーナさんも私を見て「なんだいっ! どうしたんだっ!?」と声を荒げて心配してくれた。


 私はひどい頭痛の中、すっととあるところを指さした。


 そこは……、丁度噴水の広場の所……、ロフィーゼさんと出会った場所でもある。


 そこを指さして……、私はそこから一際大きく感じた赤黒くて、オレンジが混ざったもしゃもしゃがあるところを指さして……。


「あ、あそこ……っ。誰かが……、いる……」

「誰か……?」

「あそこって……、あの銅像があった噴水広場じゃねえかっ!」

「あそこは夜でも人が多い……っ! あの脳筋もそこに向かった! すぐに向かうよ!」


 と言って、頭を抱えてしまっている私を、そっと横抱きにしたキョウヤさん。私は変な「ひぇ」という声を上げてしまった。


 それを見てか、アキにぃは「お、俺が担ぐって!」となぜだが抗議の声を上げたけど、キョウヤさんはそれを聞いてか……。


「お前は両手で銃を使うんだろ!? オレは尻尾でも槍は使えるし、今はオレの方が適任だろうがっ! 少しは頭を使えって!」

「うぐ……」


 キョウヤさんの言葉に、アキにぃは唸る。


 そしてキョウヤさんは、横抱きにした私に向かってこう言う。


「それじゃ――行くぞ!」

「あ、はい……っ!」

「だぁー! くそぉ!」


 マティリーナさんを筆頭に、キョウヤさんとアキにぃは駆け出した。私を抱えているキョウヤさんに、感謝しながら、私は前を向く。


 走っているおかげなのか、そのせいなのか……、早く近付くと同時に、だんだん悲鳴と焦げ臭い臭いが強くなって、大きくなってきて……、マティリーナさんが走りながら「あの角! 曲がればすぐに広場だ!」と指をさしながら走って叫ぶ。


 ヒールで、よくあんなに速く走れると、私は少し場違いな関心を出してしまったけど……。


 その時だった……。突然だった。


 ふっと、私達の目の前に現れた……、一人の男性。


「「「「っ!?」」」」


 私達は驚いてしまい、止まってしまう。


 目の前にいた男は……それは目を引くような姿の男だった。


 顔には変な模様が描かれている……顔らしき仮面をかぶって、服装は黒いシルクハットに赤と黒の着飾ったスーツ姿の衣装。手の長さは人間よりも少しだけ長めで、手には爪がなく、鋭い指先が印象的な、長い耳の長身の男がいた。その姿を見て、私は手首を確認する。


 もうすでにその行動は癖になっているみたいで、私はその右手首を見て、はっきりとした。


 手首には白いバングル。


 そう、その人もロフィーゼさんや私達と同じ……、プレイヤーの一人だ。


 キョウヤさんは私を下しながら――「トリッキードールと、エルフかな……。魔人族だな」と言いながら、背中に差していた槍を手に持つ。


 アキにぃも銃を構えようとした時だった。


「おやま。俺がなんの種族で、どんなモンスターの混血なのかっていうことを知ってて言ったのかい? リザードマン君よぉ」


 キョウヤさんは仮面の男に言われても、すっと目を細めただけで何も言わない。


 でも、そんな話をしているのに、仮面の人ははぁっと溜息を吐いて、向こうの、噴水広場を見て言う。


 気怠そうに……、そして、強めに言うと、絶望しているような、そんな音色でこう言った。


「まぁ、こうなっちまったら急ぎたいのは当たり前か……。というか大胆だよなー」


 と言って、仮面の人はこう言った。当り前のように……、私達にとって、ありえないようなことを……。



()()()()()()()()()()()()()()()()()だなんて……、どこぞの独裁者かよ」



 え?


 声なんて出ない。むしろ何を言っているんだという顔しかできなかった。


「アズールを……支配?」


 と、マティリーナさんだけは苛立った音色で、愕然としながら言うと、仮面の人は私達を見て肩を竦めながら首を傾げてこう言った。


「そうなんだ。結構ぶっ飛んでるだろう? でもそれを有言実行しちまいそうだな。これは……」


 と言って、仮面の人は「おっと」と今更何かに気づいたのか、私達に向かって、シルクハットのつばを持って、彼は言った。


「名乗りを上げずに申し訳ないことをした。俺はトリッキードールとエルフの魔人族にして、『オヴリヴィオン』のエンチャンターティックディック! 以後、よろしくお見知りおきを。そしてお気軽にティックと呼んでくれ」

「……エンチャンター……。サポート系のぷ……っ。冒険者がなんでこんなところで……?」


 足止め? そうアキにぃが聞くと、仮面の人――ティックディックは言う。


「足止めは正解だな。でも俺達の計画は……。ただの支配の手伝い」


 と言いながら、ティックディックは胸のボタンを胸元までとって、そしてその胸の辺りを……。


 バカンッと開けた。


 それを見て驚いた私達。マティリーナさんだけはじっと見ているだけだったけど、それを見てか、からからと笑ってはティックディックは、その開いた胴体の中に手を突っ込む。


 中から『がちゃがちゃ』と音がしていた。


 そして何かを探しながら言う。


「おいおい。トリッキードールのこと知らねえのかぁ? MCOでは意外と人気がある操り人形モンスター。元々人形だったのがとある魔物使いよって動くことができる。胴体には色んな武器が仕込まれている変則的な攻撃が特徴のモンスター。いただろ?」


 と言いながら、するっと胸のところから短剣を取り出して、そしてティックディックは右手には短剣を、そして左手の人差し指を、自分に向けて――


付加(エンチャント・)強化魔法(サポートスペル)――『全強化(オール・アップ)』」


 と言った瞬間、ティックディックの体を纏うように、オレンジの靄が体を包んで、そしてすぐに消えた。


「マジか……、自分に付加して……っ!」


 アキにぃがライフル銃を突きつける中、マティリーナさんはそれを見て、かつんっと一歩、前に出た。


 私達はそれを見て驚いて、ティックディックもそれを見て驚いて、マティリーナさんを見た。


 すると……。


「――あんた達だけでも行きな。ここは何とかしとく」


 と言ってきたのは――マティリーナさん。


 それを聞いて、私はすぐに反対の声を上げた。


「え? なんで……っ。置いて行くなんて……」

「止まっている暇なんてないだろうがっ!」

「っ」


 マティリーナさんの怒声に、私はおろか、アキにぃとキョウヤさん。あろうことかティックディックも驚いてマティリーナさんの怒りの声に肩を震わせていた。


 私はそれを聞いて、黙ってしまっていると――マティリーナさんは怒りの声のまま私に言う。怒鳴る。


「今あんたのすべきことをしなっ! あんたにしかできないこと! あんた達にしかできないことを全うする! 今こんな奇天烈仮面の相手なんてしている暇は、あんた達にはないだろうっ!?」

「キテレツ……ッ!?」


 ティックディックがぎょっと驚いているけど、マティリーナさんは私達を見て、そして怒鳴りながらはっきりと言った。



「早く、この先に行くんだっっ!」



 その言葉に、なぜだろうか……。


 体が震えた。


 それは恐怖ではなく……、ゾクゾクとくる別の何か。


 それを聞いてなのか、キョウヤさんは再度私を横抱きにした。


「わ」

「わりぃ! 今はマティリーナさんの言葉に従うぜ」


 と言って、ぐっと屈んだキョウヤさん。


 アキにぃはすぐにダッとティックディックの前に駆け出す。


「っ! そんなことさせると思って」


 私達の行動を見て、ティックディックは持っていた短剣を突き出して、アキにぃの顔にそれを刺そうとしていた。


「あ、アキにぃ!」


 私は叫ぶ。と同時に……。


 すっと、アキにぃはその軌道を読んでいたかのように下に逃げて……。


 違う。


「あっ!?」


 ティックディックは叫ぶ。私は声が出ないような驚きでアキにぃを見ると同時に、ふっと来た浮遊感、そして突然の急上昇。視界が砂になる。


「っ!」


 驚いてキョウヤさんにしがみついてしまった。


 簡単な話……。キョウヤさんは足で飛び上がると同時に、バシンッと尻尾を地面に向けてはたいて、高速で跳躍した。斜めに、ティックディックの頭上を跳ぶように。


 アキにぃはそれとは反対で……。下に逃げたと同時に、ティックディックの、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 それは――二人にしかできないことである。そして、急いでいくにはうってつけの方法であった。


 私は急に来た急上昇や急降下に、驚きながらも舌を噛まないように口をぐっと閉じ、目も閉じて衝撃に耐える。


 その衝撃はすぐに来た。でもあんまり衝撃は来なかった。


 ふわりと優しく着地したキョウヤさん。そのまま走りこんで、アキにぃがそのあとを追うように走る。


 私はキョウヤさんの背中越しに、ティックディックと対峙しているマティリーナさんを見て、大声で言った。


「ま、マティリーナさんっ!」

「行くんだよ! そして……、自分のできることを――自分の運命を見据えな!」

「っ」


 その言葉が、一体どんなことなのか、私は一瞬わからなかったけど……、すぐにわかった。


 今すべきことをしろ。


 そう、マティリーナさんは言っているんだ……。


 私は、こくりと頷いて、前を見る。


「今、私にできること……っ」


 それは、浄化もある。けど、今優先にすることは……。



 人命の、救助……っ!



 今このテロで傷ついている人を、私が持っている限りのスキルで、救ける!


 もうみゅんみゅんちゃんのような失敗は、しない……。


 そう心に刻んで、私はキョウヤさんに抱えられながら、アキにぃ達と一緒に噴水広場に向かう。


 あの先に――ヘルナイトさんもいるはずと、信じて……。



 ◆     ◆



「あの三人を……?」


 はっ。と――ティックディックは笑った。


 それを見て、マティリーナは「なんだい? 頭おかしくなったかい?」と、見下すように言うと、彼はそれを聞いてもなお、はははっと笑いながらマティリーナを見て、短剣を突き付けながら彼は言った。


「おかしいのはあんただぜ? あの二人……、きっとランサーかスナイパーだろう? あの二人にこの先を託すのならわかるが……、あのお嬢ちゃんは衛生士かメディック。このテロを鎮圧するのに……、あの子は不適任だろう?」

「…………いや、適任さ」


 こんな状況ならなおさら。ね――


 マティリーナは言った。


「このアズールには、回復の知識を持っている奴は限りなく少ない。異国では差別があるとさえ聞いている。そんな状況でも、どんな時でも、命は大事なんだ。力あるものがすべての世界があるけど、今必要なものは、力だけじゃない。癒す力も必要なんだ」


 その言葉に、ティックディックは――ぶるぶると持っている短剣の手を震わせて、彼は……。震える口と音色で言った……。


 この世の何かに対して、強い殺意を抱いているような……、そんな音色で……。


「なに希望のようなことを抱いて言っているんだよ……っ」


 かちかちと、剣先が震えている。それを見たマティリーナは何かを察したのか、すっと目を細める。


「そんなもんはなぁ……」


 ぐっと、ティックディックは足を踏み込んで、ダンッと走りこむように駆け出す。剣先をマティリーナの目に向け、突き刺すように彼は叫んだ!




「無意味なんだよぉおおおおおーっっ!!」




「無意味ゃないさ」


 マティリーナはにっと口元に弧を描きながら、懐からとあるものを取り出す。


 それは――煙管。


 煙管をまるで口に咥えるようにして、そのままティックディックが持っている短剣の腹を狙って――


『カァン』と金属音を響かせて、彼女は煙管でティックディックの短剣を払ったのだ。


「っ!?」 


 あまりに唐突で、それでいて思いがけない光景と衝撃にティックディックはぐっとその場で踏み留まり、後ろに後退しながら跳躍を二回した。


 とんとんっと跳び、ティックディックは短剣を見て絶句した。


 罅が入っていたのだ。ただの煙管で叩かれただけなのに。


「これはね――あたし専用の武器でもある」


 そんじょそこらの煙管と思ったら大間違い。


 そう言いながらマティリーナはかぷりと煙管を咬んで、彼女は挑発の笑みでこう言った。


「こんなバカげたことをやる暇があるなら、少しマシなことを考えた方がいいんじゃないかい?」


 その言葉に、ティックディックは「ぐぅ……っ!」と、憎々しげに唸るだけだった……。

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