PLAY146 チーター③
自分の身長並みの大きな金棒。
鬼に金棒と言う言葉があるが、そこまでトゲトゲしていない。
むしろ鉄製のごついバッドなのだが、それを片手で振るうアシバ。
彼の細い腕で、片手でよくあんなものを振るえるな。そうツグミは思いながら自分で召喚した魔物達に脳内で命令を送る。
――サイコリッパーはそのままショーマの援護。ヒーリングバード達は命令通りに行動して。
ツグミの言葉が聞こえていたのか、サイコリッパーとヒーリングバード達はツグミのことを見て頷き、返答を『イエス』として返す。
返したと同時に、最初に動いたのはサイコリッパーだった。
サイコリッパーは金棒を振るおうとしているアシバの間合いに滑り込むように姿勢を低くしながら走ると、体の内側に隠していた剣二本をアシバの胴体に向けて繰り出そうとする。
剣の切り裂きでバツ印を作るように、クロスさせた攻撃だ。
「っ!」
サイコリッパーの行動を見て、アシバは驚き目を見開く。
――魔物の動きじゃないな。こんなの、サイコリッパーはやらない。
――まぁあいつが召喚した魔物だから、命令に従うな。
――従順な魔物は、扱いが簡単だから助かるぜ。
だが、その驚きもすぐに消沈。冷静な頭でアシバは攻撃を繰り出そうとしたサイコリッパーの背中に手を置き、そのまま跳び箱を跳ぶ要領で跨り、超える。
背中を押されたサイコリッパーはそのまま空に向かって切り裂きを繰り出し、修正と言わんばかりにぐるりと体を捻り、跳び越えた足場にもう一度クロスした剣の斬撃を繰り出そうとした。
――また馬鹿の一つ覚え。
そう思いながらアシバは振り向こうとした――が、それをせず、そのままサイコリッパーを背にして前を向く。
目の前に見えるのは――黒い忍び所属の男。
男は右手に持っている忍刀を逆手に持った状態で足場に向かって距離を詰めていく。
至近距離になり、鼻の先が触れそうな距離まで詰めると、男――コウガは忍刀を………使わず、反対の手を手刀に変えて。
「忍法――『風纏』」
と言い、手刀に風を纏わせた。
しゅるしゅると空気を斬る小さな音がアシバの耳に入り、気付いた瞬間金棒を使って左手を叩き潰そうと振り下ろとした。
いくらスキルによって纏った手刀でも、武器に当たってしまえば、重く、破壊力がある武器に当たれば簡単に折れてしまう。
この世界では部位破壊と言う言葉と共に折れて使えなくなってしまう。それを狙う様にアシバは金棒を振り下ろそうとした。
が。
――ごぉんっ!
「――っ!?」
振り下ろそうとした瞬間、金棒に何かが当たる。
強い衝撃と同時に起きる衝撃の揺れ。
ぐわんぐわん揺れるそれを感じ、手にも揺れと衝撃が行き渡り、耐えきれなくなった手がアシバの脳内信号を無視して手を離してしまった。
いいや、反射でも何でもない。これは――衝撃に耐えられなかった結果。
「っ! くそっ!」
思わず離してしまった金棒を見ると、金棒の近くで『かこんっ』と言う木製の何かが落ちる音が聞こえる。それを聞いたアシバは視線を木製の何かが落ちた方角に向け、すぐに投げた本人に目を向けた。
苛立ちに満ちたその目に映る――ショーマの姿を捉えて。
――あんのやろぉおおおぉぉぉぉおおお。
ショーマは何かを投げた体制のままだったが、すぐに姿勢を低くした状態で走り、彼の後を追ってサイコリッパーも駆け出す。
刀を片手で持ち、そのまま大きく振りかぶって斬る想定の構えを取って。
――んだよその構えぇぇえええ。そんな構えソードマスターでもしねぇよぉおおお! なんなんだよあの構え! なんで鞘投げるんだこいつはあああああ!
――マジで滅茶苦茶過ぎて頭が痛くなるぅうううううううう。
そう。ショーマがアシバに向けて投げたのは――刀の鞘。
本来なら刀の鞘は戦闘では使わない。
たまに例外として虎次郎が使ったりしている時があるが、本来は使わない。本来は刀を収めるために使う収納道具だ。
収納道具でもあるそれを、ショーマは投げたのだ。
やり投げの要領で投げ、アシバの手に当てて攻撃を防ごうとした。
結果は金棒に当たってしまったが、手を離したので結果オーライになった光景を見て、ショーマは内心ラッキー! と思い駆け出した。
本当に、彼にとってラッキーな事だった。
ラッキーだからこそ、このあと来るアンラッキーが大きくなるのだが………。
それは未来の話。
未来だからショーマ達は分からない。アシバだけがわかる――最悪の未来。
自分の行動が功を奏したことに喜びを感じながらショーマは駆け出し、それを見て苛立つアシバをよそに、手に持っていた金棒が地面に小さな穴と言う亀裂を作ってめり込む。
ごとん!
と重い音を立てて落ちたと同時に、コウガの風を纏った手刀がアシバの顔目掛けて繰り出される。
範囲も少しだけだが広く、このままでは顔に当たってしまうと思ったアシバはそのまま体を逸らして攻撃を避けようと力ませる。
まだ親指と薬指、小指の爪の装備を見て、アシバはそのまま爪の装備を付けた手に力を入れ、コウガに向けて抗いを繰り出す。
「! っと」
繰り出された抗い。それはただのひっかきだったが、それを見たコウガは余裕の避けと共にアシバの顎に向けて風を纏った手刀をお見舞いした。
僅かに、鼻の先をかすめた感触があったが、こんなのダメージにならない。
だから同時攻撃の結果はコウガの勝ち、アシバは口に装備していたガスマスクを犠牲にする結果になってしまった。
「っ! そ!」
風の手刀によってガスマスクはボロボロになってしまったが、それがあったおかげでアシバの口は無事だった。ガスマスクに隠れた鋭く尖った犬歯がコウガの目に入る。
あれを隠すためにか? それともファッションか?
と、なぜガスマスクをしていたのか疑問に思ったが、今は戦いの真っ只中。それは後ででも考えようと思い、コウガは手刀から逆手に持った忍刀を使って追撃を繰り出す。
地面に足をつけ、踏み込んで追撃。
『シノビ』所属特有の素早さを生かした攻撃。
その攻撃を何とかかわしていくアシバだが、背後から来るショーマとサイコリッパーのことを横目で見た後、即座にしゃがんでコウガの攻撃をかわす。同時にショーマの追撃を回避して、そのまま姿勢を低くしたまま金棒が落ちているところまで走って拾う。
そのまま追い込もうと走り出すショーマ達三人の追撃を、アシバは金棒を使って防御する。
まるで踊っているかのように回り、そしてステップして――戦っているはずの光景がまるで音楽に合わせているかのように踊っている。
ツグミはそれを見て、何故か目が話せない状況に困惑しながらもサイコリッパー達の命令を脳内で継続して行う。
――補足として言おう。
ツグミが魔物達に対して脳内命令を行うこれは、つい最近知ったことだ。
本来であれば言葉にして、声に出してやることなのだが………、それも必要ない事だとツグミは最近理解した。
と言うよりも、これに気付いたのはつい最近で、ハンナ達がフェーリディアンで買い物をしていた時、ツグミは自分のスキルの確認をし、その時に知ったのだ。
『召喚』スキルを持っている『サモナー』は、『召喚』する魔物に脳内信号を送れることを。
きっと誰もが知っていることかもしれない。そしてツグミが気付くのが遅かったのかもしれないが、これは大きな発見だと、ツグミは思った。
声に出してしまえば何をするのか相手に伝えてしまうことになるから。
それを見越してのアップデートなのか? とツグミは思った。バグかもしれないし、粋な計らいなのかもしれない。真相はどうなのかわからないが、ツグミはこれを有難く利用させてもらった。
魔物達に声を出して命令することをせず、できる限り脳内の命令を行い、それを駆使してサポートすることを。
――前とは違った戦い方だけど、こっちの方が断然いい。
――声に出して戦わせてしまうとあっちに作戦が駄々洩れだったし、そのせいで魔物達に任せていたところもあった。でも今は違う。
――僕の命令で動いてくれる魔物達。
――使役できる数は分からないけど、これなら数を増やして勝つことも可能だ!
――戦いの幅が広がる。僕も戦える!
元々サモナーは魔物しか召喚できない所属だ。
それゆえに使い方も難しいところがある。それはどの所属にもあることだが、サモナーは特殊だった。
きっと運営側もこれには頭を抱えていただろう。そしてサモナー所属のプレイヤーはさぞ苦労しただろう。
それが報われたかのような安心感。そして戦える可能性が広がったという嬉しさもあって、ツグミは前を見据えてサイコリッパーに命令を脳内で伝える。
――継続してショーマの援護。コウガさんを守る余裕があればそれもお願い!
徹底したサポートの命令。
それに対してサイコリッパーは頷いてショーマ達のサポートとなる攻撃を繰り出していく。
主にショーマの攻撃の追撃――不意打ちなのだが、それでもアシバからすれば厄介な行動だ。
見なければいけない攻撃が三つになっている。だがそれが時折二つになり、死角から襲い掛かってくるのだ。
多対一のデメリットがまさにこれで、このままではじり貧になってしまう。そうアシバは思い、まぁ俺はそうならないがなと思いながら再度距離を取り、今度はツグミをターゲットにして走り出した。
走って、そのままツグミの首を折ろうと金棒を振ろうとする。
その光景はツグミも見ていた。視界の端に入っていたからわかっていた。わかっていたが逃げなかった。逃げるよりも召喚のサポートをしなければ………と思っていない。
どころか、避ける必要なんてない。
そう思ったから。
ツグミの思考なんて読めないアシバは内心………なんで逃げないんだと思い、何かあるのかと片目で辺りを見渡す。もう片方の目は仮面で隠れて塞がっているので見えない。片目だけなので視界の制限はかかるが、それでも大体は見える。
見えるからこそ、見えた。
一瞬見えた。の方がいい。
それはアシバの死角となる――仮面をしている方角から迫って来ていた。
音もなく、気配すら感じとれないそれはアシバに近付き、素早く距離を詰めて――
素通りした。
「?」
一瞬、アシバは一瞬なにが来たのかわからなかった。
何が起きたのか。もしかしたら不発か? と思ってしまう様な一瞬の出来事。だがその一瞬も次の一瞬でかき消されてしまう。
一瞬の沈黙の後、体中から噴き出る血。
体にできたいくつもの切り傷から噴き出たもので、それを見て、体中の熱を感じながらアシバは思い出す。
――あああああそうだ! そう言う事かっ!
――ゲーム感覚だとこの攻撃は普通の攻撃だった! 『回避』ができない攻撃って言うだけの攻撃だった技が、変わった後だとこうなったのかっ!
――くそったれえええっ!
アシバの心の慟哭虚しく、体中の痛みと共にHPがどんどん削られていく。
対照的に、攻撃を仕掛けた人物は手に持っている槍を振るい、馬の背に乗せているむぃを一度見て確認してから小さな声で言う。
音の無い攻撃を得意とする『12鬼士』が一人『死地の誘い人』――幽鬼魔王族・デュランは言う。
「――『無音の乱切り』」
音のない攻撃を受けたアシバを見て、音を出さずに攻撃したデュランのことを間近で見ていたむぃは驚きの声を上げて猫の手で拍手をする。
ぽふぽふと音を鳴らしながら拍手をし、『流石です!』と言いながら歓喜のそれを上げる。
やっぱりすごい。そう思いながらむぃはアシバがいる場所を振り向き、どうなっているのか見ようとした。
見て――きっと勝てると思っていたその時………。
「え?」
むぃの顔が、一瞬で凍り付いた。




