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PLAY146 チーター②

 ショーマの言葉を皮切りに始まる戦闘。


 最初に前に出いたのは、勿論ショーマ。


 先程一瞬の攻防を行ったショーマが前に出る。それはツグミ達にとっても当たり前なことだが、目の前にいるのは情報が一切ないプレイヤーだ。


 アシバもショーマの行動を見て警戒しているのか、はたまたは余裕だととらえているのか――棍棒を片手で振りながら、まるで野球でもするかのように構える。


 片手だけでバッドを構えることは無理な話だが、アシバはそれを片手で行っている。


 爪の装備を付けたそれは使わないで――だ。


 ――やっぱり、爪は近距離専用の武器だ。


 その光景を見ていたツグミは杖を構えながら思った。


 冷静に、この状況を、そしてアシバと言うプレイヤーの素性を目で見た情報を元に分析して。


 ――プレイヤー対プレイヤーの戦いは、初めに見た装備を見て所属を当てる。魔物とか大物魔物のクエストだって前情報を元に攻略していくんだから、こんなの当たり前だ。


 ――でも、プレイヤーとなれば話は違う。


 ――魔物とは違って、戦ってきた魔物のように情報を提供しているわけじゃない。


 ――動画配信のように『この魔物に歯これが有効です。これで簡単に倒せます!』とか、そんなことは絶対にない。


 ――だってプレイヤーは人だ。人だからこそ、粗があれば修正する。行動を振り返ってそれを直す。


 ――よりPVPで勝てるようにするには、これしかない。


 ――だからプレイヤー同士の戦いで最も効率的なのは、見ること。


 ――観察。それが攻略の糸口。


 ――なのに………。


 そう。ツグミの言う通り、プレイヤー同士の戦いは初見しかない。


 それをいかに攻略して勝つかは、結局目で見た情報でしかない。


 その情報が違っていたとしても、その情報があまり必要でなかったにしても、必要な事なのだ。


 備えあれば患いなし。


 これが、プレイヤー同士の戦い。


 PVPの面白いところ。


 なのだが………。


 ――なんであの馬鹿は何も考えずに特攻するかなぁっっ!?


 ツグミは思った。


 ショーマの行動はまさに考えていない典型的なそれ。


 その行動の所為でどれだけ苦労してきたのかわからない。わからないがそれを直すことができないのがショーマ。頑固なのかわからないが、それでもショーマの行動は頭を悩ませる。


 おかげで心の声が半音高くなってしまった気がするツグミ。


 しかし、それで悩んでいても仕方がない。


 ツグミは気持ちを切り替えて杖に力を込め、足元に魔方陣を出現させる。


 ――馬鹿だけど、今は目の前のこと。アシバを倒すことを考えよう。


 ――僕達にないものは防御と回復要因。


 ――本当なら、はなちゃんがいてくれたらよかったんだけど、今の彼女はここにいる立場じゃない。


 ――僕達の生命線ではなく、この戦いに於いて、じゃない………。この世界から出る唯一の希望になっているんだ。


 ――だから、僕がそれを補う。


 ――こんどは僕がサポートだ。


術式召喚(サモナーバインド・)魔法(スペル)――『召喚:ヒーリングバード』ッ!」


 ツグミがその言葉を放った瞬間、魔方陣が一際大きな光を発し、その光と共にその陣からずずずっと出てくる存在は、そのままぴゅぅっ! という空気を裂くような音を発すると、最初に出てきたその音について行くようにいくつもの存在が空に向かって上るように飛び、そしてそのまま上空で急降下をし、ツグミがいるその場所まで飛んできた。


 その存在は――白い羽を生やし、くちばしが鋭い小さな鳥で、現実世界で言うところのハミングバードのような姿をして急かしなく飛んでいる鳥系統の魔物――『ヒーリングバード』であり、その魔物は前にクルーザァーが出した魔物でもある。


 その鳥はまるで隊列を組むように――五羽で五角形の形になりながらぱたたたっと飛び、ツグミのことを見ながら首を傾げていた。なんとも可愛らしい。この場に女の人がいれば言うかもしれないが、今はそのような状況ではない。


 そんなハミングバードのことを見ながら……、いいや、ヒーリングバードのことを見ながらツグミは一羽一羽に話しかける。丁寧に、指を指しながらツグミは命令した。


「ヒーリングバード達は一羽ずつ一人一人に待機して! 怪我したり致命傷なら即回復! これは絶対必要な事だから優先で!」


 ツグミの命令に頷き、五羽のヒーリングバード達は急かしなく翼を羽ばたかせて持ち場に向かって飛ぶ。


 一羽はむぃの頭に。


 一羽はデュランの馬の背に。


 一羽はコウガの肩に。


 一羽はショーマの近くを飛んで様子を伺い、ツグミの肩に足をつけた最後の一羽はツグミの顔を見つめて首を傾げる。


 行動そのものは鳥そのもので、それを横目で見て、みんなの所に向かった残りのヒーリングバードのことを見たツグミは、続けて召喚の言葉を唱える。


 サポートは準備完了。


 後は――攻撃のサポート。


術式召喚(サモナーバインド・)魔法(スペル)――『召喚:サイコリッパー』ッ!」


 ツグミはまた召喚のスキルを唱えると、また足元に召喚の魔方陣が出現する。


 淡く光るそれを見たアシバは内心――ツグミは『サモナー』なのかと頭の中に刻み、そして周りを見始める。


 ショーマ達を見た後、すぐに何事もなかったかのように目の前を見つめると、魔方陣から魔物が出現しているところに目の当たりにする。


 二本の湾曲を描いた曲芸師が持つような剣を両手で持ち、黒いスーツ姿だがそのスーツもボロボロで、しかも血がこびりついているそれを見せつけながらざんばらになった金髪に血まみれの革靴、口裂け女のような真っ赤な弧を描いた口元――()()()()()を見せているその魔物を見た瞬間、『偽りの仮面使』は言葉を失い、叫ぶことを忘れた状態で一瞬見てしまった時、目の前にいた魔物――サイコリッパーは両手に持っているそれを大きな目が浮かんでいる上空に向けて掲げると同時に…………。


「ヒャアアアアアアアアアアアアーッッ!」


 半音高い奇声を上げながら湾曲の剣を振るい駆け出す。


 ショーマと一緒に特攻し、サポートするために。


 ――ああ。そう言う事ね。


 ――わかりやす。


 ツグミの召喚した魔物、そしてショーマ達を見てアシバは思った。


 否、嘲笑った。


 目元を歪ませ、ガスマスクで隠されている口元を歪ませながらアシバは思う。


 ――特攻となっているのはあの馬鹿で、サモナーはそいつのサポート。


 ――後ろで構えている輩は特攻の後で追撃する。シノビの男は百パーそう。そしてENPCの人馬の背に乗っているチビは何なのかわかんねーが、戦闘の役に立たないから大人しくそこに乗っているだけ。


 ――そこまで考えなくてもいい。


 ――が。


 そう思い、アシバはちらりととある人物に視線を向けた。


 視界の真ん中に移り込む顔のない鬼士――デュランを見て目を細める。


 先ほどの嘲が無くなったその顔に浮かび上がるのは………不安。


 不安になるのは当たり前の感情かもしれない。


 どの徒党にもENPCがいるので、これが当たり前だと思っている人が多いかもしれないが、アシバのように『仲間』ではないその存在は、畏怖として刻まれている。


 勿論アシバもデュランと言う存在に恐怖を感じている一人だ。


 まだMCOがゲームとして機能していた時、彼は仲間達と一緒に『12鬼士・デュラン』討伐クエストを受けたのだが、結果は惨敗。


 肉体は無傷だが、精神的な傷を受けたのは事実だ。


 トラウマではない。ただ純粋に、負けたというショックがデカかった。


 何度も対策をしてきた結果、なすすべもなく負けてしまった。何もできないで即死。


 即死系の攻撃を繰り出すことができるデュランにとって、それは対策してきたにもかかわらず、だ。


 あれ以来アシバの心に残る恐怖と傷。


 単純に負けてしまった心の傷なのだが、実際目の前に現れると違う感情が沸き上がって来る。


 感情を持ったENPCは一体どんな存在なのか。力も格段に上がっているのか。


 色んな不安が巡っている。それはアシバ自身わかる。そわそわしているような気持ちは集中できていない証拠だ。目の前にいるだけでこんなに心が搔き乱されるのか。


 そう思いながらアシバはデュランのことをよく見る。


 見て、見て、見る。


 ――落ち着け。今俺の目の前にデュランがいる。


 ――俺達仲間を蠅叩きの様に倒した奴。


 ――お前の所為で仲間達はこの世界になってから俺についてこなくなった。


 ――この世界になってまで隠居する輩になっちまった。


 ――俺が一人で行動する原因を作った元凶。


 ――感情を持ったということは、倒せない確率は下がる。逆に――勝つ確率が上がる。


 ――そして………。


 アシバは再度ショーマ達を見た。


 ショーマとサイコリッパーは攻撃しようとアシバの目の前で武器を振るおうとしている。サイコリッパーだけ跳躍して量の剣をクロスさせて振るおうとしているが、それも冷静に見ていたアシバは金棒を持っていた手に力を入れる。


 入れて――まずは目の前のショーマに一振り。


 野球でもするかのように片手のフルスイングをし、それを見たショーマは避けようとしたが、金棒のリーチもあり、避け切れず金棒の先端が腹部に直撃する。


 鈍い音を聞き、感触を金棒越しに感じながらアシバは思った。


 ――この野郎と一緒に行動している、あの蓮舫をまた()()()()()()()()()()()


 確信だった。


 確信し、口からえづく声を出したショーマのことを見ながらアシバは次の一手を繰り出す準備を行う。


 金棒を持っていない――もう片方の爪をはめ込んでいるその五指に力を入れ、猫が起こる相手に向けて放つ攻撃のように、アシバも五指を避けたショーマに向ける。


 上から、ではなく――ショーマの顔に切り傷を作ろうとアッパーを繰り出す。


 勿論グーではない。切り裂くのだからパーだ。


 それを視界の端で捉えていたショーマは驚きで目を見開いたが、避けている時なのでさらに避けることはできない。


 これが歴戦の覇者であればできる芸当かもしれないが、生憎ショーマは常人。中身は普通の不運体質の高校生なのだ。避けることなんてできない。


 それはアシバも分かっていた。


 わかっていたから――


「――っ!?」


 ショーマの行動を見て驚愕した。


 なにせ、下から繰り出した切り裂くアッパーを、ショーマは止めたのだから。無傷で、しかもそれを、歯を使って止めたのだから。


 簡単なことだ。


 手が空いていない。足もきっと追いつかないのなら歯を使うしかない。歯を使って、アッパーを口で間で止めた。と言うことだ。


 単純な方法だが、噛み付いたことでアシバノ動きが一瞬止まる。止まると同時に彼の顎に向かって迫り来るのは湾曲の切っ先。


 それを見たアシバは距離を取るように後ろに向かって跳ぶ。跳んだと同時にショーマの口に日本の爪の装備が残ってしまったが、()()()()()()()()()()()()


 とんとんっと跳びながらサイコリッパーとショーマから離れるアシバ。


 手に装備していた爪の装備は親指と薬指、そして小指しかない。あとの二本はショーマの口の中に残ってしまったのだろう。顔を歪ませたショーマはそれを勢いよく口から吐き出した。


「っぺ! うわっ。これ舌切れちまう奴じゃねぇか。よかった口の中切らなくて………」


 そう言ってショーマはそれをどこかに投げて捨てる。ぽいっと、乱雑にだ。


 遠くで金属が落ち詰音が小さく聞こえる。それを聞きながらアシバはショーマのことを見て思った。


 正直、驚いたと思いながら………。


 ――攻撃を口で、歯で止めるなんて………、マンガじゃねぇんだぞ?


 ――こいつの行動………予測できないことが多いな。


 ――単に素人とか、そんなもんじゃない。不規則で、軌道とかが滅茶苦茶だから行動の予測が外れて混乱する。


 ――常人だから、素人ゆえの利点なのか。


 ――マジでイラつくな………。あの時もそうだったが、本当にこいつの思考回路どうなってんだ? 


 ――滅茶苦茶で、次の行動が予想しずらい………!


 アシバは思う。最初に出会った時もそうだった。だからアシバは思った。


 予測できないショーマの行動。それに合わせるように動くツグミとその魔物。


 普通なら連携して動くところを、まるでショーマの行動にみんなが合わせているかのように見えてしまうそれを見て、予想できない行動の数々に、アシバは頭を抱えてしまいそうになった。


 思わず頭痛で頭を抱えてしまうくらい、ショーマの行動は想像できないの連続だった。


 ――だが。


 連続だったが、アシバはすぐに頭の冷却に成功する。


 いいや、元々そこまで熱くなっていない。躍起になっていないからすぐに落ち着くことができた。落ち着いた思考と心音を感じ、思い描きながらアシバは思う。


 ()()()()()()


 そう思いながら金棒をもう一度、大きく振るう。


 ()()()()()()()()()()


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ()()()()()()()()()()()()()()()()


 自分の勝ちの未来予想図は出来上がっている。それを確信して、アシバは離れたその距離を縮めるために走り出す。


 後は時間を稼ぐだけ。


 それだけを考えて。

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