PLAY146 チーター①
「は? 『お前は――俺が倒す。ぜってー倒す』だぁ? なに寝ぼけたことを抜かしているんだ?」
時間を遡ること数時間前。
ショーマ達は自分達と同じプレイヤーであり、友達だったメグをいじめていた存在と相対していた。
ショーマとツグミにとって、過去に因縁がある相手で、今となっては最も倒さないといけない存在になっている男。
同年代であるはずなのに、なぜか子供らしさが抜けていない様な方の竦め方をし、ショーマ達を見ながら男は言った。
心底呆れたような、そしてショーマ達の言動を馬鹿にするような言葉を口にして――
「お前のレベルは俺よりも低いくせに、それで俺を倒すとか冗談でも笑えない。というか考えればわかるだろ? ゲームしている奴ならわかるだろ? レベルの差がありすぎたら逃げる。これは常識だ」
頭に中に見立てた手を突き付け、それを見せびらかしながら馬鹿にする言動を行う男。
そんな男を見ながら初対面のコウガ、むぃは嫌そうな顔をしながら眉間にしわを寄せ、デュランは手に持っている槍を握りしめ、内心幼過ぎじゃないかと思いながら男のことを見る。
初対面であるが故、男の言動に困惑しかない三人だが、一つだけ理解できることがあった。
ショーマとツグミを見て、彼等は理解する。
こいつは敵。
プレイヤーのコウガとむぃでも分かるショーマ達の怒りの表れ。
ENPCのデュランでもわかってしまう彼等の感情の表れ。
ツグミは怒るが感情的に怒りを表すことはない。
そしてショーマも私情で滅多に怒らない。他人のために怒ることは多々あり、感情的になって迷惑な事態になることは多々あるが、こうなったことはない。
自分のことで、自分の事情で怒ったことなんて――滅多にない。
だから理解したのだ。
ショーマの事情に於いて、目の前にいる男は敵だと。
見てわかる通りのそれだが、より一層敵であることを認識した三人は警戒しながらも武器を構える。
デュランは槍を。
コウガは忍刀を。
むぃはデュランの人馬の背中に乗って隠れるようにしがみつく。
「はぁ? 馬鹿はあんたじゃないの? レベルが違うからって逃げる場面だと思ってる? 僕達はね………、こいつの所為でひどい目に遭いながらも心のレベルはもうカンストしていると思う。メンタル鍛えられたから逃げるなんてしないよ」
君には特にね――芦馬くん。
男――アシバの言葉を聞いて苛立ちを覚えたのか、ショーマの前に出て足場に突っかかる様な言動をするツグミ。
若干ショーマに対しての愚痴もあり、それを聞いたトラブルの張本人は真剣な顔で驚いた顔をして固まる。
今にも『え?』と言う低い声が出そうな顔だ。
さっきまでのシリアスを壊しかねない言葉に驚きかけるも、何とか持ちこたえてアシバを睨みつけるショーマ。そして畳み掛けるように、冷たい眼でアシバのことを睨みつけながらツグミは言った。
「君との因縁はあの時で消えたと思ったんだけど、再燃しちゃってさ………、君の所為で僕達の友達が豹変しちゃったんだよ」
「はぁ? 俺の所為で? それは俺の所為じゃなくて自業自得ってもんだろ? 俺は何も悪くねぇよ」
「いいや君は悪いでしょ? だって君が僕達の友達をいじめたせいでこうなったんだよ? 元々いじめていた加害者だからかな? 苛めた人のことなんていちいち覚えてられないって言う理由でそんなこと言っているんだ」
「加害者? それはあっちだろうが。俺達こそが真の被害者で、あっちが真の加害者だ。俺達はあいつらの所為でひどい目にあったんだ。人生の半分狂わされたんだぞ?」
「………さっきからなに言ってるの? 全然会話がかみ合わない。お前の言っている事、理解が全然できない。君達が加害者で、メグが被害者。あの時いじめていたくせによく言うよ。まさかと思うけど………、記憶改竄していない? 改変したいくらいいい人生歩みたいの?」
「お前こそ何言っているんだ? 俺は真実しか言ってねぇのに、なんであいつの肩を持つんだ? あいつが被害者な分けねぇだろうが。あいつはれっきとした加害者なんだ。加害者を野放しにしている世界がおかしいから、俺達の手でなんとかしようとした結果があれだった。もっとできることがあると思ったんだができなかったのが心残りだけどな」
「だから………本当に何言ってるんだよ………? 僕達が言いたいこと、しっかり理解している? もしかして記憶か本当に改竄しているの?」
「………お前達こそ何言っているんだ?」
「なぁ………」
「なんだ?」
ツグミと足場の話を聞いていたコウガは、槍を構えているデュランに話しかける。その顔には神妙――に近い困惑があり、眉間にしわを寄せてしまい、そして首を傾げながらコウガは聞いたのだ。
「あいつ等の会話――本当に噛み合ってねぇな」
「ああ」
そう。コウガは困惑していたのだ。そしてむぃも困惑していたせいで頭を抱える始末で、そんな困惑を一人で抱えることは困難だと思ったコウガはデュランに聞いたのだ。
わからない。
どうして噛み合わないんだ?
噛み合わないなんて漫画の展開か、頭の中で理解していないから食い違っているんだろうと思っていたコウガも、この会話を聞いてからは違和感しか残らなかった。
ツグミは本当のことを言っている。
それはここに来る前に、ツグミとショーマが話してくれたことなので嘘ではないだろう。
第一ショーマは嘘などつけない。つかない人間だから本当だということは分かる。
なら消去法で男が――アシバが嘘をついているという結果になるが、それも違う気がしてきたのだ。
「あのガキはツグミの言うことが正しければいじめてた奴だが、なんだか妙にあいつの言葉が引っかかるんだ………。どうなってんだ? メグって奴が加害者なのは本当なのか?」
「いいやショーマ達の言葉に偽りはない。ショーマは正直で、ツグミはああ見えて親友を大切にしている。そんな二人が相手を混乱させるために嘘つくとは思えない………」
「む、むしろそんなことしないですよっ! 二人とも言ってたじゃないですか――『メグは親友だ』って!」
コウガとデュランの話を聞き、やっとむぃも肯定の意を示すように頷きながら言う。
そんなこと当たり前だ。わかっている。
硬派がそう言わんばかりにむぃの頭を乱暴に撫で、再度ツグミ達のことを見る。
現在二人とショーマは話をしている。
現在進行形で食い違っている会話をして。
お互い『自分が言っていることが真実だ』と言っているかのように、裁判の供述でもしているかのようにお互い意見を譲らない。
譲らず、自分の言葉が正しい。
真実を言っていると断言している言動を見て………、コウガは目を細めて思った。
――どっちも真実を言っている、本音を言っているように見える。
――どっちもメグのことを話しているが、噛み合わない。
――会話のキャッチボールじゃなくて、自分の意見をぶつけるドッチボールだ。
――自分が正解であれば相手は倒れる。それを示すまでの会話みてーに感じる。
――俺達はツグミ達のことを信じているが、どうもあいつも嘘をついていないように見えるんだよな………。
「俺は………」
コウガはぼそりという。
デュランとむぃに聞こえる声量で、ツグミ達には聞こえない声量で言った。
「――どっちも正しい事を言っているように聞こえる」
「………信じたくないが、我もそうだ。敵であるあの小僧は、本音しか言っていない。直感だがそう思わざる負えない」
「どっちも………正解を言っている。二人共本当のことしか言っていないってことですか?」
ここに噓発見器があればもっとわかると思う。
そうコウガはむぃの言葉に対して肯定する。
どっちも正しい事を言っている。
それは人生を積み重ねてきたコウガでも分かる。どころか嘘つきで音に対して異常な性癖を持っている殺人鬼の嘘を見てきたのだ。
このくらいであれば嘘か本当かわかってしまう。
デュランも長年生きてきたがゆえにわかっているのだ。
二人共正しい事を言っている。
アシバは言動で。
ツグミはショーマが驚いていないところを見てわかってしまうのだ。
嘘はない。なら――何が本当なのだろうか。
メグと言う人物を三人は見たことがない。
だから分からないのだ。
ショーマとツグミが言うメグも本当。アシバの言うメグも本当。
どれが本物のメグなのか。
そこに焦点が当たってしまうのだ。
メグと言う人物像はどこまでが本当なのか。ではなく………、メグと言う人物はどんな人物なのか。
曇っていく彼女の人物像を思い描きながら、どんどん暗くなる輪郭を思い描きながらコウガとデュラン、そしてむぃは思ってしまったのだ。
一体、メグは何者なのだろうか………。
しかし、重要で不可解な答えを導きだす前に、足場とツグミの話を聞いていたショーマの限界が来ていたようだ。
「なにが………、噛み合わねぇだよ」
「! ショーマ」
「?」
ショーマはぼそりと言葉を零す。
ゆっくりと歩みを進めながらツグミのことを素通りし、時間をかけて足場に近付く。
一歩。一歩。
ゆったりと歩み、対照的に手にしている刀を握りしめて、ショーマは言う。首を傾げているアシバに向けてショーマは言う。
「何が嚙み合わねぇのか、何がどうなっているのかわからねぇよ」
ツグミも驚いてしまうほど低い音色。
聞いたことがないその声を聞いたツグミは、ショーマのことを見てしまうほどの初めてのショーマの音色。
「でも、わかんなくてもいいんだよ」
情けない声と感情的な声しか聴いていないからこそ、長い付き合いだからこそ、聞いたことがないそれはツグミの言葉を止めてしまうほどの衝撃だった。
顔を見てしまうくらいの驚きだ。
「お前が言いたいことも聞くよ。聞くけど、今はどんなゆっくりは出来ねえんだ」
もしかしたら別人? と言う変なことを思ってしまうほどのそれだったが、ショーマの顔を見て、驚きも消えてしまった。
同時に――湧き上がる戦う意志。
「時間がねえんだ。ゆっくりしたらこの世界が無くなっちまうかもしれねえんだ。何もかもが無くなって、みんな出れなくなっちまう可能性もあるんだ」
ツグミは杖を構え、いつでも詠唱できるように態勢を整える。
それを見たコウガ達も驚きこそしたものの、すぐにお互いを見て頷き合い、再度武器を構える。
「悪い奴らがこの世界を壊そうとしている。それを止めるのが先なんだ。だからお前の言い分も、俺たちが言いたいことも、今は時間をかけることができねえ」
ゆっくりと、はっきりしたその言葉を聞きながらアシバはショーマの言葉に耳を傾ける。向けながらどんどん接近して、且つ刀を握りしめる手を強めているショーマを見ながら、アシバは手に持っていた金棒を握り直し――
「今は――!」
瞬間――ショーマは駆け出す。
駆け出し、アシバの前で刀を振り落とす。
両の手でしっかりと握り、力と勢いをつけた振り下ろしを繰り出すが、アシバはそれを金棒で難なくと止めてしまう。
片手で握った金棒。それを支えるようにもう片方の手を使った防御。
金属音同士がぶつかり合う音と同時に迸る微量の火花。
一瞬暗い世界に光が灯った様な錯覚に陥るツグミ達。火花の一瞬の輝きが消えると、ショーマはそのまま左膝を使った蹴りを繰り出そうとしたが、それも簡単に支えにしていた手で止めてしまうアシバ。
止められた瞬間、ショーマはそのまま反対の足を使って攻撃――しなかった。
否、厳密には攻撃と同時に距離を取った。
簡単な話だ。反対の足を使って足場の金棒に足をつけると、そのまま踏みつける力を使ってその場から逃げたのだ。
この行動にはツグミ達も驚いた。
感情的に動くショーマなら、絶対に追撃をすると思っていた場面で、逃げる選択をしたのだから。驚かない方はおかしいかもしれない。
背中から地面に転がり、土煙をつけながらショーマは立ち上がる。
立ち上がり、刀を再度構えながら言う。
先ほどの冷静をぶち壊す――いつも通りの感情的な声で。
「邪魔するお前を――倒して止めるっ!」
「………結局倒すんだ」
まぁいいけど。こっちにはまだ手札あるし。
ショーマの曲がりのない言葉を聞いて呆れるアシバだったが、戦わないというそぶりは見せていない。むしろ戦えてラッキーと言わんばかりの狂気の笑みだ。
アシバの言う手札とは何なのか。詠唱を持っているのか。
何もかもが未知数で、対して切り札がデュランしかない自分達は、未知数相手に勝てるのか。
一抹の不安を抱きながらもツグミは杖を構える。
不安はあるも、きっと今回も何とかなる。
ショーマがいるから、きっと何とかなるだろう。
いつも感じる言いようのない安心感を抱きながら、ツグミは目の前に集中することにした。
この先――自分達が絶体絶命になってしまう未来を想像できず………。




