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PLAY145 MESSED:Ⅵ(The End of One Vengeance)⑥

「モシ、モシソノ復讐ガ終ワッタアト、オ前ニハ何ガ残ッテイルンダ?」


 コーフィンの言葉を聞いた瞬間、ロゼロは固まってしまった。


 言葉を聞いて、即答してやろうと思っていたが、その思考が壊れてしまうほど、彼の質問に対して答えることができなかった。


 ()()()――()()()()()()()()から。


 復讐が終わったら………?


 そんなの、あるわけがない。


 俺の復讐は永遠に終わるわけがない。終わらない復讐だから、俺は戦えるんだ。


 俺を、俺の国を、父上と母上を惨く殺した奴らをみすみす逃すわけないだろう。だからそいつらを、砂の国に生まれた者、そして砂の国出身の者、王族と少しでも血族がある者を殺すまでは、永遠に終わることはない。


 こう答えるべきだ。


 そう思っていたロゼロは口を開こうとした。が――できなかった。


 開いて、声を出せば終わりなのに、それができなかった。


 言うべきなのに、それができない。


 なぜ?


 理由なんて、簡単だ。


 コーフィンの言葉を聞いて、そのままその先のことを一瞬考えてしまったから。


 もし、本当にもしもの話しで復習が完遂出来た。自分が恨んでいるすべての者達がいなくなった。自分の手で殺すことができた時、その時は喜びで涙が出るだろう。


 だが、()()()()()


 そのあとは? どうなるんだろう。


 いいやどうするんだ?


 完遂出来たその後、俺は何を目標にして生きて行けばいい?


 何が残っているんだ? 俺に。


 それ以外の目標なんて立てていない。どころか殺すことばかりしか考えていなかった。言われて気付いてしまう。


 俺は――それ以外のことなんて全然見ていなかった。


 目の前の目標ばかり見ていただけで、何も見ていない。その先を見ていなかった。


 考えるロゼロ。


 一体何があるのか。復讐しか考えていなかった頭で懸命に考えを巡らせ、答えを口にしようとした時――コーフィンは溜息を吐く。


 呆れるように、そして予想していたかのようにロゼロに向けて「ホラナ」と言ってから、続けて言った。


「オ前ハ復讐以外考エテイナイ。ソレハ見テワカッテイタシ、誰ガ見テモソウ思ウ。復讐シカ考エテイナイ思考ハ、目ノ前ニアル大切ナモノデサエ見失ワセル」

「目の前………に?」

「アア」


 ロゼロの驚きを見て頷くコーフィン。


 そのまま視線を現在進行形で頭を下げて待っているアイアンプロトに向けると、彼の大きく、広くて分厚い背中に手を添えて言った。


 ロゼロに向けて、アイアンプロトがしたい事を簡潔にまとめて――


「ツマリ、コイツガ言イタイコトハ――砂ノ国ガシテキタコトヲ甘ンジテ受ケ止メルッテ言イタインダ。ソレヲ背負ッテ、()()()()()()()()ッテ言イタインダヨ」

「つぐ、なう………?」


 ソウ。償ウンダト。


「はぁああああああっ」

「「――!」」


 ロゼロの言葉に頷くコーフィンを見て、とうとうしびれを切らしたヌィビットが溜息を吐いてロゼロに向けて言った。


 否――溜息にしては大きすぎる、と言うよりも声に出しているのでもはや溜息ではない。


 むしろ我慢の限界と言わんばかりの声だ。


 言いたくて言いたくて仕方がなかったと言わんばかりの溜息のデカさに、少し苦笑いを浮かべるシルヴィと蓬。そんな彼を見ながら内心――よく耐えました。と主の成長を心の中で嬉しく思ったクィンク (顔に出さず)。


 そんな三人を無視してヌィビットは言う。


 もう言いたくて言いたくて仕方がなかったと言わんばかりに――


「そうだよ! なぜおまえは気付かなかった? 復讐は確かに完了した後はスカッとする。心がスッキリするかもしれないが、それをしたあと、完了した後のことを考えているのか? 人生設計のようにちゃんと計画して行動しているのか?」

「あ。いや」

「ほれほれしていないだろう? だから嫌なんだ復讐に身を投じる奴は。見るこちら側からすれば面白いかもしれないがやるとなれば話は別だ。復讐なんて今まで何もすることがなかった奴が見つけるようなあら捜しだ。お前が完遂したところで褒める奴はいるのか? お前の復讐を心の底から応援して、その応援を糧にして生きているのか? 愛する者がいるからそんなことをしているのか?」

「…………」

「いないよな? いないということで話を進める。進めるがおすすめはしない。なぜか? 結局虚しいんだよ! やった後残るのは一瞬の達成感と重苦しい喪失感だ。復讐はそんなシステムなんだよ。やるだけやったとしても、達成感なんて一瞬しかない。そして気付くんだよ。やった後は虚しいだけ。復讐なんて――馬鹿のやることだ。とね!」


「………かなり言い切ったな」

「喉から出たがっていたのかもね。言いたいこと」

「旦那様らしい言葉と想いだ」


 蓬の言う通り、ヌィビットは喉から言いたいことが出かかっていたのだろう。


 我慢していたがもう限界と言わんばかりに放たれた言葉はロゼロも驚き、頭を下げていたアイアンプロトも顔を上げて驚きである。


 コーフィンは呆れながら溜息を吐き、聞いていたシルヴィ、蓬も呆れ、クィンクに至っては頷きながら感銘を受けている。


 只一人だけ――『流石です』と言わんばかりだ。


 そして当の本人はやっといえることを言いきったのか、落ち着きの呼吸をした後手の甲で汗を (出ていない)拭い、コーフィンに向けて『どうぞ――続きを』と促す。


 割り込んだことを詫びているかもしれないが、逆に申し訳なかったのか? と思ってしまうコーフィンだったが、ヌィビットはこんな男だ。そう思いながらコーフィンはロゼロに視線を向け「ソウイウコト」と言った後、ヌィビットに続いてコーフィンも言う。


 頭を上げ、コーフィンのことを驚きの目で見て固まっているアイアンプロトを横目で見ながら――


「オ前ノ復讐ハ確カニ分カルトコロガアル。故郷ヲ壊サレタ。ソシテ自分モ実験台ニナッテ、望ンデイナイ姿ニサレタ。俺達ハ経験シテイナイカラ何ヲ言ッテモオ前ニハ苛立チシカナイダロウ。デモ、復讐シタイトイウ気持チハ、ドンナ人間ニモ湧キ上ガル。ソシテ俺ハ………、経験シタカラヤメタンダ」

「…………」

「ヌィビットノ言ウ通り、馬鹿ナコトトハ言ワナイ。タダ――ソレダケヲ糧ニシナイ方ガイインジャナイカ? 砂ノ国ノ後始末ハ………、コノアイアンプロトガ背負ウ」


 ソレデ――オ前ノ復讐ハ終ワリッテコトニデキナイカ?


 コーフィンの言葉を聞いて、最初にロゼロは思った。


 ふざけていると。


 しかしそんなふざけた言葉を聞いても、何故か苛立ちはしなかった。


 体が動けないから気力がないわけではない。純粋に――考えたから。


 コーフィンやヌィビット、アイアンプロトの話を聞いて、復讐のその後を考えて思ったのだ。


『六芒星』に入って、復讐のために生きてきた人生は、そんなに悪くなかった。


 しかし、その悪くなかった気持ちを生み出していたのは自分じゃない。


 自分の傍で、ずっと一緒にいて、ずっと自分のことを優先にして傍にいた従者。


 フルフィドの存在はロゼロにとっても大きな安心感だったのだ。


 一人だけで復讐するとなれば、途中で心が折れていたかもしれない。今回のように『憎しみ』の力に呑まれていたかもしれない。その力に呑まれて死んでいたかもしれない。


 その可能性を壊してくれた存在。

 

 自分を――エリック王子と言ってくれた存在が、ロゼロにとって大きな支えとなっていたのだ。


 王子と従者。

 

 ただそんな関係であろうとも、ロゼロにとって、それはかけがえのない安らぎ。


「…………そうだな」

『!』


 ロゼロの言葉を聞いたコーフィン達は驚き、一番驚いていたアイアンプロトは顔を上げてロゼロに近付こうとしたが、一瞬思い出して止まってロゼロを遠くで見ながら『ほ、本当デスカ?』と聞く。


 機械なのにおどおどしているその光景は、人間の様だ。


 そんなことを思い、アイアンプロトのことを横目で見ていたロゼロは目を閉じて、開けて――告げる。


「お前は、それを絶対に成し遂げるのか? 自分勝手な奴らばかりで、投げだしたい気分になるぞ」


 爬虫類の眼に灯る僅かな光が、アイアンプロト達の目に映る。


 ほんのわずかだが、それでもロゼロの目に、憎しみ以外の感情が芽生えた。そんな気がしたアイアンプロトだったが、ロゼロの言葉を受け止めつつ、自分の意思を伝えるように握り拳を作って胸を強く叩く。


 ゴィンッ! と、金属音が響くと、アイアンプロトはロゼロに向けて言った。


『それは想定しているこトデス。覚悟の上で、ワタシは受け続け、そして償いをしてキマス!』


 アイアンプロトのはっきりとした言動は、現実世界のロボットと同じ。


 しかし………、想いは人間そのものだ。


 想いの言葉を聞いたロゼロは呆れるように溜息を吐き、そっぽを向きながらぽつりと呟く。


 俺の、負けだ。


 ロゼロの言葉を最後に、ヌィビット達対ロゼロの戦いは、静かに幕を閉じた。


 機械の王国の脳裏に描かれる――従者とののんびりした旅を背景に。


 復讐以外にやりたいことを思い浮かべることができた小さな幸せを、描きながら………。



 ◆     ◆


 レギオン対ラージェンラ――レギオンの勝利。


 ヌィビット達対ロゼロ――ヌィビット達の勝利。


 ハンナ達は現在進行形で最深部に向かっている。


 各々ができることをしている最中………、今まさに負けかけている存在達がいた。


 それは………。


「やっぱな。お前達はあの中でも弱小で、絶対的足手まといだった存在だったな」


 男は言う。背中に担いでいる棍棒を地面に向けて少しだけめり込むように叩き、目の前にいる存在達に視線を向けながら言った。


 身長はショーマほどの身長で、頭には白いタオルで頭を巻き、右目を隠すように十字架の印が彫られた仮面を括りつけている紫色の髪の毛が印象的な青年ではあったが、左目から覗く鋭い眼光に口元を隠すようにガスマスクを装着し、左頬に残る三つの切り傷。首には黒いチョーカーをつけ、黒いロングコートに身を包んだ姿をしている。ショーマの攻撃を受け止めている鬼の金棒めいた棍棒も更に彼と言う存在を強調させる。


 しかしそのロングコートの左腕のところはキレイに破れてしまい、左腕の肩から手の先まで露出してしまっている。右腕はコートの袖ですっぽりと覆われているため見えないが、左腕には黒い布で覆われてどうなっているかはわからない。


 足は黒いズボンに白いロングブーツと言ったオーソドックスな服装に見えるが、彼の左足だけは右足と違い左足だけ欠損してしまい、急ごしらえの義足 (足と言っても、松葉杖の様な足になってしまっている)をつけられているだけの青年は、首を傾げて目の前で倒れている男に目をやる。


 今まさに体から全生命の水が漏れ出している存在を見下ろし、死にざまを目に収めながら言う。


「俺に向かって、言ったよなぁ? 『お前は――俺が倒す。ぜってー倒す』って。あれ………嘘かよ?」


 嘲笑う様に言い放った男を睨みつけ、倒れている男――ショーマは奥歯を噛み締めてさらに命の水を零していく。


 まったく動けないわけではない。


 ただ………全身に響く激痛と戦いながら、ショーマは立ち上がろうとして…………。


 なぜ彼がこうなってしまったのか。


 それは――今から数時間前に遡る………。

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