PLAY145 MESSED:Ⅵ(The End of One Vengeance)⑤
「………なにが、『ワタシはあなたの怒りを、悲しみを、憎しみを全部受け止めマス』だぁ?」
アイアンプロトが言い放ったその言葉は、今の状態のロゼロに対して――『挑発』と思われても仕方がない言葉だった。
全部受け止める?
それは攻撃を全部受け止めるとでも言いたいのか?
自分の魔祖をふんだんに使った攻撃を全部受け止めるとでも言いたいのか?
こんな状態で、何もできない状態の俺に向けて、それを言うのか?
明らかに言う場面を間違えたかのようなアイアンプロトの発言。
しかしそれを聞いても止めるそぶりをしないヌィビット達。アイアンプロトも頭を下げたままでロゼロのことを見ていない。
だからロゼロは苛立ちが加速してしまった。
全員――自分のことを馬鹿にしていると思った。
何もできない俺に対しての最後に願いを叶えようっていう情けか?
ふざけるな。
ふざけるな。
「………ざけるな」
『エ?』
零れる声を聞いたアイアンプロトは、聞き取れなかったと言わんばかりにそっと顔を上げてロゼロのことを見ると、ロゼロは鬼気迫る顔でアイアンプロトに言う。
詰め寄るように――己の重い想いをぶつける。
「ざけんじゃねぇっ! 何が怒りも悲しみも憎しみも受け止めるだぁっ!? 機械の四肢が無くなり、何もできなくなった俺への情けでも言いたいのかっ!? 馬鹿にしてるのかっ!? お前の様な奴に怒りも悲しみも何もかもをぶつけても、何も変わらねぇっ! 全部壊さないと、全部俺の手で消してこそ価値があるんだっ! 俺の復讐はぁ! 復讐はぁ! お前の様なガラクタに向けて収まる様な大きさじゃないっ!!」
ロゼロの言う言葉を聞いた誰もが、無言のままロゼロのことを見ていた。
ロゼロの憎しみは確固たるもので、そして易々と消えるものではない。
埃一つ残っていても『綺麗』と言えない様な、塵一つ残さないこと事が『綺麗』であると言っている人のように、ロゼロの憎しみが晴れる時は――何もかもが無くなる時なのだと理解した。
砂の国全てを呪う。
そしてアズールを呪う。
憎しみの連鎖が無くなることはない。
なんて悲しいんだ。
憎しみ続けることが、ここまで悲しいものとは思わなかった。
それをやり遂げて、更なる憎しみへと歩もうとしているロゼロを見て、誰もが言葉を発することをしなかった。
否――発したものは、一人だった。
「ナラ、オ前ハドコデソノ憎シミガ無クナルンダ?」
その言葉を放ったのは――意外にもコーフィンだった。
コーフィンは蓬とクィンクの間から割り込むように前に出て、ペストマスクに手を掛けながらロゼロに言う。
ゆっくりと歩みを進め、自分のことを思い出しながら――
「俺モ、俺モ昔ソウダッタ。個人的ナ理由デ後輩ヲ連レテ、行動シテ、ソノアクシデントデ、俺ハ顔ヲ失ッタ」
そう言ってコーフィンはペストマスクを外す。手に持ったペストマスクに隠されたその顔を見て、ロゼロは言葉を失い、一緒に行動していたヌィビット、シルヴィ、蓬、あろうことかクィンクも顔を顰めてしまう。
この時、ヌィビット達は初めて見たコーフィンの素顔を見て、どうしてこうなってしまったのかと言うよりも、今まで見てきたコーフィンからは想像できない。
顔は爛れ、ケロイド状になってしまい、かろうじて両目だけは見えているのだろう――ギョロ目でロゼロのことを見ている。鼻の原形も留めておらず、唇も右半分くっついてしまって左半分だけ開いている状態。喉元には声帯機が取り付けられている。
言ってしまえば悪い事だが、奇異な目で見られてもおかしくないくらい、ひどい顔だった。
こんなひどい顔をしているのに、コーフィンはそれを思わせないくらい明るかった。
だから――驚いてしまったのだ。
彼の仮面の裏が、ここまでひどいと。
「ヒドイトカ思ウナヨ? コレハ俺ノ自業自得ナンダ」
「? 自業自得とは?」
コーフィンの声帯機から放たれた言葉を聞いて、ヌィビットは考えることを止めてコーフィンに聞く。
いつもの何を考えているかわからない顔がぎこちなく見えるのは――コーフィンの顔を見て困惑したからだ。彼が生きてきた中でも、コーフィンの様な人は見たことがなかったから。
そんなコーフィンに向けて、ヌィビットは聞いた。
どういうことなのか?
その言葉に対しコーフィンは答えた。
これは――アムスノームでも言った内容。
もう過ぎ去ったことだが、それでも過去は消えない事。でも、それをいつまでも覚えていることは無駄な事なんだと悟らせるように、コーフィンは皆に向けて言う。
「俺ガコウナッタ理由ハ、単純ニ事故ダッタ。二年前クライダナ。俺ハトアル催シニ参加シタンダ。内容ハシンプルナバトルロワイアルデ、俺ハ仲ガ良カッタ後輩ト一緒ニソレニ参加シタンダ」
「! それって………」
コーフィンの言葉を聞いてシルヴィは息をのみ、言葉を頼りに思い出した。
それはMCO内でも有名だった事故。
これがきっかけでRCの信用が落ちかけたきっかけにもなった事件のことを。
彼女はそれの担当ではないが、それでも動機から聞いた話で、詳しい内容は守秘義務なので詳しくは言わないでおこう。
話せる範囲で言うと――コーフィンがいう二年前に、MCOはとある企画をサイトに更新した。
それは特定の上級所属のバトルロワイヤル。
云うなればPKしてもいいという異色の企画だった。
内容はスナイパー・アーチャーだけの誰が生き残るかというシンプルなバトルロワイヤル。
FPSゲームを愛する者であれば、バトルロワイアルを熟知している猛者であれば参加せざる負えない様な内容だ。
普通に最後まで生き残った者が勝者と言うわかりやすい企画だが、その企画で事故が起き、RCは事故の対応に追われた。
――確か………、仮想空間で負傷した者のゴーグルにまで影響が出て、その結果重症者が出てしまったと聞いた。死亡者はいないと言っていたが、破棄されたはずのプログラムが残っていたことが問題になって、それが悪用されて………だったな。
当時のことを思い出しながらシルヴィはコーフィンを見る。
コーフィンの顔は見るに堪えない、ひどいものだった。それを見てシルヴィは顔を顰め、悲しそうに、そしてあの事故の詳細を思い出しながら思った。
――コーフィンは、その被害者だ。
――あの顔は、そのプログラムを受けたせいで、現実にも影響を及ぼした。又は仮想空間の影響で現実世界で事故起こした。
――脳に影響を及ぼすプログラムだ。すぐに治るわけではない。
――こうして行動していることが奇跡だ。
――コーフィン。お前は………、そんな姿にさせたRCを、恨んでいないのか?
純粋な疑問だった。
正直、ロゼロの憎しみよりも、コーフィンの姿を見て思わない人は少なくない。
本人が『気にしていない』と言っても、理由を聞かない限りは理解できない内容。
どうしてなのか。
そう思いながらシルヴィはコーフィンの言葉に耳を傾ける。
みんながそうしているように――静かに。
「参加シタ人数ハ四十九人で、広イ場所ヲ使ッテ狙撃シタリ撃チ合ウ………、マァ、ソノ時流行ッテイタゲームミタイナモノダ」
「なんだそれは………、まるで野蛮なゲームだな。くそな貴族共が面白がってやりそうなゲームだ。反吐が出る」
「ソウダナ。ソレデモ、俺ハ銃ガ好キダカラ、純粋ニ楽シモウト思ッタ。後輩ト一緒ニ、イイ思イ出ヲ作ロウト思ッタ」
ケド――
一言呟いた後、コーフィンは自分の変わり果ててしまった顔を撫で、瞼のないその目でロゼロを一瞬逸らした後、もう一度彼のことを見て言う。
あの時のことを思い出し、あの時、あの場所にいて、あの状況を見ていた後輩が――何を思い、苦しんできたのかを思い描きながら………。
「ソノ思イ出モデキナカッタ。俺ハアノ時数人ノ敵ニ追ワレテ、後輩に目ガ行カナカッタ。自分ノコトデイッパイイッパイデ、後輩ノ危険ヲ察知デキナカッタ。モット周リニ配慮シテイレバ………アイツモ苦シマナカッタト思ウ」
「………つまり、後輩の所為でお前はそうなったのか?」
ロゼロは笑みを浮かべながら言った。
姑息で、安心したかのような笑みだ。
同じ気持ちを抱えている奴がいる。それだけでもうれしかったのだろう。ロゼロは鼻で笑う様な笑みを浮かべて言う。
お前もじゃないか。
その言葉が喉から出かかったが、それを言わずにロゼロはコーフィンに言う。
何も言わない彼のことを見て、イエスと勘違いして――
「そうか。お前がそうなったのはその後輩ってやつの所為か。使えない部下だからそうなった。それは恨んでもいい。お前の顔をそこまで壊したんだ。事故と言えどお前はそれを」
「話ハ終ワッテナイゾ。ソレニ――俺ハモウ恨んでナイッテ言ッタンダゾ」
勝手ニ捏造スルナ。
だが、コーフィンはロゼロの安心を打ち砕く。
そんなこと一言も言っていない。
変な捏造をして、自分の都合のいい解釈をするな。
そう遠回しに、且つ簡潔に言うコーフィン。
コーフィンの言葉を聞いたロゼロは驚きの目をして固まる。そしてそれを聞いていたヌィビット達も驚きの顔をし、お互いのことを視界の端で見つめた後、もう一度コーフィンのことを見る。
実際――コーフィンが起こることはあまりない。
ないからこそ、静かに怒りを見せたコーフィンに驚きを隠せなかったヌィビット達。
ロゼロの言うことも一理ある。でもそれを真っ先に否定するコーフィンに、ますます疑問が膨らむばかりだ。
怒りを見せたことでいったん落ち着こうと一呼吸するコーフィン。
呼吸し、肩の力が抜けたところで続きを語り出す。
いいや――もう確信に近付いている。
自分が恨まないと決めた時のことを。
「事故ノ所為デコウナッタンジャナインダ。アレハ、俺ノ不注意デモアッタンダ。マァ、ソノ会場ニアッテハナラナイモノガッタカラ事故ガ起オキテ、俺ハソレニ巻キコマレテ、命ハナントカナッタ。手足ガ不自由ニナッテ、顔ガ変形シテ、喉モ潰レタ」
「………」
「正直――希望ハナカッタ。最初ダケ」
「最初………だけ?」
コーフィンの言葉を聞いてロゼロは驚きを隠せないまま唖然としてしまう。
最初だけ。
その言葉がロゼロの心を乱し、疑問が出るきっかけになってしまう。
だが――本当にそうなのだ。
ロゼロの驚きを見ながらコーフィンは言う。
自分の手を――包帯が巻かれたその手を見てコーフィンは言った。
「タシカニ、コウナッタトキハ、後輩ノコトヲ恨ンデイタ。シカシ考エヲ変エテミレバ、コレハ自業自得デモアッタ。俺ガアノ時、調子コイテ三人相手ニシナケレバ、アノ時実力負ケシテ逃ゲナケレバ、コウナラナカッタノカモシレナイ。病院デリハビリヲシナガラ、フト思ッタコトダ」
「そんなの………わからねぇな。前者が正解だと、俺は思うがね。なにせ――その後輩の所為でお前は普通を失ったんだ。今は正常に動けているが、もっと自由に動けたかもしれない。ささやかな幸せも、掴めたかもしれないのに、それを壊した後輩ってやつは、本当に屑なんだな」
「クズジャナイヨ。アイツハ――アイツナリニ生キ方ヲ考エテ、紆余曲折シナガラ生キテキタ。人間ハ絶対ニ間違イヲ犯シ、ソシテソノ後考エテ、自分ノ道ヲ選ブ生キ物ダ。間違エルコトモアルシ、正シイカハワカラナイ。デモ――俺ハオ前ノ行イハ間違ッテイルト思ウ」
「お前も………、そう言うのか。俺のやり方を」
「俺ガ言イタイノハ、復讐ヲ完遂シタ後ノコトヲ言ッテイルンダ」
コーフィンは言う。
ロゼロの疑問を無視し、きっと自分も辿るかもしれなかった末路を想像しながら、何もない道を想像しながら言う。
復讐は馬鹿らしくて、悲しくて、虚しい。
そう思いながら――
「モシ、モシソノ復讐ガ終ワッタアト、オ前ニハ何ガ残ッテイルンダ?」




