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PLAY145 MESSED:Ⅵ(The End of One Vengeance)③

 ヌィビットは――RCの視点で言うと、異端だった。


 一種の変わった何かだった。


 何なのかはわからない。これからそれを明かすだろうが、今は復習の時間だ。


 前にも言っただろう?



 それはスキルを使うプレイヤーならわかることだが、これはあり得ない現象だった。


 回復は癒す。


 普通に考えてもこれは常識だ。


 だが常識が通じない時もある。


 それが今なのだ。


 ヌィビットは悪魔族であり、所属はハンナと同じ『メディック』


 悪魔族のメディックと言うたった一人の例外が持つ力は――



              例外と言う名のバグ。



 と。


 これは本当にそうなのだ。


 ヌィビットはこのRC製作のMCOにおいて、もっともしてはいけないタブーを犯したのだ。


 そのタブーと言うものは、想定していない組み合わせをしたということで、それはRCにおいてもヌィビットがしたことは予想外だったのだ。


 そう――悪魔族でありながら『回復』の力を使うという真逆のこと。


 尖った企画をしようと言う輩がいればするかもしれないことだが、この行為は製作側からすれば、迷惑な事この上ないのだ。


 簡単に言うとプログラム同士の結合に支障。同時にほころびが起きて壊れるという事態が起きる。


 つまりはバグだ。


 それを無視してヌィビットはバグのような組み合わせを意図して作ってしまった。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が、それでも彼がした選択は、RCからすれば大打撃だった。


 大打撃を受け、これからの計画の支障になると予想したRCは、ヌィビット対策のあることをしたのだ。


 それは――スキルの『反転』


 逆の力が作用するプログラムを組み込むことで、バグが広がることは阻止できた。


 逆に、ヌィビットのスキルが変になったことは言うまでもない。


『回復』スキルなのに、人に使用したら逆に体力が減ってしまうなんて――回復要因不必要の世界に於いてもっとも必要とされない人物になったのだから………。


 それを解決できるものなど、存在しないから。


 そう――大型アップデートが起きるまでは。



 ◆     ◆



 瞬間――ロゼロの胸の辺りに溢れる様な光が………、温かくて、心が休まる様な光が辺りを包み込む。


『………………………っっっ!!』


 光を見て顔をしかめたロゼロだったが、その顰めもすぐに目を開けることになる。


 なにせ――胸を中心に広がる大やけどの様な痛みが身体中に走ったのだから。


 灼熱の炎に呑まれるような、感じたことがないその痛みはどんどん体どころか内臓にも達し、そしてとうとう――ロゼロ本体に浸食して………。




『ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアあああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁっっっ!!!』




 ロゼロは叫んだ。


 本体と体に覆われた憎しみの鎧の口を開けて、叫んだ。


 痛みで叫ぶことは生物として当たり前の現象だ。


 子供が転んでけがをした時と同じだ。


 しかし、ロゼロが感じているのは、死の危険を感じるほどの激痛と言いようのない感覚だ。


 痛い。


 痛い。


 痛い。


 その言葉だけが頭の中を支配し、それ以外のことを考えさせない。


 まるで拷問だ。


 前に受けたが、今回は前のと比べたら比ではない威力だ。


 その光景を遠くで見ていたクィンクはヌィビットのことを呼ぶ。勿論『旦那様』呼びだ。


「旦那様! 大丈夫ですかっ!?」

「ああ、安心しろクィンク! MPは回復したし、何より私には()()があるんだっ! 信じろクィンク! 私はお前の主だぞっ!?」


 ヌィビットの言葉を聞いたクィンクは視線を主――ではなく、彼の腕に向けて顔を顰める。


 その顰めは怒りのそれではない。心配の顰めである。


 なぜ心配の視線を向けているのか? 簡単だ。主のことを第一に考えているクィンクだからこそ、視界に映ったそれを見て感情が揺らいでいるのだから。


 前にも話したが、ヌィビットは悪魔族で『メディック』と言う所属。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()




 そう――ヌィビットは悪魔族ゆえに、スキルの影響を受けているのだ。



 現に、彼の腕――アイアンプロトの装備の内側と、その接触箇所から覗く焼けた傷跡。


 それは今まさに受けている傷であり、ヌィビットは現在進行形で大やけどの状態を維持してロゼロに噛み付いていたのだ。


 肉を焼く様な香ばしいものではない。


 嫌悪感と恐怖、そして見ている人まで痛くなりそうな、むず痒さ。


「っ。旦那様………! そのままでは」

「ああわかっているよっ! 私は大丈夫だ! みんな傷を負い、私だけが無傷で服にも汚れがついていないなんて変だろうっ!?」

「それを言っているのでは………」


 クィンクの言葉を聞いてもなお離れようとしない。


 どころか噛み付きを強くして力を押し付けているヌィビット。


 その痛みに耐えられず叫び続けるロゼロ。


 あまりの痛さにヌィビットのことを引きはがそうと。ヌィビットの体を掴んで引きはがそうと試みる。


 巨人が人間を握りつぶすほどの手を持っているロゼロだ。すぐにひっぺはがせる。そう思っていたが――剥せなかった。


 どころか、腹部の痛みがどんどん広がっていく所為で体に力が入らない。指に力が入らない。


『うううううううう! ううううううああああああああああああああああぁぁぁぁぁっっ!?』


 叫びか、それとも鼓舞するための咆哮なのかわからない声。


 その声を皮切りにヌィビットの体を掴む腕に力を入れ、体を引き千切ってでも引き離そうとした――その時だった。


 ――ダァンッッ!!


 乾いた音が空間内に響いた瞬間、ロゼロの腕に突如として走り出す信号。


 痛覚の信号が彼の腕を介し、そのまま脳を伝って『痛み』を信号として送る。


『ぐぅ………っ! がぁあっっ!?』


 信号として送られた痛みが腕から来ていることを感じたロゼロは、すぐに痛みの中心となっているそこを見下ろす。


 ヌィビットのことを力づくでも引きはがそうとしていたその腕を見て、手首の真ん中にくっきりと残った穴を見て、ロゼロは理解した。


 ――この痕は! 銃!


 ――ってことは! あの鳥野郎がぁああああああっっっ!


 ロゼロが理解したその時――遠くでロゼロに向けて銃口を構える一人のペストマスクの男。そして傍らにいた二人の人物は、ペストマスクの男に聞いた。


「当たったか?」

「まぁ、当たらなくても攪乱はできるんじゃない? 一瞬のよそ見として」


 二人の人物――シルヴィと蓬は銃を構えているペストマスクの男に聞くと、ペストマスクの男は『フ』と、声でそれを言いながら、続けて機械質の声で言った。


 自分の手の中にある狙撃の銃を手に、そのスコープから痛みで叫んでいるであろうロゼロを見ながら………。


『俺ハスベテノ『スキルポイント』を命中率ニ加算シテイルンダ。コノクライノ距離、ドウッテコトナイ』


 そう言ってペストマスクの男――コーフィンは再度弾を装填して狙いを定める。


 スコープ越しで見るロゼロの荒れ様は、まさに焦っていると言ってもおかしくない。


 ――ココマデハ想定内カナ?


 ――俺ハコノママ邪魔ニナラナイヨウニ、アノ男ノ攻撃ヲ妨害スル。


 ――ソレガ俺ニ与エラレタ役目ダガ………。


 自分に与えられた役目。


 それは状況を見て判断したコーフィンの独断であり、ヌィビットが命令したわけではない。シルヴィがそれを伝えたわけではない。


 ただ――自分ならこれをした方がいいと考えた結果、行動しているだけ。


 何もしないよりはまし。


 それを形にした行動なのだが、それでもコーフィンは悩んでいた。


 まだ何かできるんじゃないのか? そんな葛藤が襲い掛かって来る。


 無理もない話だ。彼自身もスコープ越しからヌィビットの火傷を見ていたのだから。


 スコープがヌィビットの火傷に移り、それをスコープ越しから見たコーフィンはペストマスク越しで顰める。


 ――アレハ、拒絶反応ダ。


 ――アノママダト、ヌィビットノHPはゴリゴリニ削ラレテ、最悪………、体がオカシクナルゾ。


 コーフィンもこの世界に来てから、このMCOをプレイしてからなんとなくだが理解はしていた。組み合わせが悪いとどんな負荷が起きるのか。


 そしてその負荷の影響が目に映るとどうなるのか、この旅を続けてきて理解していた。


 理解してきたからこそ、コーフィンの腕を見て危うさを感じてしまったのだ。


 自分にダメージが返って来ることはまずありえないことだ。HPを犠牲にした攻撃ならわかるが、『回復』系にそんなデメリット、犠牲を伴うことはまずない。


 だが――ヌィビットは実際ダメージを受けている。


 笑っているが、それは相手を油断させないための演技………なのかもしれない。


 逆に痛いせいで笑う事しかできなくなった――アドレナリンドバドバの状態なのかもしれない。

 ダメージの原因は明確だ。


『回復』スキルを使う者にしか使えない光であり、ハンナがみんなを癒すときに使う『回復』系最強のスキル――『大治癒(ヒーリア)


 これがヌィビットにとって――悪魔族にとって最大の痛みなのだ。


 悪魔族は光に弱い。


 そして聖なる力にも弱い。


 だから聖なる力の源の『回復』系は、ヌィビットにとって諸刃の剣。


 しかも『大治癒(ヒーリア)』一人分の体力を全回復することができるスキルだが、その分MPの消費がすごいことで有名だ。


 スキルが強ければ強いほどMPの無くなりも早い。


 ヌィビットのMPがどのくらいあるのかわからないが、それでもこれは――時間の問題だ。


 ――ヌィビットノ体力トMPガ先ニ無クナルカ、モシクハロゼロノ『力』ガ消滅スルカ。


 ――コレハ………、根性試シダ。


 ――ドッチガ先ニ事切レヲ起コスマデ続クジリ貧合戦ダ。


 ――加勢シタイガ、俺ガデキルコトハ、ヌィビットニ致命傷ヲ与エサセナイコト。


『アイツガ一人デヤロウトシテイルナラ、ソノ気持チニ応エテヤラナイトナ』


 そう言って、コーフィンはもう一度スコープ越しに銃口を構え、致命傷が来るまでの間その時を待つ。


 そう――これがもうガチンコ勝負。


 一対一を掛けた勝負なのだ。


 男の勝負に優しさで加勢はしないが、少しだけハンデと言う名の助太刀は勘弁してほしい。


 そう思いながらコーフィンは銃口を構え、機を待つ。


 それはシルヴィも、蓬も――クィンクもそうだった。


 ヌィビットの行動を邪魔しない。


 最後まで見届けよう。そう思ったから。


『ああああああああああああああああああああああああああああっっ! てめぇえええええええええええっっ! なんでそこまで俺に噛み付こうとするんだぁっっ!』

「ああそうだよ! 私は現在進行形で『大治癒(ヒーリア)』と言う名の牙を持って噛み付いている! そうでもしないと! お前を倒すことができないと思ったから! 光属性の魔法が得意な奴はいない! 私達は彼等のように特異な武器も持っていないしフィジカルも上の中! 一見すれば砂の国の負の遺産を使わないと弱い私達だが、私達にだってできることはあるんだ! こんな風に! ねぇっっ!」


 ヌィビットの張り上げる声が終わるや否や、指に力を入れ、より一層眩い光を放つヌィビット。同時に腕の火傷の広がりも加速し、ロゼロの激痛も更に強くなる。


『~~~~~~っっ! お前等には、関係ないだろうっ!? この国のことも! 砂の国も、何もかも関係ない! なんでそこまで命を懸けてここまで戦うんだっ!? 金かっ? 名誉か? それとも賞賛の声が欲しいのかっ!? そんなもののために戦うなんて、馬鹿にもほどがあるっ!』

「いいや違うね。私達は、何の見返りなんて求めていないよ」


 ロゼロの言葉を剣で切り裂くように論破するヌィビット。


 バッサリ切り捨てられ、帰ってきた言葉に驚くロゼロ。


 そんな彼に向けて、悪魔は言う。


 体中を火傷で覆い、体力もMPもあと少しと言う時点であるにもかかわらず、彼は不敵な笑みを浮かべながら言った。


「私は――お前に言いたいんだよ。何度でも言いたい」



 復讐は。


 虚しい。と――



 その言葉を最後に、ヌィビットは最後の力を振り絞るように力を酷使する。


 自分の体力やMPなんて考えても仕方がない。今はやるべきことのために、全力を尽くす。


 その思いを胸に、ヌィビットは腹の底から声を出し、ロゼロの胸に手を喰い込ませていく。


 ずぶ、ずぶ。と――少しずつ底なし沼に手を突っ込むように、どんどん進めて。


 それに対抗してロゼロは体中の黒い想いを――憎しみを使ってヌィビットに攻撃を仕掛けようとするが、それをいとも簡単に弾丸で跳ね返されてしまい、弾丸で捌けなかったものはクィンクの手刀足刀で捌かれる。


大治癒(ヒーリア)』の影響。


 ロゼロにとって天敵になるその力を受け続けたせいで、力が弱くなってしまった。


 これでは負ける。


 負けてしまうのか? このまま? 何も達成できないまま?


 みんなの復讐も果たせず、俺は終るのか………?


 体を失い、何もかもを復讐に捧げてきたロゼロにとって、こんなことで負けるだなんて思ってもみなかった。


 まだ完遂されていない。まだ終わっていないのに、このまま終わってしまう………。


 これほど屈辱的なことはあるか?


 これほどまで、悔しいと思ったことはない。


 まだ果たせていないのに………、俺は………!


 暗い世界で、ロゼロはない腕を伸ばし、何もなくなった手足を見ながら暗い闇の底へと落ちていく。


 ゆっくり、ゆっくりと落ちていき、悔しさの表れを目から流した瞬間――


『――まだ終わってないっ!』

 

 ぱしり。と掴まれた。


 それは、失った腕を必死に話そうとしない悪魔の男の姿。


 火傷を覆った状態で彼はロゼロのことを離さず、そのまま引き上げてもう一度言い放った。


『まだ終わっていない』

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