PLAY145 MESSED:Ⅵ(The End of One Vengeance)②
「!」
どこかで大きな騒音を聞いたエド。
エド達は現在、リカが錬成した回復薬を飲み、少ないが魔法回復薬を飲みながら目的の場所に向かっていた。
向っている場所は勿論――『風獣の神殿』の最深部で、『八神』が封印されている場所だ。
そこにはボロボの大臣ディドルイレスも向かい、ドラグーン王が持っていた王位継承具――『永劫ナル氷菓剣』を使ってシルフィードの封印を解こうとしている。
それを止めるためにハンナ達はエド達とヌィビット達、そしてショーマ達と一緒に『風獣の神殿』に乗り込んだ。
と言うのが大まかな経緯で、そのあとは敵の奇襲もあってバラバラになってしまったのが今の状況だ。
エド達は『六芒星』の幹部ラージェンラと幹部側近ラランフィーナ相手に。
ヌィビット達は『六芒星』の幹部ロゼロ相手に。
ショーマ達は謎の男アシバ相手に。
そして、ハンナ達は一刻も早くディドルイレスを止めるためにアオハと共に最深部へ向かっていた。
バラバラになり、悪戦苦闘する中、エド達は何度かラージェンラを倒すことができた。
………いいや、倒してはいない。
ただ、彼女の言葉に耳を傾け、彼女と言葉を交わしただけ。
戦いはしたものの、殺してはいないしHPゼロにするということもしていないエドは、戦いながらも相手を倒さないという方法で勝利を収めた。
その勝利を収めた後、京平とリカたちと合流し、一刻も早い回復をするために回復薬を飲んでいた時、遠くで轟音が響いで、今に至る――
「あの音………」
「どっかですげー戦闘が起きてんじゃねーか?」
エドの疑問を聞きながら京平はヤンキー座りをして口に回復薬を流し込む。
大胆にも口をつけず、器用に瓶に入っていた液体を飲み干すその姿はショーマ曰く『すげぇ!』の一言だ。
それを見ていたリカは驚きながら『すごい!』と驚きと歓喜のそれを顔に出していたが、エドはさほど興味を示さず、音がした方角を見ながら呟く。
小さく聞こえてしまいそうだが、声量はまずまずのそれで――
「………無事かな」
エドの心境を表すその言葉は彼の顔にも浮き上がり、手に持っていた回復薬を無意識ながら握ってしまう。
それは怒りのそれではない。歯痒く感じているわけではない。
純粋に、心配と言う感情が力になっただけのこと。
加勢できればいいのだが、今はそれができない。
できない理由があるからこそ、エドは願う事しかできない複雑で苦しい感情を歪めるそれに出していた。
「エド、行きたいのはあたしもだよ。本当なら加勢したい気持ちはあるけど、今は最深部に行くことに専念しろ」
「シロナ………」
エドのことを見ていたシロナは腰に手を当て、諫める様な鋭い目を向けながら言うと、それを聞いた善も頷きながら音がした方向とは反対の方向に指を指す。
声は出していないが、ジェスチャーで伝えているのだ。
『今は行くべき』と――
二人の言葉を (一人は無言でジェスチャーだが)聞いて、エドは再度音がした方角を見る。
あの音を聞いた時、京平と同じ思考がエドの頭に浮かび、同時に激しい轟音にも聞き取れたそれを聞いた時、エドの思考に一瞬駆け巡る『最悪の光景』
それの所為でエドは一瞬心配になってしまったのだ。
一種の一抹の不安だ。
こんなことを考えないでいいのに、一瞬浮かんでしまうとなかなか消せない。
気持ちの切り替えをすれば何とかなるが、エドはそれができなかった。
と言うよりも――なかなか切り替えることができなかったのだ。
なにせ………、自分達以外の徒党仲間の中には、未成年もいる、なぜか十代前半の子供もいるから。
――未成年は理解できる。
――このシステムが家庭用ゲーム向けにリリースされたきっかけで、未成年にターゲットを拡げる原因にもなった。
――あの子を探すために行った凶行と言っておかしくないけど、あの子は………猫人の女の子はその次元を超えている。
――あの子は、まだ十歳くらいだ。
――元々バーチャル規約で十五歳以上の操作を禁じているにも関わらずだ。
――なんであの子は………。
「エド」
「!」
延々と、答えが出てこない質疑を脳内で行っていたエドだが、それを止めたのは紛れもない親友で相棒の京平だ。
そんな彼の声を聞いたエドは現実に意識を戻し、京平のことを見て『ど。どうした?』と聞くと、京平はエドのことを見ながら膝に手を付けて立ち上がり――
「今悩んでいることは後ででも考えられるべ。『今は今しかできないことを考えて、先に起きる最悪を回避しろ』」
それが先だべ。と言った。
「! それって………」
「「「?」」」
京平が言った言葉を聞いたエドは驚きながら固まってしまう。
その言葉は何度も聞いた言葉で、胸に刻まれた言葉だから。
忘れるわけがない。
聞いたことがないシロナと善、そしてリカは首を傾げながらエドと京平のことを交互に見ていたが、そんなことお構いなしに京平は続ける。
「オメーが考えていることなんて、長い間相棒してたら分かる。俺もそこは気になってたけどなー。今は、頭の隅っこに追いやって置け」
そう言いながら京平はエドに歩み寄り、彼の胸に向けて拳を打ち付ける。
勿論本気ではなく、軽く叩く程度のそれで。
叩かれたことで少し体に衝撃が走ったが、それがいい薬になったかのように、エドは頭の中で『そうだな』と思い、気持ちの切り替えを行っていく。
素早くは出来ない。だが確実に切り替わっていく。
「わかった――今は目の前のことだ」
「おう!」
エドの気持ちが切り替わり終わったことを確認した後、京平は頷きながらみんなのことを見て親指を突き立てる。
誰もがよく知っているサインで、それを見たシロナと善、リカはお互いを見て頷き、シロナは拳を、善は剣を手に持ち、リカは自分の武器に乗り込む。
「行くか――相棒!」
京平もみんなと同じように体をワイバーンに変え、万端の合図を来る。
送った光景を見て、みんなの顔を見てエドは頷き、足を前に出す。
今は考えるよりも動くこと。
自分の恩人でもある人の教えを胸に――
エド達は、最深部に向かって歩み出す。
◆ ◆
エドが考え、頭を整理して動き出した丁度その頃――クィンクと彼の影『轟獣王』は、ロゼロが生み出した何かと、ロゼロ本人と対峙していた。
姿かたちが変わってしまったロゼロは『轟獣王』が。
有象無象の何かはクィンクが相手をする。
わかりやすい分担で、シンプルな分け方だ。
しかしそれでクィンクが勝つという結末は見えない。
ゾンビのように呻き、獣のように襲い掛かって来る有象無象の黒い何かを相手にしながらクィンクは思っていた。
この有象無象は攻撃だけで倒せる。
でもそれだけだと足りない。
決定打になりえない。
自分で言うのもなんだが力はある。現実でも何人も殺してきた。主を守るために力をつけてきた。
だから自分が強い事は分かっている。過大評価でも過小評価でもない。
しかし、それでもこれは無理だとクィンクは察していた。
悟ってはいない。わかったのだ。わかってしまったのだ。
これは、自分達の力では倒せない。
もっと決定的な攻撃がなければ勝てない。
有象無象は自分でなんとかできるが、本体に自分の攻撃が確実に通り、倒すことは――できない。
襲う掛かって来る有象無象のそれらを倒しながらクィンクは思った。
その決定打となるのは――自分の主だけだと。
――旦那様は、一度負けた私のことを、何度も失態を犯した俺のことを信じてくれた。
――傍に置いてくれた。
――俺は、幸せ者だ。
――こんな失態や無様な姿を見せても、旦那様は俺のことを見捨てなかった。俺は、それだけで幸せで嬉しい。
――嬉しいという感情を、昂る感謝の思いを与えてくれた旦那様のために、俺は返さないといけない。
――旦那様に、一生の恩を、一生の償いを。
――俺を、人にしてくれたあの人のために、俺は戦う。
クィンクは人生の中で色んな経験をしてきた。
失態――それは主を守るために人を殺したこと。
そして主を侮辱したものをこの手でまた殺してしまい、主を苦しめてしまったこと。
無様――それは命令であったが『飢餓樹海』でヘルナイトと対峙した時、完膚なきまでに負けてしまったこと。
あれがクィンクにとって最初の敗北であり、それを経験したからこそ、クィンクはもっと強くなろうと思ったのだから、あの敗北は無駄ではない。
そして、色んな失態も、これ以上起こさないために気を付ける。
当たり前にしか聞こえない内容だが、クィンクからすれば大事なこと。大事だからしっかりと覚えて行動する。
全部――ヌィビットの教えだ。
自分のことを人にしてくれたあの人の教えだ。
忘れるなんて――絶対にしない。したくない。
『――クィンクッ!』
「!」
考え、ロゼロが出したであろう有象無象の集団を汗も流さずあしらうクィンクの耳に入った『轟獣王』の声。
その声を聞いてクィンクは視線を『轟獣王』に向ける。あの焦りが含まれた声だ。おおよその予想はできる。そして視界に『轟獣王』の姿を映した時――クィンクは目を細めて思った。
――やっぱりだ。と。
『轟獣王』はライオンの歯を食いしばりながらロゼロの両手を己の両手で逃がさないように握っている。指と指を絡ませ、ちょっとやそっとでは逃げだせないように強く握りしめているが、そこが問題ではない。
体が変化したロゼロは背中から有象無象を生み出すことの他に、己の腹部から肉食の牙を持った獣の口を生成していたらしく、その獣の牙たちは『轟獣王』の腹部や腕、人間にとって即死になりうる頸動脈にも噛みついていたのだ。
『暗殺者』が出す影は死なない。
致命傷を受けても消えてしまうだけで死なないが、受けている傷のダメージはある。
実体化しているのだ。痛いというものがない――は、絶対にありえない。
痛いに決まっているのだ。
だからクィンクは『轟獣王』に向けて言った。
「『轟獣王』! 後は俺が」
『いいや! そうじゃないぞっ!』
主でもあるクィンクの言葉を遮った『轟獣王』は頭を振るいながら大きな声で、クィンクに何かを伝えようとする。
だが、それと同時に来た黒い牙の攻撃。
胴体や頸動脈に噛み付いてもなお止まることを知らないそれは、今度は『轟獣王』の喉を狙って噛み付いたのだ。
ぶつりと――何かが斬れる音と、そこから出る黒い液体を浴びながら。
しかし、それでも『轟獣王』は消えなかった。
クィンクに伝えるために、『轟獣王』は体中から黒いそれを出しながらも、変わらない張り上げた声で伝えた。
『こいつの本体は心臓の位置だ! なんとも至極王道な場所に自分を置いたなっ!』
口から黒いそれを流しても倒れることをしない。
消滅しない『轟獣王』は、続けてクィンクに向けて言い放つ。
止めようと、影のことを思って消そうとしていた彼を見ないで、『轟獣王』は伝える。
『クィンクッ! お前の主に伝えるんだっ! 本体は!! 心臓』
瞬間――『轟獣王』の顔ごと飲み込むような、噛み砕いて飲んでしまいそうな大きな牙が襲い掛かった。
ばぐんっ! と――それはもう一回の嚙みつきで切断ができてしまう様な噛みつき具合だ。
いいや――食べっぷりだ。
しゃべる口も、司令塔というものを失ってしまった『轟獣王』は、少しの間前後に僅かだが揺れ、揺れた後黒い液体となって、クィンクの影に戻っていく。
最後の最後まで抗っていたのか、腕だけは最後に消えたが、そんなもの拘束の意味もなく、ロゼロは握られたそれを遠くに投げ捨て、残り一人となったクィンクに向かって駆け出した。
巨体の時もそうだったが、第二形態でも早い。
そんな素早さのままロゼロはクィンクに駆け出し、有象無象を倒したまま止まっていたクィンクの頭に覆い被さるように立つと、そのままクィンクに向けて口を開ける。
『轟獣王』を倒した時と同じことをしているそれは、本能なのか、はたまたは腹が空いているのか、それとも――精神攻撃を与えているのかわからない。
開けたと同時にバタバタ落ちて来る透明の唾液の雨。
それを受けながらもクィンクは逃げない。
逃げず、小さな声で彼は言った。
誰に? 決まっている――
自分の影である『轟獣王』に向けて、安心させるその言葉を。
「ああ、わかった。もう大丈夫だ」
一瞬。
その一瞬の間に、ロゼロは自分の胸の中心に何かが当たるのを感じた。
攻撃ではない。ただ触れられた。そんな感触。
それを感じ、視線を下に――自分の胸の辺りを見ようと視線を動かした時、クィンクの声が聞こえ――同時に別の声が響く。
「もう、伝わった」
その言葉が終わると同時に、別の声が放った言葉――それは………。
「『大治癒』ッ!!」
回復のスキルだった。




