PLAY144 MESSED:Ⅴ(A climax)⑤
『ふはははははははははははははっ!』
高鳴る鼓動を隠しきれない。抑え込むことができないと言わんばかりに高らかで、豪快な笑い声がクィンクの耳を突き刺す。
あまりにも大きな声が至近距離で聞こえたものだから、思わず肩を揺らしてしまうほどクィンクは驚いた。
小さく痙攣したかのように肩を震わせた後、クィンクは背後を見て、呆れた目をしてそれを見る。
自分の影であり、もう一人の仲間にして相棒の様な存在。
『轟獣王』を見て――
『久方ぶりに外に出た! あの時は油断してしまったが、そのような失敗はもうせんぞ? なにせ、今の俺は高ぶっているっ! あまりに昂りすぎて興奮したまま失神しそうなくらいだっ!』
「おい。あまり大きな声を出すな。反響して耳が痛くなる」
『おおすまんな我が主! 再戦できると思ったら気持ちが昂ってしまってな』
豪快と言うべきなのだろうか、百獣の王に相応しい豪快さと気位を見せつけながら『轟獣王』は己の気持ちを表明する。
さながら『もう我慢できません!』と言わんばかりの正直な言葉。
だがその言葉はあまりにも真っ直ぐで、わかりやすい。
そう思いながらクィンクは呆れて『轟獣王』に言うが、流石は名前に王がある影。そしてライオンの姿をした影――再戦と言う状況が嬉しくて仕方がなかったのだろう。
ライオンの尻尾が点に向かってピンッと立っている。
それを見たクィンクは溜息を吐きながら『轟獣王』を見て――
「そんなに嬉しいなら、早くあいつを何とかするぞ。物理は弱いみたいだ。このまま俺とお前で、止めるぞ」
『応っ! ん? 止める?』
クィンクの言葉を聞き、いざ戦おうぞと牙を剥けようとした『轟獣王』だったが、すぐにクィンクに視線を向けた。
目だけで動かすそれでクィンクを見る『轟獣王』に、クィンクは頷きながら「そうだ」と言って、続けて告げる。
「俺とお前で止めるんだ。倒すことは絶対にできないからな」
『なにぃ?』
それは爆弾発言だった。
『轟獣王』にとって、『倒すことができない』と言う言葉はまさに着火と同等。
着火し、短い導火線が爆弾本体に到達した瞬間………。
『なぜ倒せないと言い切れるっ!? 貴様我が主でありながらそこまで腑抜けてしまったのかっ!? まさかあの巨体を見て怖気付いてしまったのかっ? 情けないぞクィンクッ! お前は我が主として、貴様の主を守るために力をつけているのだろうっ!? なぜやる前から諦めるっ? 諦めてはいけないだろうっ? まだ戦ってないんだっ! 可能性はある! 早々諦めるなクィンク!』
爆発した。
簡単に言うと――切れた。
怒りの沸点が短いのかと言わんばかりに『轟獣王』はクィンクに向けて怒りをぶつける。ぶつけまくる。
主に対しての暴言も然りだが、そんな言葉など耳から入れて耳から出す要領で聞き流すクィンク。
耳を指で塞いでいないことは成長している証だ。今まであれば『轟獣王』のこんな暑苦しい言葉など聞き流すどころか、拒絶するように塞いでいたのだから。
自分の影の言葉を聞きながらしながらクィンクは言った。
『轟獣王』の言葉を折るように――一言。
「諦めてない」
『!』
諦めていない。
それを聞いた『轟獣王』は回る舌を止め、口を閉じた後クィンクのことを見下ろす。
主の言葉を聞いて、慌てていた気持ちが一気に落ち着いたそれに変わる中、クィンクは自分の影に向けて言った。
目の前で、めり込んでしまった方の付け根を押さえながら立ち上がるロゼロを見ながら、クィンクは『轟獣王』に向けて言う。
「あれは確かに、物理攻撃が効く。俺の蹴りのダメージが入ったんだ。魔法攻撃の効き目が悪くなった分、俺達は戦える。だが――本体は無傷だろう?」
「! ………なるほど」
クィンクが言いたいことを理解したのか、はたまたは繋がっている気持ちを汲み取ったのか、『轟獣王』は納得のそれを零してロゼロを見た。
ロゼロは痛みの呻きを上げながら立ち上がっている。今にも攻撃をしようとしているが、クィンクは話を続ける。
「攻撃が通ったとしても、本体に当たらない限りは無理だ。攻撃力が高い俺達でも――通らない」
『ふむ………。まるで弾力のある水に攻撃を当てるようなことと言えばいいのか?』
『片栗粉を混ぜた水のことを言っているのか? でも正解だ。その水の中に本体があったら届くなんてできない。ましてや――丸腰で攻撃しない向かったら死ぬ」
『ああ。そうだな』
一通りの説明を聞いた『轟獣王』は頷き、そのまま視線をロゼロに向けて威嚇の態勢を取る。
ロゼロは肩に打ち付けられた痛みがまだ引いていないのだろう………。肩を押さえながら背中から黒い細長い武器を生成している。
ぞぞぞっと湧き出てくるそれはまさに見慣れない怨念が這い出てくる姿に見える。
否――怨念そのものなのだ。
怨念を抱いた骨と皮だけになってしまった亡者の様な存在が、槍や剣などの武器を手にして這い出て来ているのだ。
心はない。ただ憎しみしか抱いていない――未練を残した亡者。
声にならない吐息を吐き、亡くなってしまったその目で、目が合ったであろうその箇所をクィンク達に向けている。
『有象無象の集団が現れた』
「あれなら俺が何とかする。『轟獣王』は本体の行動を食い止めてくれ」
『食い止めるよりも傷をつければ効率がいいぞっ?』
「できないから食い止めろ。あれは――旦那様にしか倒せない」
絶対に。
断言したその言葉に、迷いは一切なかった。
その言葉を聞いて『轟獣王』は一瞬黙るも、すぐに何をしようとしているのかを理解した後――獣の視線を……、殺気に満ち溢れた敵意の視線をロゼロに向けた後、『轟獣王』は言った。
そうか。
そう言った後で、百獣の影は、構えを取って臨戦態勢を取った主に向けて言った。
肉を食い破る牙を見せながら、王としての風格を維持した高らかな面持ちで――
『なら――その準備が整うまで、温めておこう! この後の再戦に備えてなぁ!』
「それでいい。旦那様が来るまでの辛抱だ。それまで死ぬ気で戦え――命令だ」
『応っ!』
一人と従者の獣は、目の前の憎しみの権化を見て構える。
背中から這い出て来る亡者。
どこまでが限界で、どこまでの魔祖を有しているのかわからない――哀れで悲しいその男を食い止めるために。
本当の意味で止めることができるその人の準備が終わるまで………。




