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PLAY143 MESSED:Ⅳ(Master and servant)⑤

「あの日のことをお前は忘れたのかっ? あの日の事件を、私とお前、カフィーセルム家を変えたきっかけを変えた出来事を忘れたのかっ!?」


 激しい破壊音が響く中、ヌィビットは現在進行形でクィンクの首元を掴みながら荒げた声を放っている。


 ヌィビットの対応に対して冷静に――と言うよりも反抗しないクィンクは手を出さずに彼のことを見ているだけ。


 そんな彼等のことを見ていたシルヴィは困惑しながらも状況の把握に思考を使っていた。


 ヌィビットの口から放たれた言葉――『カフィーセルム家』と言う言葉を聞いて思い出すシルヴィ。


 ――今言ったことは本当なのか?


 ――本当にヌィビットとクィンクが『カフィーセルム家』と関係がある人物なのか?


 ――『カフィーセルム家』は世界三大富豪の一角にして核ともいえる大富豪だ。


 ――指一つで世界の金の動きを乱し、逆に流れを変えて不況を好況に変えてしまうこともできると聞いたことがあるが、その一族がヌィビット? いいやそんなことはあり得ない。


 ――公表している情報はあてにならないが、とある情報では当主はもう子を成せない身体になっていると聞いた。


 ――同時に『カフィーセルム家』は()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 シルヴィの言うことが本当なのか。


 そのことに関して今強く追及することはできないが、簡潔に言うとそれは曖昧である。


 嘘も混じり、真実も混じり、誇張もされていることもあれば尾ひれもついてしまい拡散されている状況。


 結論から言うと、これは都市伝説に近い内容なのだ。


 真実は小説よりも奇なりとはまさにこのことで、『カフィーセルム家』の内容全部が真実であるか、はたまたは嘘なのかは『カフィーセルム家』の血を引いた者か、その一族に関わっている者にしかわからないことなのだ。


 一般人のシルヴィが知ることなどできない内容なのだ。


 それを面白おかしく考察したりする動画配信者や、『三大富豪』が元々『カフィーセルム家』の血族者が作り上げたものではないのかと言うおかしなことを言う人もいたりするが、それは今は関係のない話。


 だが色んな情報が飛び交う世の中になった今だからこそ、真実は偽の情報に埋もれてしまい、どんどん深く沈んでしまう。


 真実も偽物の所為で隠れてしまう世界。


 それがシルヴィたちの現実の世界。


 嘘か真実かもわからない中、()()()()()()()()()()()シルヴィの耳に入って来る内容は知っていることばかり。


 そう――ヌィビットが言っていることが真実と合致していたのだ。


 嘘を言っている――ように見えない。


 どころか、今まで飄々と回る舌を酷使しまくっているヌィビットの口から零れる内容は、どれも口から出たそれではないように感じた。


 嘘を言っている。暴れているロゼロを相手に油断を誘っているようなそれではないと感じたから、シルヴィは余計に驚くを隠せなかったのだ。


 ()()()()()しか知らない――極秘の内容をヌィビットが話しているのだから。


「忘れていません。今でも鮮明に覚えています。私はあの日を境にあなたの矛になると誓ったのですから」


 ヌィビットの言葉を聞いて、クィンクは冷静に言葉を発した。


 はっきりと、真っ直ぐな目でヌィビットのことを見るが、ヌィビットはそれで気が治まるわけもなく、どころか逆撫でなのかと言わんばかりに更に胸倉をつかむ力を強めて詰め寄る。


「ならなぜ『私が囮になります』と言ったっ? 私はそれを許可した覚えもないし、そもそもそれを許可すると思っているのかお前はっ!」

「思っていませんが、今あの化け物を何とかしないといけないのは目に見えています。私にとってあなたを失うことは――生きることを見失うのと同じ」

「なら私を生かし、お前も生きる選択ができるように考えろっ! 私も協力する! 考えもなしに端的な思考で『足止めする』と言うなっ!」


 逆撫の所為でかなり頭に血が上っているのだろう。言葉の使い回しを忘れて、感情の思うが儘にクィンクに言葉をぶつけるヌィビットを諫めるシルヴィだが、間に入ったとしても、その熱が治まることはない。


 どころか――彼女のことなど忘れてヌィビットはクィンクに詰め寄り続ける始末。


 遠くでその光景を見ていたコーフィンや蓬、アイアンプロトからすれば、ただの仲間割れにしか見えない光景。


 彼等の気持ちなどつゆ知らず………、否、どころかもう周りが見えていないヌィビットは、クィンクに向けて荒げた声を放ち続ける。


「忘れたわけじゃないだろうっ? あの時の誓いを忘れたとは言わせないぞ」

「覚えています。しっかりと覚えています旦那様。あなたのことを旦那様と呼んだあの日は、私の記憶にしっかりと残っています」

「残っているなら、なぜそれを言うんだ………!」

「旦那様、今はあの時とは状況が………、いいえ、何もかもが違うんです。一瞬の選択の間違いが死を招くんです。あの時とは違う。選択を間違えたとしても、間違ったとしても変わる状況ではありません。あなたが死んでしまえば、私も、シルヴィたちも最悪死んでしまう。死ぬなんてことは絶対にあってはならない」


 この場で、あなたを死なせることはしたくないから、私はこの選択をしたのです。


 ()()()の、何も考えずに行動する私ではありません。


 クィンクのはっきりした言葉を聞いたヌィビットは、掴み上げる手の力を強張らせたが、すぐにその行動は元の状態に戻り、掴みながら顔を引き寄せ、怒りの鬼の顔のままヌィビットはクィンクを睨みつける。


 鼻と鼻がくっつきそうだが、そんなことはどうでもいい。


 どうでもいいというよりも、そんなことを考えること自体無かった。目の前のこと――クィンクの発言が気に食わなかった。否――気に食わないというよりも、同じことを繰り返そうとしているクィンクに腹が立って仕方がなかった。


 だからヌィビットは荒げる。


 声を荒げようとした瞬間、背後から大きな破壊音が聞こえたが、そんなことお構いなしにヌィビットは言ったのだ。


「もう一度言うか? お前はまた繰り返すのか? 『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()鹿()()()()()()()()()()()()()』? それでお前の気が済むのか? 私はそんなことをするなとあの時、口を酸っぱくして言ったはずだが?」

「分かっていますが………」

「お前はあの時っ! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()っ!?」


「――っ!?」


 衝撃発言。


 いいや爆弾投下並みの発言――爆弾発言と言った方がいいだろう。


 警察の一部しか知らないことであり、『カフィーセルム家』しか知らない情報をこともあろうにこの場で発言したヌィビット。


 聞いていたシルヴィは驚いた顔をしてヌィビットのことを見たが、幸いこれはシルヴィとクィンクしか聞いていなかった。これは功を奏したと言ってもおかしくない。


 運よくシルヴィとクィンクしか聞いていなかった。


 コーフィンと蓬、アイアンプロトは暴走しているロゼロのことを止めることで必死になっていたので、聞く余裕などなかったのだ。


 はたから見れば喧嘩している光景なのだから、余計に見ていないし、聞いていないだけなのだが、それでも聞かれなかったことは運がよかったのだろう。


 なにせ――『カフィーセルム家』の執事長が殺されたことは、誰も知らないことなのだから。


 そんな怒涛の発言を口にしたヌィビットは、クィンクに向けて更なる発言を落としていく。


 あの時のことを言葉で振り返りながら。


「あの時、私のことを失敗作だと認識した執事長は、私のことを殺そうと護衛だったアンドー達に命令したが、お前が真っ先に拒否して、挙句の果てに執事長に危害を加えたっ!」

「はい」

「私を守ろうとし、考えた結果なら私は何も言わなかった。言わなかったが、お前は執事長に殺されそうになった! いいや実際殺されかけたっ! それでもお前は攻撃を止めなかった。どころか噛み付いて反撃もした!」

「そうです」

「その結果どうなった? 執事長は死んだが、お前は『カフィーセルム家』の全護衛相手にリンチに遭っただろうっ!? そのまま処分されるのに、お前は何を心配したっ?」

「旦那さまです。あなたが生きていればいいと、あの時はそう思いました」

「なら――っっ!」

「でも、あなたの言葉を聞いて、自分が行ったことは間違っていると理解しました」


 そう。ヌィビットはあの回想からすぐ、執事長の命で抹殺されそうになっていたのだ。


 今までの影武者たちが辿った末路を、ヌィビットも歩みそうになった時、それを変えたのがクィンクだったのだ。


 その時の当事者たちが言っているのだ。間違いはないだろう。


 衝撃の言葉を言い放ったことに気付いていないのか。はたまたは聞かれてもいいという気持ちがあって言い続けているのかわからないが、驚くシルヴィを無視してクィンクは告げる。


 目の前で自分の首元を掴み上げているヌィビットの手首を掴んだ後――クィンクは冷静に告げたのだ。


「あの時は感情的でした。だからあなたも怒った。あの時の私は無知だったから、何も考えずに行動した結果。前まではそれでよかったことも、あの時は間違いだったことにさえ気づかなかった。でも今は違います」


 今、私は冷静です。


 もう一度、強く言葉にして告げるクィンク。


 彼の言葉に対して反論しないで、ヌィビットは無言のまま聞く。


 反論などしない。感情的にならずに耳を傾けるその光景は、クィンクの話をしっかり聞こうとしている姿勢にも見え、それを見て聞いていたシルヴィは驚きながらも彼等の生末を見届ける。


 喧嘩の末路。


 と言うものではなく、話しをした結果の方がいいだろう。


 その先が行く未来を見届けようとした時――背後で大きな影がシルヴィたちを覆い、それに気付いたシルヴィはそれに気付き、振り向いて正体を見上げた。


 背後で、身の丈以上の大きなそれを自分達に向けて叩きつけようとしているロゼロを見上げ、シルヴィは動いた。



 ◆     ◆



『何シテンダアイツ等………!』

「もう限界かも………!」

 

 シルヴィが振り向く一分前――ロゼロを攻撃してヌィビット達から逸らそうとしているコーフィンと蓬はもう限界だった。


 コーフィンは弾丸が。


 蓬はMPが。


 それぞれが残り少ない状態になっていたが、それでも彼等は残り少ない力を振り絞って戦い続けた。


 仲間を死なせるわけにはいかない。


 コーフィンはそんな気持ちがあったからだろうが、蓬は蹴りを入れるために意地でも生き残ろうとしているだけ。


 だから今目の前で暴れているロゼロを何とかしようとしているのだ。


 できれば致命傷を負わせるくらいの気持ちで。


 だが、敵も敵だ。ワンパターンで暴れているわけではない。



「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁっっっ! どおおおおおおこおおおおおおにいいいいいいいっっ! いいいいいいいるうううううううううっっ!」



 自我も何もかもが吞まれてしまった化け物。


 それでも本能がそれを突き動かしているのだろうか。次第に的確に、且つ大きな攻撃を隠れているコーフィンと蓬に繰り出してきている。


 黒い鞭のようなそれが瓦礫に当たり、いとも簡単に砕かれ、破片になったまま地面に落ちるのかと思えば、ロゼロはその破片に向けて鞭を打ち付ける。


 しかも細いそれではなく、太く、幅が広くなったそれを。


 いくつもの破片をバットで打ち返すかのように、彼は叫びながらそれを繰り出したのだ。


 しなると同時に当たる音が辺りに響くと、それは流れ弾の如く辺りに散らばり、地面、否――影や天井と、ありとあらゆるところに強く打ち付けられる。


『――っ!』


 貫通してしまうほどの威力を見て、そしてアイアンプロトの盾でもギリギリ防ぐことしかできない光景を見たコーフィンは驚きを隠せないまま見つめ、岩陰に隠れていた蓬もそれを見て肌を青くさせる。


 さっきまでのワンパターンが修正されたかのような的確な攻撃。


 いいや――殺しにかかろうとしているその攻撃は、少しでもずれていれば死んでいたそれだった。


「なんだろうな………。暴走しているから大丈夫かなーって思っていた自分が悲しいよ。まさか、慣れ早すぎでしょ?」


 蓬は呟く。


 後少しずれていたら………。


 その思考にならざる負えない様な攻撃を見て、もう少ししかないMPを感じながら思ってしまう。


 このままではまずい。


 それはコーフィンも同じで、アイアンプロトの秘器(アーツ)――『装備(エンチャンタリー・)付加器(ウェポンズ)』を以てしてでも壊されてしまう。


 今まで壊れなかった盾が壊れかけるのは衝撃だろう。岩ならもっと駄目だったのだから、余計に盾には感謝しかない。


 それでも、この威力をもう一度受けたらだめだと悟ったコーフィンは、すぐに銃の狙いを錯乱のそれから一撃必殺の視点に切り替える。


 ――コノママダトダメダ。一撃急所。蟀谷一直線ニ集中!


 ――ソレガダメナラ眉間! ソレモダメナラ急所ト言ウ急所ニ鉛球ヲ撃チ込ム!


 ――弾ハ少ナイカラ外サナイヨウニ! 集中シテ!


 集中しないと駄目なことは当たり前のことだが、それでもさらに集中してロゼロに傷を与えようとコーフィンは銃のスコープ越しで狙いを定める。


 最初に狙うのは蟀谷。


 心臓は無理なのは分かる。だがどこかに急所はあるはず。


 いいやある。人間は急所まみれの生物だ。殻にこもったとしても、絶対にあるはずだ。


 そう願いながらコーフィンは狙いを定め、更に集中力を研ぎ澄ませて息を整える。


 整えてスコープ越しのロゼロを見た瞬間、コーフィンは驚愕した。


 蓬も驚愕し、アイアンプロトに至っては驚きの声を上げて慌てふためきだした。


 無理もない話だ――なにせロゼロはその大きな巨体を使って、体中から出ている黒いそれを使って身の丈以上ある大きな瓦礫を持ち上げているのだ。


 しかもその視線の先には、ヌィビット達がいたのだから焦るのも無理はない。


『っ! クソッ!』

「あーもうなんで………! なんでタイミング悪く見つけるのさぁ!?」


 焦る二人と一体をしり目に、ロゼロは大きな雄叫びを上げながら身の丈以上ある瓦礫を喧嘩しているヌィビットとクィンクに向けて振り下ろす。


 振り下ろされていることにも気付いていないのか、二人はまだ喧嘩をしている。


 まさに格好の的だ。


 そんな二人に向けて大きなそれを叩きつけるロゼロ。後少しで二人に当たる。当たり、新鮮な肉塊二人前ができると思った。


 瞬間――


 ――ギャリィッ! 


 と、何かを抉る様な音が瓦礫を通じ、そのまま貫通してロゼロの顔をかすめる。


 掠める音と同時に瓦礫だったそれは、中央に出来た大きな穴を介していくつもの大きな岩へと変わっていく。


 何が起きたのかわからないロゼロの視界に映る先――出来たばかりの穴から覗くそこから彼女は言ったのだ。

 

 穴を開通した張本人でもあり、ロゼロの顔にかすり傷を作った彼女は言った。


 アイアンプロトの力によって武装した槍を携えて、彼女は言う。


「取り込み中だ! 私が相手になろうっ!」


 槍の切っ先をロゼロに向け、彼女は勢いよくその場で跳躍してロゼロに立ち向かう。


 二人の喧嘩の邪魔をさせない。


 そう心に決めて――

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