PLAY15 計画③
「宿願……? 大それているぅ」
ロフィーゼは少し馬鹿にした笑みを浮かべて肩を竦めるが、目の前の男は狂気的な笑みを浮かべて、そして音色だけは真剣なそれで……。
「俺は大マジだ」
と、はっきりと言った。
男はすっと立ち上がり、ロフィーゼ達のことを見た後言う。
今回の計画について。
否――
宿願を言った。
「お前ら、わかっていると思うが……。この町は住みやすいよな?」
「ああ。住みやすい」
その言葉に槍を持った男は頷く。そして――
「カイル。その計画は本当に成功するんだろうな?」
と槍の男は目の前にいるリーダー格の男――カイルを見て言った。
カイルはそれを聞いて、恐怖や不安などない笑みで「ああ」と頷く。
ロフィーゼは内心……、(男って……ほんと夢見がち)と思いながら呆れて聞いていた。
しかしそれでもカイルは本気で、それでいて念入りにこの計画を練っていた。
アップデート前から計画して……。
「この町は色んな機器が揃って、且つ俺達冒険者に対して不審を抱いていない」
「確カニ」
そう言ったのは、ペストマスクの男だった。
ペストマスクの男は、マスク越しで、独特な言葉を放ちながら頷いて……。
「不審ヲ抱イテイルノハ、国王ダケダ」
「そうだコーフィン」
カイルはペストマスクの男――コーフィンを見て言う。それを聞いてロフィーゼはふぅんっと小さく唸って……。
「でぇ? どうするっていうのぉ? まさかぁ……、王様に会って言うのぉ?」
と言って、ロフィーゼはずっと目を細めて、口を開く。
「――『あなたは王様には向いていないからぁ、俺にこの国を明け渡せ』ってぇ?」
……それは、本当に支離滅裂のような計画だった。
彼女の言うとおり……、カイルの計画はぶっ飛んでいて、それでいて己の意志に忠実なものだった。
漫画のような王道な野望。
それを聞いたカイルは、にぃぃぃっと笑みを深くして……、彼は言った。
「そうだ」と――
(あらま、本当にはっきり。男って単純。そして、女も……、単純)
ロフィーゼは思う。
最後の言葉だけは、自分に対して言っているようなそれだった。
ロフィーゼはそんなことを考えながら、カイルの話を聞く。
「あんな疑心暗鬼の王様が、なぜこの国を総べている? なぜ俺のようなふさわしい存在が、あの男の澄ました顔を檻の中から見なければいけない? 変だよなぁ? この国は。なぁ? シュレディンガー」
「そうだな。俺達は冒険者。この世界を救うんだよな?」
そう槍を持った男――シュレディンガーが頷いて、背中に背負っていた槍を手に持って、それを天井に向けて突くように、上に向ける。
「そんな俺達を、まるでごみのように見るあのくそ国王……。あの眼を思い出しただけで苛立つ……っ! 一発ぶち込みてぇよ……っ!」
この武器を……っ!
忌々しい。そんな音色でシュレディンガーは言う。
恨み言のように言う彼を見て、ロフィーゼはハァッと溜息を吐く。
(そう言う設定でしょぉ? なんでそんなに熱くなるのかしらねぇ……)
そんなことを思っていても、計画の話は続く。
「前国王ハ暗殺サレタ。ユエニ現国王ハ殺サレルコトヲ危惧シテイルノダロウ」
「それにしてはビビりすぎだろ。あんな風に警戒態勢なら、兵士やいろんな奴らからの信頼は薄い」
コーフィンの言葉に、シュレディンガーはははっと笑いながら言う。
「そんなひ弱な国王に代わって、俺がこの国を牛耳る。そして……、俺が、英雄となるんだ」
カイルは再度手を広げて言う。
まるで自分はそのために生まれてきたんだということを、信じているような言葉だ。
ロフィーゼは再度溜息を吐いて、降りることを進言しようと手を上げようとした時……。
――ぎぃ。
「!」
「「「!」」」
後ろのドアが開く音。
それを聞いたロフィーゼは、はっとしてすぐに後ろを振り向く。他の三人もドアの方に視線を向けると、そこから現れたのは……、一人の男……。なのだが、異様な人相をしていた。
顔には変な模様が描かれている……顔らしき仮面をかぶって、服装は黒いシルクハットに赤と黒の着飾ったスーツ。手の長さは人間よりも少しだけ眺めで、手には爪がなく、鋭い指先が印象的な、長い耳の長身の男が、ドアの前に立っていて、シルクハットの唾を掴んでクイッと上げてカイルたちを見た男。
「あらま。もう計画の最終段階の話し合いかな?」と、少しとぼけたように言う男が、そこにいた。
その男を見たシュレディンガーは、小さく舌打ちをした。
そして……。
「ティックゥ」
ロフィーゼは今まで見せたことがないような笑みで、彼女はシルクハットの怪しい男――ティックもとい……、HN:ティックディックに向かって走った。
それを見たコフィーンはペストマスク越しに「ナンテイウ変ワリ身ダ」と呆れながら首を振っていた。
カイルはそれを見ても、何も反応しない。
シュレディンガーだけだった。彼女と、彼を見た瞬間の反応を見て、苛立ったのは……。
ロフィーゼは駆け寄りながら嬉しそうにこう言う。
「ティックゥ……、どこに行っていたのぉ?」
だが……、当の本人であるティックディックは彼女の横を通り過ぎ、そして彼女の肩を叩きながら、彼は遠慮がちに、そして乾いた笑みの音色で……。
「悪いな――こちとら暇じゃないんだ」と言った……。
(なんで……?)
ロフィーゼは立ち止まって、ティックディックを見るために振り返った。
彼女の表情は……ハンナ達が見たことがないような……、悲しいそれで、ティックディックを見ていた。
ロフィーゼは思った。
(なんで……、わたしを見てくれないの……?)
そうロフィーゼは思っていたが、ティックディックは彼女と敢えて距離をとるかのように、カイルを見て「で? 計画の最終段階はどんなもので?」と聞いた。
それを聞いて、カイルはにやっと笑みを浮かべて、彼は言う。
「国を乗っ取ることは大前提だ。このアムスノームを乗っ取り――」
「ライジンを、我がものとして、他の『八神』を倒すってことだな?」
そうティックディックは事の結末を言った。
それはロフィーゼだってわかっていたことでもあり、シュレディンガーも、コーフィンもわかっていたことだ。
しかし――
「そんな生易しいことはしない」
「は?」
カイルの言葉に、ティックディックは呆けた声を出して、驚いて固まる。
それは……、ロフィーゼも同じで。
シュレディンガーとコーフィンだけは『はて?』と首を傾げるだけだった。
カイルはそんな二択の反応を嘲笑うかのように彼は誇らしげに、そして絶対的な自信を持って、彼は言った。
「俺は――このアズールを支配する」
◆ ◆
「は、はぁ? 支配……?」
聞いた話と違う。そうティックディックは思って、そして慌てながらも冷静に、それでいて何とかしなければと頭の中で模索しながら、ティックディックはカイルに言った。
「な、ん、んな突拍子もなく、なんて壮大なことを言うんだ……?」
確かに壮大で、絶対にかなわないような計画だろう。
はたから見れば、これは物語の佳境に出るような計画だ。なのにここで出すこと自体変であるかもしれない。
しかし、されどしかしだ……。
カイルの目は、本気で――
「そうだろう? 壮大で、スケールがデカい野望だろう?」
「……一体何ガ目的デ、ソノヨウナコトニナッタンダ? 詳細ヲ求ム」
コフィーンがそう言うと、カイルはよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに、くつくつと笑いながら彼は教会の天井を見上げた。
その天井はところどころの屋根がなく、すでに夜空と化している空が見えていた。その空を見ながら彼はその壮大な計画の全貌を明かした。
「言っただろうが? 英雄になるって」
「それだと辻褄が合わない気がするんだが? 第一アムスノームだって、あの砂の国に狙われるくらい大きな国」
「それはこの国の技術狙いでのことだろうが。俺達はそれをもとに、強大な武器を作るつもりだ」
ティックディックの言葉に、カイルは軽く論破を繰り出す。
すると――
「まさかぁ……っ!」
シュレディンガーはにたりと、カイルの言いたいこと、考えていることが分かったのか……、シュレディンガーはカイルを見て、言う。
「この国を奪い、国を大きくするのなら……」
「国ごと奪って、大きくし――そしてアズールを支配する。これで俺の英雄伝説が開幕となるってことよ。俺だけの国ができるってことさ。邪魔な奴は殺して、俺の言うことだけを聞く奴だけを生かす。俺だけの国を作る。名案だろう?」
その支離滅裂としていて、絶対にうまくいかないような計画を聞いて、ティックディックとロフィーゼは開いた口が塞がらなかった。
誰が聞いても『馬鹿だろう』と言葉を返すかもしれない。
しかし、できるかもしれない。
そう二人は、頭の片隅で思ってしまった。なぜなら――
「――コノ世ハ弱肉強食。ツマリハ、俺達力アルモノガ総ベルベキト?」
ソウ言イタイノカ?
コフィーンは腕を組んで理解を問う。
それを聞いたカイルは「ああ」と頷いた。
そう、この世は弱肉強食。全ては強いものが勝つ。そんな理不尽な世の中なのだ。
弱いものは蹴落とされ、強い人が上に立って世を総べる。
会社でも人間関係でも――カースト制度と言うわかりやすい基準があるくらい……。
この世は……、あまりに残酷なのだ。
「……馬鹿げている」
そうティックディックは小さく、本当に小さく……、毒を吐いた。
その言葉にロフィーゼも同意の声を上げて、その計画について断念しようと進言しようとした時だった。
ひゅんっと、何かがティックディックの仮面の頬を掠めるように飛んできて、廃れた教会の柱に、『ガスンッ』と、深くそれが突き刺さった。
ティックディックの、頬の仮面が少し欠けて、その小さなかけらが廃れた教会の床に、ぱきりと落ちては、粉になってしまう。そして柱に突き刺さったのは……、びりびりと雷を帯びた……、剣。
それを見て、ロフィーゼは口を閉ざして、青ざめる。
ティックディックも同じだろう……。
そう、逆らえないのだ。
逆らってしまえば……、こうして、カイルが出した剣によって……、感電死される。
彼女達がいる間に、二人も殺されてしまっている。
PK。
このゲームの世界では、すでに殺人であろうが、それでもいいのだ。
カイルはその剣を投げた手のポーズのまま苛立った音色で、俯いたままティックディックに聞いた。
「なぁ、ティック……。お前は俺に、逆らう権利とか、あったっけ?」
「っ」
ティックはその冷たい声を聞いて、彼はぐっと握り拳を作ったが、それを無理やり緩めて……。
「いんや……、逆らうなんてとんでもねえよ」
と肩を竦めて、笑みを含んだ声で言った。
「………一応、聞いておくか。お前達は、俺の計画をばかげていると思うか?」
カイルは残りの三人に聞いた。そのことについて――
「異議なし。つか大賛成」
シュレディンガーはそれを聞いて大賛成と喜んでいるように、笑みを浮かべていた。
「ナイ」
コーフィンはペストマスクのせいか表情はわからない。しかし反論はないようだ。
「ロフィ――お前は?」
最後に、カイルはロフィーゼに聞いた。
話を聞いているからにぶっ飛んでいる。そして馬鹿なことだ。
そう言いたい。
しかし……、殺されたくないのはもっともで、殺されてしまった二人の死に顔は今でも脳裏に焼き付いている……。
無残に感電死して、『デス・カウンター』が出ているにも関わらず、みんな自分の命欲しさにカイルの言うことを聞くだけで、誰も手を差し伸べなかった……。
罪と言われてもおかしくない。だがカイルには逆らえない。
カイルが持っているあの電気を帯びた剣は詠唱……。強力な武器なのだ。
(非力……なのよねぇ)
そうロフィーゼはぐっと目を瞑り……、カイルの言葉に首を振った。
それを見たカイルは……「だよな」とにっと狂気の笑みを浮かべて言った。
「決行は深夜零時! つまり五時間後だ! 最初にアムスノームの住人を何人か始末しとけ。この国はもうじき俺の物になるんだ。いらねぇ奴は処分しとく。王様は明朝に『斬首霊廟』で公開処刑をし、俺の国を、建国するっ!」
この世界はゲームの世界。
現実では考えられないことができる。
そう思ってカイルは計画したのかもしれない。
その真相はわからない。
だがカイルはそう言った男なのだ。
欲しいものは必ず自分のものにする。まるでどこぞのガキ大将……、否、それ以上の悪さだ。
ロフィーゼはカイルを見て思った。
(単純で、馬鹿で、何より自分のことを最強と思い込んでいる……。思い上がりさん)