PLAY143 MESSED:Ⅳ(Master and servant)④
一ヶ月お待たせして申し訳ございませんでした。
これからは無理なく頑張っていこうと思います!
何かが起きる時、それは『突然』という言葉を多用し、そして危険や幸運な出来事、そして希望を与えてくれたりする。
だがよく聞く『突然』は危険が多い。そして命の危機に瀕するような状況に入る場面でよく使われる。
小説を読んでいる時もそんな展開だった。よく覚えているし、『突然』と言う言葉が来たら急展開を想像していた。
だが現実の『突然』は、本当に『突然』だ。
何の突拍子もなくそれが来るのだ。
小説とは違い現実は常に動いている。動いているからこそ、『突然』と言うものは緊張感と恐怖が倍増する。
それを体感したのが、あの日だった。
◆ ◆
あれから私とクィンクはいい信頼関係を築きつつあった。
クィンクだけじゃない。アンドーもツバキも、私との信頼関係を構築し、護衛と言う仕事上の関係から、ちゃんとした主従関係を築き、過ごしてきた。
護衛は崖武者の当主を守ることが表向きだが、仇名す影武者相手には、容赦なく殺す。
そうだ。護衛は元々『真当主』と執事長の部下。
雇用主でもある二人を怒らせてはならないから、影武者の監視も行い、そして怪しい動きをしたら密告し、抹殺する。
どっちが暗殺者何だかわからないな。
どの護衛もそうだと思っていた。今もそう思っている。だが、私は彼等と仲良くなりたいと思った。
純粋な対抗意識?
それは正直あったが、そんな『真当主』を殺そうとか、そんなお恐れたことは考えていない。むしろ考えること自体無駄だから、そんなことは考えてない。
ただ、ただ私は、仲良くなりたいと思ったんだ。
クィンクの一件があってから、今までの護衛とは違う。特殊な場所で、特殊な環境でいたからこそ、私は彼等のことをもっと知りたい。もっと彼等のことを知りたい。
純粋な思いで、私は三人と仲良くなりたかったんだ。
話しもした。過去のことは………、クィンクのように話さなかったが、アンドーとツバキは私に対して信頼しているように見えた。
子供ながらそれは嬉しい事と思え、次第に成長していくにつれて、頼れる護衛として信頼していた。
だが、そんな関係を見て、執事長は私に釘を刺してきたんだ。
『あまり護衛をかどわかさないでください』
かどわかす?
どうしてそうなるのかわからなかった。そのことに関しては私は異議を唱えたさ。
どうしてそう思うんだ? なぜそんなことを言うんだ?
そう聞いたが、執事長は首を振りながら言葉を変えてきた。
『言い方が悪かったようです。いいですか? あまり彼等を洗脳しないでください。あなたはただの影武者で、『真当主』を守るためだけにいるんです。その人材を劣化させるのだけはやめていただきたい』
一瞬耳を疑った。
言葉を失った私の顔を見て、執事長は呆れた溜息を吐いて、私のことを睨みつけながら言い続けたんだ。
洗脳? 何を言っているんだ? そんなことを思ってしまったが、冷静になった頭でよくよく考え、執事長の性格を踏まえて考えれば、その答えも簡単なんだ。
執事長が言いたいことは――
『あなたは『真当主』のための存在なんです。カフィーセルム家の当主はずっと『ディフィム・カフィーセルム』様。彼以外の『当主』など考えられない。体が動けない『真当主』がいなくなってしまえば、殺されてしまえば――カフィーセルム家は終わりです』
この家の当主はずっとそいつだ。
お前は当主ではなく、ただの肉壁なんだ。
影武者なんだ。
『影武者でありますが品位を損なってしまってはいけないと思い、『真当主』様と同じような品位に仕立て上げ、『真当主』様と同じような立場を設け、衣食住、三食きっちりと与えているだけなのです』
人として生きるな。
影武者は、影武者らしく『真当主』のために生きろ。
『真当主』のために、『真当主』の身代わりになれ。
『あなたはたったそれだけの存在です。他の者達にも言い聞かせましたが、どの影武者も話を聞いた後、聞く前に自らの意思で動いてしまいました。あなたは違う。そう思っていたのに………失望です』
影は影らしく、本体の後ろを歩くだけでいい。
本体はちゃんといる。
『良いですか『当主』様? 護衛を洗脳し、逃げること、反旗を翻すことは一切しないで下さい』
お前は――
『絶対に、ディフィム『真当主』様のために生きてください』
………………………。
………………………。
そう。
執事長は『真当主』さえいればいいんだ。
私のことなどどうでもいい。ただの駒としか思っていないと、この時理解したんだ。
今までもその傾向は思い出せばあった。だがそれは違うと思っていた。思いたかったんだ。
今まで私のことを育ててくれた人。母親と言う存在が最初からいなかった私にとって、父親としての責務も全うしていない『真当主』を抜いて、執事長は私の親代わりだったから。
普通の家族のように、私は執事長のことを尊敬していた。大人として尊敬していたのに、執事長は思っていなかったようだ。
まぁ、『真当主』がいてこそのカフィーセルム家なんだが、そんなことなど関係ないと思っていた私が間違いだったんだな。
執事長に言われ、あの時の私はクィンク達とあまり話すことができなかった。
クィンク達も私の異変に関してあまり追及も心配もしてこなかったところを見て、きっと執事長から念を押されたんだろう。
アンドーもツバキも、私のことを気にかけている素振りはしていた。だがそれ以上のことはしなかった。いいやできなかったんだろう。
執事長の命令は絶対。
それを破ってしまえばどうなってしまうかなど、きっと護衛に就く時に聞いたはずだ。
だから何もできなかった。私のことも気にかけることも、できなかった。
――ただ一人を除いて。
クィンクだけは違った。
人と違った思考だったのか、それとも単に執事長が気に食わなかったのか、私のことを何度も気にかけて、私のことを優先にして危害ある者から守ってくれたり、危険な存在を消したりしては給料日に食べ物を買って私におすそ分けしていた。
給料日だから自分の好きなものを買えばいいのに、クィンクはそれをせず、執事長や執事達に気付かれないようにそれをしてきたんだ。
音もなくやるから余計にクィンクがやったんだなと思ってしまったが、同時に彼の優しさも嬉しい自分もいた。
だが、そんな優しさも執事長に気付かれてしまう。
気付いた執事長はクィンクを呼びつけ、開口こう言ったらしい。
一応言っておくが、これは盗み聞きしたわけではない。クィンク本人が私に言ったんだ。かなりイラついて、むかむかしていたから私に言ったそうだが………、そこは私ではなくアンドーとかに言えばよかったのにな。
そんな彼がイライラした理由がこれだ。
『いい加減にしろっ。お前は護衛なんだ。護衛は護衛らしく、『真当主』を守るために職務を全うするんだ!』
執事長の言い分も分かる。
本性を知ったから余計に思ったよ。
――ああ、やっぱり執事長にとって私はそうなんだなって。
だがそんな執事長の言葉に対し、クィンクは反論したそうだ。
『おれはとうしゅさまをまもるためにきた。しんとーしゅをまもるためのきていません』
『それでも我々の使命は『真当主』様を命を懸けて守ること! それをしないとは、お前は護衛としての仕事を怠る気か? 責務を全うしろ――これは『真当主』の命令でもある』
『しんとーしゅはいない。いまめいれいしているのは『しつじちょう』で、しんとーしゅじゃない』
『私の命令は『真当主』の命令でもあるということだっ! 理解力が足りんのかっ? いい加減自分の身をわきまえて』
『おれはとーしゅさまのごえい。しんとーしゅのごえいのためにしごとをしてきたんじゃない。おれは――とーしゅさまのためにいまここにいる。とーしゅさまのためなら、いのちだってすてられる。はじめて『くいんく』ってなまえもらった。だからおれはとーしゅさまのためにまもるし、たたかうし、はむかう』
クィンクの反論を聞いて、執事長は怒り心頭だったそうだ。
結果――クィンクに躾と称した洗礼を行った執事長。
それは護衛達にとっても見せしめになるものだが、それでもクィンクの考えは変わらなかった。
どころかますます私に忠誠を誓っているようにも見えた。
ボロボロになりながらも抗い、自分の考えを貫き通すクィンクの姿が勇ましく、時に危いようなそれを感じた私――あの時の私は、ボロボロになり、包帯まみれになったクィンクに向けてこう言った記憶がある。
ボロボロになるまで貫き通すことではない。
執事長のことは確かにむかつくが、それでも執事長はこの『家』のために言っていることをやんわりと、あとわかりやすく言ったんだが、クィンクは即答と言わんばかりに私に向けてこう答えたんだ。
真っ直ぐな目で、ボロボロの顔で私のことを見ながらだぞ? あいつはこう言ったんだ。
『おれはいえのためにはたらいていない。とーしゅさまのいのちをまもるために、はたらいている』
むりしてない。このいしはかわらない。
クィンクは言ったんだ。私の命を守るために行動していることを。
これは、嬉しいと思えばよかったのかもしれないが、生憎あの時の私は素直に喜ぶことができなかった。
執事長の言っていることも正しい。おかしい話をしているが、『カフィーセルム家』として考えれば真っ当な考えなんだ。
今までだってそうしてきたからこそ、正しいと思っているが、クィンクの考えを聞いて、真っ直ぐで、曲げようのない覚悟を聞いた私は、返すことなどできなかった。
嘘かもしれない? そんなことはあり得ない。
クィンクは本心しか言わないし、私の命が危なければ速攻で片付けるんだ。
そして――それはあの日も同じだったんだ。
あの日。
そう………、決定打となったあの日だ。
何が決定打だったんだって? 簡潔に言おう。
あの日――夕暮れがきれいなあの日にすべてが変わったんだ。
私のことを始末しようと執事長が呼んだ護衛五十八名を、クィンクが一人で倒してしまったあの日。
そして執事長の息の根を止めた。
『カフィーセルム家』からすれば最悪の日。
そして、私からすれば、最高で驚愕の日だった。
同時に、運命の日だと、私は思っている。