PLAY143 MESSED:Ⅳ(Master and servant)①
※今回のお話には、思考回路がやばいお話が含まれています。
物語上のお話なのでご理解いただけると嬉しいです。
あの騒動から、執事長を筆頭にクィンクと私は接触することがあまりなかった。
どころか会わなかったの方がいいな。
暗殺者惨殺を行った張本人のことを見て、クィンクのことを見て執事長は思ったのだろうな。あの時の私はそんな思考をすることもあまりできなかった。
考える思考や知識、予測と言うことがあまりできなかった年代だったこともあって、クィンクの行動に関して特に警戒をしてしまった執事長は、何が何でも私とクィンクを引き合わせなかった。
護衛としての仕事をさせず、絶対に私と接触しないように執事長はクィンクのことを監視しだしたんだ。
これは後から聞いた話だ。
執事長のことをよく知る執事の一人が話してくれた話だ。
執事長はあの時、あの光景を見て、影武者である私に危害が加わることを危惧したうえで監視し、警戒を強化したうえで再教育しようとしていたらしい。
全部聞いた話だが、あの執事が嘘をつくとは思えない。そして私も過去を振り返り、あの時のことを思い出していくにつれて、執事長はしてきたことは最も最善だったのかもしれないと思っている。
あの時、私は確かに真当主の影武者として過ごしてきたが、最悪なことに、その後の影武者候補は生まれていなかった。
今までは双子や兄弟と言った、尽きることのない愛人たちが居たが、その愛人も歳をとる。そして精神的に病んでは自ら命を落としたりして少しずつだが減っていた。
まぁこれは少数派の者だが、多くはきっと、カフィーセルム家の器に相応しい遺伝子を持っている女性がいなかったからだろう。
子は父と母に似る。
父が良くても母の血を色濃く残す者もいる。その遺伝でカフィーセルム家の家名を汚すようなことがあってはたまったものではない。
女性差別発言だろうな。全世界の女性の皆々様、これは失礼極まりない事をしてしまった。私はカフィーセルム家の人間だが、女性のことをそんな目で見ていない。むしろ全世界の女性に対してそんな目で見ていない。
これは真剣だ。私はそう思っていない。
だが真当主や執事長はそんな目で見ていたことだけは詫びを入れよう。
真当主にとって、女性は自分の壁を作るだけの存在なのかもしれない。執事長にとって、女性は真当主のための盾を作る存在としか思っていなかった。
結局………、執事長と真当主は、真当主が一番大事だったんだ。
真当主は自分が大事で、自分の代わりとなる壁が欲しかった。
執事長は真当主のことが大事だから壁が欲しかった。
その為に愛人を作って子を産ませることで、影武者を作り、その影武者が壁となって真当主を守らなければいけなかったから、どうしても愛人か妻が欲しかったんだ。
二人の時代はまさに男至上主義の思考回路。
女は男の背後を歩き、男のために人生を捧げ、男のためにその身を行使しろみたいな頭なんだ。
女性のことを、全然考えていない方々だと、あの時の執事は悲しそうに言っていたな………。
そうだ。結局自分が大事だから、当主が大事だからと言う胸糞な理由なんだが、そんな理由で愛人が来るわけない。
私が影武者として行動していた時には、もう愛人なんて夢のまた夢で、育ちのいい愛人はもういなかったんだ。
金に目がくらんで誘惑する女性がいたが、執事長の先見やいろんな情報を漁ったこともあり、候補から外され、私以外の影武者は生まれてこなかったそうだ。
おおっと、癖で長く話してしまった。
要は影武者ができなかったことで私のことを何がなんでもクィンクから守らないといけないと思った執事長は、影武者である私に危害が加わることを危惧したうえで監視し、警戒を強化したうえで再教育しようと決意したんだ。
再教育の内容は今でもわからない。
今はもう、知る者もいなくなってしまった。
知っている存在はクィンクだけだが、クィンクはあのことを絶対に話そうとしない。今でも話そうとしなくてな、クィンクの頑固にも困ったものだと思ってしまうよ。
そんな再教育が行われている間、小さい私はあの時のことを何度も思い出していた。
アンドーもツバキは私のことを気にかけていたが、決してフラッシュバックではない。それだけは断言していたし、私もそれに関して精神的に参っていたわけではない。
そうだ! 私は正常な思考回路であのことを思い出していたんだ。
何故思い出していたかって?
理由として言うと………、あの時見たクィンクの顔が忘れられなかった。言葉も加えて忘れられなかったから、私は思い出していたんだ。
あの時は、確かに恐ろしさを感じていたのも事実。
光が灯っていないその目を見て、私は命の危険を感じていたのも事実だ。
完全に嘘だとも言えない感情が残っていたのも事実だが、何度も何度も思い出されて行くと同時に、思い出していくと同時に、疑問を抱いたんだ。
『こいつは暗殺者。殺そうとしたから殺した』
『こんな奴は死んでもいいから、殺してもいいと教わったから殺した』
『とうしゅさまの敵だから、殺してもいいんだろ?』
はっきりと言ったクィンクの言葉の中で、『教わった』と言う言葉を聞いて思ったんだ。
クィンクはあの時、誰かに教わったからあんなことをした。
教わり、それを守って行動した。
影武者でもある私のためにあそこまでするなんて思わなかったからこそ、私のためにあそこまでしたことに理由があると、あの時の私は幼稚な推理を頭の中で組み立てて、そして知りたいと………、心の底から初めて思ったんだ。
初めての疑問だった。
影武者として生きてきた――真当主の壁代わりとして生きてきた時間の中で、最も人間らしい思考が芽生えた瞬間であり、同時に私自身が考えて行動した瞬間でもあった。
三人に名前を付けた時よりも、私は生きている実感を感じていたかもしれない。
その実感を感じると同時に、どうしても自分の口から真相を、真実を、理由を聞きたいと思ったから、行動に出ることができたんだろうな。
クィンクがしたことは許されるべきではない。人間離れしたその行動には何が裏がある。
そう思ったあの時の私は、クィンクに事の詳細を聞こうとしてクィンクの元に向かった。
向かって、執事長がいるであろう執事室の近くまで来たところで………。
――私の記憶は、途切れた。
強制的に、激痛と言うおまけをつけた状態で、私は意識を飛ばしてしまったんだ。
この時の私の感想はこんな感じだった。だが年を取るにつれて推理できるようになってしまった。本当はこんなこと推理したくないし、後に明かされるのだが、それでも推理してしまうのが私の性なのかもしれない。
なぜあの時の記憶が途切れるような事態に陥ったのか。
それはきっと、あの時から計画が進んでいたからなんだろう………。
何の計画かって?
この後話すことを聞けば分かるよ。そう急かさないでくれ。
記憶が途切れ、意識が無くなった私は目覚めたんだが、目覚めた場所は執事室の近くの廊下ではなかった。
その場所は薄暗く、周りに大きな酒樽が置かれている石造りの壁が記憶に残る場所で、寒さを感じたことを覚えている。そして………一度だけ見たことがある場所だった。
そう――その場所は、カフィーセルム家のワイナリーだったんだ。
私が目覚めた場所はカフィーセルム家が製造しているワインを保存する場所で、主に白ワインを保存していたこともあって寒く感じたのはそれだったのかもしれないが、その貯蔵庫の中で私は目覚め、後頭部の痛みを感じて周りを見て………、言葉を失った。
驚きのあまりに言葉を失ったんだが、無理もないな。なにせまだ未成年であると同時に、周りにいる人たちは大人で、しかも見知った奴らでもあったからだ。混乱するのも無理はない。
『おい。起きたぞ』
『くそ………、こんなに早く目が覚めるとは』
『うろたえるなお前等。相手は子供。俺達は三人だ。それに計画通りにやらないと、俺達に疑いの眼が向けられる。何とかしてでも、あのイカレ野郎に目を向けるようにアリバイを作るんだ』
「え………?」
初めて、この時初めて理解できないそれが襲い掛かったよ。
理由なんて簡単だ――目の前のことが信じられなかったんだ。
いつも一緒にいた者達が、私に向けてナイフを突きつけて、鉄の何かを持った状態で立っていたんだからな。
そうだ。私はこの時、殺されそうになっていたんだ。
相手は三人の男。そいつらはカフィーセルム家に雇われた執事達。執事長の部下でもある三人だったんだ。
あの時は驚きで言葉を失ったが、今思うと、ありえた事態だったんだ。
ありえる事態を考えもしなかった私と、それをしないと高をくくっていた執事長の慢心から、この事態は起きてしまった。
そう――これは万が一の想定をしていなかった結果が招いた事態。
裏切りを予想しておけば、こうならなかっただろうと、私は思う。
だがこの時起きてしまったから、もう遅かったんだ。こんな簡単なことを想定しておけば、こんなことにならなかったかもしれないが、同時に私とクィンクが仲良くなるなんてことがなかったかもしれない。
ああ、この後どうなるのかって? まぁ待て待て。まだ話が終わっていないぞ? 急かすことなくゆっくりと聞いてくれ。
裏切者の三人は私を誘拐して何をしようとしていたのか。
あの時の私は両手首を縛られ、ガムテープをされた状態で捕まっていた。少し混乱もしたが、すぐに話を聞いて理解し、落ち着きを取り戻してきたんだ。
会話の内容は簡単だ。
私と言う貴重な影武者のために、身代金を要求する。
それがあの三人の目的だった。
あの時は私以外の影武者なんていなかった。そして候補も見つからない状況の中、壁となる私はあの時のカフィーセルム家にとって貴重な存在だった。
そんな存在を今までのようにホイホイ破棄するなんてできない。呆気なく死なれても困るから執事長や真当主は躍起になって私を探す。そう思っていたんだろう。
だから私は人質として使われ、金のための交渉材料となっていた。
身代金はたしか………五億ドルぽっちだったかな?
そんなはした金でいいのかと思うが、執事達にとってすれば、これはとてつもない高額な金で、一生かどうかはわからないが遊んで暮らせる額で、カフィーセルム家くらいになると、世界三大富豪となるとこんなのあっさり出してしまうほどの額なんだが、裏切者にとってすればその金が欲しいらしい。
そんなちっぽけな金で。
笑いが込み上げて来そうなくらい安い金でいいのかと思ってしまったが、あいつらは本気だった。
本気で、私を交渉の材料にしようとしていた。
それもまた滑稽だった。
そんなの、ありえないことだと思ったから。
私のような存在に対して、そんな金出すか? 真当主は出さない。
なぜって?
影武者なんて、そこまで貴重じゃないから。
私は少なくともあいつの血を引いている。あの男の血を引いている子供だ。
きっと、孤児院の子供を引き取るとかして打開策を練るかもしれないし、もしかしたら遠くの国で女を見つけるかもしれない。
私だけを重宝するなんて――絶対にありえないと思った。
躍起になっている三人には悪いが、私は交渉の材料にもならない。そしてお前達も許されないだろう。
カフィーセルム家の敵に回したのだから………、いつ死んでもおかしくない。
三人は確実に。
そして――俺も死ぬ。
そう思っていた時だった。
世界が一瞬光に包まれたかと思うと、一人の唸り声が聞こえ、二人の執事達が声を荒げて『誰だ』と言っていた。
王道の台詞だ。
でもそれは頭の回転が死んでいなければ出せないことで、感情的になれば出してしまう言葉だ。
そしてわかりやすい言葉。
わかりやすい言葉を聞いて、やっと光に慣れた私の目に映ったのは――一人の執事の頭を掴んだ状態で地面にたたきつけている子供の姿。
『お、お前は………っ!』
『なんで………っ!?』
狼狽する二人の執事のことをしり目の、その子は二人を見て、冷たい音色で言ったんだ。
私を一瞬見たかと思うと、すぐに視線を二人の変えて言った言葉は――たった三文字。
『ころす』
その言葉を放った子供――クィンクは、二人の執事を前にして殺気を放っていた。
まるで、百獣の王の様な眼光を向けて。