PLAY142 キャッチボールと影武者⑦
二回目のコンタクト。
二回目の出会いはまさに最悪そのものだった。
その時は私自身来ないであろうと思っていた時であり、実際、執事長もこの時を狙うとは思わなかった時だったんだ。
私はそんな時に、当主として攻撃されたんだ。
どういった時系列なのかと言うと、この時は事業拡大のために国外の大使館に訪れた時の話だ。
私と執事長、アンドーとツバキ、そしてクィンクと数人の使用人を連れて、この時の私からすれば初めての国外で、私からすれば、初めて影武者としての役割を全うできる出来事になるはずだった。
私は顔だけの存在。
私は真当主に牙が向かないようにするためだけの的に過ぎない。だ
実際私はそこにいるという存在で、実際は執事長と、執事長が持っていたパソコンで真当主がリモートで交渉するという内容。
そうだ――私はただそこにあるだけの影武者として、商談の邪魔とならないように突っ立っているだけで十分な存在だった。
何度も言うが私は真当主の肉壁。死んでもいい存在なんだ。
暗殺されてもいい存在だから、私は当主として存在して、そして当主の身代わりとして、私は狙われた。
カフィーセルム家を狙う暗殺者によって殺される。
そのはずだった。
それを壊してしまったのが――クィンクだった。
クィンクは私に対して銃を向けた奴を攻撃したんだ。
しかも――狙撃しようとしている奴に対して、見つけてだぞ?
そんな遠くにいる奴を見つけて、そのまま攻撃するなんて、なんて野性的なんだと思ってしまったよ。いいや獣だなあれは。
そんな獣的視力と判断で暗殺者を――スナイパーを殺したんだ。
首を圧し折ってからの、パンを千切るように引き裂いて。
人間とは思えない所業だった。人間とは思えない力だった。
生き残っていた暗殺者がそんなことを言っていた気がするが、正直、ほかに言っていた気がする。
それよりも私は、私達はあの光景を見て、あまりの衝撃に追いつけなかった。
覚えていることはこれだけだ。
クィンクがいなくなったことでアンドー達と一緒に探して、誰かの叫び声を聞いて遠くの山へと赴いた時――地獄を見て、その地獄が頭の中から離れなかったせいで、私達は言葉を失ったのだから。
山奥のその場所は開けていた気がする。どれだけだったかは覚えていない。
覚えていないが、周りにテントや銃器を入れた木箱があるが、それらには赤いそれがこびりつき、武器に至ってはあらぬ方向に曲がってひしゃげている物もあれば、何かを打ち付けた衝撃で何かが付着しているようにも見えた。
それを起こした張本人と、何人かの黒い服を着た武装した奴らは開けた中央にいたんだ。
張本人は中央で一人の武装した奴の頭に指を入れているみたいで、周りには――ミンチになってしまった人間の固まりが散乱していた。
赤くなり、周りに広がる惨状は、まさに地獄のように見えてしまったんだ。
それを行ったのは――まだ六歳のクィンク。
たった一人の子供が、複数人の武装集団を屠って、無残な状態にしてまで甚振ったのだ。
『こ、殺さないでっ!』
『死にたくない!』
『頼む……い、命だけ』
最後に生き残ったであろう男は泣きながらクィンクの手を掴んで命乞いをしている。
だがクィンクはそれを見ても心に響いていないのか、どころか聞いていないのか、手に力を入れて男を苦しめた。
『あああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁっっっ!! 痛い痛い! 痛い痛い痛い痛い痛い痛い!! もう抜いてくれよぉっ! なにも見えねえのにここまでするのかよぉ! お前は悪魔か! 悪魔なのかああああああああああああっっ!? ああああああああああああああああああああっっ!!!」
痛い。
痛い。
痛い。
痛い。
痛い。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ。
死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない。
お願い殺さないでくださいお願い殺さないでくださいお願い殺さないでくださいお願い殺さないでくださいお願い殺さないでくださいお願い殺さないでくださいお願い殺さないでくださいお願い殺さないでくださいお願い殺さないでくださいお願い殺さないでくださいお願い殺さないでくださいお願い殺さないでくださいお願い殺さないでくださいお願い殺さないでくださいお願い殺さないでくださいお願い殺さないでくださいお願い殺さないでくださいお願い殺さないでくださいお願い殺さないでくださいお願い殺さないでくださいお願い殺さないでくださいお願い殺さないでくださいお願い殺さないでくださいお願い殺さないでください。
いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ!
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!
死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくないっ!!
背景と一体化して私とアンドー達に突き刺さり、精神をすり減らしていくそれは、精神的拷問だった。
これが、延々と続くんだ。
延々と耳にこびりつき、その場にいた者達の精神を蝕み、心を壊しにかかっている。
私の背後がそれで埋め尽くされているかのような、その文字しか出ていない世界で生きているかのような狂気の時間だった。
時間はさほど立っていない。数十ほどの時間の中、それは延々と繰り返される。
聞いている方も拷問だ。乞うている方も拷問だ。
楽なのは、それを執行しているクィンクだけ。
言っておくが………これは、暗殺者の策略でも何でもない。
これをしているのは――他でもないクィンクだった。
クィンクは暗殺者の命乞いを聞くことなく、淡々とした面持ちでそれを行っていたんだ。
どんどん流れ出るそれを行い、私達のことなどお構いなしに殺すその様子は、異常だった。
アンドーが止めなければ、きっと私は壊れていたかもしれない。いいや――私以外のみんなは、これがトラウマになったに違いない。
アンドーは、もう息絶えてしまった暗殺者を見下ろしているクィンクに向けてこんなことを聞いていたな。
ああ、これだけははっきりと覚えている。
あいつはこの時、こんなことを言っていたんだ。
『何故ここまでする必要があるんだ』
アンドーの張り詰めるその言葉を聞いたクィンクの第一声は、これだった。
『こいつは暗殺者。殺そうとしたから殺した』
『こんな奴は死んでもいいから、殺してもいいと教わったから殺した』
『とうしゅさまの敵だから、殺してもいいんだろ?』
クィンクの言葉ははっきりとしていた。
断言していたからこそ、余計に恐ろしいと感じたのはこの時だけだった。
その後のことはあまり覚えていないが、カフィーセルム家の使用人や護衛が暗殺者たちの遺体を塵一つ残さず処理したことは後に執事長から明かされ、証拠隠滅し、何事もなかったかのように帰路についたことはなんとなくだが覚えている。
しかしそれも朧気で、鮮明に覚えていたのは――クィンクの言葉と、あの時の眼。
あれは、あの時だけはあの目だけに恐怖した。
人とは思えない様なその目に、光と言うものを灯していないその目を見て、あの時の私は思ってしまったんだ。
――あいつは、私を簡単に殺す。
――拷問まがいなことをして、惨く殺すだろうと。