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PLAY15 計画②

「なんだったんだ……?」


 アキにぃはそれを見てきょとんっとしながらロフィーゼさんの後姿を見送っていた。


 そしてすぐにはっとして私に近付きながら心配そうに、私の視線に合わせるようにしてしゃがむと……。


「ハンナ――大丈夫だったか? 何か変なことされてないか?」


 と聞かれた。


 それを聞かれて、私は首を横に振って、「だ、大丈夫……」と、気怠い音色で答えてしまった。


 気怠い……、ではない。これは……、不安げな音色の方がいいのかな……?


 よくわからないけど、私はロフィーゼさんに不快なそれを抱いてはいない。でもあの時だけは嫌だと感じてしまった。心底嫌だと感じてしまった。


 ヘルナイトさんとロフィーゼさんが、くっついている姿を見て……。


「大丈夫……、うん。大丈夫」


 そう私は自分に言い聞かせるようにして言う。


 それを見ていたアキにぃは一瞬むっとした顔をしていたけど、すぐに微笑んで……。


「なら、いいんだ」


 と立ち上がって私を見た。アキにぃは私を見て――


「でも、無理はしないでほしい。俺だってハンナのことが心配なんだから、少しは音を上げてもいいんだ」

「お前はすぐに嫉妬しない方がいい」

「ぐ」


 ……キョウヤさんが背後から出てきてアキにぃに言うと、アキにぃはぐっと顔を顰めて、じっとキョウヤさんを見た。キョウヤさんは明後日の方向を向いて口笛を吹いて頭に手を組んでいた。


 私はキョウヤさんに――


「あの……さっき」

「ん?」


 私の言いたいことを察したのか、キョウヤさんは「あー」と言って、そして腕をだらんっとさせて、キョウヤさんは空を見上げながら言った。


「さっきの人相はな、俺のダチの人相なんだ」

「お友……達?」

「それって、前に話していたはぐれた友達の?」

「おう」


 アキにぃの言葉にキョウヤさんは言う。


「まぁここで会えるとは思ってなかったけど、一応……な?」


 私達を横目で見てにっと笑うキョウヤさん。


 それを見た私達は、少し聞いてはいけないことを聞いてしまったか? と思ったけど……、キョウヤさんはそんな私達を見てあっけからんっとして肩を竦めてこう言った。


「なにお前達がしょげてんだよ。それはオレの行動だろって。まぁあの頑固者なら、一人でも生きている。絶対に生きているし、うん」

「……どこからそんな根拠が」

「長年付き合っているとわかっちまうんだよ」


 そうキョウヤさんはにひひっと笑みを作って言う。


 その笑みは本物で、悲しい色のもしゃもしゃは感じられなかった。黄色くて、オレンジや赤のもしゃもしゃが夕日のように光っていることはわかった。


 それは――そう信じているということ。


 それを見た私はキョウヤさんは大丈夫だと思ってみていると……。


「ハンナ」

「……ひょっ!?」


 突然の声にへんてこな声を上げて驚いてしまった私。


 それと同時に後ろを振り向くと、そこにいたのはヘルナイトさん。


 ヘルナイトさんは私を見降ろしていたけど、そっとしゃがんで……、そして私の顔を覗きこんでから……、ヘルナイトさんは私に聞いた。


「……どうした?」

「……?」


 唐突に聞かれたけど、私はその糸がよくわかってないので、首を傾げることしかできなかった。


 だからだろうか、ヘルナイトさんはそっと頭に手を置いて、ゆるっと撫でてから……。


「……不快な思いをさせたか? 何があった?」


 その言葉を聞いた瞬間、言葉が詰まってしまった。


 不快な……思い……。


 その言葉を頭の中で反復して、私はどうなんだろうと思いながら考えていると……。かつんっと、ヒールの音が聞こえたと同時に……。


「そんなことですら知らないのかい? こんの脳筋鬼士」


 と罵声を浴びせた。


 それを聞いたヘルナイトさんは、ぎょっと驚いてマティリーナさんを見る。アキにぃは頷きながら同意しているけど、それを見ていたキョウヤさんは呆れながらアキにぃを見ている……。


 私はその言葉を聞いて、驚きながらマティリーナさんの言葉を聞くことしかできなかった。


「この子はきっと、あんたから離れたくないからあんなことを言ったんだよ。なにあんなべったべった女に(うつつ)を抜かして、あんたそれでもアズール最強の鬼士かい?」

「う、現……」


 ヘルナイトさんは図星だったのだろうか、うっと唸って考える仕草をして、私を見た。そして――


「……その、まさかと思うが……、あれで嫌な思いをしたのか?」


 と聞くヘルナイトさん。


 私はそれに対して、「えっと……」と、正直に答えるか、そうでないのかを模索する。


 答えてもいいけど、みんなに迷惑をかけたくないし、なによりあれだけのことであんなことをしてしまった私が悪い。


 それで何かを得ることもなく……、私は身勝手であんなことを言ってしまったのだ。


 私はどう答えるか迷っていると……。


「聞くことも野暮ってもんだけどね」

「ぬ……、ぬぅ……」


 マティリーナさんは苛立った音色でヘルナイトさんに言う。


 マティリーナさんは私を見降ろし、そして咬んでいる煙管をとって言った。


「あれでって言っても、女ってのはその行動ひとつで嫌な思いをする。それはあたしにはなくてあんたにはある。とある感情のせいでそう思うだけ。でも、これだけは教えてやるよ。あの脳筋は……、絶対にあんたを裏切らない。あんたを一人にさせない。そんな生真面目で不器用な鬼士だからこそ……、あんたたちは釣り合う。これを機に少しでもいい。向き合うことを考えた方がいいよ」


 あんたが抱いているその感情にね。


 そう言って、にっと笑ったマティリーナさん。


 私はそれを聞いて、自分の胸に手を当てる。


 マティリーナさんが言っていた感情とは、なんなのだろうか……。


 怒り? 違う。苦しみ? 違う。嬉しい? 違うけど、似ている。


 なんなんだろう……。


 むず痒いけど、温かくて心地いい。でも嫌な感情になったらぐちゃぐちゃになって、すごく嫌な気持になる……。



 これは、何の感情なんだろう……。



「ハンナ……」


 ヘルナイトさんは私の頭に手を置いたまま、私を見て言った。


 それを聞いて、私はヘルナイトさんを見ると、ヘルナイトさんは凛とした音色で私を見て、こう言った。


「何があろうと私は一緒にいる。これは私自身の願いでもあり……、気持ちだ。つらい思いをさせたのなら謝る。だからハンナ。そんな悲しい顔をしないでくれ」


 それを聞いて、胸の奥から湧き上がる熱を感じて……、こくりと頷く。


 それを見てか、ヘルナイトさんはゆるゆると撫でながら私を見ている。


 ずくずく来ていた痛みが今では引いている。逆に来ているのは……。


 とくとくという心音。


 優しい音色のだ……。


 それを感じながら、私は優しいぬくもりに、甘えていた……。



「ぐ、ぐぎぎぎぎぎぎっ」

「だぁー! またかよぉっ! シスコンドウドウ! シスコンドウドウッ!」

「何の呪文だい……? さて、今日はもう遅い。ギルドに戻って、明日また城に向かうとするかい」



 ◆     ◆



 薄暗くなり、アムスノーム……、否、アズールに夜が訪れる前の時間。


 その時間帯のアムスノームの……とある教会。


 その教会は女神サリアフィアを崇拝する『サリア教』とは違った。ある信仰の教会。


 なのだが、その教会は廃れてしまって、今となっては使われてない廃墟だ。


 その廃墟は隠れようとする者達にとってすれば、うってつけの場所だった。


 誰も使ってないと思い、誰も来ない。


 だから、隠れるのには最適な場所だった。


 その大きなドアを見て、とある女性は辺りを見回す。


 ロフィーゼだ。


 ロフィーゼは辺りにい人がいないかを確認する。辺りには誰もいない。当り前だ。ここは人気があまりない場所でもある。しかし、用心に越したことはない。


 ロフィーゼは大きなドアの片方に体重をかけて、細心の注意を払いながらドアを開ける。


 重くて思いっきり開けるのは無理だ。しかし彼女は体が細い。ゆえに……。


 少し開いたドアの隙間を縫って入ることは、お茶の子さいさいだ。


 ロフィーゼはそのまま教会の中に入る。バタンッと音がした。


 辺りを見ると、薄暗く、足元がよく見えない。


 ロフィーゼは近くに置いてあったカンテラを手に持って火を点ける。


 ぼぉっと淡く照らす光で、その向こうを照らす。


 そこにいた人物達を見て首を傾げた。


 彼女が見た先にいた人達は、総計で三人。


 一人は黒と紺色が混ざった黒いブーツが隠れるようなマントを羽織って、フードを深くかぶった白いペストマスクの男。背中には大きな細い銃を背負っている。


 もう一人は黒みがかった紺色の髪を肩まで伸ばして少しぼさぼさしている。目つきは鋭く、ボロボロとなっているポンチョを羽織り、黒い手袋をして黒い服装と靴で統一している。首元には黒い革製のチョーカーを着けている男。背中にはキョウヤとは違うが、鉱物で出来た槍を背負っている。


 そして最後の一人はロフィーゼから見て中央だろう。その中央のところにぼろくて大きなソファを置いてふんずりかえっている男。黒い服装と白いジーパン。金髪で前髪を独特な形で垂らしている、整っている顔だが冷たい目つきが印象的な男だった。


 それを見たロフィーゼは、はぁっと溜息を吐いて、ゆっくりと歩みながら近付いて――


「あなたたちだけなのぉ?」と聞いた。


 それに対して答えたのは……。


「なんだロフィ。あいつがいないからってご不満か?」


 槍を持った男だった。彼女はその男をじっと目を細めて見てから、すっと興味がないように視線を逸らして……、冷たく。


「詮索しないでぇ」と言った。


 それを聞いた槍を持った男はぎりっと苛立ちを露わにして震え出す。怒りで震え出す。ロフィーゼはそんな男を無視して、ソファにふんずりかえっている男を見て聞く。


「それでぇ……。今日の会議はなんなのぉ?」


 そんな平坦に言う彼女を見て、リーダー格である男は言った。にっと犬歯が見えるような狂気に笑みで彼は言った。


「今日の会議? そうじゃねえよ。てか、そんな生易しいもんじゃねえ」


 ばっと座ったまま手を広げて、彼は高らかに彼女達に宣言した。



 これから話す――()()を。



「――これから話すことは、宿()()でもあるからな」

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