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PLAY140 血濡れの天使Ⅲ(ラグナ・ロク)④

「っ!?」


 ラージェンラは言葉を失った。


 なぜ失ったのか?


 今の今まで優勢な立場だったはずの戦況。


 自分は獲物を追う狩人のはずだった。


 逃げ惑う獲物を追う者だったはずだ。


 はずだった。


 そう――過去形になってしまった。


 自分の立場が優勢になると同時に仄かに零れ出る高揚感をラージェンラは感じていた。


 実際追いかけ回す輩を殺そうとする様子は残虐に見えてしまうが、実際は多少の優位に立つことができた快感もある。


 その快感を感じつつ、甚振りたいという感情を隠しながらラージェンラは追っていた。


 元々男と言う存在の嫌悪を感じていた身だ。


 その男を追いかけ回す。そして嬲るというのは、彼女にとって最高の快感コンボだ。


 いつぞやか――クィーバで行ったことも結局は憂さ晴らしのようなものだ。


 いいや、ただの八つ当たりだ。


 自分の半生の中で最も憎い存在が目の前に来たのだ。吐き気を催しそうだった状況の中、彼女は耐えに耐え、耐えて耐えて耐えた結果――それが爆発してあの状況に至ってしまった。


 結果はラージェンラからすればスッキリした結果だった。


 男であるロゼロとフルフィド、アシバは呆れ半分、悍ましいなと言う感情半分だった。


 彼女の半生を見てしまえば、これは攻撃性が増してしまった結果になり、その攻撃性、憎しみのお陰で彼女は『六芒星』の幹部にまで上り詰めた。


 自分のことを見て、そして共感し、手を伸ばしてくれたザッドには感謝している。

 

 ………男で、豚人族(オーク)であること以外は。


 魔法を得て、『魔女』になり、力をつけて『六芒星』幹部にまで上り詰めた彼女だったが、エドの行動を見て、勝てると思い攻撃を当てようとした時――それは起きてしまった。


 否――思わず固まってしまった。


 あまりの驚愕顔を見てラランフィーナも困惑しながら彼女のことを横目で見て心配していたが、それを許すほど京平は甘くない。


 ――お? よっしゃっ!


 敵であるから好都合と思った京平はワイバーンの体の一部でもある尻尾を鞭のようにしならせ、体を回してラランフィーナにあてようとした。


 横回転しながらの尻尾攻撃。


 威力は高いが自分も回っているせいで命中率はあまりないように見える。


 しかし尻尾はキョウヤの尻尾よりも太く大きい、ゆえに当たる確率は高いかつ――固い体で覆われている分ダメージもでかい。


 それを見越して京平はぐるんっと空中で周り、ラランフィーナと同じように回転の威力を駆使した尻尾の薙ぎ払いを繰り出す!


 大木を振るった時に出る様な空気を裂く音。


 これは普通であれば聞くことがないものだが、その音を聞いたラランフィーナは驚きながら音がした方向――京平に向けて振り向きながら髪の毛に絡ませた『封魔石』製の小さな鎌を振るう。


 彼女も回転し、その回転を防御と攻撃に転じて京平の尻尾の攻撃をはじく。


 ばちんっ! と言う弾く音と同時に来る痛み。


「っ! ってー………!」


 痛みを感じた京平は顔を歪ませるが、すぐに平静の顔を取り戻してラランフィーナのことを見て舌打ちを零す。


 舌打ちと言っても、声に出した舌打ちで若干お茶目な物を感じさせるようなもの。


 それを打ちながら京平は言った。


 ラランフィーナのことを見て、彼女の髪に絡まっている『封魔石』製の鎌を翼の指で指さしながら――


「オメーガキのくせに強いな……。んな身軽に動けるとか、この場所じゃ反則じゃねーか? 俺こんなにでけーからデメリットまみれだべ」

「はぁ? あんたそれ、馬鹿にしてるの?」

「いやしょっぱなから喧嘩腰はやめとけ。俺はマジで言っているんだって」


 京平の言葉を聞いていたラランフィーナは、何故か苛立つ顔をしながら京平のことを睨みつけている。何故か手に『封魔石』製の鎌を持っているところを見るに、更なる追い打ちをかけるつもりなのだろう。


 どこで導火線の火をつけてしまったのか理解できない。


 いきなりヒステリックになりつつあるラランフィーナを見た京平は驚きながら諫めつつ、本音であることを口にしたのだが……。


「そんなの全部嘘っ! 嘘嘘嘘っ! 男はみんな騙して女をたぶらかす生き物なのっ! 感情を優先に! 自分の欲望に忠実な生き物なのっ!」

「おいそれはいくら何でも」


 ラランフィーナが言っていることを聞いた京平は、少し目元をピクリと動かし、いくら何でもそこまで決まっている風に言われても困ると思いながら止めようとする。


 ――この餓鬼……、男嫌いにもほどがあんだろ。マジもんの偏り思考を持っているやつなのか?


 ――ここまで露骨だときちーべ……。


 そう思いながら京平はラランフィーナのヒステリックを、暴走する前に止めようとした時――ラランフィーナは京平に向けて荒げた言葉を吐き捨てる。


 どうせ。


 そう開口言いながら……。


「どうせ……、お前もあいつらと同じだっ! 私のことを穢した奴らと同じなんだろうっ!? 男と言う存在は屑だっ! 雄と言う種族も屑なんだっ!」


 男は屑。


 そうラランフィーナは断言する。


 断言された京平は一瞬止まり、彼女の言葉に対して静かに、止まった状態で耳を傾ける。


 言ってはいけないことを言っている。


 それは分かっているが、それでも人の主張は人それぞれ。


 絶対にそれが正しい事ではないのだが、それでも主張は聞くべきだ。


 そう()()()()ことを思い出して――


「男は、雄は自分が上にいなければ我儘を起こす存在だ。自分がすべてで、そんな男に女は従わないといけない。従わなければ暴力で解決すればいい。体で覚えさせれば嫌でも従ってくれると思っている!」


 偏見が過ぎる内容。


「女は主張するな。男が一番すごいんだっ! そんなことを思っている屑の生物だ!」


 まるで女尊男卑を重んじている人の言い方だ。


「私はそんな男どもの奴隷だったっ! あいつらのストレス解消の道具だったっ!」


 歪んでしまった理由はとてつもなく吐き気を催しそうなものだ。


「そんな男どもに私は足を舐めないといけなかったっ! 自分一人ではできなかったっ! させないように数十人で私を囲ったっ!」


 人生の中でこのような経験をしてしまっては男性不信どころか人間不信になってしまうだろう。


 いいや――


「いやだいやだって言ったのにやめないあいつらは屑同然だっ! 私のことを芯まで汚しやがって………! あの時ラージェンラ様が助けなかったら私はいなかったっ! 私は死んでいたっ! 私じゃない状態で私を演じられていたっ! 私を壊した奴等のことを、心の底から奉仕しないといけなかったっ!」


 人格すら壊れてしまうだろう。


 それをラランフィーナは経験してしまった。


 経験してしまったことでこんなにも『男』と言う性別を憎んでいる。


 殺したいほど憎んでしまった。


 思い出したくないのか歪に歪んだ笑みを浮かべ、その笑みを壊そうと両の手で頬を掴み、そのまま柔らかいものを潰すかのように押し潰す。


 涙で汚くなってしまった顔がラランフィーナの心を浮き彫りにしている。


 笑顔ではないそれと涙が示しているそれを見て、京平は思った。


 今まで色んな奴を見てきた彼でも、ラランフィーナの境遇は他人でも嫌と思ってしまう。


 いいや――思わず同情してしまいそうなくらい、苦しい記憶の断片だった。


「はぁ………」


 だが、それでも京平は溜息を吐き、ラランフィーナのことを再度見つめてから彼は聞く。


『くそ』『きもい』『死ね』と言う言葉を何度も何度もつぶやいているラランフィーナに、しっかり聞こえるように――


「だから男は死ねってか? オメーそれじゃ女至上主義の国でも開国すんのか? 女国家を作ろうってか? そんなの夢物語だろーが。漫画やアニメでもねーんだぞ?」

「っ!? はぁ?」


 京平の言葉はラランフィーナに届いた。


 だがその内容はあまりにも彼女のことを刺激するようなことばかりで、これにはラランフィーナも癇に障った顔を出し、涙を乱暴に拭いながら荒げる声で京平に言い返す。


「なに『間違っている』様な言い方っ! 私はそれでひどい思いをしてきた。死にたいって思ったっ! でもそれでも助けなかった奴らがいた! 私一人を助けることもできなかった男ども! そんな奴らのことを庇うのっ?」

「庇ってねーよ。というかそいつらは女ひとりすら守れねーほどヘタレだったってことだろ? ならそんな奴らのことを考えているよりも、もっといい事を考えた方がいいだろうが。俺はそうしている」

「ふざけるなっ! そんな奴らが生きているだけでも気持ち悪んだよっ! 気持ち悪くて吐き気しそうでっ! そんな奴らが私の苦労や悲しみ、苦しみを知らずにのうのうと生きていることがむかつくんだよっ! だから! だから――」


「だから――殺したんか? そいつら」


 張り詰める様な言葉を放つ京平。


 それは王道に聞こえてしまいそうな言葉だが、内容はまさに悍ましい言葉。


 おぞましさを簡潔にした内容を聞き、ラランフィーナは一瞬黙ったが、すぐに彼女は返答した。


 先ほどの涙はどこへやら。


 涙の痕を残したその顔で彼女は言ったのだ。


 笑顔で。瞳孔が開いたその顔で――


「そうだよ。だから?」


 だから?


 だから――なんなんだ?


 そう言いたげな思いを含む言葉は、京平の覚悟を決めさせるには十分すぎるほどの重さだった。


 衝撃と言う名の――彼女の狂気を知った瞬間だった。


 だが。


「っは」


 京平はそんな彼女の言葉に対して鼻で笑い、そして渇いた笑みを浮かべたまま言う。


 涙で歪になってしまったラランフィーナのことを見つつ、これは誰が聞いても正しくないことだと。これは聞かなければよかったなと呆れながら京平は言った。


「だからって殺すことはねーだろ? やっぱオメーの話、聞かなきゃよかった。結局聞いたとしても、百パーオメーが悪いに百票入る結果になったべ」

「はぁ? 私が可哀そうとか思わないの? 可哀そうに怪我された私のことを慰めようとしないの? 同情しないの? 私は非力な状態で襲われたんだよ? それって私が被害者でしょ? 被害者なのにどうして」



「オメーのその捻じ曲がりが気持ち悪ーんだよ」



 京平ははっきりと言った。


 低い音色で放たれるそれを聞いたラランフィーナは驚きながら京平のことを見ると、京平はワイバーンの翼を大きく広げ、そのまま地面に向けてそれを動かす。


 鳥が飛び立つ動作をし、それと同時に吹き上がる小石交じりの土煙を受けたラランフィーナは目を守るために腕で壁を作り、その状態で目を瞑ってしまう。


 目にゴミが入らないために人間が行う防御本能と言うもので、ラランフィーナも例外ではない。


 しかし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 気付かずにそれをしてしまったことで、京平の先制を許してしまう。


「俺はなぁ、オメーの様な『私はこんなにもかわいそうなのっ。可哀そうだからみんな私のことを慰めてぇ。私のことをいぢめないでぇ』とか言いながら、心の中では性根腐っている奴が滅茶苦茶嫌いなんだよ」


 自分の両の腕に生えている翼を羽ばたかせ、少しずつ上昇していきながら京平は言う。


 羽ばたくたびに襲いかかる土煙をラランフィーナに向けて、どんどん上昇していきながら京平は話し続ける。


 天井が低い場所でも、少しでも高く、高く飛んで――


「俺はどっちかっつーと、顔もよし性格もよしの女の方が好きなんだよ。あと色気ありだとなお良し。んでもって男心っつーの? なんか、『俺がこの女を守りてー!』的な感情が沸き上がる様な女じゃねーとストライクじゃねーんだ。オメーは眼中無し。てか論外だべ」


 ばさ! ばさ! 


 羽ばたかせる音がどんどん遠くなるような距離感を聞いていたラランフィーナは、目を守る腕をどかさず、少しだけ目を開ける。


 そっと目を開け――見開く。


 息を呑む声を零し、やってしまった後悔をしながら彼女は京平を見上げる。


 腕で目を守ることを忘れ、奥歯を食いしばりながら――鮫の亜人特有のギザギザの歯を見せながら彼女は失ってしまう。


 放つ言葉を忘れ、狭い空間内で低空で羽ばたいている京平のことを見上げて固まってしまう。


 低空飛行をし、滞空しているその光景を見た時、ラランフィーナは察してしまったのだ。


 京平が次に、何をするのかを――


 そんな彼女の焦りをよそに、京平は言う。


 羽ばたくそれを止めず、滞空しながら……。


「てめーが受けてきたことは確かにひどいと思う。でもな……、それで自分はそれ以上の報復をしてもいい。上司がやっているからいいんだとか、そんなことで自分がしていることを正当化すんな」

「――っ!」

「オメーがやっていることは、ただの大量虐殺と同じなんだ。やられたからやり返すことは、確かに正しい時もあるがな……」


 京平は話を区切り、同時に羽ばたくそれを止めると、動き出す。


 滞空していた状態から体を斜めにし、視線の先をラランフィーナに向ける。


 向けると同時に止めていた翼をまた大きく広げると、今度は天井に向けて風を起こす!


 ぶぉんっ! 


 と――突風の音を放つと同時に、京平はラランフィーナに向かって突撃を繰り出す。


 自分の体を弾丸に見立ててなるべく細く――空気抵抗を極限まで下げた状態で、風の勢いを足した加速を利用して、京平はラランフィーナに向かって急加速の突進を繰り出す。


 自分の顔を武器に使う突進。


 それはワイバーンが使う技で、技名は王道の『突進』なのだが、それでも威力が絶大。


 一撃で体力がごっそり減ってしまうほどの力を持ってるそれを、京平は放ったのだ。


 ラランフィーナに向けて、一撃で倒す意思を持って!


「――っ! マジ……ッッ!」


 ラランフィーナは驚きながらも反射神経を利用して即座に自分の脳を守ろうと髪の毛の先に括り付けられている封魔石製の鎌を振るう。


 ひゅんひゅんっ! と空気を切る音を奏でながら突進してくる京平に攻撃を繰り出す。


 勿論ラランフィーナも後退しながらの攻撃。


 踊り、後退して攻撃と言う、いくつもの行動をするという体力が減ることをしながらも、ラランフィーナは京平への攻撃を止めずにそれを行う。


 だが――それもただ突き刺さって終わり。


 そう、()()()()()()()()り、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()で、それは終ってしまった。


「っ?! ちょ………っ!」


 京平の真っ直ぐな攻撃を見て、突き刺さっているそれを見て――ラランフィーナは驚きながら残っている鎌を掴み、それを自分の目の前に持っていく。


 小さな盾にするかのように、鎌の腹を使って京平の攻撃を――突進を受ける。


 鈍く、重くのしかかる様な金属音と共に、衝撃が地面を伝って広がっていく。


 音が全方位に向けられ、それを届けるために広がる波紋のように――それは風と共に広がっていく。



 ◆     ◆


 

 衝撃の波動はどんどん広がりを見せ、内部を揺らすほどの威力になっていた。


 近くでは風が舞い上がり、風はラージェンラの髪の毛を揺らし、エドの頬を撫で、リカの髪の毛を巻き上げる。


 巻き上がったリカの髪の毛は次第に元に戻っていき、襲い掛かってきた方角を見つめながらリカは呟く。


 彼女の手元にある白い紐が僅かに動く光景を見ずに、彼女は言う。


「私、やったよ……。エド――京平」


 リカの声は届くことはない。

 

 だが彼女はやり遂げた。


 今できる劇ことをやり遂げたことに安堵し、座り込んだまま彼女はこの後の行く末を願う。


 どうか………、みんな無事でいてほしい。


 死なないでほしい。


 純粋にそう思い、叶うことを祈って……。



 ◆     ◆



 風も波動も無くなった空間の中央部。


 岩で作られた壁が脆くなってしまったのか、ボロボロに崩れてしまい、罅が現れ、その隙間から日の光と薄い空気が入り込む。


 暗かった世界に一筋の光が差し込んだ空間内は、バラバラで消えそうな、小さな光の配置で異様な光景を作り出している。


 その状況でも、光景が変わったとしても、誰もその異変に気付くことなどなかった。


 いいや、気付いたとしてもそんなのどうでもよかった。


 ラランフィーナと京平にとって、そんなことどうでもよかったのだ。


「っ。おいおい………。それありか?」

「使えるところは使うべきなのよ? まさか、そんなことも分からずに突進してきて、()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


 残念でした。


 残念でしたの最後にハートマークが出そうな音色を放つラランフィーナ。


 だがそれも無理はない。


 なにせ、今京平はラランフィーナの『封魔石』製の鎌に括り付けられていた糸によって拘束されていたのだから。


「っ! く、そぉ……っ!」


 突進して、空気抵抗を少なくしてまで行ったことが仇になった京平は内心――やってしまったと思いながら、すぐにラランフィーナの背後を見る。


 彼女の背後には大きな武骨な柱。


 ――を支えにして威力を殺したラランフィーナの鮫の尾があった。


 そう、ラランフィーナは京平の突進を止めるために、賭けともいえる様な事をしたのだ。


 柱がある場所を視界の端で確認した後、鮫の尻尾を出してそれを止めたのだ。


 簡潔で何より無茶苦茶なことだ。


 駆けに近いようなことをラランフィーナはしたが、それが功を奏した。


 京平からすれば――誤算だった。


 天は一瞬、ラランフィーナの味方になった。


 勢いよくそれに押し付けたこともあって柱にはひびが入っている。しかし壊れなかったことで、京平の突進は威力を止めてしまった。


 頭をぶつけてしまった猪のように、それは止まってしまった。


 それを突いてラランフィーナはすぐに糸を駆使して京平のことを拘束。その状態で地面に『封魔石』製の鎌を突き刺し、身動きを取れなくする。


 突進した時の姿で、足をつけた状態で京平は足をばたつかせ、地面を蹴り上げながら藻掻くが、それでも動ける気配はない。


 糸の寿命も感じられない。


「こんの………っ!」

「まぁさっきは凄い大見え切ってた感じだけど、こうなったらもう何もできないでしょ?」


 ビックボアは最も倒しやすい魔物だってこと、知ってるでしょ?


 ビックボア。


 それはショーマとツグミ、シイナ達が相対した魔物であるが、それを例えとして出したことで京平は一瞬黙ってしまう。


 エンカウントしたことがないのではない。たまに会う魔物だが、なぜ倒しやすいのかと思いながら聞くと、ラランフィーナはギザギザのサメの歯を剥き出しにした笑みを浮かべて言った。


 両の手に持っていた――防御として使っていた鎌を徐に京平の目元に向けて――


「突進しかできないから、攻撃パターンがわかりやすいってこと」


 残念。


 そう言い終えるや否や――ラランフィーナは『封魔石』製の鎌二本を持ち、その矛先を京平に向けて振り下ろそうとする。


 京平の目を抉る思いを込めて――


 そのまま八つ裂きにする思いを込めて――!


 振り下ろされるそれを見て京平は一瞬目を見開くが、すぐに………。


 にっと、何故か不敵な笑みを浮かべ……。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

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