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PLAY15 計画①

「おおぉ! いいぞねーちゃん!」

別嬪(ベッピン)だねぇ!」

「次! 次は俺と!」

「儂とじゃ!」

「あ! 手前横取りすんな! 俺と踊るんだよっ!」


 ところ構わず男の人達の声が聞こえた。


 その声を聞きながらだけど、私は混乱の渦に巻き込まれているかのように、今目の前で一緒に踊っている女の人の操り人形のごとく……、されるがままとなっていた。


「あ、ちょっと……、え? あの……。わわわ」


 くるりくるりと踊っていく中……、私は今目の前で妖艶に、それでいてふんわりとした笑みを浮かべている人に手を引かれながら、女二人で踊っている。


 普通なら、男の人と踊るのが普通なのではないか? あ、でもそれはよくわからないけど……。


 でも、目の前にいる女の人は私を見てくすっと微笑んで……。


「ほらほらぁ。心から楽しんでぇ。踊りましょぉ」


 甘い声で囁くような音色で、笑みを浮かべて言った。


 その表情に裏なんてない。


 この人は、純粋に踊りを楽しもうと私を誘っているのだ。


 私はそれを見て、声を上げようとした瞬間だった……。


 ふと、視界に映った白い何か。それを見た瞬間、私はわかってしまった。


 今目の前で一緒に踊っている人は……。


 冒険者――プレイヤーなのだと。


 それを見て、お姉さんは「あぁ」と言って、バングルを見て言った。


「あなたもなんでしょぉ? 冒険者ぁ」


 私は答えない。


 答えたら駄目な気がする。そう思っての沈黙だから……。でも、お姉さんはくすっと妖艶に微笑んで……。


「わたしもなのぉ。よろしくねぇ」


 と、お姉さんは言った。


 そして話が終わると同時に、ふっと緩やかに、それでいて綺麗にくるんっと回ったお姉さん。私の手を離して、私は棒立ちのままそこにいて、お姉さんは――


 ドレスの裾をそっと指で挟めるように持って、少しだけ持ち上げてから、頭を下げた。


 それはまるで……、よく童話に出てくるお姫様が、王子様にするような挨拶の仕方。


 それを見ていたおじさん達は、ぽーっと、見とれるようにお姉さんを見て、そして、だんだん驚きと笑み、そして歓喜が混ざった顔になって……、ぱち。と誰かが拍手をしたと同時に。


 大きな歓声と連動するかのように、拍手が飛び交った。


 それを聞いて、私はぽかんっとすることしかできなかった。


 でもお姉さんは対照的に……、頭を上げると同時に、「ふふっ」とくすりっ。と表裏のない笑顔で、男の人達に手を振りながら「ありがとうねぇ」と感謝の言葉を投げかけていた。


 それを聞いていたおじさん達は、更に歓喜の声を上げて拍手も大きくしていた。


 私は、ただそれを見ることしかできなかった……。



 □     □



「さっきは突然でごめんねぇ」

「あ、えっと……いえ」


 そして、おじさん達がいなくなった頃……、私はお姉さんと一緒にいた。


 お姉さんは私に申し訳なさそうにしゃがんで、よしよしと撫でながら謝っていた。私はそれを聞いて、おどおどとしながらだけど大丈夫という。


 すると……。


「は、ハンナアアアアアアッッ!」

「おーぅい!」

「!」


 遠くから声がした。


 その声を聞いて、私とお姉さんはその声がした方向を見て、私はほっと胸を撫で下ろした。


 お姉さんが苦手というわけではない。ただ何を話せばいいのかわからなくなっていただけ。


 頭の中の混乱は……、まだ渦巻いていたから……。


 来てくれたアキにぃとキョウヤさん。そして後ろから来たのはマティリーナさん。ヘルナイトさんは……、あ。


 ヘルナイトさんもそっとマティリーナさんの後ろから来てくれた。



「ほ」



 ? なんでほっとしたのだろう……?


 私はまた混乱しながらなぜだろうと思っていると……。


「あらぁ。お連れさぁん?」


 お姉さんはじっとアキにぃ達を見た。アキにぃはお姉さんをギッと見て、そして私に向かって――


「ハンナ! そいつ――」


 と言いかけた時、お姉さんは顎に指を添えて、そしてあぁと言う動作で手をパンッと叩いた。


 お姉さんはそのまま妖艶に笑みを浮かべて、私を見つつ、アキにぃ達を見て、お姉さんは……。


「初めましてぇ」と言った。続けて――


「わたしはロフィーゼですぅ。一応……、トリカルディーバっていう所属なんですぅ。趣味はダンスでぇ、さっきは気晴らしで踊ったらぁ……、あんなことになっちゃってぇ」

「どれだけ夢中で踊ってたんだよ……」


 お姉さん――ロフィーゼさんは頬に手を当ててあらあらと言う感じで自己紹介をした。それを聞いていたキョウヤさんは小さい声で突っ込んでいた気がするけど……、よく聞き取れなかった。


 それを聞いた私は、ふと気になることを聞いた。


 ロフィーゼさんも冒険者で、そしてプレイヤーで、このアムスノームにいるなら、避けて通れない難所がある。それは……。


「あ、あの……」

「なぁにぃ?」

「あ、う……、えっと。ロフィーゼさんは何で、アムスノームに……?」

「? あぁ……。そう言えば入国するにはぁ、紙がいるんだったわねぇ」


 私が言いたいことを察したのか、ロフィーゼさんは空を見上げて思い出したように言うと、ロフィーゼさんは「ふふっ」と微笑んでから……。


「だってぇ、わたし()は最初からここだったものぉ」

「達?」


 その言葉に、アキにぃはぴくりと反応した。


 キョウヤさんも「ん?」と首を傾げて、ロフィーゼさんに聞いた。腕を組んで――疑問の音色と共に……。


「それって、あんたの他にも誰かいるってことか?」

「ん? あぁ」


 ロフィーゼさんは腕を後ろに組んでから、「それはぁ」と言いながら少し考えて……。


「そうなるわねぇ。だってわたしぃ、一応冒険者なんだものぉ。チームを組んでいるんだけどぉ……、なんかねぇ……」


 と、なんだか肩を竦めながら腑に落ちない……。ううん、ロフィーゼさんはなんだか気分が乗らないような音色で言った。


 すると――


「ふぅん。なるほどね」


 カツンッとヒールの音を立てて出てきたのはマティリーナさん。


 マティリーナさんはロフィーゼさんに近付きながら、ロフィーゼさんに向かって言う。


「たしかに、あんたはあたしのギルドにいた何人かの冒険者の一人だね。覚えているよ。唯一女の冒険者だったから」

「あらぁ。あの時のギルド長さぁん。お久し振りですぅ」


 ロフィーゼさんは微笑みながら手を振って挨拶をする。


 するとヘルナイトさんを見たロフィーゼさんは驚きと嬉しさが混ざった音色で「あらまぁ」と、トンと跳ぶように歩きながらヘルナイトさんに近付いた。


「っ?」


 ヘルナイトさんは少し驚いて、一歩後ろに下がった。


 でもロフィーゼさんはそれを意ともせずに近付いて、そしてヘルナイトさんの鎧の胴体にそっと触れた。


 それはまるで……、恋人同士で触れるような……。



 ()()



「?」


 え? 私は一瞬、驚いた。


 今まで感じたことがないような……。胸の痛み。怪我なんてしていないのに、ずくずくと痛くなってくる。痛みが強くなってくる……。これは、病気?


 違う。これは……わからないものだ。


 そんな私の感情を無視して……、わからないか……。ロフィーゼさんはヘルナイトさんに触りながら見上げて言う。アキにぃとキョウヤさんは、それを驚いて、目を丸くして、顔を赤くさせて見ているだけだった。マティリーナさんは、肩を竦めて明後日の方向を向いている。


 それでも、ロフィーゼさんはヘルナイトさんに向かってこう言った。


「あなたって『12鬼士』のヘルナイトォ? リアルで生で見たのは初めてぇ」

「な」

「すごく凛々しいぃ。鎧着ているからかしらぁ。すごく強く見えちゃうぅ」

「おい」

「ふふ――照れてるのぉ? なんか」


「あ、あのっ!」

「「?」」

「「「!」」」


 もう見ていられない。見たくない。


 そんな黒い感情が私を呑みこもうとしている時、私は声を荒げて、ロフィーゼさんに向かって、叫んでしまった。


 それを聞いたロフィーゼさんとヘルナイトさんは驚いて私を見て、アキにぃ達はそれを聞いて驚いていた。


 私は震える口で、頭のてっぺんまで昇った熱に身を任せるかのように、私は……、言った。


「そ、その……っ! それ以上は……、や、やめ……」


 何を言っているんだろう。私は……。


 ロフィーゼさんはただ楽しげに話しているだけだった。ヘルナイトさんとも、楽しく話している……、ように見えた……。


 だから、だからこそなのかな……?


 というか、私はそれを見ているうちにずくずくと来る胸の痛みが大きくなって、その痛みに耐えられなくなって、叫んで――ロフィーゼさんに向かって……。


 八つ当たりしてしまった……。


 ロフィーゼさんはそれを見て、ヘルナイトさんを見上げてそのまま後ろに後退しながら下がり、私を見て『すっ』としゃがんだ時……、私の頭に手を置いてなでなでと頭を撫でてくれた。


 そして、申し訳なさそうに……。


「ごめんねぇ。なんだか、申し訳ないことをしちゃったぁ」


 大人げなかったわぁ。


 ロフィーゼさんは謝って私の頭を撫でながら言う。


 私はそれを聞いて何も答えることができず、首をふるふると横に振った。


 なぜだかわからない。


 ロフィーゼさんが悪いわけじゃない。


 むしろ私が悪いのに……、なぜだろうか……。私は思ってしまった。



 やめて。



 そう、頭に急に出てきた。


 ロフィーゼさんはすっと立ち上がって……、ヘルナイトさんを見て、アキにぃ達を見て、妖艶に微笑みながら彼女はこう言った。


「今日はこの辺でおさらばしておくわぁ。実は仲間との会議があってねぇ」


 そう言ってロフィーゼさんはすっと私達に背を向けて歩みを進めようとした時……。


「あ、あのさ――!」

「ん?」


 キョウヤさんは声を上げてロフィーゼさんに向かって言った。ロフィーゼさんは歩みを止めてキョウヤさんを見る。


 振り返ったそれを見たキョウヤさんは、すぅっと息を吸って……。


「あ、あんた達のところに、白髪が勝っている薄紫色のぼさっとしている髪の男っていたかっ!? 全体的に……赤黒い服装が印象的な」


 それを聞いた私は、それが誰なのか何となくだけど分かった。


 そう、キョウヤさんが探している……友達の一人なのだと。


 それを聞いたロフィーゼさんは「うーん」と考えて……、申し訳なさそうにしてキョウヤさんに向かって……。


「ごめんねぇ。いなかったわぁ」


 と、謝罪するような音色でロフィーゼさんは言った。


 それを聞いたキョウヤさんは一瞬、悲しそうな顔をした。けどすぐにぐっと口を噤んで……。


「――そっすか……。すんません。引き留めて」


 とお詫びと謝罪を言う。


 ロフィーゼさんはそれを見て、妖艶ではあるけど悪いことをしたような笑みで……。


「お連れさん……、見つかるといいわねぇ」


 と言って、かつんっとヒールの音を立ててその場から立ち去ってしまった……。

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