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PLAY140 血濡れの天使Ⅲ(ラグナ・ロク)③

 激闘が始まる前に、少しだけ聞いてほしい。


 これは、アズールができる前に起きたことを記したもので、物語にはあまり関与しないが、エドや緑守が使う武器の原点でもある補足である。



 ◆     ◆



 ラージェンラは思うことはエドのこともそうだが、エドの様な存在は生きてきた中で一度も見たことも聞いたこともない事で、実例など一切ない出来事に最初こそ困惑していたのも事実だ。


 元々神器と言うものは一つしか扱えない代物で、二つ持つ者など存在していなかった。


 それは『黙示録』にも記載されていることであり、異例など一切なかった。


 エド達からすればゲームで手に入るレアアイテムなのだが、それでもしっかりと説明は存在している。


 少し補足として、簡潔だが説明しよう。


 エドが持っている『聖槍ブリューナク』と『聖楯アナスタシア』は(シャイニガル・)武器(ウェポン)という武器であり、アズールで三つしかない神器である。 


 (シャイニガル・)武器(ウェポン)は神が鍛え上げて作り上げたもので、選ばれた三人にしか扱えない武器。選ばれる理由は明白で、それを持つにふさわしければ持つことができるというものだ。


 そしてこれは(ディザスター・)武器(ウェポン)も同じで、邪神が鍛え上げ、認められたものにしか扱うことができない神器として扱われている。


 今まで出会ってきた者達の中では、ただ一人――緑守しか使っていないが、彼は認められ、(ディザスター・)武器(ウェポン)――『血濡れ(ブラッディズ・)(アックス)』を武器として使っている。


 だがここで疑問に思うかもしれない。


 なぜ神と邪神は神器を三つずつ鍛え、創造したのだろう。


 そもそもこのアズールと言う国には脅かすものがいない。


 悪魔も協力的で、何より魔王族は女神の守り手として存在していた。


 それなのになぜ神と邪神は神器を鍛えたのだろうか?


 実はこれには理由があり、そもそもアズールと言う国ができる前まで、この武器は存在していた。




 アズールと言う国ができる前までの領土で、戦争の引き金と終止符を打った存在として――




 このことに関しては補足よりのサブクエストで明かされるような内容であり、今でいう考察をメインとした創世期前の出来事。


 ハンナ達からすれば関係ない話だが、(シャイニガル・)武器(ウェポン)と、(ディザスター・)武器(ウェポン)の原点を知る貴重な出来事である。


 だがその記述に関してはあまりなく、記された内容は――



 創世される前の時代。神と邪神は選ばれた人物達を使って領土を奪い合っていた。


 領土を持つのにふさわしいのは神か邪神か。


 それを決めるための戦いを百年以上も続けていた。


 戦いは全員が息絶えるまで続き、最終的に残ったのは――きっかけを作った神と邪神だけ。


 神と邪神は悔いた。


 己の欲望に忠実に従った結果、大勢の者達を死なせてしまった。


 無駄な争いを、意味のない事をしてしまった神と邪神はその大地から去るように、存在を消した。


 自分達が犯してしまった罪となる武器を残して――



 これが記載されていた、唯一残っていた歴史のページ。


 たったこれだけの内容で、簡潔で詳細がない空白まみれの内容だが、それ以上の記載はない。


 だから簡潔にしか話せない。


 これ以上の収穫はない。


 だが六つの神器がある時点で、その戦いがあったことを現実にしていき、それを見つけ、歴史のページを見つけたアズールの者達は、内容を『黙示録』に書き記し、神器を神聖なるダンジョンと邪悪なるダンジョン奥深くに置くことにした。


 封印もしない。


 封じもしない。


 ただそれを置き、いつか、本当の意味で正しい使い方をするであろう主が見つかるように、そっと地面に突き刺して。


 そしてこの設定はゲーム上でも使用されており、しっかりと選ばれたものにしか扱えない仕様になっていた。


 カイルは重くて持てなかったが、エドは軽々持ち上げて持つことができ、『聖槍ブリューナク』はエドにしか使用できないレアアイテムとなったのもこれであり、どうしてこうすることができたのかは――企業秘密である。


 勿論(ディザスター・)武器(ウェポン)にもこの仕様を搭載しているが、実際使っているのは『六芒星』の緑守だけ。

 

 他は誰が持っているのかはわからない。


 わからないが――一つだけ言えることはある。


 神器とはとてつもない力を秘めており、エドはその神器を、()()()()使()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()ことは、異常なのだ。


 普通の人から見てもこれは異常であり、何かをしなければこうならないということを匂わせているとしか思えない様な事態でもあった。


 ラージェンラはそれを警戒していた。


 神器を二つ持つ者が現れるなんておかしい事だと認識していた。


 ハンナが『終焉の瘴気』の瘴気を浄化するために必要な『大天使の息吹』に選ばれたように、エドも選ばれたのだろうが、これはおかしい。


 異世界転生したとしても、これは異常事態だ。


 普通にありえないことが目の前で起きているのだ。


 常識を覆すようなことと言っても過言ではないことをラージェンラは目の前で見てしまった。


 神器を二つ持つ存在――エド。


 一体彼は何故神器を二つ持つことができるのか。


 ――ここで覚えているだろうか?


 前にも言ったかもしれない。


 常識、いいや暗黙の了解と言うもので考えればエドは()()()()ギュ()()()なのかもしれないが、今回は関係ないのでそれは置いておくことにする。


 と言うことを書き記したのを。


 実際エドはなぜ神器を二つ持つことができたのかはこれが関係しており、実際エドが持つことができたのは『聖槍ブリューナク』だけ。


『聖楯アナスタシア』は後から持つことができたこと、そしてその所持もイレギュラーのお陰……、否、原因なのかもしれない。


 エドがその二つの神器を使うことができたのにも理由があるのだが、それはまだ明かせない。


 まだ、その時ではないから………。



 補足はこれで終わり。


 時を戻し、現代へ―― 



 ◆     ◆



 迫り来るそれはまさに触手と言う名の釘。


 エドから見た視点で元々は触手なのだが、その鋭利さを目の前にしてしまったらそうとしか見えない。


 だからなのだろうか、エドはそれを見て(刺さったら胴体どころか穴ぼこだ)と思い、軌道を逸らすためにその場から動きを見せる。


 勿論京平とリカがいるところには向けない。


 場所も狭い且つ自由には動けない。動けないからこそエドは触手を止めるために動く。


 自分の所属『ガーディアン』のであることを思い出しながら……。


「――っ!」


 迫り来るそれを見てエドは駆けだす。


 地面を蹴り上げ、削れてしまったそれを彼方に飛ばすように――エドは駆けだす。


「? あら? まさか逃げるの?」


 エドが逃げ出した時、ラージェンラは一瞬苛立ちを見せてしまったが、すぐに怒りを笑みに変えてエドのことを視界で捉える。


 エドのことを目で追い、何かをしようとしているのかと言う疑問を抱く。


 本当ならこんなことしたくない。一階の冒険者相手にこんなにも長考して、こんなにも時間をかける様な事はしたくない。


 早く終わらせて任務を完遂しないといけないが、それができない不安があったラージェンラ。


 ――あの男は腐っても選ばれた人物。


 ――しかも二つの神器を持った存在なんて、聞いたことがない。


 ――こんなの、天界にあった歴史書にも、『黙示録』にも記載されていない。


 ――だから不安になってしまう。



 この男は――一体何を考えているの?



 考えていることなんて誰も分からない。だがエドに至ってはそれが異常だった。


 二つの神器を持つ者。


 力も分からない存在で、どんな潜在的なものを秘めているのか。


『詠唱』は何なのか。


 どうして自分と話がしたいのか。


 何もかもが理解不能だ。


 何を企んでいる――と言う雰囲気ではないからこそ、逆に気味悪く感じてしまう。


 血の触手を使ってエドのことを追いかけているが、追いかけられている本人は現在進行形で縦横無尽の如く駆けまわっている。


 柱となっている歪な場所を何とか掻い潜り、ジグザグに走りながらエドは何かをしようとしていた。


 巨人族のように大きな体の所為であまり器用に動けていないが、それでも何とか血の触手から逃れている。


 ――こんなところで魔力を使わなくてよかった。


 その光景を見てラージェンラは安堵した。


 自分の判断に誤りがない事に安心していた。


 こんなところで大きな魔力を使えばすぐに終わるかもしれないが、相手はエドと言う彼女から見ても希有な存在。


 何を持っているのかわからない存在相手に強力な力を使い、魔力無駄に使うことをしてしまえば彼女自身無力な存在になってしまう。


 そうならないために最初は弱い技で相手を観察することにしたラージェンラ。


 ゲームで新しい敵が現れた時によくやる様な事だが、この世界の戦いに於いてもそれは重要な事である。


 それを踏襲しているかのようにラージェンラは小手調べとしてエドのことを追う。


 何の力もない。刺突の力しかないうねる血の触手を差し向けて――


「うぉっとっ!」


 死角から来た触手の刺突の攻撃を間一髪のところで避けたエド。同時にエドの近くにあった柱らしきものに勢いよく当たり、大きな破壊音と共に崩れ落ちて岩の破片と化してしまう柱だったそれ。


 しかし突き刺さった触手は健在らしく、驚いて立ち止まって見ていたエドにまたその矛先を向けながらうねりとした動きを見せる。


 まるでミミズ。


 そう思いながらエドはまた駆け出し、巨体ではないが常人よりは大きいその体で縦横無尽 (エドの見解)に走る。


 エドが動いたところを見て、また触手が動き、刺突の突撃を再度行う。


 ぎゅんっ! と加速する音が聞こえた気がしたが、実際は風に穴を開ける様な音で、その音を聞いたエドは驚きの声を上げて背後で自分のことを追う触手に向けて言った。


「なんで目がないのにこっちに的確にくるんだよ! センサーか何かがついてんのか?」


 エドの言い分も分かる。だがそんな科学的なものなどついていない。どころか蛇が持っているビット器官をもっていない血の触手はエドのことを追って、追って、追いかける。


 うねりにうね、そして複雑な場所を掻い潜り、たまに突き刺さっては破壊をしてということを繰り返してエドのことを追うその光景は――まさに恐怖だろう。


(追いかけまくる蛇みたいだっ。獲物を見つけた蛇のように狩ろうとしている!)


 まるでエビに追われている兎の君になったエドだが、その気持ちはすぐに消え去り、真剣な面持ちで後ろを視界の端で見るように振り向くエド。


 走るそれを止めず、エドは動かす足を止めず、掻い潜る機動を止めずに見る。


 そして考える。


 自分が持っている知識を掻きだし、フル稼働させて――


(あの女――ラージェンラが使えるのは『血』)


(血はおれ達の体に流れていて、あの女の体にも流れている。誰もが持っているもので、それを動かせるように魔法として編み出した)


(自分の血は当たり前だけど、他人の血も操ることができる)


(となれば出血してしまえば、それだけあの女の武器を増やしてしまう結果になる)


(増やさないように徹したとしても、自分で自分を傷つけて、血を流せば使える)


(本当に血を武器にして、それ使って攻撃している……厄介な存在だ)


(でも………()()()()()()


 エドは思った。


 走っていた行動を止め、迫り来る触手相手に立ち向かう様に盾を構えながらエドは思った。


『聖楯アナスタシア』を構えて――エドは仮説を、否――結論を組み立てる!


(この世界の『魔女』の魔法は特殊だ。硝子を剣に変えて戦う人。蜂を操る人。予言する人。空気を操る人。色んな魔女がいるけど、ラージェンラの構造は考えて見れば簡単だ)


()()()()()()()()()()()()!)


 風穴が開くような音を放ち、小さな爆発音を放ちながら触手の先端はエドに迫って来る。


 厳密には『聖楯アナスタシア』に向かい、一直線に!


(おれ達は運がいい。運がよかった)


(もっと特殊な魔法を使う人だったら、どうなっていたかわからない)


(もしもっと特殊な人だったら危なかったかもしれない)


(血液と言う、()()()()()()()()()()()()()で、本当によかったっ!)


 どう思いながらエドは構える。


 攻撃の体制ではない。


 只の防御。


 防ぐという一択に絞って――


 ぼっ! と、空気が破裂するその音と同時に触手が加速し、エドの視界を埋め尽くした瞬間……。


 重く、強い衝撃音が辺りに響き渡り、それと同時に――


「っ!?」


 ラージェンラの顔色が怪しく歪んだ。

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