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PLAY14 アムスノーム⑥

 それからほんの少しだけ時間を遡る。


 アキとキョウヤはマティリーナの案内の元、アムスノームの観光を心ここに非ずという形で見ていたが、アキはふと、とあることを思い出していた。


 それはこの国の前国王のことについて……。


 前国王は殺されてしまった。


 それを聞いたアキは、ただそうなのかと思っていただけだった。


 この世界はゲームの世界。


 大体の人が忘れかけているようなことをアキは記憶の片隅に入れて覚えていた。


 だが頭の片隅にいれていたからこそ、アキはアムスノームの国王に対して怒りを覚えていた。


 普通ならば冒険者の話を聞くのが普通だ。


 従来のゲームならば話を聞いて行動することが冒険者=プレイヤーの目的。イベントなのだから仕方がないことだ。


 が、それでもアキはあれはないと思ってしまった。


 本音で言うと……。


 少しは人の話を聞け。あの野郎……。


 アキはそう思いながらむすくれた顔をして俯いていた。キョウヤとマティリーナと一緒に。はたから見れば子供っぽい行動ではあるが、今は噤んでおくことにする。


「まぁ……、ああなっちまったら仕方ねえよ」


 アキのその顔を見ながらキョウヤは噴水を遠くで見ながら、煉瓦(レンガ)で作られたベンチのような所でアキとマティリーナと一緒に座ってハンナとヘルナイトの姿を見ながら言う。


 キョウヤはうーんっと腰を伸ばすように天に向かって腕を伸ばし、ぶるぶると尻尾を震わせながら言った。


「時を待ちながら、地道に行くっきゃねえ」


 その言葉にアキは現実に引き戻されながら、彼は「あ。そうだね」と話を聞いていなかったが、それでも話の流れを見て、何となく肯定する。


 それを聞いていたマティリーナは腕を組み、足を組みながら――


「だね。頃合いを見て、あたしだけでも話をつけようと思う」


 と言った。


 その言葉と共に、彼女はどこからか出したのか、煙管を取り出して、持っていた燐寸(マッチ)に火を点ける。


 そしてそのままその火をつけた燐寸を煙管に入れてから、素早く燐寸の火を消してすぅっと煙管を咥えて、ほんの少し吸ってから、煙管から口を離して……。


 ふぅっと、紫の煙をフゥッと吐いた。


 それを近くで嗅いでしまったアキ。すぐに鼻を押さえて息を殺す。


 なぜだろうか、長い耳までもへにゃんっと曲がってしまっている……。


 キョウヤはそれを見てぎょっと驚き、マティリーナを見て……、おずおずと……。


「あ、あの、マティリーナさん……。アキが」

「?」


 マティリーナは隣で座っているアキを見て、何かに気付いたのか、すぐに煙管の灰を落として、それをヒールでぐりっと踏み潰す。


 アキは臭いがなくなったのか、ふぅっと息を吐いて胸に手を当てながらほっと撫で下ろす。


 それを見て、キョウヤはマティリーナに聞く。


「なんだったんすか? そのタバコ」


 その言葉に、マティリーナは煙管を見ながら――


「これかい? これはあたしが好きな銘柄でね……。エルフィンっていう煙草なんだ」

「ふぅん……」


 まぁ、まだ二十歳のキョウヤからしてみれば、煙草の銘柄で何かが変わるのかと思うようなそれだった。


 しかしマティリーナは煙管を見ながら語る。


「エルフィンってのは、アルテットミアでは採れない香辛料で作られたものでね。ここだけの話……。あたしゃこの煙草だけはこだわっている。まぁ、エルフのあんたには……、においがきつくて刺激が強すぎたかもしれないけど……」


 そう言いながら、マティリーナはははっと乾いた笑いをアキに向けて零す。


 それを見て、アキはぎっと睨んでから……。


「そのまま肺を煩わせろ……」

「あ? なんか言ったかい?」

「……イエ」


 ……すぐに負けてしまった。マティリーナの凄みを見て……、折れてしまった。


 キョウヤはそれを見て、心で――アキ弱ぇっっ! と、驚きながら突っ込んだ。


「でもまぁ……、あたしは別国から来た身だからかねェ……。案外あの王様はあたしを信じていないのかもしれない」

「? 別国?」


 アキはその話を聞いて、きょとんっとしてマティリーナに聞く。


 マティリーナはそれを聞いて、一瞬言葉を選ぶように、口を閉じて考えて、そして彼女は、煙管を見ながら小さい声で言った。


「あたしゃねぇ……。アノウン出身なんだ」

「あ、アノウンって……」


 キョウヤは驚きながら言葉をつづけた。


「あの、誰も踏破したことがないっていう……?」

「ああそうさ」


 マティリーナは言う。


「その雪の大地出身なんだあたしは」

「え? もしかして……」


 ぞあっとしながら、腰にあるライフル銃を出そうとしているアキを見て、マティリーナは苛立った音色と顔で、凄んだ音色で言った。


「あたしゃそこら辺にいる猛獣じゃないよ」

「ま、まぁまぁアキ。話を聞こうぜ」


 キョウヤはドウドウと手でアキを制止する。アキは驚いて、青ざめながらマティリーナの話を聞いた。


「違うよ。誰も踏破したことがない。それは誰もその土地のすべてを知らないに等しい。あたしが暮らしていた雪の大地には、ちゃんと人が住めるような環境があって、そこには何百人もの種族や人間が暮らしていた。とある国の……、『サコク』を模しているかのようなところでね……。閉鎖的でほんと……。つまらない国だったと、今でも思う。マースだって王都出身だけど、ダンぼっ……! ダンゲルはエストゥガ出身。あいつだけは生まれ育ったところで仕事をしている奴だよ」


「……鎖国」


 昔の日本でもあったその言葉を反復するアキ。


 キョウヤはそれを聞いて、マティリーナを見て聞いた。


「それじゃ……、なんでまたここに?」その言葉に対してマティリーナは当り前のように。


「それはお金を稼ぐためさ。あたしはそんじょそこらの奴らとは違う力を持っていたからね。金を稼いで養おうと思っててね」

「あぁー……。出稼ぎ……。よくあることっすもんね……」


 キョウヤは何とも現実的なことを聞いて、ははっと乾いた笑みを零して言う。


 マティリーナは煙管を見ながら、彼女は懐かしみながら穏やかな笑みとともに、こう言った。


「この煙管は、祖国から持ってきた唯一の形見だ。だからこの煙草も銘柄も、そこから仕入れているんだよ。この国の煙草も好きだけど、やっぱり祖国の煙草の方が好きだね」

「…………………そうっすか」


 キョウヤは納得した顔で、ハンナとヘルナイトを見ながら言う。


 すると、二人は何かを話しているようだ。そんな二人を見て、アキはぎぎぎっと歯を食いしばっているが、マティリーナはそれを見て、ふっと鼻で笑ってから……。


「ああなると、滑稽に見えるね。少女と大の大人のへんてこな関係ってね」

「あ」


 キョウヤはそれを聞いてぎょっとして、マティリーナに向かってぶんぶんっと首を振りながら言う。


「それは言っては……って、もう遅かった……」

「? ーーっ!?」


 マティリーナはそれを聞いてアキを見た瞬間、ぎょっと顔を強張らせて、なんて顔をしてるんだいという明らかに呆れた顔をして、アキを見ていた。


 アキはアキで、「ぐぎぎぎぎぎぎっ」とぎりぎりと歯軋りをしながらハンナとヘルナイトを見ている。今回に限ってはなぜだろうか……。血の涙も出ている……。


「うぉうアキっ! 血涙流すほど羨ましいのかよっ! おいアキやめろ! ほら通りすがりの人がお前を見て『うわ、この人なんで目から血を流しているのかしら』って奇異な目で見ているからやめてくれっ! 俺やマティリーナさんも変な人って認識されるだろうがっ!」

「おいマセガキ。あたしも道連れかい?」


 キョウヤの言葉に、マティリーナが凄んだ声で言う。顔に半分影を落としながら……。


 そんな二人のひと悶着を見ながら、はざっと溜息を吐く。すると……ふとマティリーナはハンナ達を見て、一瞬驚いて見入ってしまった。


 それは、ヘルナイトの手を掴んで何かを言ったのだろう。ハンナはヘルナイトに頭を撫でられて、恥ずかしそうな顔をして俯いてしまう。


 マティリーナは、そんなハンナを見て、マースが言っていた言葉を思い出す。



『ハンナ様こそが、このアズールの希望になるんだ。私達ギルド総出で、あのお方達を全力でサポートするんだ。いいな?』



 その言葉を聞いて、一体どんな女性なのかと思った。しかしふたを開けてみればこれだ。


 ――まだまだ二十代未満の餓鬼。小娘。


 しかも喜怒哀楽の表現が下手すぎる。


 ――あんな子が、あの詠唱を……?


 間違いではないのか? それとも偽者か?


 そう思っていたマティリーナだったが、すぐに本物だと思った。なぜならヘルナイトと一緒にいたからだ。それが証拠となる。彼女は一時だけだが、一緒に行動して分かったことがある。


 それは……、危い。だ


 ハンナは優しすぎる。


 それはどんな時でも優しさが勝るということで、力があるものならば時には厳しさも必要となる。


 その厳しさが彼女にはない気がした。


 むしろ優しさの塊。


 そう言った類は大概情けをかけたものに不意打ちをかけられて死ぬか。究極の選択で、自分の命を絶つ。その選択をする。


 はたから見れば自己犠牲が高い。


 しかし優しいせいで他人を最優先にする。


 危ういのだ。これが。


 ――だが今の時代、少し優しさがなければ……、崩壊するところもあるかもしれない。


 ――だからなのかね……? 力しか求めていない奴を選ばす、あの詠唱はあの子のように優しさと癒す力しか持っていない子に、その力を、命を救う力を、浄化と言う力を与えたのかもしれない……。


 戦う力なんていらない。


 今必要なのは――治す力。


 だからだろうか……。



 最強の鬼士には闇を断ち切る力を。



 最弱の少女には浄化の力を。



 与えたのかもしれない。


「……運命」

「「は?」」


 マティリーナが呟いた言葉に、アキとキョウヤはぎょっと驚いてマティリーナを見た。


 マティリーナはくすっと微笑みながら……、何も入っていない煙管をかぷりと咬み、にっと笑みを作って二人に言った。


 ――これは本当に、アズールを救う希望なのかもしれないね。


 ――あの子が光り輝く星のような、そんな魔力を感じる。


 ――マース。あんたの先見の明は、鋭すぎる。


 ――そして、あんたの言うとおりだ。


 ――やってやろうじゃないか。全力のサポート。



「――あの子を、必死になって守ってやんな。それが、あんた達男ができる唯一の手段だろ?」



「「? ?? あ、はぁ……」」


 二人はきょとんっとして、もみくちゃとなっていたそれを一時やめて、マティリーナの言葉を聞いて、何を言っているのだろうと思いながら、頷く。


 すると、どこからだろうか。男衆の歓喜の声が聞こえた。


 三人はその方向を見る。


 その場所は、サリアフィア様の銅像噴水の前の、広場のところだ。その場所に、男衆はがやがやと集まっていた。


 それを見て、アキははて? と首を傾げながら見ていた。


「なんですかあれ?」

「祭……。じゃねえな。あれだと大道芸人か?」

「いや、そんな人が入っている形跡はないね。というかダイドウゲイニンってなんだい? 来るとすれば吟遊詩人だろうが」

「あ、ここじゃ大道芸はないんだ……」


 キョウヤの言葉に、マティリーナはハァッ? と素っ頓狂な声を上げて言うと、キョウヤはぎょっと驚いた顔で冷や汗を流しながら納得の顔をする。


 すると、男衆の一部が崩れた。


 どうやら後ろの観衆が見たいがために前の集団を押して倒したのだ。それくらい見たいんかいと、キョウヤは呆れながら見ていると……。


 その崩れたところから見えたのは――女だった。


 薄いピンクの髪の毛をうなじ近くで団子にして、うなじのところからなん本もの毛が出ていたが、それでも妖艶さがそれを掻き消していた。黒いイブニングドレスに黒いピンヒール。そして腕にはレースがついたバンドに頭には黒いバラのアクセサリーがついている。


 その女性は柔らかくも、妖艶な笑みで、両手に武骨な殴鐘を持って、『ゴーン』『ゴーン』と鳴らしながら踊っていたのだ。


「なんだいありゃ。ああいうのがダイドウゲイっていうのかい?」


 マティリーナはキョウヤに聞くが、キョウヤは首を横に振って――


「いんや違う。あれは路上ダンスってやつだな……」と、少し驚きながら言った。


 マティリーナにはその『路上ダンス』というものが一体どういうものなのかわからなかった。アキはそれを見て、とあるところを見た瞬間……。



「アッッッ!!」


 アキは何かを見たのか、驚愕の顔を浮かべてバッと素早く立ち上がり叫んだ。



 それを聞いた二人は肩をびくつかせてぎょっと驚いていた。


「なんだよアキ! 脅かすな!」

「なんだい、エルフの餓鬼は元気だね……」


 二人は各々感想を言いながらアキを見上げると、アキは立ったままキョウヤの頭をバンバン叩き……。


「あれあれあれあれあれあれあれあれっっ!」


 壊れたレコードのように繰り返し「あれ」と言いながら踊っている女性を指さしながらぱくぱくと口を動かし、キョウヤの頭を加減を無視して『バンバンッ!』と叩いた。


「いでいでいで! いでぇよ! ってか見るから叩くのやめろっ!」


 キョウヤは高速で来る頭の叩きに嫌気を刺しながら、内心舌打ちをしてその女の姿を見る。


 踊っているところ以外は確かに妖艶で、何となくだが綺麗に見える。


 見えて、見て……、キョウヤは目を疑った。



「ああああぁぁぁぁぁーっっっっ!」



 キョウヤも同じように立ち上がってそれを凝視した。


 マティリーナは耳を指で塞いで苛立ちながら「なんだい!? あんたもかい!?」と怒鳴るが、二人には聞こえない。


 なぜなら今二人が見ている女性は……、自分達と同じ冒険者なのだから驚くのは当り前。


 その女性の右手首には白いバングル。


 そう――彼女は……。



「「ぷ、プレイヤーッッッ!?」」



 二人の声がハモったと同時に女性はハンナを見た瞬間、とんっと空中を跳び、驚いて混乱しているハンナの手を引いて、観衆の中に戻って行った……。

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