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PLAY138 血濡れの天使Ⅰ(カクレルオビエ)①

 激戦が始まる――少し前、


 ヌィビット達の戦闘開始時に場面を切り替える。



 ◆     ◆



「お。おおおっ」


 ヌィビット達の戦闘が始まった時、エド達は『六芒星』幹部ラージェンラと、その側近ラランフィーナを相手にして戦っていた。


 今回の敵は二人であったこともあって、エドと京平がラージェンラを、シロナと善はららんふーなを相手にして、リカはそのサポートをして戦いを繰り広げていた。


 最初の声を上げたのはエドで、エドは京平の背に乗った状態で狭い空間内で旋回していたのだが、赤黒い棘の攻撃を避けるにはあまりにも狭すぎた。


 案外広く見えた空間も、武骨な柱が幾つもあれば難易度の高いレースゲーム。避けることも至難の業になってしまう。


「京平! 大丈夫っ!?」

「今話しかけんなっ! 集中し過ぎて頭が緊張頭痛起こしてんだっ!」

「分かったっ! 話しかけないよっ!」


 避けている本人はまさに集中し過ぎて充血しかけている目を更に酷使している様子。


 それを見てエドは話しかけるが、その話しかけでさえも集中を遮る要因となってしまい、うっかり怒鳴ってしまう京平。だがそんな彼の言葉をすんなり効いて黙るエドは、今まさに自分達に攻撃を放っている女性――ラージェンラのことを見下ろす。


 旋回していることもあって視界の端を見ればすぐに彼女を認識することができる。


 できるのだが……、彼女の足元には夥しい血の量が水溜りのように面積を大きくしている。その場所から血で作られた棘を放っているのだが……、それを見ていたエドは思った。


 あれは、()()()()()()()()()()()


 そもそもあの量は出血多量どころの話しじゃない。むしろ多くの人を殺したみたいな血の量だ。


 そう――エドの思っている通り、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なのだ。それもラージェンラの周りだけ。


 広く――広範囲に広がるそれはまさに正真正銘の水溜まり。


 よくある深い水溜まりでもできているのかと思ってしまう様なそれだが、物理的にそれはあり得ない。


 本当に魔法でそれを制御しているかのような、見たことがあるやり方だ。


「魔法なのか……、これも」

「あ?」


 エドの呟きを聞いていた京平はどういうことだと聞きたかったが、目の前に現れた柱を見てすぐに避ける。聞く余裕などなく、そのまま旋回と避けるという行動を繰り広げている中――遠くから破壊音が聞こえた。


 それは何かを壊す音でもあり、切り裂き音も混じって――


「らああああああああああああああああっっっ!」

「がああああああああああああああああっっっ!」


 ………時折聞こえる叫びと獣の咆哮が耳に入り、鼓膜を揺らして集中を搔き乱すが、それでも京平は呆れながら渇いた笑みを零し、小さな声で呟いた。


「あっちはあっちで……、盛り上がってんべ」


 呟きが終わるや否や、いいや――京平達の声など聞こえていない。聞こえていないが激戦となっているその場所では――まさに接戦と言ってもおかしくないような戦いが繰り広げられていた。


 切り裂かれたのだろう――神殿内の柱となっていたそれが一つの大きな瓦礫と化し、足場に落ちていくつもの石となって転がると同時に、シロナは駆け出していた。


「おおおおおおおおおあああああああああああああああああああああああっっっ!」


 あらんかぎり叫び、全体力を使った全力疾走。


 人間の全速力とは違った四足の全速力。


 人の形をしていた手袋を脱ぎ、シロナは白い体毛で覆われた手を使い、獣の如く駆け出していた。


 地面を掛けるだけではとどまらず、柱を足場にして跳躍、柱を盾にしてのジグザグの駆け出し。

 

 時折地面に残るひっかき傷は、彼女が感情のあまりに引っ掻いてしまった痕跡だが、同時に怒りと強気な彼女の想いを形にしていると言っても過言ではない。


 獣の如く駆け出してくる彼女を見ながら、ラランフィーナは回りながら攻撃を繰り出している。


 否、この場合彼女は踊りながらシロナに向かっていると言った方がいいだろう。


 自分の武器でもあるツインテールの髪の毛の間からいくつもの細いワイヤーが括り付けられ、そのワイヤーの先には黒くて小さな宝石の鎌。


 それは『封魔石』でできている鎌であり、これは魔王族の力を弱める力がある石であり、現状シロナには関係ない。


 関係があるとすればエドなのだが、それでも切れ味は凄く、踊って回転しているせいで軌道も法則もバラバラ。踊りながらぐるんぐるん回っているそれでも走って来ているラランフィーナ。


「ああああもうしつこいわよっ! 猫の亜人が、鮫の亜人に勝てるとか思ってんのかぁっ!?」


 怒りを吐露し、踊りながら鎌の攻撃を繰り出しているラランフィーナ。怒りの声は心底と言わんばかりの沸点突破。ブチギレである。


 だがそんな彼女の攻撃を何とか紙一重で躱し、体にいくつかの傷を負ってもシロナの猛攻は止まらない。止まるということを忘れてしまった猪のように、彼女はジグザグに駆け巡り、柱を使いながらどんどんラランフィーナに近付く。


 接近して、攻撃できる距離まで詰め寄る。


「っ! 本当に猫みたいにちょこまか動くわね……! マジで――」


 と言いかけた時、ラランフィーナの横から――暗闇になっているその場所からぬっと出てきた鋭い何か。


 それはカットラスで、カットラスは避けて攻撃を繰り出しているラランフィーナに向けて大きく振りかぶり、そのまま彼女の体を捌こうと振り下ろされる。


 空気を裂く音と同時に聞こえる地面に向かってきた追い風。


 後者は自然にできるものではない。


 それをすぐに理解したラランフィーナは足に力を入れて――後ろに向かって回りながら跳躍した。


 ぐるんっと、空中でフィギュアスケートをしているのかと思ってしまうほどの回転。その回転は髪の毛に連動して不規則に動き、その動きと連動してワイヤーを伝い、鎌に伝って動く。


 横回転のように見えるその斬撃も、いくつもの不規則方向から回る斬撃になってシロナと暗闇に隠れている存在に攻撃を繰り出す。


 隠れている存在はその動きを見て驚きはしなかった。


 襲い掛かるそれを見て、その人物は目を光らせた。


 全身が骸骨の姿で、その髑髏の左目にある赤い宝石の中には薄桃色に光る何かが埋め込まれており、その光に便乗するかのように、赤い宝石が心臓のような色身を帯びていく目を光らせ。


 骸骨の手に持っているものは錆が異常なまでにこびりついたカットラス。カットラスのほかにも武器を持っていたが、その色々な武器は隙間が空いている肋骨に差し込まれており、その体からは黒い靄がうねうねと百足のように体を取り巻いているそれらを引き抜き、それは攻撃を攻撃で弾き落とす。


 言わずともわかるその姿――善の影、『虐殺(サディスティ・)愛好処刑人(デストロイヤーマニア)』は金属音を奏でながら攻撃をいなすが、それでもさばけないこともある。

 

 さばけなかった攻撃はシロナと『虐殺(サディスティ・)愛好処刑人(デストロイヤーマニア)』に当たり、彼女と主――善に蓄積されていく。


「シロナ! サディ!」


 遠くからリカの声が聞こえ、大きな圧縮球から何かを取り出そうとしたが――


「――大丈夫! だぁっっ!」


 遮るように大きな声を上げ、シロナは更に襲い掛かる斬撃をまた紙一重で躱す。


 スカートに切り傷ができても、切り裂かれたとしても、頬に傷ができたとしても、彼女の目に曇りなどない。真っ直ぐな目でラランフィーナのことを見て、敵意と言うそれを崩さないそれで捉えていた。


 青ざめていない。絶望なんてしていない――ラランフィーナが思っていそれとは違う顔をして……。


「もぉ……、もうもうもうっっ! なんでボロボロなのに、なんでもう傷まみれなのに私に立ち向かうのっ!? あの冒険者もそうだったけど、あんた達はそれ以上のイカレた野郎よっ!」

「あぁっ? あたしは野郎じゃねぇよ。アタシは女だからな。『イカレたレディ』に訂正してくれよっ! そっちの方がいいやっ!」

「どっちも同じだっつーのっ!」


 踊り回りながらラランフィーナは近くにあった柱に足をつけ、その柱を足場にして勢いをつけて蹴る。


 蹴り、その場で跳躍をしたラランフィーナは勢いと加速を利用して今度は空中で踊りを披露する。


 勿論回転だけのそれではなく、頭を動かして不規則な攻撃の軌道を行いながら――だ。


 無我夢中。


 がむしゃらに見えてしまう踊りと思うだろう。だがそんなことを微塵も思わせない様な踊りは、まさに踊り子そのもの。


 普通なら見とれるかもしれない。


 だがそれをしないシロナは獣の咆哮を上げて彼女の攻撃を手で弾いたりして拮抗を保つ。


 そして『虐殺(サディスティ・)愛好処刑人(デストロイヤーマニア)』も襲い掛かるそれを見て髑髏の顔ながら笑っているそれを見せてカットラス、レイピア、刀、斧といった武器を使って――


『ひゃはははははははっ! これは滾るなぁっっ! 血沸く瞬間! 血の気が引きそうな瞬間! 生きている感触を直に感じられるっ! もう流れない身体だが、それでもこの瞬間は心地いいぞっ! 生きていることを実感できるんだからなぁっ!』


 とげらげら笑いながらラランフィーナの攻撃をはじく。


 はじく。はじく――!


 金属音がまるで騒音大会のように響き渡る中、善は暗闇の中を進み、息を殺しながらラランフィーナに近付く。


 気配を殺すことは得意。そして息を殺すことはもっとうまい善。

 

 所属が職業であれば天職であろうその潜め方は、誰の目にも入らなければ、耳にも入らない。


 だから潜伏して、隙を伺っている。


 表では『虐殺(サディスティ・)愛好処刑人(デストロイヤーマニア)』が戦い、自分は影から急所を突くことを想定して……。


「うー……、みんな」


 リカもその光景を見て、言われれば準備をして行動。


 目視して危険であればサポートできるように待機している。


 攻撃が当たらないところにいることもあって比較的安全だが、それでも攻撃の風圧が来るのでそれを受けながらリカは準備をしていく。


 もし何かがあった時のアイテム錬成。


 そして想定外のことがあればの緊急攻撃用アイテム錬成などをして何が起きても対応できるようにしていくリカ。


 これはエド達の教えの賜物。


 備えあれば患いなし。


 その言葉を理解して、いつ何が起きたというアクシデントが来る前に備えを行う。その教えを行動に移しているリカは心配そうにシロナ達のことを見る。


「………よし! みんなを信じろリカっ。私はみんなのことを信じて、みんなのために準備しないといけないんだ!」


 心配ではある。だが自分は何もできないから、自分でできることをしよう。


 エドにも言われた。任されたのだ。


 なら――自分でできる限りのことをしよう。


 そう思い、リカは備えを続ける。


 その時が来たとしても、対応できるように――


「く……っ! ちぃ!」


 リカと善、『虐殺(サディスティ・)愛好処刑人(デストロイヤーマニア)』とシロナの行動を見ていたラランフィーナは、怒りを露にしながら露骨に舌打ちを零す。


 明らかに声にした舌打ちだが、それでも彼女の怒りを表しているそれは、まさしく舌打ちだ。


 声に出してしまうくらい彼女は現在進行形で苛立っていた。


 ――この私が……、私が。


 ラランフィーナは思った。


 怒りを露見し、血走った瞳孔でシロナ達のことを視認しながら彼女は苛立ちながら思った。


 否……、焦り、苛立ちながら思った。


 ――私は……、私はラージェンラ様に認められた側近。


 ――ラージェンラ様の盾。『『血涙(ブラディア・)天族(エンジェリナ)』の鮫肌』の名に恥じないように、この攻撃スタイルを編み出した!

 

 ――風の魔祖の『瘴輝石』と、鮫と人間の混血を利用したこの踊り(スタイル)は、私独自のスタイル! 


 ――私しか編み出せない方法!


 ――瘴輝石『暴風触覚(スピニング・センサー)』と私の種族の力。そしてこの髪の毛の武器と踊りがあれば何でもできると思っていた!


 ――ラージェンラ様を守りたい!


 ――私のことを助けてくれたあの人のことを守りたいから、私はこの技を編み出した!


 ――血の滲む努力もした! 幾度となく雄共に醜態を晒されようとも、何度も側近たちに罵られようとも、私は耐えてここまで来た!


 ――前側近をこの手で殺して、側近の座を奪った!


 ――奪ったのに……! 


「私は……! 私はここまで上り詰めたのに……!」


 ラランフィーナは零す。


 苦々しく歪めたその顔で、微かに零れ出てしまったそれを独り言として零しながら、彼女は言った。


「なんなのよ……っ! こいつ等、異国の()()()()()()でしょ……っ!? なのにどうして、どうしてこんなにっ」



 どうして、どうしてなの?


 なんでこんな奴らに、私は苦戦しているの?


 私は『六芒星』だ。


 ラージェンラ様を守るための盾なのに、どうして?



 嫌な汗が掌を汚し、熱くないのに汗をかき、勝てるという思考をしていないと一瞬で負けるという負の感情が彼女を襲う。



 私は盾。


 ラージェンラ様を守る盾。


 盾が壊れる想像をするな。


 折れる想像をするな。


 私は絶対の盾!


 私は、私は、私は――


 

 襲い掛かる思考をかき消しながら彼女はシロナと『虐殺(サディスティ・)愛好処刑人(デストロイヤーマニア)』の攻撃をさばき、距離を取りながら後ろに飛んで行く。


 飛んで、距離を取りながら攻撃をしようとしていた。


 その時――


 背後から感じたとてつもない悪寒。


 それを感じ取ったラランフィーナは背後を振り返り、何がいるのかと視界の端で見ようとした。


 した時――それはもう起きていた。


 背後でじっと潜伏して、隙を伺っていた善の切っ先が、彼女の喉元に添えられていたのだ。


 背後からそれを突き刺すように、串刺しにされてもおかしくない距離。


 いいや、もう串刺しになる。


 そう思った時――ラランフィーナの鼓膜を揺らしたのは……。


暗鬼剣(キラー・スキル)――『即死突(デッド・レィ)』」


 暗殺者スキル、即死級のスキルの名――


 と、風の音だった。

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