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PLAY137 MESSED:Ⅲ(Mobile Soldier and the Armor of Hatred)④

 機械の腕に食い込む感覚。


 それは人間の体だと貫通してしまい、激痛を信号として送ることになる様な大けがだが、機械の手のお陰でその激痛は起きなかった。


 起きなかったが……。


「――っ!?」


 ――なんだっ!?


 勢いよく殴られたかのような感覚。それに鋭利さが加わったかのようなそれを受けたロゼロは驚きながら攻撃を受けた腕を見た。


 腕の上――手の方を見た時、ロゼロが目を見開く。


 見開いて、手の所に当たった何かを確認して困惑した。


 奇襲のために作っていた黒い武器は無くなり、代わりに彼の手首――脈を測るその場所に一つの何かがめり込まれていたのだ。


 鉄でできた武器――()()が。


「弾……っ? どこから……っ!」


 ――いいや。


 ロゼロが思った。そして考えた。


 どこから放たれたのか。どこからこれは発射され、そして当たったのか。


 めり込んでいる弾の角度を見ればそれは分かるかもしれない。だがそれでもわからないことがある。


 だからロゼロは一旦頭を振った。


 そうじゃない。


 それを考えるんじゃない。


 今考えるべきことは――発砲した人物は今どこにいるのか。


 ()()()()()()()()()()()()()()()。機械であればなおのことできない。


 秘器でも音のない発砲は出来なかった。


 そんな技術は祖国にもなかった。しようとしたができなかった。


 だがこの弾丸はそれができている。冒険者の誰かが、折れに向けて狙撃をした。音もなく!


 そう思った瞬間、背後を取られたシルヴィが短い跳躍とひねりを利用して回転し、槍を己のように振りかぶるように攻撃を繰り出す。


 ぶぉんっ! と空気を裂く音が聞こえると、ロゼロは右斜め下から襲い掛かる刃から避けつつ、槍の柄を掴んでシルヴィの攻撃を一瞬止める。


 掴まれたことで驚きの目を向ける――ことは無く、シルヴィは掴まれた槍の攻撃を止め、そのままロゼロに向けて少しずつ、少しずつ槍の刃を近付けていく。


 近付かれていく槍の先――いいや、その周りに浮いている宝石がロゼロの瞳に入り、光と言う栄養を得たかのように一瞬輝く。

 

 反射したかのように見えたそれはロゼロの顔に向かって少しずつ、少しずつ近づき、次第にロゼロの体に違和感を与えていく……。


「っ? く」


 宝石が近付くにつれてロゼロの体の中から何かが無くなる様な、喪失感は襲い掛かる。


 人間で言うところの空腹感。


 それに怠さが加わる様な感覚。


 普通に健康体ではない。異常であることを示すサインはロゼロの視界を揺らぐには十分だ。


 だがそれだけ。それだけだから――


「っち! こ、ざかしぃっ!」


 ロゼロは近付けようとするシルヴィの行動を妨害した。


 右足を振り上げ、彼女の腹部に向けて蹴りを繰り出したのだ。


「――っ!」


 思いっきりの蹴り。


 服越しに感じる柔らかいそれはシルヴィの体にダメージを与え、衝撃と圧迫を同時に感じたシルヴィは何かが込み上げて来るものを口を閉じることで押し込めて、酸っぱいそれをもう一度飲み込んだ後、彼女は蹴りの反動に従って後退する。


 カツッ! カツンッ! と――地面に二回ヒールの音が響く。


 か弱く聞こえたそれを聞き、距離ができたことでロゼロは小さく舌打ちをしてシルヴィのことを見つつ、周りを見渡す。


 いつのまにか周りにいたヌィビット達の姿が無くなっていたのだことに、驚きはしなかった。


 むしろこうするのが当たり前だ。


 弾丸を撃った奴と同じように物陰に隠れたか、それとも奇襲を謀るために隙を伺っているのか。


 戦いの中では常套手段。


 多対一の『多』の所に属していれば、この戦法は常套手段でありきたりのやり方だ。

 

 やり方はありきたりだが、油断はできない。


 ――あの弾丸を放った輩がどこにいるのかわからない。


 ――弾丸の軌道を見ようにも、この暗闇だ。


 ――発砲した後すぐ移動しているに違いない。


 ――目の前の女は自分に攻撃を向けさせようとしているみたいだが……、それにも限界がある。


 ――要注意なのはあの宝石。あの宝石の力が俺の魔法を壊していることは十分理解した。


 ――なら…………。


 ロゼロはどろりと機械の腕からまた黒い液体を出し始める。


 どろりと粘着性を帯びたそれはまるでスライムのようにうねり出し、重力に従ってそれは地面に落ちていく。


 ぼとんっ。と粘り気と水分を含んだ音がシルヴィの耳に入り、警戒を強めながら前のめりになって構える。


 槍を振るい、金属と宝石が放つ独特の音を出して身構えると、落ちた黒いそれが動き出した。


 まるで殻から出ようとするひよこのように、前後左右、色んなところから押し出すように動いている。


 ぼよぼよ動いているせいで恐怖魔あまり感じない。だが緊張感はある。


 緊張感と言うよりも、これは……。


 シルヴィは思った。


 今の今まで魔物や人間相手に戦ってきた彼女でも、こればかりは恐怖なんて全然ないと、断言できなった。


 人間以外の何かで、魔物以外の何かを相手にしているという不安。


 そう――


 ロゼロが生み出した化け物相手に、彼女は思ったのだ。


 ――憎悪に対しての、恐怖と不安だ。


 そう思い、これ以上の行動はさせてはいけないと思ったシルヴィは距離を取ったその体制を解き、ロゼロに向けて駆け出した。


 真っ直ぐ向かうのではなく、蛇行をするという中に当たらない走り方をして、左に曲がった後今度は右。右に曲がると見せかけて岩の柱がある場所に向かって駆け出して視界を遮りながらを繰り返しながら彼女は駆け出す。


 駆けだしたそれを見てロゼロは徐に手を地平線に向ける。指を指すような動作だが、指は差していない。手だけでそれを行っているかのように振るうと、ロゼロは言う。


 否――唱える。


「――『怨呪矢(エンヌ・アロォ)』」


 唱えた瞬間、蠢いている黒い液体の表面に僅かに尖ったそれが出て来る。


 柔らかい棘のようにそれが出て、それがどんどん細長くなっていくと――それはすぐにシルヴィの視界に入った。


 否――むしろ目の前に現れ、あと数センチで目に突き刺さっていたの方がいいだろう。


「っ!」


 視界に入ったそれを見たシルヴィはすぐに頭を横の逸らす。


 紙一重で躱すように、いいや躱さなければいけない状況下の中、彼女は即行動して躱した。


 が――


 ――ドシュッ!!


「――っっ!?」


 躱すと同時に足に感じる激痛。そして熱と空洞のような冷たい感覚。


 肌に突き刺すような冷たさではないが、それと同じような状況を感じたシルヴィは驚きながらも走るそれを止めず、激痛が走った左足の太腿を一瞥した。


 ちらりと見るだけだったが、それだけで十分すぎるほどの情報が入ってきたのだ。


 まず最初に入ったのは赤い血。


 それがシルヴィのドレスにべったりと付着しており、ドレスに穴まで開いた状態でそれがついていたのだ。しかも穴の所がひどい付着だ。


 だが、それよりも恐ろしい事があった。


 その恐ろしい事と言うのが激痛の原因で、穴が開いたところは丁度彼女の太腿があるところ。付着とドレス損傷は後ろにまで到達しており、後ろの裏地にたくさんの血が付いた状態。


 そう――彼女の足に穴が開いたのだ。


 太腿に突き刺さり、その状態で貫通した。


 弾丸ではなく、液体に似た矢の力によって――!


「っ!」


 シルヴィは激痛を訴えている足を見る。貫通してしまったそれを見てすぐに自分の右手首につけられているバングルを見る。


 バングルのHPのゲージはかなり減ってしまったが、ゴアの文字は書かれていない。五体満足のままであることを視界の端で見たことでシルヴィは心の中で安堵のそれを零し、このまま流し過ぎてはいけないと思った彼女はすぐにドレスを掴んで、力一杯引き千切ったのだ。


 繊維と繊維の悲鳴が聞こえる。


 破ける音を聞いたロゼロは彼女の胴体に向けて手を伸ばし、黒いそれに命令を送る。


 送られたそれを受け取ったのか、黒いスライムらしきものは『ピクンッ』と全体を揺らし、再度シルヴィに向けて体の柔らかい棘を作っていく。


 ぐにゅにゅ。と粘着性の音を出しながら柔らかく見える棘のような物を出す黒いスライムらしきもの。その棘は一つだけではない。


 二つ、三つ――十もの棘を出し、引き千切ったドレスの布を負傷した足に巻いて走っているシルヴィに焦点を合わせて……。


 バシュウッ!! と――()()()()()()を放つ。


「っ! またか……!」


 漢字にすると水の矢と言う言葉の魔法。


 だが見た限りだとそれは水の鉄砲。


 鉄砲のように見えてしまうその速度も速度だが、一度受けたシルヴィは狼狽しなかった。


 むしろドレスと言う動きづらい服装 (と言っても実際は動きづらくない。動けるように作られているので逆に動きやすい)が無くなったことで動きやすくなったが、足を負傷している。


 強く巻いて出血を抑えてはいるが、それでも流れる血の所為と痛みでこれ以上酷使することはできない。


 太腿に穴が開いている状態。それで動ける――意識を保っている時点ですごい事だが、それだけだ。


 負傷している足で動くのはまずい。


 もしものことがあったらだめだと思った彼女は、別の方向で行動することにした。


 勿論()()()()()()()()も行って――だ。


 足を肩幅まで開け、より強く振るうことができるよう万が一を兼ねて槍を持ち直す。


 地面に二回ほど槍の先が当たったが、そんなこと構いなしに彼女は仁王立ちになって迫り来る黒い水の弾丸を迎え撃つ体制になると、即座に動くシルヴィ。


「――はぁっ!」


 今まさに放たれたそれを止めるために、彼女は得物である槍を勢いをつけて振るう。


 再度放たれた空気を薙ぐ音。


 それと同時に黒い液体が槍の切っ先に触れた瞬間、槍の周りを飛んでいた宝石が淡く光り、光ったと同時に黒い液体の形が次第に歪み――


 そして――

 

 ぱぁんっっ! と弾け、四散した。


「!」


 四散した瞬間を見たロゼロは驚きよりも先にこう思った。


 あれに対応してきているのか。と――


 続けて思う。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。と――


 普通に考えてどういうことなのか。と思ってしまうだろう。


 走ることを止め、攻防に転じるという選択をしたシルヴィの選択は概ね正しい。


 隠れてやり過ごすこともできるかもしれないが、それでは身動きが取れず、最悪その隙を狙ってくる可能性もある。


 そうさせないために敢えて立ち向かったシルヴィはロゼロの攻撃を先ほどと同じように薙いで壊したのだ。


 迫り来るそれを棒で叩き壊す勢いで攻撃するその光景は凄まじいものだ。


 攻撃して爆ぜ、攻撃して爆ぜていく黒いそれは黒い塵となって空気に溶けていく。


 溶けていく中シルヴィの目に疲れはなく、どころか真っ直ぐな視線でロゼロを捉えているのだ。


 真っ直ぐすぎるその目を見たロゼロは、一瞬身震いしそうになった。


 この目は、真っ直ぐすぎて、狂気すら感じてしまいそうな曲がらない意思を感じる。


 まるで――目の前の俺を逃さないばかりの執念を感じる。


怨呪矢(エンヌ・アロォ)』が放った球を幾度となく捌き、外してしまったそれは顔を掠めたり足を掠めたりして負傷とはいかずとも傷を残していく。


 傷を残してもなお彼女はどうしていない。


 槍一つで捌くその光景、軌跡を描くそれは美しくも感じるが、それでさえも恐ろしく見えてしまった。


 ――恐れていない。


 ――恐れていないが……、こいつら全員頭がおかしいんだ。


 ――身を削ってまで戦うとは……な。


 ――現代の武人でもここまではしない。が……これはこれで好都合だ。


 このまま拮抗している状況を、切り崩せば……。


 ロゼロは攻撃を捌いているシルヴィをながら続けて命令を唱える。


 今まさに黒いそれを放っている黒いスライムらしきものに向けて――『怨呪矢(エンヌ・アロォ)』の後ろ側に向けて……。


「――『憎悪従僕獣(ミソース・シュバリエ)』」


 ロゼロは唱える。『怨呪矢(エンヌ・アロォ)』の背後に向けて言った瞬間、背中の位置するところから『ごぼんっ』っと、一際大きな水の歪みが発生したのだ。


 ごぼんっ。ごぼんっ。ごぼごぼと、内側から熱いものが発生しているかのような歪み具合だが、歪みの波が大きくなっていくと、『怨呪矢(エンヌ・アロォ)』の背中の所から突然黒い何かが這い出てきた。


憎悪影人(ゾウオエイジン)』とは違う。小さいスライムから生まれ出てくるように這い出てきて、生み出されて唸り声(産声)を上げる。


 小さな黒い存在から生まれたそれは短時間でどんどん成長し、体と言う形を形成したと同時に形をまた変えていく。


 従来の魔物の姿として現れた最初の一体は――ゴブリンだった。


 体も小さく、狡猾で知能は少しある魔物の姿。


 その姿を皮切りに数体の魔物達が姿を現してシルヴィの前に現れる。液体状になっていたその体が渇いて来たのか、はっきりした輪郭を表してロゼロの壁として立ち塞がる。


「っ!」

「捌いてきたことに関しては褒めるよ」


 驚きの目を向けるシルヴィを嘲笑う様に、ロゼロは言う。


 狂気の嘲笑を向けながら、『怨呪矢(エンヌ・アロォ)』の背後から出て来る無数の何かの後ろから言った。


「だが、これは無理があるかもな。数体の魔物相手なら」


 そう言うと同時にロゼロの壁になるように現れた動物――否、五対の黒い魔物がシルヴィの前に立ちふさがったのだ。


 狡猾な小鬼。


 意思を持った野菜の魔物。


 麗しさで狂気を隠している人魚の魔物。


 岩で作られた存在と獣の魔物。


 それぞれがシルヴィの前に立ちふさがり、今にも攻撃をしようと無機質の殺意を剥き出しにしていた。


 無機質に感じるが、何故か殺そうという意志が強くのしかかる。


 シルヴィはそう思い、小さく舌打ちを心の中で零しながらロゼロに向けて言った。


「魔物……。ゴブリン、パンプキング、ウンディーネ、ゴーレムとコボルトウォリアー。まさか魔物まで作り出せるのか……っ!」

「いいや厳密には俺が作った模倣体、偽物だ。偽物でも攻撃方法は同じ。違うところは――」


 と言い、徐に上げていた手を力なく下ろしたロゼロ。


 だらんっと下ろしたその瞬間――


 ぐわんっ! と五体の黒い傀儡の魔物達は目を血のように光らせてシルヴィに向かって走り出す。


 本能の思うが儘に駆け出す黒い魔物達。更には『怨呪矢(エンヌ・アロォ)』の援護射撃も加わり、先程よりも難易度が高い攻防戦になって襲い掛かってきたのだ。


「っ!」


 驚き目を見開くシルヴィ。防ぐことができるのは分からない中、彼女は槍を手に持ったまま防御はしない。むしろ攻撃をする姿勢のまま構えている。


 防御しない、自分のスタイルを重視しての結果。


 それを見てロゼロはシルヴィを嘲笑い、そして――()()()


 このままこの女を餌にすれば、きっとあいつらは来る。


 きっと奇襲目的なんだろうが、そうはさせないぞ。


 さぁ来い! 助けろ! 助けたその時が――お前達の。


「――ハイタッチ」


 瞬間、ロゼロの背中に触れる何か。


 それは手だということはしっかり認識できるが、感触が固い。


 固いそれを感じたロゼロだが、声を聞いてすぐに振り向こうとした――その瞬間。


 背中に激痛が走った。

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