PLAY137 MESSED:Ⅲ(Mobile Soldier and the Armor of Hatred)②
燃えていた赤く輝く世界は、一瞬で暗闇に戻される。
普通に水を使って消したのであれば分かるが、今回は違う。
消したのではなく、食われてしまったのだ。
食われてしまったその光景は最も見慣れないことであり、恐怖する光景でもあった。
力は冒険者。人格常識は常人の蓬たちにとって、食われた炎を見るというのは衝撃以外ほかの感情が出てこなかったくらいだ。
失った言葉が再度言葉という意志表示を再起動するまで時間を要してしまうほどに。
「おいおい……。こんなこともできるのか?」
小さく、困惑混じる声を零しながらヌィビットが言う。僅かに零れる汗が彼の心境を物語り、汗と共に零れてしまう引き攣る笑みは虚勢にも感じてしまいそうだ。
いいや、これはヌィビットの本音でもあり、彼自身こんな顔をしているとは思っていないだろう。
なにせ、これは想定外の事態なのだから。
まさか――魔祖を食うとは思ってもみなかったのだから。
「反則だろう……っ!?」
そんな言葉が思わず零れてしまう。
反則。
まさにそうだ。
まさに後出しじゃんけんの様にそれは出て、そして炎を喰い終えた後、満足げな息を零して黒いそれは紙のように平たくしなやかになり、そのまま小さく収縮してロゼロの足元――影に戻っていく。
影の中に生き物でも飼っているのか?
そう思ってしまうほど便利で油断できない光景に、蓬は一瞬思考が変な方向に向かいかけていた意思を正すように頭を振るう。
空気を薙ぐ音が鳴るくらいそれはもう勢いよく。
振り終えて、意識がはっきりしたところでもう一度見た後、蓬は思った。
やっぱり。
と思いながら蓬は思った。
こいつは、僕の魔法を食った。
食ったそれを回復か何かに使って、応急処置を施した。
と――
想定外だったがそれで動けないことではない。
驚きはしたがシルヴィとコーフィンは武器を構える行動を留め、アイアンプロトも困惑し、慌ててしまいそうになるも踏みとどまって睨み (しているように見える行動)を利かせる。
勿論それは蓬もヌィビットも、クィンクや『轟獣王』もそうだ。
みんな戦闘態勢を崩さずにいる。いるのだが、それでも衝撃は大きく、ことがうまく運ばないというのがこう言う事なのだということを気付かされる瞬間になってしまった。
「っち」
小さな舌打ちが聞こえる。
それは炎に飲まれてしまったロゼロの声であり、彼はゆっくりとした歩みでヌィビット達に近付く。
靴の音が神殿内に小さく響く。
その歩みを響かせながら現れたロゼロは、首元を機械の手で擦りながら静かに言った。
足や首に巻き付いていた赤い痕は無くなり、代わりに小さな火傷の後と焼かれてしまった靴と少しだけ焦げてしまった衣服を見せつけながら言ったのだ。
そう――五体満足の状態で、だ。
「まさかあんな風に焼かれるとは思わなかった」
丸焼きって言うのはこんな感覚なんだな。食われる奴らの気持ちが一瞬だけ分かった。
そう言うロゼロの体は蓬の『火』によってところどころ焦げているが、それでも少々だ。
傷もあまりない。というか治っているところもあるように見える。
あの時の業火が効かなかったのか?
そんな疑念が頭を過る。
――あの業火の中、生きていたのか……。
シルヴィの困惑は心の中でとどまり。
――普通なら俺の顔になるのが見えていたのに……。
自分の顔がそうなってしまったことを思い返し、なお且つあまり効いていない光景を見て苛立ちを出しそうになるも、それを留めて引き金に指を差し入れるコーフィン。
そして……。
――マジ効いていないとか……、凹むよ?
正直精神的ダメージが大きい蓬は、小さく落胆のそれを零しながらロゼロを見ていた。
あんなに大きな爆発音を放ってまで攻撃を繰り出した。
絶対に大ダメージをくらわせるつもりで放ったそれが、効き目があまりない。しかも食われてしまったことに正直ショック以外の言葉が出てこない。
出てこないからこそ正直心が揺らぐ蓬だったが……。
――でも、焦げている。そして、僕が仕掛けた箇所の火傷がひどいということは……、効いていた。ってことでいいよね……?
ロゼロのことを見て同時に思ったのだ。
理解した。の方がいい。
その理解はヌィビット達にも降りていたらしく、ロゼロのことを見てみんな (アイアンプロト以外)が思った。
完全に防がれたわけではない。
ダメージはちゃんと届いていたことを理解したのだ。
蓬が放った攻撃は無駄ではなかった。むしろその攻撃が当たったからこそこの焦げ具合で、あの飲みこんだ魔法も急ごしらえだったのだと理解するヌィビット達。
「そうだな……。食肉にされてしまう動物はきっと苦しい思いをしていたんだろうな。お前のように、急ごしらえで出さなければ危なかったと」
「もうそんなおしゃべりはいいだろう」
ヌィビットは言おうとした。
肩を竦めて、やれやれと言わんばかりに言おうとしたそれはあっけなくロゼロに遮られてしまい、遮った本人を見てヌィビットは驚いた顔をするが、それも一瞬。一瞬驚きの顔をしたがすぐに目を細めて冷静な眼をロゼロに向ける。
確かに――それもそうだ。
もうこんなことをして延長しても仕方がないか。
時間は稼げないことは分かった。
稼げないからこそ、本気で立ち向かうしかない。
理解が早いヌィビットは細めた目を向けたままロゼロに向けて言う。
冷静に、端的に――
「そうか」
たった三文字。
たった三文字の言葉を向けたヌィビットの言葉と雰囲気を察し、クィンク達は身構えを強化すると同時にロゼロから視線を外さないようにする。
焦げた衣服を指で抓み、どのくらい焦げたかを一瞥しているロゼロだったが、それもすぐに視線をヌィビット達に向けて睨みつけると、ロゼロは呆れるように……、否――見下すような視線を向けて言ったのだ。
心底呆れる。
心の底からお前のことを軽蔑する。
そんな心境を向けて――
「人をおちょくるのも大概にした方がいいんじゃないのか? そんなことをして時間を稼ぐなんて言う遠回りはもう面倒臭い。俺も俺だが、こんなのただ無駄な時間が過ぎるだけだ」
それとも、ここにはおしゃべりしに来たのか? 怖がらせるために来たのか?
ロゼロは言う。低い音色で彼は言ったのだ。
今までの行いを思い返し、こんな遠回りなことをしなくてもよかったと心底己の行いを後悔しながら言ったのだ。
こんなことをしても無駄だ。
それを伝えるように……。
「あんな口車に乗った俺も俺だが、お前達の行動に乗ってしまった俺も馬鹿だった。もっと早くこうするべきだった。こいつらの乗りの付き合うことになった結果がこれなんだ。もっと早めにこうするべきだった」
くそ。
小さな怒りの声が零れる。
零れた後ロゼロは続けるように言う。
呟くようにではなく、淡々としたその声と音色で――
「まんまとお前達のペースに飲まれて、お前達の行動に驚かされて嵌ってしまったが、そんな作戦はもう聞かない。ここで倒れるわけにはいかないんだよ俺は……。俺はここで倒れてはいけない。心ではいけないんだ」
「ちんけな力で倒れたなんて『六芒星』の面汚しだ」
「あのオグトにも笑われるなんてごめんだ」
「俺はここで倒れてはいけない。倒れてしまったらだめなんだ」
「俺は最後の希望なんだ。最後の、最後の――」
国の希望なんだ。
爬虫類に似た瞳孔がヌィビット達を捉える。
獲物を捕らえたかのような野生の目。
それを思わせる様な顔は、シルヴィたちの感情を揺らす材料となり、ヌィビットの思考に曇りを見せる材料にもなってしまった。
ヌィビットとクィンク以外のみんなは思った。
本気でやらないとだめだ。
ヌィビットとクィンクは思った。
厳密には……、ヌィビットが思ったであり、ヌィビットだけがこれを見て思ったのだ。
こいつは、昔の私に似ている。
と――
そのことに関して長く考える余裕は――無い。
考えるという行動は命取りになる。
相手は本気だ。
本気だからこそ、こちらも本気で立ち向かって止めるしかない。
最初からそのつもりでいたが、どうやら相手を逆撫でし過ぎたようだ。
油断してはいけない。
現実でも電脳でもどこでもそれは心しておかなければいけないこと。
今まさにそれを再確認しているんだ。こんなところで奥の手を出さない阿呆は、いない。
ヌィビットは思う。
簡単な事だ。
こんなところで出し惜しみはしない。それは先ほど決めていたはずだった。決意していたはずだったが、それを再確認することになるとは思わなかった。
思わなかったが、それでもロゼロに対して多少なりとも感謝してしまった。
今まで使わなかったこれを、やっと使うことになるとは――
これからこの先使うかもしれない――自分達が生き残る術として使えるかどうかを試すために、今ここで使おう。
『六芒星』幹部の名は伊達ではない。
だからこそ本気で戦うほか選択肢はない。
ないからこそ、使えることは使おう。
そう――たとえこの世界の武器であろうと。
「アイアンプロト。もう一度言おう」
「! ハイ」
ヌィビットは言う。
驚いて肩を震わせたアイアンプロトに向けて、視界の端で捉えるように振り向いて言う。
もう食えない性格、いつも魅せる仮面の顔はない。
生きるために戦おうとする、一人の悪魔族の目をアイアンプロトに見せてヌィビットは張り上げる。
みんなに聞こえるように、合図を送って――
「本気であいつを倒すぞ。全員準備! アイアンプロトはサポートだ! 見せてやれ! 悪魔の兵器の力を!」
人間至高主義の血と汗、そして憎しみの結晶を!
ヌィビットの叫びを、合図を聞いたロゼロは一瞬固まりかける。
いいや、今まで鎮静化していた感情が再熱したの方がいいだろう。
理由なんて簡単だ。
むしろロゼロ自身言いたくない。聞きたくないことだったから。
ヌィビットの口から放たれた言葉を聞いて、もしやと最悪のことを予想してしまったから……。
そしてそれは――案の定予想通りになってしまう。




