PLAY137 MESSED:Ⅲ(Mobile Soldier and the Armor of Hatred)①
「そう言えば――ウィザードとソードウィザードってどう違うんですか?」
唐突に質問が飛んできた。
それはハンナ達の会話ではない。ましてやショーマ達でもエド達でもない。
もっと詳しく言うと――これは過去の話ではない。現在進行形で話が進んでいる内容で、この話をしている張本人は繰り返して『どうしてなんですか?』と聞いた。
ちょうど休憩に入った人物――エレンに向けて。
◆ ◆
王都ラ・リジューシュ。
そこはこの世界の首都でもあり、ハンナ達視点で言えば『ゲーム世界の大きな都市』とでも言ってもおかしくないほどの大きな都市だ。
王都には『アズール』を統べる王たちの中心的人物――『創成王』が統べている国でもあるが、実際王は水晶越しの会話しかできない状態であることはプレイヤーと一部の重要人物しか知らない。
だがそれを抜いたとしても、王都にはいろんなものが揃っているのだ。
勿論――アルテットミアにもあったギルドも。
アルテットミアでは城が大きなギルドとなっていて、アルテットミア王がギルド長の役割を担っているということもあって大きなギルドではないが、衣食住完備や装備道具販売も完備されているところは一緒だ。
しいて言うならば少しだけ物価が高いところと、休憩できる娯楽室やティールーム、スキルアップのために作られた訓練室があるだけで、他はアルテットミアと同じだ。
初めに言い放たれた言葉はティールームで放たれた言葉であり、その言葉を放ったのはカウンター席に座ってコーヒー (砂糖入り)を飲んでいるモナがコーヒー片手に座ろうとしていたエレンに向けて言い放った簡単な内容だった。
「唐突だな……」
開口聞かれた内容に驚いたエレンは一旦冷静になってカウンター席に座る。
ティールームは現実世界と変わらないコーヒー店と変わらない内装で、モダンな印象で派手さはない。一見すると静かなカフェに見えてしまうだろう。
初見でこのティールームを見たエレンもそう思った。静かなカフェだと思った。
だからこそ落ち着いた雰囲気が辺りを包み込み、疲れを取る。心を癒すものを与えるのだろう。
なおティールームの隣は心身を癒すマッサージルームも完備されているので、疲弊してしまった冒険者 (プレイヤー)にはうってつけの場所になっている。
そんな場所だからこそエレンは王都に来てからティールームの常連になっているが、それはエレンだけではない。
クルーザァーやケビンズもこのティールームの常連になり、もしこれがきっかけでお店を展開してくれたらいいなと思ってしまうほど気に入っている。
そのくらいこの空間が気に入ってしまったエレン。
今日はティールームにいたモナと隣でメロンソーダを頼んで飲んでいたシャイナ。
少し遠くで話をしているティズとララティラ、ダディエルと言う異色のメンバーと一緒にティールームでつかの間の休息を満喫していた時、モナが突然思いついたかのように言ったのが始まりだった。
唐突な質問に対してエレンは考え込みながら座り、手にしているコーヒーに口をつけながら考える。
ウィザードとソードウィザード。
どう違うのか。
純粋にそんな細かい事は考えていなかった。単純にそう言う所属だからと言う理由であまり考えていなかったゆえに、エレンは答えに悩んでしまう。
どう答えた方がいいんだろう……。
と言う気持ちと、純粋に考えれば疑問だなと言う納得が合わさってしまい、少し考える時間が長くなってしまう。
啜る音だけが沈黙に罅を入れているので、無音ではない気まずい空気は出ていないが、啜る音だけでも気まずいものは気まずい。
気まずさを何とかするためにエレンはモナの質問に対して――
「というかどうしてそんなことを突然思ったんだ? 今までそれでやって来たんだから疑問に思うところなんてないだろう? 派生ってことで考えればだけど、どうしてそう思ったんだ?」
と、疑問に対して疑問で返し、その後で納得できるような言葉を返答した。
実際エレンが思っていることは常人ならば普通に思う事だろう。
普通にある設定だからこそこれが普通なんだと思ってしまうもの。
それに対して疑問を持つこと自体――最悪おかしいと断言する人もいるかもしれない内容なのだ。
なら本社に聞けばいいんじゃない? 開発元に聞けばいいんじゃない?
そんな言葉を吐けばすぐに聞く気が失せてしまう様な事を言って考えることを止めさせる人もいる。
だがエレンはそうしなかった。
しない代わりにエレンは敢えて質問を質問で返すということをしたのだ。
どうしてそう思ったのかをモナ本人の口から聞くために。
「純粋に思っただけです。『魔導士』派生で、なんでこの二つは同じなのに違う所属なんだろうって」
「『魔導士』系統ならば同じなんだけど……、違う所属って言っても、武器があるかないかの話しだろう?」
「うーん……」
モナの返答は単純明快なもので、きっとふと疑問に思ったことを口したかのような内容だった。
同じ『魔導士』所属なのだが、なぜ派生して、且つ同じ分類の所属なのだろう。
そんな純粋な疑問に対してエレンは思ったことを口にする。
納得させるつもりはない。
ただ自分なりの答えを出した結果なのだが、それを聞いていたシャイナは呆れたように溜息吐きながらモナ越しにエレンを見て会話を挟んだ。
「武器があるかないかじゃなくて、杖か他の武器かってことじゃないの? 簡単に考えればそうなるじゃん」
「杖か他の武器?」
シャイナの言葉を聞いたモナとエレンは首を傾げる様な声を向けると、それを聞いたシャイナは『そう』と言いながら頷き、足を振子の様に規則正しく、かつ脱力した状態でぶらつかせながら続きを言う。
「だってウィザードって『ザ・魔女』って言うイメージじゃん。杖を使って魔法を放つとかまんまそれ。でもソードウィザードって、ソードって名前がついているだけで剣を使うイメージがあるから、杖を使っているか使っていないかって言う差分? なんじゃないの?」
と言いながらシャイナは近くで話をしているダディエルとララティラ、ティズが座っている場所に視線を向けながら『でしょ? ララティラ』と、突然話を振った。
突然降られた本人たちは驚きながら『え?』と声を上げ、ダディエルに至っては飲んでいたコーヒーを吹いて零してしまうほど降られることに対して想定外だということを見せつけている。
だがこれは仕方がない事かもしれない。
自分達には関係ない。そう思ってしまってもおかしくない中、突然話を振られるのだ。
聞いていなければ『はぁ?』と言う異議の声が出てもおかしくない状況。
その状況を創り上げたシャイナにティズは驚きこそはしているが淡々とした面持ち――感情の起伏が乏しい顔で……。
「突然話を振らないでほしいな……」
と言ってアイスカフェオレをストロー越しで啜る。
ズゾゾゾーッと言う何もない事を知らせる騒音が鼓膜を揺らすが、そんなことお構いなしにシャイナはララティラに向けて聞く。
「突然じゃなければ同話しかければいいのよ。で? どうなのララティラ、これって正解? 不正解?」
「いやうちに聞かんでもええやん……」
返答は御察しの通り。
だがそれではいお終いとはいかず……。
「純粋に思ったことだし、考察でも何でもいいからウィザードとソードウィザードの意見を聞きたいのっ。だってララティラってウィザードで、ダディエルもウィザード。ティズはソードウィザードだから話たら何か分かるじゃん」
「そうだよねっ! だってこうなる前からこの違いに関してネットでも議論されていたし、動画配信者も双方のメリットデメリットのことに関して配信していたもんね!」
「ね? だから雑談と思って。純粋に疑問を口にした人のことを思って」
「あれ? シャイナちゃん――もしかしてさりげなーく私のこと馬鹿にしている?」
純粋に、ただの会話としてシャイナはララティラ達『魔導士』所属もとい話の話題となっているウィザードとソードウィザードの意見を聞こうとしている。
モナもその意見に関して同意見を示し、頷きながら今思い出したことを話してララティラ達の話を聞こうと視線を向ける。
さりげなく放たれたシャイナの言葉に違和感を覚えたが、軽く流される。
シャイナとモナの話を聞き、これは逃げられないと悟ったのか、ララティラはエレンに視線を向けて助け舟を乞うが、舟を出すことは難しいと思ったのだろう。エレンは頭を振って肩を竦める。
純粋は時に恐ろしい。
身を以て、且つ人生で何回か経験しているエレンだからこそ、これは逃れられないことを察してララティラに目を向けて言った。
さながら心の声。
――諦めろ。話を振られたんだからな。
エレンの心の声を察したのか、理解したのかララティラは脱力感溢れる溜息を零す。そんな彼女を見てエレンは心の中で謝罪をしたが、彼自身機になっていないわけではなかったので結果オーライと思っていた。
最初こそ気になっていなかった。
だがこの世界となると戦いのやり方が大きく変わってしまったのだ。
普通の人だが戦える力がある。
力があるならその力を余すことなく使う。
勿論常識の範囲内。勿論悪人視点の使い方ではなく、正しい方向で。
正しい使い方を更に効率よくするためにエレンはララティラの話に耳を傾けることにする。
――実際どう違うのか気になったから聞こう。
――何かと今後の戦闘にも役立つかもしれないしな。
――巻き込んでごめん。
一応心の中で謝罪をした後、ララティラの話を聞くことにするエレン。
もう誰も助けないのか。そんなことを思っているのか、助け舟を求めてララティラはダディエルに視線を向けるが、頭を振って頭を垂らすダディエル。
ティズはそんな彼を見ながらテーブル越しで肩を叩く。
まさに災難と言わんばかりの光景だ。
それを見ながらもララティラはモナに聞かれたこと、そしてシャイナの言葉を聞き入れ、一度深呼吸をしながら彼女は言う。
「うーん。改めて言われると……、ウィザードとソードウィザードの違いってなんやろう……。うちは杖から魔法を放つことができんやけど、実際それってただ球を放っているような感覚やから参考にならんよ」
「球を放つ? ボールを投げるような?」
「ちゃうちゃう。そんなサッカーボールとかバスケットボールのようなもんやない。あーなんて言えばええんやろう……。こう……、えっと」
ララティラが言った言葉にモナは首を傾げて質問を投げかけるが、ララティラはその言葉を否定して、説明の試行錯誤を脳内で組み立てながら正解を導きだそうとする。
自分の胸の前で空を掴んだり、空中で何かをこねているような動作は彼女の『わかりやすい説明』を確立させるためのイメージ。
頭では理解できているが、言葉にすると難しい。
それを体現している光景にエレンは内心……。
――空中でパン生地こねている?
と、少しだけ笑いそうになったが、そんな気まずい空気を払拭するようにダディエルが人差し指を立て、それをみんなに見せるように彼は言った。
否――唱えた。
「『火』」
唱えた瞬間――ぼっと指の先から真っ赤な炎が出る。
それはろうそくの火の様に小さく、微風でゆらゆらと揺れ動く、か細くも熱く、儚さをにおわせる火。
小さいそれを視界に入れたエレンたちは一瞬思考が止まりそうな空気を感じたが、それを無視してダディエルは言った。
「多分そこにいる嬢ちゃんはこう言いたいんだ。俺達ウィザードが放っている魔法とソードウィザードの魔法が決定的に違うところがある。俺達ウィザードは魔法そのものを放っているような感覚なんだ」
「魔法そのもの? 火だったら火とか? そんなのソードウィザードだってしてるじゃん」
「ああ、厳密にいうと、俺達は魔法と言う名の弾を放っているって言う感じで、ソードウィザードは魔法を纏わせた武器を操っているって言った方がいい」
「魔法を纏った攻撃と、魔法弾……」
「ああ。纏うということは武器の性能を活かしたまま魔法を使う。ハクが使う糸は細く、拘束にも長け、且つ切れ味もいい。それに魔法攻撃が加わると、攻撃どころか切断だってできる。最悪切断部分から魔法による追加攻撃もできる」
「グロイ」
「お前が聞いたんだろうが鎌娘。俺達ウィザードは確かに魔法使いの様に魔法の弾を放つことができる。それは魔力をエネルギーにして手を介して放っているような感覚だな。拳銃にすると、俺達は拳銃のトリガー部分。魔法は玉って思ったらわかりやすいかもしれない」
「ああっ! よくある波動をどーんって感じのですか?」
「………まぁ、そんな感じと思ってくれ。逆にソードウィザードは武器の性能次第で変わる感じだ。武器の力次第で変わる。武器と言う器次第で、ソードウィザードは化けることができる」
ダディエルの話は分かりやすいものだった。
つまりウィザードは魔法を弾に見立てて発動し、それを放つというスタイル。
ソードウィザードは武器に魔法を纏わせて、武器を介して戦うというスタイルであると。
わかりやすく言葉にしたダディエルだったが、それを更にわかりやすく理解したうえでモナは手を叩きながら言うと、ダディエルはそれ以上追及はしなかった。
いいや――まぁそっちもわかりやすいからいいか。と流したの方が正しいだろう。
ダディエルの話を聞いてティズは何かに気付いたかのような顔で『確かに』と言い、自分が持っている短剣を指でなぞりながら話に入り込む。
「俺もそんな感じで魔法放っている。剣先に魔法を込めて、それを纏わせるような感覚なんだ。魔法を放つだけの方法もいいかもしれない。でも纏わせて戦うって、結構色んな人もしているよね」
「あーシノビとかソードマスターとか?」
ティズの言葉を聞いてシャイナは脳裏に思い出した口が悪い忍者と女嫌いの蜥蜴のことを思い出して少し考えると、彼女はティズの意見に『確かに……』と小さく呟く。
呟いた後で続けてこう言う。
「『闇纏刀』とか、『チェインスラッシュ』だっけ? あれも魔法の一種だよね? そう思うと魔法の幅がどんどん広くなっていくから結果が見えない……」
「一応『チェインスラッシュ』は魔法を放った『魔導士』所属の力を借りて連続攻撃を繰り出すスキルだから、『チェインスラッシュ』は厳密には魔法攻撃じゃない」
「追撃メインみたいな感じ?」
「んでシノビが使う『纏刀』系統の技は確かに属性攻撃だ。これは急所狙いを重点に置いた攻撃で、言うほど攻撃力はない。『火』で言うと、ウィザードの『火』が一なら、シノビの『火』は十分の一。もっと魔法攻撃を使いたい、魔法攻撃を上げたいなら『魔導士』の方がいいな」
俺経験だが、『戦士』で魔法攻撃はそんなに大きいダメージにならない。
シャイナの言葉に対してダディエルは淡々と返答をしていく。
まさに模範解答。
まさに教師の様に応えていくその様子に、ティズとモナ、シャイナは感動と驚きの声を小さく出しながら拍手をしてしまった。
三人の「「「おー………」」」と言う声を聞きながらダディエルは困った顔をして「なんで拍手?」と言ってしまう。
だがダディエルが教えてくれたことはまさに教師の様なわかりやすい内容。
それを聞いていたエレン自身驚きながらわかりやすいと心の中で褒め、ララティラは「わかりやすっ」と言い、興奮冷め止まない状況で畳み掛けるように彼女は続けてダディエルに聞く。
なぜここまで詳しいのか。
そこに関してあまり気にも留めずに――
「なら、魔女も同じなんか? 魔祖次第で化ける的な?」
「あぁ……、そこに関してはマティリーナさんから聞いたな」
ララティラの言葉を聞いてダディエルは思い出したかのように言うと、残っているコーヒーを飲み干し、空になったコップを置いた後言った。
今まさに別の場所で魔女相手に戦っている人たちのことなど知らず、ダディエルはマティリーナから聞いたことを思い出して言う。
「魔女は型にはまる魔法じゃない。魔女の魔法は想像と努力次第で跳ね上がる力で…………」
攻撃する術を編み出すことができれば甚振る術も思いつく。
防御の術を編み出したなら、食う術も思いつく。
魔女の力は恐ろしい力であることを忘れるな。




