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PLAY136 MESSED:Ⅱ(Valkyries and tattoos)⑤

 蓬はソードウィザードと言う所属であるが、シェーラやみゅんみゅん、ティズやハクとは違った武器を使っている。


 それは刺青。


 彼女の両腕に彫られている八つの刺青。


 いつぞやか彼女は刺青を使った攻撃をしただろう。


 きっとそれはアズールの世界の人からすれば異常に見えてしまうかもしれない。


 そして現実でもあまり見ないかもしれない。もしくは見ているが印象は様々かもしれない。


 印象などは人それぞれであり、その感情に関して確定の言葉をかけることはしない。


 だが、蓬にとってそれは――人生の一部。


 自分の人生になくてはならない存在だった。



 ◆     ◆



 現実世界の蓬はとある特殊な仕事をしていた。


 その市議とは普通の仕事とは違い、世間の見る目がはっきりわかってしまう職種。


 なにより――人生を変えてしまうかもしれない職業についていた。


 結論から言うと……、蓬は()()である。


 彫師は簡潔に言うと刺青を入れる職人であり、タトゥーアーティストと言えばわかりやすいかもしれない。


 その職業についている蓬は、刺青もおしゃれなタトゥーも請け負う職人だ。


 俗にいう『二刀流』


 その職業に蓬は誇りを持ち、命を捧げていた。


 自分の父が遺した生きた軌跡を繋ぐために、蓬は彫師として人生を謳歌していた。


 だが、最初からこうだったわけではない。最初から彫師になろうとしていた蓬ではない。


 蓬が彫師になった原点は本当に些細な出来事。


 それまで蓬にとって彫師と言う仕事は、嫌悪しかない仕事だった。


 正直彫師はしたくないという気持ちしかなかった。


 彫師は人の体に刺青と言う消せない絵を残す仕事で、請け負った後すぐに『消してほしい』と頼まれるような、人にとって不幸しか生まないものだと認識していたから。


 おしゃれとして腕や背中にタトゥーを入れようと店に入ってきた男性は、入れた後はなんとも嬉しそうな顔を父に見せて出ていったが、それから数日経たずにこう言ってきたのだ。


『タトゥーの所為で色んなことができない。すぐに消してくれ』


 なんとも身勝手な言葉。


 自分でお願いしてきたのに、それを自分にとってデメリットでしかないことを知った途端に『消して』とお願いする。


 身勝手以外の言葉が思い浮かばない。


 自分で『入れてほしい』と言ったくせに、勝手すぎて困る。


 そう小さいながら蓬は思っていた。


 因みに、刺青やタトゥーを消すにあたって、完全に消すことができないこともあり、その費用もかなり掛かる。


 だから入れてしまえば自己責任なのだが、それに対して納得しない客がいることも事実で、そんな仕事現場を見ていた蓬は心の中で思っていた。


 いいや誓っていた。


 絶対に親の代を継がないと。


 そう決めていたのだが、それを変えてしまう出来事が起きたのだ。


 本当に些細な事で、その日はとある客が来たのだ。父曰く――父の人生を変えた恩人らしく、その人は刺青の色直しのために通っているひとだった。


 蓬の記憶の中のその人は――黒い着物を着ている中年の男性だが、一般的に見る中年男性とは違う印象だった。


 老いた彫の深いしわ、黒であった頭髪は灰色になっている男性で、胴体には大きな傷跡が、両の手に残る無数の傷跡が着物越しから見えていた。


 それだけでも普通とは違うことは認識できる。だがそれ以上に蓬は『この人は普通じゃない』ことを認識することができた。


 認識の先は――眼。


 普通の人とは違う目の威圧。


 それは何かを経験しないとなることができないような、威圧的で何かを背負っているかのような、芯が太い目。


 恐怖が勝りそうなその眼だった子供視点のその目は、今にして思うと頼もしいという感情にさせてしまう様な、そんな安心感がこもった真っ黒い瞳だった。


 そんな人が父の知り合いで、父の恩人であることに驚いたが、その男は父に『いつものを頼むな』と言い、後ろで見ていた小さい蓬を見て、彼は地面に膝を付いて蓬に向かって言ったのだ。


 先ほどの威圧の目ではない。父がよくする強くて優しい目を向け、手招きをしながらこう言ったのだ。


『お嬢ちゃん、少し話をしないか?』


 男の音色はとても穏やかで、見た目とは裏腹の言動に困惑していた蓬。しかし子供故の好奇心に負けてしまい、蓬は頷いて男の近くで座り、色直しを行っている男のことを見ながら他愛もない話をした。


 父は真剣な目つきで色直しをしつつ、蓬と話をしている男の話に入りながら仕事をこなす。


 一見すれば異様な光景かもしれないが、その異様さが気にならないほど蓬は男の話に集中していた。


 父も色直しに集中し、男は蓬と父に自分のことを話すことに集中する。


 色んな集中は静かな空間を作り、外の雑音などないかのように時間が溶ける。


 集中するというのはそう言う事で、実際あの時の蓬はその時間が遅くなったかのかと思ってしまったほどだ。


 色直しをしている最中、蓬は男の話に耳を傾ける。


 男は父にとって恩人であり、世間一般で気に言えば一般人とは違う世界で生きる人間――いうなれば反社会的勢力にいる上位の人間。


 勢力のトップクラスに位置する人間と言っていた。


 その時の蓬はどんな人なんだろう。と言うない知識を振り絞り考えていたのをよく覚えている。


 まだわからない言葉に対してない知識を振り絞っても回答は出ない。それでも考えていた自分に滑稽だと思ってしまったのは本音だ。


 自分の行いを滑稽と思う。思い出あるあるだ。


 ない知識の中でどれが当たっているのかと思いながら、蓬はふと――色直しをしている父の手に視線が向き、そして男の背中に描かれているそれを見て、言葉を失ってしまった。


 あまりに綺麗で、あまりに迫力がある背中の刺青をみて、蓬は言葉を発することを忘れてしまった。


 今まで見てきた刺青とは違う、迫力あるそれを見て、感動してしまった。


 今の今まで嫌な職業と罵っていた作品の凄さ、そして圧巻するその絵に、魅入られてしまった瞬間だった。


 男の背に刻まれていたものは――鳳凰。


 よく聞く不死の鳥と言われている空想上の存在。


 四神が一体の存在である。


 男の背に書かれた鳳凰は赤と橙の翼で描かれており、鋭い眼光がまるで生きているのかと思わせる様な絵になっている。


 今にも動き出しそうなその刺青を見て、時間が止まったかのような感覚を体感した蓬だったが、男の言葉によって現実に引き戻される。


 現在進行形で父は色を直している。


『お嬢ちゃん――この鳥は何の鳥だと思う?』

 

 そんな父の施術を受けながら男は言った。


 刺青は相当痛い。痛いのだが――それを一切見せない音色と穏やかな面持ちで言ったのだ。


 質問と言う名のそれなのだが、それを聞いた蓬は首を振って『しらない』と答え、その後で『きれいなとりさんだと思う』と言うと、その言葉を聞いて男は軽く笑う。


『きれいなとりさん。と言うのは概ね正しいな。この鳥は確かにきれいだ。そしてすごい鳥さんなんだ』

『すごい?』

『ああ』


 そう蓬に言うと、男は視線を横に向ける。


 目だけを横に……、いいや、視線を背中に刻まれている()()に向けて――


『おじさんな、実は昔はこの鳥さんじゃなかったんだ。前に刻んだものを消して、新しく入れたものがこれなんだ。お父さんに頭を下げてお願いしてね』

『あの時は驚きましたよ。まさか本当に頭を下げてまで頼むんですから、正直生きた心地というか、なぜそこまでと思ってしまいましたから』

『はっはっは。それはすまんな。だか――どうしても必要だったんだ。俺が背負う覚悟(もん)はこれじゃない。ってな』


 父も間に入って話をしているが、その顔は本当に焦ったという肝が冷えたようなそれだ。行動を起こした本人は困ったように笑いながら謝っているが、軽い謝罪みたいだ。


 その話に関しては蓬も初めて聞くことだ。


 初めて聞くからこそ新鮮なものを見たかのような潤いを感じ、言葉にできない驚きの目を向けながら男の話に対して『なんで?』と聞くと、男は蓬の言葉を聞いてこう答えた。


 短くもわかりやすい――小さい蓬からすれば難しい言葉で返した。


『それはな、おじさんに守るものはがたくさんできちまったからだ』


 理解できない。


 頭にクエスチョンができる蓬を見て、男はもっと詳しく、子供でも分かるように言葉を選びながら自分の背中を指さして言う。


『いいか? この鳥さんは『鳳凰』っていう名前なんだ』

『ほーおー?』

『ああそうだ。間違えても『おうほう』って言うなよ? 恥ずかしいからな。鳳凰は凄い鳥でな? なんと炎の翼を持っているんだ』

『あつそー。なつたいへんだね』

『おぉ………意外な言葉に逆に俺が驚いちまった。だがこの鳥さんはな、神様で平和を運んでくれる鳥さんなんだ』

『へーわ? 今だってへーわだよ』

『ああ、そうだ。お嬢ちゃんが暮らしている側の世界は平和だ』


 平和。


 言葉の意味を理解している蓬は首を傾げながら――このおじさんは何を言っているんだろうと思い言うと、男は蓬の言葉を聞いて笑みを浮かべてから一旦口を閉じる。


 その笑みは先ほどとは違うもので、どことなく陰りを見せる様な、悲しさを帯びているようなそんな笑みだった。


 小さい蓬はそれを理解していなかった。


 きっと男の素性を知ってしまえばそれを理解していたかもしれないが、小さく、且つ知識があまりないこの時の蓬にとって男の言う言葉をよく理解することができなかった。


 一言で言うと簡単な言葉だが意味は難しい。


 その意味を持っている『平和』と言う言葉を吐いた男の言葉に更にわからないと言わんばかりに首を傾げる。


 傾げて男の背中に刻まれている『鳳凰』の刺青を見つめる蓬。


 内心は――何言っているんだろうという理解できないという言葉だけ。


 蓬の心境を察したのか、はたまたはこの反応を何度も見てきたのか、男は閉じた口を再度開いて言った。


『わからんことを言っちまって悪かったな。だがな……、これだけは分かってほしい』


 これは――おじさんの目標みたいなもんなんだ。


 目標。


 それは小さい蓬も理解したみたいで、わかった時の閃いた顔をして男に言う。


『それって、学校で立てる今日一日はこれをがんばりましょうって言うやつ?』

『ははは。そうだな。それに近いが、おじさんの目標はずっと続く目標なんだよ。一日で終わる様なものじゃない。おじさんが動けなくなるまで続く目標なんだ』

『どういうこと? おじさんがうごかなくなるって……、おじさんがお外に出なくなったらなの?』

『外に出れずとも、本当に動けなくなるまで、ずっとおじさんはこの目標を背にして生きていくってことだ』


 男の言葉は小さい子供にとってすればわからないことばかりかもしれない。


 後少しだけ大人になれば分かるかもしれない内容は小さな蓬には難しすぎる内容だった。


 それを理解した男は再度背中の刺青を指さしながら『お嬢ちゃん。少しだけ友達に自慢できることを話そう』と言うと、男は続けて言う。


 自分の背に刻まれている覚悟の意味を――


『この鳳凰は不老長寿の鳥でな、中国じゃ鳳凰が現れると平和が訪れるって話があるんだ』

『へぇー、じゃぁすごい力をもっているとりさんなんだね』

『ああそうだ。鳳凰が持っている力は不老長寿だけではない。平和にする力と、お父さんとお母さんがずっと仲良しにしてくれるおまじないを掛けることができるんだ』

『ほーおーやばいじゃん』

『ああ――そうだ。だからおじさんは()()()()()()()()()()()()()()

『?』


 男は続ける。


 蓬の疑問に対して丁寧に、言葉を選び、答えて――


『残念なことに、お嬢ちゃんが想像している俺の仕事先は、そんな明るいところじゃない。ブラックどころの話しじゃない。そんな仕事をしているせいか、おじさんは怖くなっちまったんだ』

『なにがこわいの? ゆーれい? まさか……、ゾンビッ?』

『ゾンビは驚きだなぁっ! 嬢ちゃんゾンビ映画を見て怖くなった口だな?』

『………………………』

『まぁ、確かにゾンビは怖いな。幽霊も怖いが、もっと怖いのは――人間だ』

『?』

『人間は凄い生き物で、怖い生き物だ。勿論嬢ちゃんや嬢ちゃんのお父さんは怖くないぞ。むしろすごいと思っている。すごいと思っているからこそ、お嬢ちゃん達家族を失いたくないのが本音で、俺はその本音を悪い人間の盾にされちまったことがある』

『え? どういうこと?』


 子供ながらに感じてしまう悍ましい内容。


 かなり緩和されているかもしれない。かなりマイルドになっているかもしれないが、それでも蓬は男の声色を聞いて、これは重い話だと、悲しい話だと理解してしまった。


 心配になってしまう様なその内容に男は蓬に頭に手を置き、困った笑みを浮かべて『すまんな。こんな思い話をして』と言うと、男は蓬の頭から手を離してこう言った。


『だから』と言った後で――己の肩に手をやりながら……。


『おじさんは守ることにしたんだ。この背に刻まれている鳳凰は、おじさんの気持ちそのなんだ』

『気持ち……?』

『ああ、刺青の鳳凰は『優美、崇拝、平和、夫婦円満』の意味を持っている。一応言っておくが、わからない単語はお父さんやお母さんに聞いたらいいだろうな。その中でも、俺は『平和』と『夫婦円満』に惹かれて刻ませてもらったんだ』

『どうして? へーわがすきなのは分かる。みんななかよくしていた方がうれしいしたのしい。でも、ふーふえんまんはどうして?』

『………嬢ちゃん。お父さんとお母さんは好きだろう?』

『!』


 唐突な質問。


 男が吐いた質問に蓬は驚き、色直しをしている父を一瞥した後、少しだけ視線を下に移して唇を尖らせた後、俯きながら蓬は小さい声で言った。


 恥ずかしい。


 そんなことを思いながら蓬は男に向けて――


『………だから?』


 素直ではない返答だが、それを聞いた男は大きな笑い声を上げて、蓬の頭に再度手を置いて乱暴に撫でる。


 わしわしと撫でながら大笑いする男は蓬の返答に対して『そうかそうか! そうかそうか!』と何度も言いながら犬を愛でるように撫でまわす。


 撫でられている蓬は髪が乱れる。且つ痛い撫で方に驚きながら『痛いからやめてっ!』と子供なりの拒絶を放つ。


 だが所詮は子供なので、そんな言葉なんて聞く耳持たずに男は撫でまわしていたが……。


『親っさん。そろそろやめていただきたい。線乱れちゃいます』


 ここで父の助け舟が放たれた。


 助け船は効果を発揮した様子で、父の言葉を聞いて男ははたっと気付いた顔をした後で蓬に過ちながら頭から手を離す。


 内心――『おやっさん』と言う言葉に違和感を覚えた蓬だったが、そんな蓬に男は言った。


『まぁ……、そう言う事だ』


 簡潔にまとめられた言葉。


 それを聞いて、一体何がそう言う事なんだと蓬は思ったが、蓬の疑問を汲み取り、しっかり納得させるように男は言ったのだ。


 真っ直ぐな、威厳ある優しい目で男は言った。


『家族は大切で、宝物では例えることができない――かけがえのないもので、壊れやすい幸せの形なんだ。勿論これが本当に幸せの形で、それ以外が駄目だとは言わんよ。ただ俺は、俺にとっての幸せはこれなんだ。一人でも欠けてしまえば幸せは悲しみに変わってしまう。それを失いたくない臆病者だから、この刺青に力を貸してもらっている』


 ささやかな平和を作る。


 それがこれを背負った理由だ。


 蓬は男の言葉を聞きながら首を傾げてしまい、言っていることに対して意味わからないと弱々しい言葉を吐くことしかできなかったが、それに対して男は怒るなんてことはしなかった。


 どころか困ったように笑いながら『それもそうかっ。なんせまだ赤ん坊だからな』と冗談交じりに言ってまた頭を撫でる。


 そんな男の行動に蓬は『やめて』と言うと、そんな二人を見て父が呆れるような溜息を吐いて動かないでほしいと力なく吐いた。


 だが、これが蓬にとってのきっかけであり、初めて父の仕事に対してすごいなと思ってしまった。


 色んな人の苦情はあるが、いろんな事情を抱えている人もいるが、それでも父が描いて来た刺青は、今にも動き出しそうなほど美しく、魅入られる何かがあった。


 だからなのか、あれ以来刺青に対しての嫌悪は無くなった。


 それ以来刺青に関しての勉強をして、普通に進学して、父の技術を受け継いで、自分も立派な彫師になる。


 当たり前だけでかけがえのない日常を――平和を噛み締めて生きるのだろう。


 色直しが終わった後、男が蓬に言ったあの約束と共に。


『お嬢ちゃんも、もしこの彫師を受け継ぐなら、ぜひ継いでほしいな。お嬢ちゃんが継いでくれるなら、ぜひ色を直してほしいくらいだ』


 男の言葉に蓬は頷く。


 自分の人生のきっかけを与えてくれた人の願いだ。


 見る目が狭かった自分を変えてくれた人の言葉だ。


 願ったり叶ったりだ。


 そう思って蓬はその時が来るのを父と一緒になって待っていた。


 自分の(誇り)になった彫で色直しできる。


 ()()()()()()()――

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