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PLAY136 MESSED:Ⅱ(Valkyries and tattoos)③

 刺青。


 それは蓬にとって身近にあるもの。


 自分が誇れる唯一のもの。



 ◆     ◆


 

 前方に槍。


 後方に熱。


 それを感じたロゼロはどうすればいいのか、どうやれば自分が生き永らえるかを考えた。


 よくある展開。


 よくある頭をフル回転させた内容だが、今まさにロゼロはその状況に陥っていた。


 世界が今まで以上にスローモーションとなり、より鮮明にいろんなものが見え始める。


 シルヴィから逃げる時も感じたそれがより大きくなる感覚。


 もっと遅くなるような感覚は、この先ないだろうと頭の片隅で思いながらロゼロは動く。


 自分の両の腕を前と後ろに向けるために腰のひねりを酷使し、前後の世界を見るために顔を横に向ける。


 ない右手をシルヴィに、ある左手を背後に向けて、攻撃を止める動作を行おうとする。


 幸い、ロゼロの魔法は魔女の力。


 特殊な力だ。


 こんな状況でも臨機応変にする術はいくつかある。


 ――前と後ろからの攻撃。


 ――前は物理の突き。


 ――背後は熱からして炎系の魔法!


 ――八大魔祖の攻撃は冒険者が最も得意とする魔法攻撃。


 ――()()()と同じ……、いいや、少し違うかもしれないが、それでも使っている魔法の元は一緒だ。


 ロゼロは思う。自分達側にいるあの男のことを思い出し、形は違うが本質は同じであることを認識した後、視界の端で突こうとしているシルヴィのことを見てロゼロは理解する。


 今までの流れ。


 今の今まで自分から距離を詰めてきたことを思い返しながら、ロゼロは理解してきた。


 ――やっぱり、()()()()()()()()()()()


 囮。


 その言葉を思い浮かべ、今の状況とシルヴィがしてきたことに対しての疑問が点と点で繋がったロゼロは続けて思う。


 本当にひとつひとつの疑問が紐解かれて行くような快感を覚えながら……。


 ――この女は俺のことを至近距離で突き刺そうとして俺との距離を詰めていた。


 ――それは至近距離から攻撃は絶大な攻撃力になる。何より避けることは至難になるから。


 ――俺もそうだ。俺だってひと思いに殺したい相手には嬲るなんてことはしない。


 ――そんな趣味はないし、俺的にはそんなことをしている奴ほど性格が不細工だ。


 ――あの悪魔族のイカレ野郎は分からないが、あの女の性格は不細工ではない。逆に真っ直ぐすぎた。


 真っ直ぐだから、俺を一撃で殺そうとして至近距離を狙った。


 真っ直ぐだから正面から迎え撃って、逃げる余裕を壊して俺を殺そうとした。


 だが、それ自体が大きな間違いだった。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()


 ()()()()()()()()()()()()()()()()


 だから俺は読めなかった。


 ロゼロは思った。


 囮を考えたのはシルヴィではない。


 考えたのは別の誰かであることに気付いたのだ。


 気付き、その後でロゼロは誰が計画したのかも芋づる式に紐解いていく。


 それを企てたのは――背後にいる人物だと。


 ――企てたのは、俺があの狂気野郎に気を取られている間だ。

 

 ――あの間に残っていたあの三人は話をして計画を立てたに違いない。


 ――動いたのは俺の魔法『憎悪影人(ゾウオエイジン)』が出てからだ。


 ――あの時、槍の女が防いだ時、もう一人の奴が動いた。


 ――『憎悪影人(ゾウオエイジン)』が覆い被ろうとした時、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、ここまで音を立てずに廻って来た。


 ――だがその間に視界に入ってしまっては元も子もない。


 ――そのために槍女を使った。


 ――簡単な事だった。普通なら、信頼できる仲間ならこんなことを提案しないだろうな……。()()()()()()()()()()()()、そいつはうまく隠れて移動したんだ!


 ――仲間の命よりも自分の奇襲を優先にした作戦。

 

 ――そうでないと辻褄が合わない。


 ――至近距離も俺への攻撃と俺の視界を妨げるという二重の理由で行ったこと。


 ――やっていることは単純だが、本質は狡猾だ。


 狡猾だからこそ……、背後を取ることに固執した。


 背後は致命傷を狙いやすい。


 そうロゼロは思ったが、ここで『はいやられました』と倒れるわけにはいかない。


 これでも『六芒星』幹部として成り上がって来た男。


 マキシファトゥマ王国の生き残りとして、王子としての気位と、血の滲む訓練が彼を創り上げた。こんなことでやられるほど単細胞ではない。


 今できることをする。


 常人でも悪人でもそれは常套手段。


 普通に抗う。


 抗い、負けたくない一心で行おうとした行動こそ……。


 前後の攻撃を防ぎ、その後で攻撃を繰り出すこと!


 ――ならやることは一つ、防ぐ!


 ――その後で、攻撃!


 これしかない。


 ロゼロは出来る限りの打算を頭の中で組み立て、それを実行するために両の手をシルヴィと背後にいるであろう存在に対して向ける。


 シルヴィの方に向けた右手は何もない。


 元々ない手を向けていることにシルヴィは一瞬驚きの目を示し、それを見ていたヌィビットは腹部の傷が塞がるのを待ちながら一言――


「これは……、まさかの荒い防戦をするつもりかな?」


 と、少し驚きのそれを吐く。


 因みに――ヌィビットはクィンクに担がれてコーフィンの近くに来て開いた傷を塞ぐためにじっと座っていた。


 なにせ腹に穴が開くほどの傷を負ってしまったのだ。


 逆にこれで動いてしまえば出血多量になって最悪死んでしまう。


 悪魔族でも死だけは体験したくない。


 しかも全身の血が無くなり、冷たくなって死ぬのはもっと嫌だということで、治るのをじっと待ち、その傍らにはクィンクと彼の影である『轟獣(ビースト・バースダ・)(キング)』がヌィビットのことをいつでも守れるように待機している。


 勿論近くにアイアンプロトもヌィビットの出血と生きていることに恐ろしい眼を向けている。


 不思議と、ボルドに似ていることは言わないでおく………。


 そんな光景を見ながらコーフィンはヌィビットに向けて「荒イ防戦? ドイウコトダ?」と聞くと、その言葉を聞いたヌィビットはコーフィンのことを見て言う。


 肩を竦める動作をし、未だに流れ出ている血を押さえないまま彼は言った。


「荒い防戦は言葉通りだよ。このままだともしかしたらと言うことも考えた方がいい。私もこのままだと血を流したまま戦うことになるな」

「出血多量デ死ナナイデクレ。デキレバ早メニ治シテクレ」


 回復薬イルカ?


 そう言いながらコーフィンは懐に入れてある回復薬を出そうとしたが、それを手で止めて「いや、大丈夫だ」とやんわりと断りを入れるヌィビット。


 ドコガ大丈夫ナンダ。


 そう言いたかったが、それを指摘したところでヌィビットが『それもそうだな』と言って戦うことを止めないことは十分理解している。


 逆に災いのような厄介を引き込むことも行動してきてわかっているコーフィンは、それ以上言わずに回復や木を取る動作を止めて視線をシルヴィに向ける。


 否――厳密には向けようとした。


 向けようとしたその時、ヌィビットがコーフィンの行動を止めるかのように言葉を零したのだ。


「だが――」


 そう言い、コーフィンとクィンクの視線を奪った後、ヌィビットは治りかけの腹を指で撫でながら言った。


 治りかけであるが故に感触は最悪だ。


 そしてまだ出ている。


 塞ぐにも時間がかかってしまうが、最悪の感触具合を見てヌィビットは思ったのだ。


 ()()()()()()()()


 と――


 そう思いながらヌィビットは言った。


 いいや――これは宣言。


 戦うとなれば狙うは勝利。


 それを胸にヌィビットは断言した。


「ここで本気を出さないことはとてつもない侮辱行為だ。我々も本気で相手になり、完膚なきまでに倒そうではないか」


 そう言って視線をとある方向に向ける。


 向けた視線を追いながらクィンクとコーフィンは視線と共に首を動かし、ヌィビットの視線の先であろうその場所を見て、即納得する。


 ヌィビットが言いたいことは()()だと。


 そう思うと同時に二人はヌィビットのことを見て頷き、宣言を行うことを決める。


 視線の先の張本人でもあるアイアンプロトは、首を傾げながらその光景を見ていたが、すぐに手を叩いて『なルホド!』とヌィビットが言いたいことを理解したのは頷いてから五秒後のことである。


 この状況が繰り広げられている最中、ロゼロは攻撃を繰り出して来るシルヴィと背後にいるであろう蓬に攻防の手段を繰り出そうと、左手と無い右手から黒い液体をどろりと出す。


 出したそれを見てシルヴィは攻撃が来ると予想し、刺そうとしていたその手を止めて後退した。


 先ほどとは違った行動だが、これは賢明な判断だ。


 賢明であることに関してロゼロは心の中でシルヴィのことを『頭が回る女だ』と思い、同時に勝機を見出した。


 これなら勝てる。


 二つの同時攻撃をしなくなったということは、一点に集中することができる。


 そしてその攻撃は――自分に奇襲を仕掛けてきた背後に奴に繰り出すことができるのだから。


「っは」


 ロゼロはほくそ笑んだ。


 どうやら自分に運が回ってきたのかもしれない。


 それもほんの少しの運だが、それでも運が回ってきたことに関してはいい風が吹いたと思ってしまう。


 今まで不運と言う人生しか歩まなかったからか……、それとも単に仲間達からの信頼が薄いのかもしれないが、それでもロゼロは遠くなったシルヴィを視界から外し、そのまま背後に視線を向け、攻撃態勢を構える。


 腰に捻りを更に酷使し、そのまま背後に向けて体を向けて回り、両の手を背後にいるであろうその人物に向けて構える。


 掌を見せつけるようにするその姿は、さながら腕の銃。


 どろりと出た黒い液体がない腕とある腕に絡みつき、液体だったそれが形を成して姿を現す。


 そう――さながらレールガンだ。


 レールガンの要領でロゼロは背後にいるであろう人物に向けて――蓬に向けて最大限………とは言わずとも、威力の高い攻撃を繰り出そうとする。


 ――純粋の魔法の弾丸だが、威力増強のために濃密にしている。


 ――これで背後の奴も、重傷では済まされない。


 ――即死はしないが、ただでは済まないだろう。


 ――俺もあまりこんなことはしないが……。


 そう思いながらロゼロは背後にいる存在に向けて――いるであろう蓬に向けて自分の『憎しみ』の力を放とうとした。


 放とうと。


 放とうと………しようとしたが。


「………あ?」


 ロゼロは呆けた声を出してしまう。


 呆けて、目を点にした状態でロゼロは自分の背後の景色を見つめる。


 そう――景色だ。


 洞窟と言う世界しかない――誰もいないその世界を見て、一体どこにいるのかと目を動かそうとした時……。


『もしかして――僕をお探し?』


 洞窟のような世界に声が聞こえた。


 シルヴィでも、ヌィビットでも、クィンクでもない。


 その声は聞いたことがない声で、その声の主を消去法で導き出したロゼロはすぐに声の主が背後にいた人物だと導き出した。


 導き、そして声がどこから聞こえているのかと確認しようとしたロゼロだが、声はロゼロの焦りと困惑を嘲笑う様に言う。


 隠れているせいで、反響の所為でどこにいるのかわからないロゼロをしり目に――


『僕は今どこかに隠れているけど、僕はちゃんと君に置いて隠れたから――僕を探しても君は結果的に攻撃が当たることになる。そこはご了承くださいね』

「攻撃……? どこにあてたんだ? 俺はまだ……」

『まぁ、わからないか………。わからないのは無理もないよ』


 だって――


 そう言って声は言う。


 隠れたまま嘲るそれを剥き出しにし、ロゼロの困惑を遠目で見ながら言った。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()――


『僕の攻撃は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

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