PLAY14 アムスノーム④
「んじゃ。お嬢ちゃんは……。ん?」
ガーディさんはずぃっと私を見て、凝視して、座っている私の頭のてっぺんから足のつま先までじぃーっと見ているガーディさん。
それを見て、私は少し怖くなって「あ、あの……」と聞いてしまった。
するとガーディさんは私を見て……、真剣な目つきと音色でこう聞いた。
「嬢ちゃん……。あんた、防具あんまりないみたいだな……」
「へ?」
その言葉に私はきょとんっとして声を上げて頷くと……、ガーディさんは頭を抱えながら「たはーっ」と、まるで『やっぱりなぁー!』と言った感じで頭を抱えてしまった。
それを見た私はおずおずとガーディさんを見ると……、カーディさんは私を見てはっきりと言った。
「それはそうなるわ。だって嬢ちゃん、防具と呼べるものを身に着けていない。いうなれば丸腰だ」
「「え、ええぇっ!?」」
その言葉に、私は声を失いながら驚いたけど、それ以上に驚いたのはアキにぃとキョウヤさんだった。
「え? 何言ってんだおっさん!」
「そんなことありえないでしょっ!? というかハンナに聞きたい! なんで!?」
そうアキにぃは私の肩を掴んで、大慌てになりながら私を前後に軽く振りながら聞いた。それを聞いて、私はぐわぐわと頭をシャッフルされながら、答える。
「え、えっと……、じ、実はね……。衛生士や、め、メディックの防具、って、あまりなくて……。この服装も、あぅ。あの……、うぅ、これしか、装備と言うか……できなくて……」
「運営に告訴してやる……っ!」
「待たんかいシスコン! というか運営にできたらすぐにそうしたいっ!」
そう言いながら、今にも銃を手に持って外に出そうなアキにぃを掴んで、拘束するキョウヤさん。それを見ていたマティリーナさんは、溜息と共に呆れながら……。
「まさか……異国じゃそう言った衛生士差別ってのがあるのかい? ここじゃすごく希少な所属で、かつ天族でメディック。階級で行くと王宮側近クラスなのに……」
と言った。
……今更だけど、天族のメディックってそんなにすごい所属で種族なんだと、驚いてしまった。
なにせ、MCOではそんなこと一度もなく、回復要因は囮として認識されていたから……。
「うーむ。そうなると……、その『衛生士初期スタイル』しかなかったってことか……。異国じゃそんな差別があるのかね」
ガーディさんは腕を組みながら、椅子をぎぃぎぃと揺りかごのように揺らす。
私はその言葉に対して「えっと、そんなことは」と否定しようとした時、ガーディさんははっと思い出したかのように、すぐにリュックに両手を突っ込んで、そして顔も突っ込みながら、くぐもった声でこういう。
「しかしまぁ、そんなお嬢ちゃんだって、これから過酷な旅をするたびに、防具なしじゃ心もとない。なので、俺からは確か……、えっと……、あれ? 確かこの辺に……」
ガーディさんは足の先までしか見えないくらいリュックに体を入れて探していた……。というか……。リュックに呑みこまれそうになっているガーディさんを見て、私は内心ひやひやしながら見ていた時。
「あ! あった!」
ガーディさんはすぐにずぽんっとリュックから顔を出して、手には白い何かを持っていた。それを「いよっと!」と言いながら広げて、それを私に見せた。
それは白いマントで、下の方は羽のように緩くカーブがかかっているデザインだ。
腕にも通せるところがあり、胸のところで結べるその結び目は青いリボン。リボンのところには白い金属で作られた、瘴輝石をはめ込むところがあった。それも五つ。丈も私の身長に合いそうなそれだった。
「それは……?」
私が聞くとガーディさんはそれを見せながらこう言う。
「これは『天使の羽衣』っていう、鎖帷子だ。これを着ている時は硬力1で、知力も4上がる。瘴輝石も五つ嵌めることができる優れたアークティクファクトだ」
「羽衣か……」
「ハンナにピッタリな防具だね」
「羽衣……」
私はそれを見て、ガーディさんを見て聞く。
「あの、着てみてもいいですか?」
その言葉にガーディさんはうんうんっと頷きながら笑顔で――
「試着だな! いいぜ!」
と嬉しそうに言って、私にその防具を手渡した。
私は慎重に、それに手を通しながら着ていく。
なんだろう……。これを着ていると、なんだか懐かしい感じがする……。
現実としての私ではなく……、そう。それは、天族としての私が、懐かしんでいるような……。
ぱさりと着替え終えて、私はそれを見て、くるんっと一回回転して、着心地を確かめる。
ガーディさんが用意したのだろう、その全身が見える鏡で前を見て、後ろを見て確認する……。
「どうだい?」
そうマティリーナさんが聞いてきた。私はそれを聞いて、鏡を見ながら……、私は、控えめに微笑んで……。
「いい、です」と、嬉しそうに言った。
「すごく……、着やすいのです。すごく……、可愛いです」
そう言うと、ガーディさんは「決まりだな」と、嬉しそうに言った。
ガーディさんは流れる動作でマティリーナさんに近付いて「それじゃ」と小さくいうと、マティリーナさんはすっと何かを手渡す。
それを手に取って、ガーディさんはそのまま来ている私に近付いて、手に持っていたそれをかちりと、リボンの中央の、嵌めるところに入れる。
それを見た私は、そのリボンのところを見ると……、そこに嵌められたものを見て目を見開いて驚いた。
エディレスの瘴輝石が、少し大きめのダイヤモンドのようなカットの形で嵌められていたのだ。はたから見れば……エメラルドのような輝きだ。
それを見て、「わぁ」と歓喜の声を上げた私を見てなのか、マティリーナさんはすっと立ち上がる音を立てて言う。
「さて。これでアークティクファクトは一時完成だ」
アキにぃのアサルトライフルとキョウヤさんのチョーカーを手にして強気な笑みを浮かべているマティリーナさん。それを聞いて、キョウヤさんは首を傾げながら「一時?」と聞くと、ガーディさんは言葉をつなぐように、私達とマティリーナさんの間に割りこみながら陽気にこう言った。
「見ただろ? アークティクファクトの、瘴輝石を入れるところが何個かあるの。それは一つだけじゃないってことだ。組み合わせ次第で攻撃方法や防御方法も変わる。戦闘でも大いに役立つような組む射合わせがあるかもしれないってことさ。まぁ、攻撃と補助と、サポートって感じで組み込んだ方が、初心者でも使いやすいと思うぜ」
「そうなんですか……」
「スキルの賭け合わせみたいな感じだな。攻撃力上げてからカウンターって感じで」
そうキョウヤさんが腕を組んでふむふむと唸っていると、アキにぃはアサルトライフルの『ホークス』を見て、アキにぃはマティリーナさんに聞く。
「あの……、俺、背中にはライフルしか……」と言うと、マティリーナさんは舌打ちをして手に持っていた空の収納の瘴輝石を、アキにぃに投げた。
それを見たアキにぃは驚きながらもそれを手に取って見る……。
マティリーナさんはそんなアキにぃを見ながら……。
「それに入れておけばいい。使い方、わかるだろ?」
そうマティリーナさんは言った。
アキにぃはじっと、その瘴輝石をみて……、そして……。
アサルトライフルに近づきながら、すっとそれに近づけて……。小さい声で、言った……。
「あ、ま、マナ……ポケット……『インボックス』」
そう言った瞬間、そのアサルトライフルはまるで掃除機に吸い込まれるかのように、空の瘴輝石の中に『しゅるん』という音を立てて入っていき、そして突然小さく光り出したと思ったら『カチ』という何かを収める時になる音を立てて、だんだん光を小さくしていく……。
それを見ていた私達は、そっとそのアキにぃが持っている瘴輝石を見ると……、その石の中に小さくアサルトライフルが模型のように入っていたのだ。
「すげー! MCOでは武器の複数使用と所持は原則上禁止だったけど、これで戦力大幅アップじゃねえか!」
「アキにぃ……、すごい……」
キョウヤさんと私で、その瘴輝石の使い方を目の当たりにし、そしてすごい武器を手に入れたことに歓喜の声を上げていると、アキにぃは鼻の先を撫でながら「い、いや……別に……」と照れながらそっぽを向いた。
すると……。
「それと、これはおまけ」
マティリーナさんは手に持っていた何かを私達に向けて投げた。
それを見て、キョウヤさんがそれを尻尾で受け取ると、それを再度手に乗せて、私達は見た。
それは……、野球ボールよりは大きく、それでも手に収まるような大きさのボールだった。でも、ボールという言葉では違うという言葉が出るだろう……。
それは機械で作られたもので、銅で作られたかのようなつぎはぎに、一つだけ何かを入れる蓋がついている。とあるところにはルアーのように、半透明な糸が付けられているところもある。
それを見て、キョウヤさんは「なにこれ……?」と疑問の声を出す。それは私達も同じで、一体これは何のために使うのだろうか……。そう思っていると……。
「それはね、圧縮球だ」
「「「こんぷれっくすきゅーぶ?」」」
「コンプレスだよ。その蓋のところに、火とかそう言った瘴輝石を入れると、爆発したり地雷になったりする」
「じ……っ」
地雷。その言葉を聞いて、私はぎゅっと胸の辺りで握り拳を作る。でもマティリーナさんはそんな私を見てか、こつんっと頭を叩く。
「わぷ」
私は変な声を上げて頭を抱えながら上を見上げると、マティリーナさんは肩を竦めて「勘違いするんじゃない」と言って……。
「確かに使い方次第では、人を殺すこともできる。でもね、あんたが持っている瘴輝石なら、救える術にもなるし、その糸はワイヤーを編みこんでいるけど、人を切断するほど細くない。だから括り付ければ救出だってできる。それだって使い方次第で変わるんだ」
それはおまけだ。持っていきな。
マティリーナさんは言って何かを思い出したかのように上を見上げると、ガーディさんを見てこう言う。
「そうだ。あんた留守番しててくれよ」
「え? あ、ああ……そう言うことね」
いいよーい。と、ガーディさんは手を振って陽気に答えると、マティリーナさんは私達を見て「行くよ」と言った。
「へ? どこに?」
アキにぃはその言葉に首を傾げながら聞くと、マティリーナさんは当たり前のようにこう答えた。
「何って、アムスノーム国王に会うんだろ? ライジンの浄化を頼みに」
そうマティリーナさんは。ギルドのドアを開けながら、そう言った。
□ □
「いやー……。色んなことがありすぎて忘れかけていたわ……」
そう言いながら、チョーカーを付けて歩くキョウヤさん。
今私達は、このアムスノームの中央にあるお城の中に入って、王様がいる謁見の間に向かっていた。
白で統一されているつくりに、赤いカーペットがまるで西洋のそれを彷彿とさせている。
マティリーナさんを先頭に、ヘルナイトさんとも合流して歩いていた。私が鎖帷子を着ているのを見たヘルナイトさんは、一瞬驚いていたけど……「よく似合っている」と褒めてくれたことに対して、内心嬉しくなったことは、心にしまっておこう。
そんなことを話しながら、私達は歩みを止めずに進む。
「忘れてはいけないことなんだけど……」と、アキにぃは呆れながら言う。私は魔導液晶を開いて、更新された情報がないかを確認する。
すると、情報が更新されていた。
新情報更新
『八神』が一体――ライジンの情報更新。
今現在、ライジンはアムスノームの霊廟ダンジョン『斬首霊廟』の最深部にて潜伏中。
ダンジョンの詳細については魔導液晶地図にて詳細を記す。
「……霊廟……、斬首」
その言葉を聞いて、私はぞっと身震いをしてしまった。
いかにも嫌な言葉が並んでいて、そして惨い言葉も入っていたのだから、怖くなって当たり前だと思う……。ホラーが嫌いな人には……、最悪のダンジョンの名前だろう……。
「あの、この魔導液晶に書かれているダンジョンって……」と言いながら、アキにぃは青ざめながら震える指で私が持っている魔導液晶を指さしながら、泣きそうな音色でマティリーナさんに聞いた。
マティリーナさんはそれを聞いて、私達の方を向き、横目で見ながらこう言った。
「ああ、霊廟ってのは墓みたいなもんだ。そこには代々の王族の亡骸や、処刑に合った貴族や反乱分子もそこで眠っている。その霊廟を守っているのがライジン様ってことなんだよ」
アキにぃはそれを聞いて、マティリーナさんに一言……。
「……幽霊、出ます?」
「なんだいあんた。冒険者の癖に幽霊が怖いってのかい?」
呆れたね。
そんな言葉にアキにぃはぎょっと驚いて、頭をぶんぶんっと振りながら早口で――
「そそそそそ! じょんなごと……っっ!」
「いや分かりやすっ。お前なに? ホラー映画とか苦手な方なの?」
「そそそっ! そう言うキョウヤはっ!? ハンナはっ!?」
「オレはヘーキ。なにせダチがそう言ったものをよくレンタルで借りていたから」
「私はその、所属柄としては……、怖くない」
「しまったっ! 二人に話を振った俺がバカだったっっ!」
そう言ってアキにぃは頭を抱えたけど、ヘルナイトさんを見てアキにぃは「ヘルナイトはっ!?」と淡い希望を持って聞いた。
けど……。
「平気だ。なにせ、魔王族には幽霊に近い幽鬼魔王族がいるからな」
「くっそぉっ!」
アキにぃは膝から崩れ落ちて落胆してしまった。
それを見た私とヘルナイトさんは互いに顔を見合わせて……。
「なにか、悪い事でもしたか?」
「わ、わかりません……」と言っていると……。
「ほれ。無駄話はそれくらいにしておきな」
と、マティリーナさんは大きな扉の前で立ち止まって私達を呼ぶ。私達はそのドアを見た。
あの鉄の門よりも頑丈そうな、銀で出来た扉が私達を見降ろすかのように悠然と佇んでいた。
それを見て、私は思わず「大きい」と言ってしまう。
「前はこんなものはなかったはずだ」
そうヘルナイトさんが言うけど、マティリーナさんは溜息交じりに――
「時代というか、王様の疑心暗鬼は強まるばかりで、こう言ったことに関しては金を湯水のごとく使う」
「セキュリティに金をかける人みたい……」
そうアキにぃが突っ込んでいると、その門の前にも一人の兵士がいて、槍で私達の進路を遮っていた。
お城の前にも色んなところにも兵士がいたけど、あれは何のためにいるんだろう……?
警備にしては、外が疎かな気がする……。
そう思っていると、銀で出来たドアが重い音を立てながらゆっくりと開いた。
ドアの向こうを見た私はぎゅっと口を噤んで、王様がいる謁見の間を見た。
そして――目を疑った。