PLAY135 MESSED:Ⅰ(Quality of hatred)①
みんながみんな私達のことを信じて先に行けと言ってくれて、その言葉を信じている自分がいることは確か。
みんなに先に行けと言われたら、あんなに真っ直ぐな目で言われてしまったら、断るなんてできない。
そもそも信じてくれている。信じて私達に任せようとしていることに関してはすごく嬉しい気持ちもある。
あの時、監獄街マドゥードナでも私のことを信じてくれたヘルナイトさんと同じ。信じてくれたことに対して裏切るなんてことはしたくない。
信じてくれた人の想いを背負って、前に進む。
王道に聞こえる様な事だけど、私はそうしたい。
みんなが信じてくれたんだ。私も信じて前に進んで、できる限りのことをしたい。
そう思ったから、私は任せようと思った。
勿論アキにぃ、キョウヤさん、シェーラちゃん、虎次郎さん、ヘルナイトさんも同じだ。
でも、一人だけ違う。
一人だけみんなの想いを、気持ちを受け取っている素振りをして、フリをして感情を優先している人がいた。
勿論『それは駄目』とは言えないし、その人の事情もあるから気持ちを抑えてみんなに合わせろなんて言わない。
言わないけど、正直その人のもしゃもしゃを見た私は率直に思い、聞いてしまった。
どうしてその感情が出ているの? 一体この先に何があるの?
そんな感情を浮き彫りにしているその人に向けて、私は聞く。
純粋な疑問として――
「な、なんでそんなに急いでいるんですか……っ?」
□ □
「なぜそんなことを聞くんだ」
私の言葉に対してアオハさんは聞き返した。
現在私達はヌィビットさん、エドさん、しょーちゃん達と別行動している。
みんながみんな『風獣の神殿』内にいる『六芒星』幹部相手に戦うことになってしまい、ヌィビットさんも『後のことは任せて先に行け』と言って私達を送り出した。
送り出したことに感謝しつつ、現在私達は走っている。
暗くて明かりなんてない『風獣の神殿』内部を。
どこに何があるかなんて一寸先しか見えない世界を走りながら――
順番はアオハさんを筆頭にして、私とシェーラちゃんを抱えているヘルナイトさん。
その後ろからアキにぃとキョウヤさん、最後に虎次郎さんと言う順番で走っている (虎次郎さん曰く『殿なら儂の専売特許だな』らしく、誰よりも先に率先して後ろを走っています。自信満々な面持ちで)。
勿論私とシェーラちゃんはヘルナイトさんの腕の中で横抱き状態。
もう何度目になるのかわからないけど、慣れてしまった……。
シェーラちゃんに至ってはもう騒がなくなってしまい。挙句の果てには溜息も儚くなってしまった……。
そんな状態で私はあの時――ヌィビットさんが『先に行け』と言われた時のことを思い出し、あの時見えたことに関してアオハさんに聞いて見た。
純粋な気持ちで、率直な疑問として聞いた私の言葉に、私達の前を走っているアオハさんは振り向かずに返答した結果が『なぜそんなことを聞くんだ』です。
結局、なんで? と言う質問に対しての質問になっちゃったけど……。
でも、その疑問に対してだめだと思ったのか、アオハさんは少しだけ考える仕草をしてからすぐに訂正してこう答えた。
「どうして焦っていると思ったんだ?」
………やっぱり疑問で返されちゃったけど。
そんなアオハさんの言葉、私は少しだけ上を向いて思考を整理して、考えをまとめてからアオハさんに言う。
勿論もしゃもしゃのことは、初対面の人に言っても理解できないことを踏まえて。
「焦っていると思ったのは、直感ですね。私……、自慢じゃないですけど、人の感情がある程度わかってしまうんです。だからアオハさんが焦っている様子を見て、どうしてそんなに焦っているんだろうって素直に思い聞いてみただけなんですけど、言いたくなかったら言いたくないで」
いいです。
そう言ってこの話を終わらせようとした。
今になって考えると、これは人の事情に首を突っ込んでいるのと同じだよね……? と、話しながらふと思ってしまったので、これ以上は話したくなかったら言わなくてもいいと慌てて手を振りながら言おうとした。
近くで聞いていたシェーラちゃんは小さな声で……。
「あんたが聞こうとしていたことでしょ? だったら聞かなきゃいいじゃない」
と突っ込んでいた……。
本当にその通りです。
そう思いながら言おうとしていたけれど、そんな私の言葉にかぶせる様に、アオハさんは言ったのだ。
そう――私の言葉に対して返答と言うそれで返して……。
「隠しているつもりだったが、見破られていたのか」
「!」
隠しているつもり。
その言葉を言い、驚く私達をよそにアオハさんは足を止める。
走っていた速度をゆっくりと落として、最終的に足を止めた状態でアオハさんは続けて言う。
止まると同時に私達 (私とシェーラちゃん以外)も足を止めてアオハさんの言葉に耳を傾ける。
アオハさんはずっと前を向いている状態で、正直どんな顔をしているのかわからない。
声も変わらない。
言葉につまりもない。
でも私は分かる。
私はもしゃもしゃを見ることができる。
できるからこそ分かってしまった。
アオハさんは今、心の底に秘めている感情を押し殺していることに。
爆発しそうな感情を理性で止めている。
そんなもしゃもしゃを出しながらアオハさんは私達に告げた。
「ここは、俺にとっても因縁深い場所なんだ。と言っても、個人として因縁があるだけで、正直これは独りよがりの考えだ」
「それって……、まさか私怨、というものですか?」
「そうじゃないが、もしかしたらそうなるかもしれない」
アキにぃの言葉に対してアオハさんは曖昧な言葉を返していたけど、きっとこれは本音だと私は思う。
ヘルナイトさんやみんなもそう思っていたに違いない。
そんな中アオハさんは続けて話し続ける。
「覚えているだろう? この神殿には『八神』が一体シルフィードが封印されていると」
「聞いたわよ。ちゃんと記憶しているし、それはあなたが言ったことでしょう?」
シェーラちゃんが腕を組んで頷きながら言うと、アオハさんは「そうだったな」と、少し間を置いてから零して、私達のことを見ず上を向きながら続ける。
何か思いふけっている。それをもしゃもしゃで表し、隠しながら……。
「『八神』が一体シルフィードは子供のように無邪気で、平気で残酷なことをする。心変わりも早く、まるで子供のような神らしい。力の制御もままならない、常に大きな力を放っているような存在が『終焉の瘴気』に当てられ、力の制御ができず、狂気の思うが儘に暴走し、この国を、ボロボ空中都市を苦しめていた」
「風は大きくなれば台風となり、海を荒れさせる。自然災害でも天災と言ってもおかしくないほどの威力。空中都市の名を持つ国が大きな被害に遭うのは、遅かれ早かれ直面する問題だったのだろう」
「正直子供みたいな神様だから、加減も分からねーことも相まって、被害だって大きかったに違いねぇ」
アオハさんの言葉を聞いていた私達にとって、『風』が起こす災害はまさに恐怖そのものだった。
自然界のものは大きくなればなるほど人を傷つけて、命を奪う。
それを聞いたうえで虎次郎さんとキョウヤさんは頷きながらアオハさんのことを見ている。
顔は勿論複雑な顔。悲しさもあるけれど、どう声を掛ければいいのかわからないような困っている顔。
その顔はシェーラちゃんもだし、アキにぃも、私だ。
被害のことに関しても、シルフィードのことに関しても――ドラグーン王は話さなかった。
話さなかったからこそ、今聞いて驚いているし、何よりそんな過去があったなんて、全然知らなかった……。
思わずナヴィちゃんが寝ている帽子を握ってしまう。
ぎゅっと握ると、帽子の中で寝ていたナヴィちゃんが帽子の中で小さな叫び声を上げて帽子から顔を出す。
顔を出して『何が起きた?』と言う困惑のそれをしていたので、私はナヴィちゃんに対して小さな声で『ごめんね』と謝罪を言っていると、アオハさんは話しを続けてこう言う。
私達のことを見ていないからわからないかもしれないこともあって、アオハさんは話しに区切りをつけずに続けて私達に告げる。
キョウヤさんと虎次郎さんの言葉を聞いて――
「自然は種族問わず恵みと生きる力を与え、逆に殺す力を以て多くの命を奪う。あの時のシルフィードは奪うことに快感を覚えていた。そう父は言っていた」
「父……、お父さんですか?」
「ああ」
アオハさんの口から零れた『父』と言う言葉を聞いた私は、お父さんがいたんだと驚きながらアオハさんに聞くと、アオハさんは頷きながら小さな声でこう言った。
父は、あの時俺にこう言っていた。
小さく呟く言葉。
過去形で言う言葉の後、アオハさんは私達に告げる。
「『今この国は傷をつきまくっている。国の者達は傷と共に命を散らし、王は心に傷を増やして嘆き、頭を抱えて最善を求めている。神様は国を泣かせている。だからできる者がこの悲しみを止めないといけない』そう俺に残して、父は俺と妹を残して……、この場に根を張ったんだ」
根を張った。
それはきっと言い回しとして使った言葉に違いない。
言葉に対して直接にすると精神的にも傷つくから、マイルドにして誤魔化しつつ、伝えたんだろう……。そう思い『根を張った』ことに対して、あまり気乗りしないけど聞こうとした時だった。
「根を張った……。まさか」
ヘルナイトさんが何かに気付いて、唸る声を零す。
それは今まで見てきた思い出した時の声。
唸る声を零したヘルナイトさんに驚いて、私は思わずヘルナイトさんの名を呼んで『大丈夫ですか?』と聞くと、返答するように頷きながら「大丈夫だ」と言って、そのままアオハさんのことを見てヘルナイトさんは言ったのだ。
質問、ではない――
答えの言葉を。
「鬼族に伝わる封印呪法か……」
「封印……?」
「呪法ってことは、あまりいい言葉じゃないな」
ヘルナイトさんが言った封印呪法と言う言葉。
それを聞いた私は思わずオウム返しをしてしまい、アキにぃはそれを聞いて嫌そうな顔をする。
嫌そうといっても、嫌悪ではない。悲しい事を連想してしまいそうな顔。
聞きたくないと言わんばかりの顔だ。
キョウヤさんや虎次郎さんもそれを聞いてあまりいい顔をしていない。外国出身のシェーラちゃんも理解したらしく、アオハさんのことを横目で見て――
「その封印とあなたの父……そして『根を張った』と言う言葉。まさかと思うけど……、あなたの父は」
「ああ。御明察――そのまさかだ」
見て、アオハさんはもう隠すことを止めて、オブラートに包むことを貯めて私達に告げた。
アオハさんのお父さんのこと。
そして遠回しに言った『根を張った』と言う言葉を。
「父は、シルフィードを封印するために命を賭けたんだ。鬼の一族に伝わる封印――『縛』を使ってな」
「命を……、って」
「封印に必要なのは……、封印をするためには一人の鬼の命が必要なんだ。父はその必要な存在になったんだ。シルフィードが嫌う『氷』の魔祖の封印となって」
誰も何も言わない。
ヘルナイトさんも言わないし、アオハさんもそれ以上言わなかった。
言葉を詰まらせるような空気が私達の喉を締め付けるように纏い出し、思考を鈍らせる。
私達の意思がそうさせているのかもしれないけど、本当に喉に突っかかる様な感覚と、声が出せない気持ち悪さが出ていたのも事実。
事実なんだ……。これは、真実なんだ。
残酷で、悲しいけど、それしかないという更なる残酷を突き付ける内容。
そう――その封印は今でいうところの……。
人柱。
命を犠牲にして行う儀式を、鬼族は『バク』と言う言葉を使って、呪法として扱っていたんだ……。
それを使った、人柱を行ったということは……。
「この呪法は鬼が持つ角の力を原材料にした封印方法なんだ。一つの封印に一人の命を使い、半永久的に封印の力を持続させることができる」
「あの……」
息を吸い、落ち着きを取り戻そうとしているアオハさんは私達に話しの続きを淡々と告げていく。
「『風』の力を使うシルフィードを封じるためには、『氷』の魔祖を持っている鬼族が必要になる。神を封じるために、強い『氷』の魔祖を持っている鬼族が犠牲になる」
「もう、いいですよ……」
でも、言葉は淡々としていても、感情は大荒れで、正直もしゃもしゃの流れがとてつもない大荒れの天気になっている。
一言で言うなら――大波。
大波の荒れ模様を赤いもしゃもしゃが体現して、アオハさんの感情を、気持ちを、苦しみを、怒りを表していく。
「鬼族の中でより強力な『氷』の魔祖を有した奴でないとシルフィードを封印することはできない。だがあの時代で強力な『氷』の魔祖を持っている鬼族はそうそういなかった。いたのは俺の父だけ。重鎮四人いたとしても、魔祖が違っていたからできなかった。そして熟練の鬼がいなかった。それだけの条件で、父は志願した」
「もう、言わなくても……」
大荒れだった心の波はどんどん荒れていく一方で、渦ができそうなくらいそれは荒れに荒れていた。
そうだ……、きっとこれだ。
そう思い、そして地雷を踏んでしまったと思った私は声にして止めた。
もういいです。もう言わなくてもいい。
大丈夫だから。もうわかったから。
そう言っているけど、アオハさんは止めない。
まるで私達の声なんて聞こえていない……。ううん、聞こえているはずだ。
でも止めないということは……。
一つの可能性を思い浮かべながら私はアオハさんの話に耳を傾けて、どうして私達に話すのかと思いながら聞き続ける。
アオハさんの変わらない声を記憶に刻んで。
「王は父を犠牲にすることを最後まで拒んでいた。全員が生きる――最善を絶対に見つけることを望んでいた。犠牲はたくさんだったんだろう……、だがその犠牲で救われるなら、父は喜んで犠牲になることを選んだ。どこまでも勝手な父だった。だがそんな父親が、俺や妹には大きく見えたのを、今でも覚えている。最後まで……最期まで――父は大きい人で、強い鬼だった」
心も体も強く、俺の憧れの人だった。
アオハさん自身きっと感情的になっていることもあって頭の整理がついていない。
強く、強く握られた右手の拳がそれを告げていて、指を伝いながら落ちていく赤いそれが強さを物語って、気持ちを表していた。
色んな感情を捌いて、考えて言葉にしているからこそ――アオハさんの言葉は曖昧になってしまった。そして本心と共に感情を捌くことができなくなっていったんだ。
そう――アオハさんのお父さんは、シルフィードを封印するために人柱になって、今もずっとこの場所で封印の要となっている。
でも今その封印が壊されようとしている。
自分の国を手に入れようとしている大臣の手によって、『六芒星』達の手によってそれが壊される。
「これは、俺の私情だ」
アオハさんは言う。
やっと私達のことを見るために視線を向けて、アオハさんは私達に告げる。
ううん。告げると言っても、アオハさん自身の本心を私達に伝えるだけ。
伝えるだけのその言葉を、アオハさんは口にした。
真っ直ぐな目を私達に向けて――曇りなんて一切ないその目でアオハさんは言った。
「私情でも、俺はあいつらを止めたんだ。自分の手を赤く染めてでも止めたい。父上が命を賭けて止めた覚悟を。関係のないこの国の奴らのために命を賭け、居場所を作ってくれた父上の想いを、壊されたくない」
関係ないお前達にこんなことを言うのは変かもしれないが――
アオハさんは最後に言った。
関係ない私達に言うこと自体おかしいかもしれないと。
でも、もうそんなこと関係ない。
だから私は答えることができた。
首を振って――一言。
「もうどっぷり関わっているので、大丈夫ですよ」
そう、控えめに微笑んで……。




