PLAY134 爆弾抱えて③
それは一瞬。
一瞬の出来事で、一瞬の隙が生んでしまった――アクシデント。
むぃちゃんの叫びが聞こえたと同時に、私達はむぃちゃんがいた……、ううん。デュランさんがいる場所に視線を向ける。
振り向きざまに武器や警戒態勢を剥き出しにして、敵がいれば攻撃をする意思を胸に戦おうとした。私も手をかざしてみんなのサポートに回ろうとした。
みんながむぃちゃんのことを見ようと、何とかしようとして見た時――視界に入った瞬間、誰もが言葉を失った。
思わず止まってしまうほどの衝撃が襲い、同時に困惑が頭を襲った。
視界に無ぃちゃんを入れた時、むぃちゃんは宙を舞いながら放物線を描いて落ちている最中だった。
「にゃぁ~っ!?」
猫特有の声を上げながらむぃちゃんは落ちている。近くではデュランさんは手にしていた槍を手にして、振るったままの状態でいる。
まるで何かを切り裂いたような振るった後の光景。
「え? 斬った後?」
「音もなかった」
それを見ていたエドさんと虎次郎さんが声を上げて驚いていると、それを見ていたつーちゃんは虎次郎さん達のことを見て「そう言えば」と言う言葉を最初に言って答えた。
デュランさんのことを親指で指さしながら――
「デュランさんはああ見えて音がない攻撃が得意なんだよ。無音って言う名のサイレント。これマジで怖いから」
と言うと、それを聞いてヘルナイトさんも頷きながら言う。
「デュランの一族――幽鬼魔王族は元々人ではない一族だ。音無寄港劇はお手の者。先代は音を出さずに心臓を抉ったこともあるらしい」
「そう言うバイオレンスは求めていないから。一子相伝でなくてよかったよ」
ヘルナイトさんの言葉を聞いてキョウヤさんは安堵のそれを吐きながら言う。
音もなく心臓を抉るというのは、流石にトラウマでしかないかも……。
そう思っていると、放物線上に落ちていたむぃちゃんも、だんだん地面に向かって落ちていて、それを見てコウガさんは走り出す。
「むぃ!」
「こ、コウガさぁん!」
弧を描くように落ちていったむぃちゃんは、そのまま駆け寄って受け止める態勢になっていたコウガさんの腕の中に吸い込まれて行くように落ちていく。
ぽすんっという布団にダイブしたような音が聞こえ、それと同時にコウガさんはむぃちゃんの体に着いている物を視認して顔を顰めた。
「なんだ、こりゃ……?」
コウガさんは顰めた顔のまま困惑の声を上げる。
むぃちゃんはコウガさんの腕の中で「驚きましたよー」と言いながら自分の体に巻き付いているそれを見ている。
それは私やみんなも気付いていて、それがむぃちゃんを攫おうとした元凶であることはすぐにわかった。
でもそれを見た時、私達は思ったのは――
「? 触手?」
そう、しょーちゃんの言う通り、それは触手だった。
ミミズみたいな触手だった。の方がいいかもしれない。
デュランさんが斬ったおかげでそれはもう虫の息の様にぴくぴくと痙攣していたけれど、血は出ていない。
ミミズの様に生々しい蠢き、そしてねっとりとした粘液はある。
見た目通り黒くて大きいミミズがむぃちゃんの体に巻き付いていたのだ。
「うにゃーっ! ねとねとして気持ち悪いですぅー!」
「おい無理矢理はがすな。待ってろ――今はがしてやるから」
あまりの粘着と体についてしまった粘液がすごく嫌だったのだろう。不快だったのだろう。
むぃちゃんは嫌悪剥き出しの顔をして体に巻き付いているそれを取ろうとしているけど、猫の手の所為で取れないみたいで、猫の手で掴んでも『つるり』と滑っては猫の手が汚れてしまい、また掴もうとしたら『つるり』と滑ってしまいを繰り返してもたもたしている。
むぃちゃんの顔かどんどんイライラした顔になっていく。もしゃもしゃもそんな色をしている。
もたもたしていることにイラついていないけれど、むぃちゃんの気持ちは凄くわかる気がする。
ちゃんとつかめないとイライラしてしまいそうになるのは人間の性なのかもしれない……。
それを見てコウガさんは呆れながらも、むぃちゃんの体に巻き付いているそれを取ろうと手を伸ばす。
そのまま掴んで、むぃちゃんから引きはがして、捨てる。
たったそれだけ。
それだけをしようとした――
――瞬間。
「! みんな離れろっ!」
「? わ」
「ひゃぁっ!?」
第一声を放ったのはヘルナイトさんで、ヘルナイトさんは即座に私とシェーラちゃんを横抱きにするように抱えて (アクアロイアの時と同じように抱えている)。
「「!」」
「ぎゃぁ!?」
アキにぃを俵抱きの様に抱えてすぐに離れる虎次郎さんと、槍を持ったまま尻尾のしなりを使ってその場からすぐに離れ。
「! みんな!」
「リカ、来い!」
「!」
エドさんの掛け声が出るや否や、その声に即座に反応するレギオン。
リカちゃんだけはシロナさんの手によって首根っこを掴まれてしまう結果になってしまったけど。
「おお」
「旦那様っ!」
クィンクさんがヌィビットさんのことを横抱きにして後ろに引こうと、シルヴィさん達もそれを見て動いて、アイアンさんもおろおろとしながらも重い体を動かして走ろうとした。
その時だった。
むぃちゃんの体に巻き付いて、纏わりついていた黒いミミズのような触手だった物が、一気に膨れ上がったのだ。
ぼごっ! と――斬れたところより少し離れたところでそれは膨れ上がり、そのまま切れたところから爆発したかのようにそれは出てきた。
一本の触手の中から跳び出してきた、四本の太くて蠢く触手。
まるで切断したところから鼠算の様に増えたかのようにそれは出てきて、一本はコウガさんとむぃちゃんを、もう一本はつーちゃんを、そしてもう一度攻撃しようとしたデュランさんの手首に巻き付き、槍の動きが制限されたと同時に、今度は馬の胴体に巻き付いてデュランさんを持ち上げていく。
「っち!」
「にゃぁ!?」
「うわぁ!」
「っ! 不覚!」
コウガさん、むぃちゃん、つーちゃんとデュランさんが声を上げ、私はそれを見て声を上げようとした。
荒げて、考えていない頭で行動しようと手をかざそうとしていた時――
「みんなを……」
私の隣で、低く聞こえたその声は巻き付いて話そうとしない触手に向かって走り、そのまま手にしていた刀で突き刺すと、刺した張本人――しょーちゃんは触手に掴みかかりながら叫ぶ。
「離せええええええっっっ!」
「ショーマッ! 馬鹿! お前巻き付かれなかったのに!」
しょーちゃんの行動を見て驚きと呆れを含ませながら焦るつーちゃんをよそに、しょーちゃんは何度も黒いミミズのようなそれの胴体に向けて、貫通するくらい何度も突き刺す。
突き刺して、突き刺して、突き刺しながらしょーちゃんは何度も『離せ!』と連呼している。
つーちゃんの声なんて届いていない。
もう本能として、つーちゃん達に巻き付いているそれを斬ろうとしているんだろう。
それを見て私も行こうとヘルナイトさんに『下ろして』と言おうとした時。
「う、お? あ」
しょーちゃんが声を上げ、それと同時に――
「「うわああああああああああああっっっ!」」
「にゃぁあああっ!」
しょーちゃん、つーちゃん、むぃちゃんの声が空間内に響き渡り、触手に拘束されたまま暗闇へと消えてしまった。
まるで何か引っ張られ、暗闇へと引きずり込まれて――
「しょーちゃんっ! つーちゃんっ!」
「コウガッ!」
「デュランッ!」
「むぃ!」
しょーちゃん達が引きずり込まれた方角に向けて叫ぶ私。
叫びの後で避けて地面に着地した後――キョウヤさんとヘルナイトさん、シェーラちゃんが声を上げてコウガさん達の名前を呼んだ時……。
「うわっ!」
今度はシロナさんの叫び声が聞こえた。しかも悲鳴を上げて――
「――白那っっ!」
「シロナさんっ!」
ん? 今シロナさんのことを呼んだ声って、善さん?
初めて聞く驚きもあったけど、エドさんの声もあって現実に戻って緊迫を取り戻した私達はシロナさんのことを見てまた驚いてしまう。
シロナさんは叫んだけれど、それでも強気に抗っている。
そう――手足を拘束するように、四肢を拘束している赤黒い細い触手のような物に対して噛み付いて引き千切ろうとしていた。
「赤黒い……。もしかして……っ!」
「ああ、あん時の『六芒星』だろうな……」
赤黒いそれを見て即座に理解したシェーラちゃんとキョウヤさん。
暗い世界でも赤黒いそれはわずかな日の光に反射しているからわかる。
それは赤黒い――血。
そう、あの時私達が戦った相手――『六芒星』幹部の力だと、みんな気付いた。
「てことはここにいるんか? いるんなら――」
「この先に!」
京平さんとエドさんは言う。
シロナさんのことを拘束している赤黒いそれを目で辿っていたに違いない。そしてその先に向かうに違いない。
「シロナ! いいか? そんまま捕まった状態で!」
「あぁっ? わーったよ! このまま捕まって敵がいるところまで行くよ! 後からついてこい! リカも来るよな!? 来なかったらそのまま帰れるけど!?」
シロナさんは拘束された状態で聞く。
転んだのだろうか、尻餅をついた状態で見上げているリカちゃんに向けて、まだ重い詰めている顔をしているリカちゃんに向けて、シロナさんは聞いた。
戦うも戦わないも自由。
そう言わんばかりの言葉に、リカちゃんは一瞬黙ってしまったけど、すぐに彼女は立ち上がって――あ、違う。そのまま宙に浮いて、シロナさん達に向かって彼女は言う。
心ここにあらずの顔から、気持ちを目の前に集中させた顔をに変えて彼女は声を張り上げる。
「行く! 行くもん! みんなの力になりたい!」
そう言うリカちゃんの音色は気持ちを引き締めた声そのもの。
もしゃもしゃはあまり整理がついていないような感じだけど、さっきまでの感情を押し込めていることは分かる。
今はくよくよしている場合じゃないということを理解したうえで、今はやるべきことをしようとしている心がけている。
それが強く伝わる。
伝わるからこそ、リカちゃんの気持ちが大きく変化し、座っていた圧縮球にしがみつく。
まるでバイクに乗る様な体制になってリカちゃんはシロナさんに向けて頷き、エドさん達チームは体制を向ける。
戦う。
その意思は私達からもひしひしと感じられ、それを見てシロナさんが拘束されている右手をぐっと前に向けて振るうと、拘束している赤黒いそれがゴムの様に伸び、一定の所を止まる。
びんっ!
と、もうこれ以上伸びないことを示しているようなそれを見て、シロナさんはそれを引っ張りながら……、じゃない。エドさん達に向けて手を伸ばしている。
何とか距離を詰めながら手を伸ばし、エドさんに向けて手を掴もうとしている動作をしながらエドさんに向けてシロナさんは叫ぶ。
「つかめっ!」
シロナさんの声を聞いてエドさんは手を伸ばして掴み、エドさんが京平さんに向けて手を伸ばして今度は京平さんが掴み、京平さんもエドさんと同じように善さんに向けて手を伸ばして、善さんは浮いて寄ってきたリカちゃんの圧縮球の取っ手を掴む。
まるで落ちていく人を助けるように掴んでいくその光景。
且つ引きずり込まれて行くその様子に後悔とか、恐怖なんてない。
引きずり込まれる瞬間――エドさんは私達のことを見て、一言告げた。
あらんかぎりの声……、私達に託す様にエドさんは叫んだ。
「シルフィードのこと、ボロボのこと、頼んだよぉ!」
叫びが終わるや否や、エドさん達はそのまま暗闇へと引きずり込まれてしまい、その場に残った私達とヌィビットさん達、そしてアオハさんに託す言葉を残して行ってしまった。
本当なら絶望してもおかしくないのに……。
前に進む意思を強く持たせてくれる言葉と、エドさん達の心の強さに、心打たれてしまいそうになった。
ううん。正直、恰好いいと思ってしまったのは本音。
あんな言葉を放たれて、託されたら、誰だって頷かずにいられない。
そう思った時――
「先に行け」
突然ヌィビットさんの声が聞こえた。
その言葉を――私達に向けてヌィビットさんは言った時、私達リヴァイヴは驚きながら言葉を放ったヌィビットさんを見る。
ヌィビットさんは丁度私達の後ろにいて、ヌィビットさんはクィンクさんの手から降ろされ、地面に足をつけた後で言ったらしく、服についていた埃を手で払いながら続けて言った。
私達――リヴァイヴに向けて。
「こんなところで止まっている暇はないだろう? それにお前達が止まってしまったらだめなんだ。要はお前達なんだぞ? 止まってどうする?」
「で、でも……!」
「でもも何でもないだろう? 今は駒があるんだ」
駒。
そう言いながらヌィビットさんは自分に向けて親指を突き立て、私達に訴えかけるように言い放った。
荒げるではない。
張り上げる声でヌィビットさんは言ったのだ。
「――行け!! 足止めの料金は無料にしておいてやる!」
それを聞いていた私達は、言葉を零すことも、放つことも、反論もできずに固まってしまった。
一瞬の固まり。
硬直。
でもそれを壊したのは……。
「…………、行こう」
「! ヘルナイトさん……!」
「ちょっと! まだ……」
私とシェーラちゃんを抱えたヘルナイトさん。
いつも通りの流れで私達のことを誘導しようと、先に進もうとしてくれる存在。
ヌィビットさんの言葉を呑んで行動した結果だけど、それでもヘルナイトさんなりに覚悟があったのだろう。凛とした声とは違い、今回の声には一瞬の間があった。
きっとこの間に葛藤があったはずだ。
だから私はそれ以上の追及はしない。そしてヘルナイトさんの行動を見て私は驚きはしなかった。驚かず、どころかヘルナイトさんのことを見て私は声を上げ、シェーラちゃんも驚きの声を上げてヘルナイトさんを見た時……。
「言葉通り甘えるぞ」
「っ!」
「あ……!」
突然アオハさんが私達の横を通り過ぎて走ってしまったのだ。
それは迷いのない行動で、近くで見ていた虎次郎さんやキョウヤさんも驚きの顔をしながらアオハさんの背中を見て、言葉を失ってしまう。
驚きのあまりに言葉を失ってしまったのかもしれない。
シェーラちゃんだって一瞬は言葉を失っていたけれど、アオハさんはエドさんの間を掻い潜りながら走っていく。
猪突猛進……、とまではいかずとも、ヌィビットさんの言葉に甘えた結果なのかもしれないけど、それでもそこまで即答して行動できるとは思わなかった。
あまりにも真っ直ぐと言うか、あまりにも臨機応変ができすぎている。切り替えが早すぎる様な光景に驚いてしまったけど、ここで立ち止まることもできない。
してはいけない。
それを理解している。理解しているけど、やっぱりこれは流れに乗ることはできない。
みんな連れ攫われてしまい、私達だけで先に進むことは間違っていない。
間違っていないけど……、この時不安要素ができてしまったから、思わず声出しそうになった。
出したかった。
だって――だって……。
アオハさんの体から――赤いもしゃもしゃが零れ出ていたから。




