PLAY133 武神の疑心と戦地へ④
「まず初めに確認として聞く。『六芒星』の目的は改革のためだ。それだけは理解してほしい」
鬼族のアオハさんのことを見ながら私達冒険者一行は頷く。
頷いてアオハさんのことを見ると、アオハさんは私達のことを見て、理解したことを確認した後で話に続きを言っていく。
まさに作戦会議。
テントの中で地図を広げて会議するような光景を思い出しながら、私は話に耳を傾けていく。
現在――私達は鬼族の長、アオハさんの話を聞きながら作戦の内容を頭に叩き込んでいる最中だ、
内容を聞きながらと言っても、これはあくまで荒く組み立てた作戦らしく、何か意見があれば話に入って意見を聞かせてほしいとアオハさんは言っていた。
部屋の状況を説明すると、私から見て十二字の方向にアオハさんが正座をした状態で自分の目の前に大きな地図を広げて、私達が見やすいように百八十度回した後で私達が見ている中央に置いて見せている状態。
みんなで円を作って、その円の中にある大きな地図を見ながら、十二時の方角にいるアオハさんの説明を耳に入れながら地図を見つめる。
並びに関しては簡潔に、アオハさんの左隣がしょーちゃん達で、しょーちゃん達の隣が私達、私達の隣がエドさん達で、ヘルナイトさんとデュランさんは立った状態で地図を見ているという状態だ。
少しだけ、背後からの圧が怖い気がするのは、多分ヘルナイトさんが立って見下ろしている所為……ってことにしておこう。
そんな感情をしまいながら私は再度地図を見る。
地図はとある断面図の様で、きっと『六芒星』と大臣さんが向かっている『風獣の神殿』と、そのダンジョンの奥地、『風獣の心臓』の構図なんだろう……。
しっかりと上から見た図と断面図。ところどころに何があるのかきっちりと書き込まれているもので、アオハさんは最初に私達に見せたのは――『風獣の神殿』の上から見た図。
すごく丁寧に書かれているその図は、誰がどう見てもわかりやすいイラストだった。
まず『風獣の神殿』は建物のような形はしていない。
一言で言うなら――化石に岩がくっついているような絵。四足歩行の獣が岩を覆ったまま化石になってしまったかのような姿だ。
似ているものがあるかと聞かれて答えるなら……、ライオンみたいな……。でも顔は鳥みたいで……。一体どんな獣なのか、全然想像できなかった。
「これ、もしかしてグリフォン?」
どんな獣なんだろう……。そう考えていると、突然口を開いたのはつーちゃんで、つーちゃんは驚いて視線を集めている状況の中でも自分のペースを維持している状態で言った。
アオハさんが書いた絵を見て――だ。
「なぜ知っている? この国ではもう絶滅した種族なんだぞ?」
「あ、絶滅しているんだ。いや僕自身生で見たことはないけど、それでも見たことがある姿だから」
アオハさんはつーちゃんの言葉を聞いて少しだけ驚いた顔をしていたけれど、つーちゃんは首を傾げて、なんでそんなことを聞くのだろうという顔をしながら説明すると、それを聞いていたのか、デュランさんがつーちゃんとしょーちゃんの背後から顔を出すように前のめりになりながらこう言った。
「異国ではグリフォンなのかもしれないが、ここでは別の名前で呼ばれている。数百年前に滅んでしまった魔人族グリフィンは神聖の場所を守る門番としての役割を担っていた一族だった」
「一族って……、喋れるってこと? 人間と同じように?」
「ああ、守る一族として奴らは生き、従ってきた。勿論守るだけが仕事ではない。且つそれだけが力ではない。微力ながら治癒の力も持っていたらしく、傷ついたものの傷を治すことがあったらしい」
「傷を治す……。少しの回復魔法を持っていたってこと?」
「回復魔法……ではなく、グリフィンの血が傷を癒す魔祖になっていたんだ。それはどんな難病でも治ることができる、致命傷でも癒すことができる。まさに万能薬のような存在だった」
だが――とデュランさんは言葉を区切る。
聞いている限りグリフィンは凄い種族だったことが分かる様な話の内容だったけど、デュランさんの音色はだんだん暗くなっていく。
それを聞いていた私はどうしたんだろうと思っていたけど、すぐにわかってしまった。
つーちゃん達はどうしたんだと首を傾げているだけだけど、デュランさんは重い口を開けるようにつーちゃん達に向けて、しょーちゃん達チームに向けて告げた。
簡潔に――今は簡単にしか話せないけどと言わんばかりの雰囲気を出して……。
「今は、いない」
「? 絶滅的な? まぁ今はそれを気にしている暇なんてないか」
ごめんね。話を折って。
デュランさんの話を聞いたつーちゃんは一瞬怪訝そうな顔をして言葉を発したけど、デュランさんの雰囲気を見て何かを察したのだろう。それ以上のことを追求しなかった。
どころかアオハさんに向かって謝るという対応。
これは――つーちゃんの性格というか、つーちゃんなりの優しさ……、もしくはこれ以上は野暮だなと思った結果聞かなかったという選択をしたのかもしれない。
つーちゃんは常に冷静というか、頭の回転も速く、時折冷徹な一面も見せて来る。
冷静に物事を見て、時に張り上げてしょーちゃんに突っ込んだり止めたりしているけど、すべてに対して落ち着いて見ている傾向がある。
高校受験の面接の長所だって、『物事に対して冷静に見て、対処できるところが自分の長所です』って発言していたくらい、つーちゃんは冷静さを重んじている。
執着……? にも感じてしまいそうな言葉だけど、それでもつーちゃんが荒げたり慌てたりとか、そう言った光景はあまり見ていない。
でも……、もしかしたらどこかで慌てたりとかしているかもしれないけど、今のところ私が見てきたつーちゃんは冷静なところが多い。
冷静だから物事を客観的に見ることができる。周りをよく見ている。
そんなつーちゃんの長所が今活かされた。
そんな気がした。
あ、でもしょーちゃんと一緒にいる所為で大事に巻き込まれているから、今回はもしかしたら、珍しく活かせたのかもしれない。失礼だけど。
そう思いながらつーちゃんのことを見ていたら、つーちゃんの言葉を聞いてアオハさんは『いいや』と言って頭を振るうと、続けて――
「気になることに関しては同意だ。気にしない」
と言って、アオハさんは折れかけた話の続きを私達に向けるように、手に取った和紙を指さしながら説明を再開した。
冷徹とかではなく、普通に人と話すような音色で――だ。
「『風獣の神殿』。昔からある神殿だが、今はもう危険区域となっている場所だ。神殿内部は風の魔祖が凝縮された石があったらしく、それを採掘してしまった結果――内部の地盤は脆くなっている」
「うっかり足を踏み外したら……」
「海に向かってどぼーんですねっ。しかもかなりの高さだから……、コンクリよりも痛い結果になりますね」
「痛いどころか完全にジエンドだ」
「さっきから俺を見ないで言わないでくれません? ツグミ見るな。むぃ見るな。兄貴見ないでください」
内部の情報を聞きながらつーちゃんは冷静に分析して、むぃちゃんは落ちた時のことを考えて言っていたけれど、それに対してコウガさんの真っ当でリアルな言葉に、聞いていた私血の気が引いてしまった。
これは多分……、口で話したら半減されてしまうかもしれない。
もしこの状況がギャグだったら補正でなんとかなるかもしれないけど……、生憎この世界はリアルだ。
ゲーム世界のリアルですごく高いところから足を滑らせて海に向かって落ちることは、凄く危ない事なのだ。
コメディ映画とかアニメでよく高いところから落ちて海に落ちるシーンがあり、その後びちょびちょになって海から上がってから落ち込むとか、そんな場面だと思うんだけど、それはリアルになったら危ないどころか自殺行為になってしまう。
だからアオハさんの話を聞いて、私が思ったことは一つ――
――落ちないようにしないと……!
しょーちゃん達の話しの所為で生々しさが半減されてしまったけど、これは本当に気を付けないと、本当に死んでしまう。
自己責任。
その言葉を頭の片隅に入れながらアオハさんの話に耳を傾ける。
「今現在は聖霊族の瘴輝石しかなく、それがなければただの巨大な化石だ。いうなれば大きな化石が空中にある。浮いているというだけだが、内部は複雑な構造になっている。これに関してしっかりと覚えてほしい。書いて覚えるもよしだが、できるだけ頭で覚えてほしい」
「書いて覚えるよりも、頭に叩き込んで覚えた方がいいか……」
「ちょっと待って、そんなことをするよりも魔導液晶に登録することはできないの? 元々それがあるから迷わずに街に行けるんでしょ? 魔導液晶地図があればダンジョンだって迷わず使えたんだから、それを使えば」
「できないからこの行動だ」
アオハさんの言葉を聞いて、アキにぃはやっぱり見て覚えるしかないと言わんばかりに凝視して覚えようとした時、待ったをかけたシェーラちゃん。
シェーラちゃんは多分思い出したのだろう。この世界を旅する時にもらった地図――魔導液晶地図の存在を思い出すと同時に、それを使えばいいのではないか? と言う疑問をアオハさんにぶつける。
確かに魔導液晶地図は私達冒険者にとっても必要なもので、サラマンダーさんがいたダンジョンではすごく役に立った。
でもアクアロイアに来てからは使えないことがあってあまり目立った役立ちはなかった気がする。
そもそもバトラヴィア帝国の所為で使えなかった気がするけど、もうここはアクアロイアじゃない。重ねて言うとバトラヴィア帝国じゃない。
あの場所で使えなかった物が使える。それを考えればそもそも覚える必要はない。
そう思っていたのだけど……、返って来た言葉は予想の斜め上の返答だった。
「『出来たら』って言う事は、できない理由がある。というか、そもそもその場所に行ける人材がいない。ことが問題なんだと思う」
「?」
アオハさんの言葉を聞いてか、エドさんは溜息を吐きながら神妙で、尚且つ困ったという顔をしながらエドさんは続ける。
顔と声でわかってしまうほどの神妙なそれで――
「そもそもダンジョンって言うのは未知の領域で、未踏と言ってもおかしくない様な場所なんだ。『創成王』やドラグーン王曰く……、未踏ダンジョンは魔物の巣窟。そして一歩間違えてしまえば死んでしまう場所。そんな場所に対して調査無しで向かうことはまずできない。そんなことを冒険者にさせるなんてことは、まずありえないらしい」
「未踏で魔物の巣窟。確かにそれは危ないですよね……」
エドさんの言葉に私は頷きながら考える。
それもそうだ。
だって未踏で魔物の巣窟となっている場所に、異国の冒険者が何の準備もなく入るなんてまずない。
そのダンジョンにどんな魔物がいるのか、どんな状態になっているのか。どんな構造でなっているのか。それすらわからないことは死に直結すること。
「だから実力のある冒険者に『調査クエスト』をさせて、未踏の地がどうなっているかを調べて、報告をもらって、その情報を元にマップに登録する。これがダンジョン内の状態を作る――マップ作りみたいなもの」
「面白そうですっ。なんだかマッピングしているみたいで楽しそうですっ!」
「楽しい分死ぬ確率も増えるぜ? それでもやりたいなら」
「遠慮するです。むぃはまだ死にたくないです。実力ある人に任せます」
エドさんの説明を聞いていたむぃちゃんは目をキラキラさせながらエドさんに向けて言う。
むぃちゃんの言う通り、こう言った調査は簡単に言うとマッピングするようなものと同じ名のかもしれない。
未踏の場所を自分の手で書いて、それを出した時自分が書いたそれが地図になる。
あながち嬉しい事かもしれない。
一種の冒険のロマン。なのかもしれない。
夢のある発言をしているむぃちゃんを見てか、京平さんが揶揄う様に『やるか?』と遠回しに言うと、むぃちゃんは即答した。
さっきまでのキラキラした目が嘘のように真っ黒にしながら……。
アキにぃの小さな『ショッキングなことを聞いたせいで現実を見てしまった目だ……』と言っていたけれど、まさにその通りの目をしている……。
本当に夢を失ったかのような顔をしている……っ。
むぃちゃん……、意外と大人びた思考をしているのかな……?
それとも――しょーちゃんの悪運に巻き込まれて……?
………これ以上は考えないでおこう。
むぃちゃんのことを見て、京平さんの頭目掛けてエドさんのげんこつが落ちると、話しの続きと言わんばかりにアオハさんが『話を続けると――』と開口開いてから続けて言う。
「この『風獣の神殿』に情報なんてものはない。昔父が記した簡素なものしかないんだ。そもそもあの場所は竜人族でも空気が薄いところにあることが多く、今のような場所にあることすら奇跡に近い。空気が薄いとなると長時間の行動も難しく、且つ地盤やいろんな場所が脆くなっている。歩いて落ちてしまえば即死。だから誰も行けなかった。行ったとしても高確率で死んでしまう場所でもあるからな」
「そんな場所に向けて俺達は行くんですけどね。まぁそこにシルフィードが封印されているから仕方ないけど、よくそんな場所にシルフィードを封印しましたね。そんな場所よりももっと別の場所がよかったんじゃないですか?」
アオハさんの説明を聞いて、アキにぃは心の底から嫌だなぁ……と言うそれを出しながら溜息を吐いて言う。
肩を竦めている光景はまさに行きたくないそれで。
アキにぃの言葉は普通に聞いたらそうだろうとしか言いようがないけど、アオハさんはアキにぃの言葉に対して呆れるような深い溜息を零して、その後で小さく何かを言っていた。
何を言ったのかまでは分からない。
でもアキにぃは何かを聞いたのか、アオハさんのことを指さしながら『おいお前俺のこと馬鹿にしたか?」と、真剣なそれで聞くけどアオハさんは無視。どころかさっきのアキにぃの言葉に対しての続きと言わんばかりに私達に告げた言葉は――
正真正銘の正論。
「シルフィードは『八神』の中でも群を抜いて凶暴らしいからな。そして風の力を持っている。風は何もかもを吹き飛ばし、自然の刃となって人をさらい、殺す。地上で封印してしまえばその場所の被害も甚大になってしまう。だから空と言う被害が最も少ない。且つ空気が薄く、寒いあの場所が最適だった。風を吸い、強くなる『八神』だからこそ、風の力が最もない場所はあの場所しかなかった」
当時で言うと、最善の場所だった。
そうアオハさんは言い、それを聞いたアキにぃはそれ以上のことを言う事はなかった。
正真正銘の正論を聞かされて、本当に『ぐうの音も出ない』ような状態になってしまったから、本当の返す言葉もありませんと言う状況になり、アキにぃは小さな声で唸る様に『……わかりました。すみません』とアオハさんに向けて謝罪をした。
謝罪した理由は多分さっきの言葉――わかっていないくせにしゃしゃり出たことを誤っているのだろう。
そう思いながらアキにぃを見ていると、アオハさんはアキにぃに向けてさほど怒っていない様子で「いい。誰もが思うことだ」と言って話を続けようとする。
時間もない状況の中、少しでも多くの情報を私達に教えようとしてくれるアオハさん。
もう雑談はほどほどにしないといけない。
そう思い、私は再度集中して目の前の和紙に書かれた絵を見つめる。
覚えなければいけない。それを心に刻みながら……。




