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PLAY132 嘘であってほしかった②

「さて――ここからは私の独壇場と行きましょう。勿論皆様を睡魔を誘発させるようなことはしません。さてさてお立合いです。私とこの鬼族が話した内容の一部始終を……ごゆっくり聞いて楽しんでください」


 ヌィビットは言った。


 まるで自分だけの演説――否、演劇をほのめかしながら彼は部屋の中央に立つ。


 周りで見ているハンナ達、赫破達鬼族の前で大きく手を拡げ、一種のマジックを披露するように笑みを浮かべながら言う。


 相も変わらず――何を考えているのかわからない笑みでだ。


「この騒動の真相の一部分……()()()()()()()について」



 ◆     ◆



「開口……いや厳密には少ししてからだな。この鬼族は……、重鎮でありこの郷ではそれなりの権利を持っている存在が私に言い放った言葉は、『これも幸先短い者の願いと思って、その命――捧げてくれ』だった。


 なんとも恐ろしい話だ。私はそんな言葉に対してこう返答したのを覚えている。『何と物騒で悍ましい話だ。


 生憎その言葉に対し、私はイエスとは答えない。絶対にノーと答えよう。それも百パーセントで』と言ったんだ。私は自分の命は自分で使いたい派なんだ。人に使われるなんて言う自己犠牲は自分で言うのもなんだかこれっぽっちもない。命はたった一つなんだ。それなら自分で有意義に使う方がいいだろう?


 まぁ私の命が狙われてしまえばクィンク()……っ、いやクィンクが私を守ってくれるからな。


 うん。そう。そう……、だな。


 あ、話しを戻そう。


 私は黄稽殿から色々と話を聞きました。『この国――ボロボ空中都市が滅んでしまうらしい』と言う何度も物騒な話と、『みんなが大慌てで、姫君様が突拍子もない事を言い出した』ことで、そのことが原因で大喧嘩になっていることを聞いた。


 だが当の本人はそんなことどうでもいいと言っていたのですよ。


()()()()()()()()()()()()()()()()』と私に向かって言ったのですから。


 私的には大喧嘩の方に興味がりましたがね……。そのことに関しては全く話してくれませんでした。もう一度言いますが、鬼族の皆様は凄い結束力がある。団結力と言う名の力を持っている。


 まさに団体戦の競技に出れば右に出る者などいないと言わんばかりの結束と言う力を持っています。


 しかしそんな種族が大喧嘩をしている。それは一大事だと思った次第で聞きました。『内容は他種族が絡んでいるのか? それであればなぜあなたはここにいるのかね?』と、私は黄稽殿に聞いたのです。


 聞いたとして応えてくれるのか正直不安でしたが、その不安は見事に、的を外してくれました。


 彼は答えてくれたのです。予想の反対の返答をね。


 その言葉はよく覚えていますので口頭で説明するとこうです。


『あぁ。儂はあんな湿っぽい話はめっぽう嫌いでな……。()()()()()()()()()()()()()()()()なんだ』


 この言葉を聞いた私は疑問を抱きました。


 なぜこの人はこんな状況の最中に行動しようとしていたのだろうか? そもそも何をしようとしていたのか。そこに関して私は酷く疑問を抱きました。


 どうにも私の直感が囁いたのです。


 常にこんな状況だからなのか、はたまたは自分の天性の才能なのか……、彼から辛気臭さ、嫌なものを感じたのです。

 

 感じたからこそ、本音でそれを話すと黄稽殿の顔色が変わったのですよ。表情筋が僅かに痙攣したような、そんな感じのをね。


 しかしそれでも私は理解しました。というか安堵しましたよ。


 予想通り、この男は何かを隠している。隠しているからこそ不意を突いて真意を突いた私に対して思ったのでしょう。


 嘘は付けないって。


 そもそも私自身の出自と言いますか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、正直私に嘘をつく時点で危ないと思った方がいいですよ?


 あなた達も。


 たったこれだけでも大きな情報を与えてくれるのですから、それを見せることはしないことをお勧めします。


 現に私はそれだけで理解しましたし、よく見て、言葉を選びながら観察してピースを嵌めていく。ゲームのように私は会話を進めていきました。


 え? ゲームとはなんだ?


 それは……そうですね。お遊戯と思ってくれて構いません。室内でできる娯楽の方がしっくりきますかね?


 話を戻しますと、私は黄稽殿に話を聞きました。


 子入れは情報戦でもありますので、心を折る様に、相手の心のバランスを崩すように私は聞きました。


 確か……、こんな感じで聞いた気がしますね。えっと……。


『あなたは重鎮という鬼の要なのだろう? よくある相談役なのだろう? ならなぜこんなところで油を売っている? 売るものはないみたいだが、それでも油を売って損をしているような感じではないな。と言うかここに来ること自体が目的と言う雰囲気が駄々洩れだ。さっきも言っていたが、私の命が欲しいのか? 欲しい理由は何なんだ? まさかこんな平和な世界で私と言う存在を絵に書けないようなことをするのか? それは少し思い切ったことをしているがやめておいた方がいいぞ? そんなことをして得などしない。損をして膝から崩れ落ちてしまうかもしれないぞ? それでもいいのなら……、なんて言えないな。私は真面目に言っているのですよ? そう私をあれやこれやとしても無駄だと』と言ったと思います。


 もしかすると間違いがあるかもしれませんが、だいたいこんな感じで言った記憶があります。


 大体ではありますが、間違ったという認識がないところ、きっと概ね正解でしょう。


 正解なのですが、どうやら黄稽殿にとってこの返答は間違いであったらしく、黄稽殿は私にこう言ってきました。


 いいや――()()()()()()()()()()。とね。


 一見すればなんともほれぼれしてしまいそうな口説き文句。


 もし私が女であれば男に言われてしまうと『ころり』と口説き落とされてしまうような、簡単に落とされてしまいそうな言葉でしたが、残念ながらそうとはいきません。


 相手はご老人であり、その言葉が言い終わると同時に迸った物を感じて、私は一瞬命の危機を感じてしまいました。


 そうです。あの牢屋で、『ざしきろう』中に広がった電流の所為で、その言葉が脅しと言うことに気付いたのですから。


 雷のように一瞬だったらよかったのですが、これまた厄介でしてね……。


 あの時見えた黄稽殿の顔がもう悪人のように見えてしまいましたからね。


 そんな顔を、どんな腹黒さを抱えているのかも理解してしまった私は一瞬驚きました。驚きましたけどそれを表してしまうと相手の墓穴を掘る。もしかしたら喉を抉られ、喉笛潰されて叫べないまま死んでしまっていたかもしれませんから顔には出しませんでした。


 あ、今の私は死なないんだったっけ?


 まぁそこは追々見直しておきましょう。


 顔に出さずに黄稽殿の罠にかかってしまった私は、少し大袈裟に相槌を打ちながら聞いたのです。


 実際『私が欲しい』とこの状況はあまりにも食い違っていたこともあり、想像と違っていたという内心の焦りもあって、平常心取り戻す時間を稼ぎながら聞いたんです。

 

 まぁ……、内容は欲しいという言葉に関して長々と言っただけであり、時間を稼ぐ関係で余計なことを言っただけですよ? 


『それは物好きだ』とか、『恋愛の自由があるからこそ』とか何とか言っていた気がしますね。


 正直私自身焦っていたのかもしれません。


 まさかあんなところで時間を稼ぐと言えど、あそこであんなことを言うだなんて、お恥ずかしい……。


 おや? まさか本心と思っていたのですか? そんなことありませんよ。ただの時間稼ぎとして言っただけですけど、それですら黄稽殿は気付いていたらしく、無駄な足掻きだと言われてしまいました。


 結局無駄な舌回しは無駄な足掻きだったのです。


 結局のところ、彼は私のことを殺すつもりで来たのです。


 まさにさらりと――


 こちらとしては()()()()()()()()()()のですけど、それでも聞く側としましてはいい響きではありません。


 どころか『殺す』と言う言葉は世間一般からしてもいい響きではないでしょう?


 完全にアウトに消えてしまうそれですか、飽き飽きしている言葉でしたが、このお方は、黄稽殿は笑っていたのです。


 私がこの郷に来てから一度も見たことがない歯を露見させるように、このお方は笑って言ったのです。


『そうだ殺すんだ』と――


 その後の言葉はよく覚えています。


『殺して辻褄を作ればこの騒動は終わりとなる。そうなれば儂は二重の意味で幸せを掴むことができるっちゅーことだ』


 私もこの言葉を聞いた時、あぁ――この男は()()()()()()()()()()()()と同じだと思いました。


 でも、ここまで外道とは思いませんでしたよ?


 同じ同族がいるこの郷で、まさかこんな行動をして生き永らえようとしているとは思いませんでしたし、そこまで外道であってほしくない気持ちもありました。


 道を踏み外した者でも、多少の良心。人の心と言うものを持っている。同族のことを想う心があるはずと思っていました。


 思っていましたが、見事に崩してきましたよ。


 外道とは心外だ。


 そう言いながらこの男は言いました。


『儂は臨機応変ってだけなんだ。正直こうならなければお前さんを殺すだけにしておきたかった。だがそれもできなくなってしまった』


『しくじったからだ。あいつらが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 唾を吐き捨てながらそう言いましたよ?


 勿論『ざしきろう』中に張り巡らされていたそれも一際大きく輝きました。


 まるで静電気じゃない雷が足から走って来たかのような、とてつもない痛みでした。おかげで足が痛かったですし、最悪内側から焦げそうなそれでした。


 言葉にするとなんともマイルドですけど、これは本当に生命にかかわることでしたので理解してくれると嬉しいです。


 そんな生命にかかわる様な事を相手は躊躇いもなく私に牙を向けたのです。


 地面に電気ショックと言う、まさに心臓に悪いような攻撃。卑怯卑劣ともいえる様な攻撃を繰り出したのです。


 放たれたら少しずつ引いて行くだろうろ思っていた足の衝撃ですが、これがだんだん大きくなって去らに私を苦しめていく。まさに拷問! 拷問など私達の時代では犯罪になってしまう案件ですよ?


 障害や精神的苦痛、身体的苦痛に名誉毀損! その他もろもろの罪状が出るかもしれない中、黄稽殿は私に攻撃を仕掛けたのです。


 これはきっと鬼族が持っている力なのでしょうね。その力に私は一瞬ですが、本音と言う名の痛みの顔を表してしまいました。


 ですがこれは生理現象ですよ?


 痛いということは実質脳が警報を放っているのです。痛みを知らせてくれる。これはもう反射。人間の反射神経がそうさせた――と言う言い訳は置いておいて……。


 結局のところ私は相手に見せてしまったのです。


 痛みと言う名の本音。そして効いてしまうという情報を提示してしまったのです。


 本音を見せてしまうということは、相手にとってすれば一瞬だけ勝った高揚感でしかない。


 勝機は人の心を前に進めさせる。よくある言葉ですし、よくある心理描写ですよね?


 自分が有利に立つ材料がそろうことは嬉しいですけど、相手に与えてしまうのは酷く悔しいのです。


 しかし幸いなことに、黄稽殿は見ていなかったのでしょう。私の言葉を聞いて激情し、苛立ちのままに力を発動しながら言っていました。


 暗い『ざしきろう』の中、電気が点いたかのような人工的な光と、制御すらしていない静電気の感じていた私に向けて言ってきましたよ。


 汚い唾を吐き捨てながら。


 誰もそこまで聞いていないのに、べたべたと黄稽殿は言っていました。


 確かこんな内容です。


『せっかく情報を与えてやったっていうのになぁ。あいつらは何の役にも立たない。こんな辛気臭せーところとおさらばしたいから儂は手を貸してやったって言うのによぉ。結局『できませんでした』『申し訳ございません』しか言わない。多額の金を費やしてやったっつ―のにまさかの裏切りだっ。いくらつぎ込んだ? いくらあの反組織に払ったと思う? 投資してやった恩を忘れやがってっ。これでは儂の計画が台無しだろうがっ。こっちの手を汚したくないからあいつらを使ったって言うのに。計画が台無しだ。仕事ならしっかりこなしてきやがれ』と――


 至極汚らしい言葉を延々と吐き続けていました。


 というか……、ここまで聞いてしまえばもうわかっていると思います。勘が鋭い人、話を聞いて理解してしまった人もいるかもしれませんが私の話は終わっていませんので続けます。


 いつも、常に笑みを崩すことがなかった黄稽殿は延々と怒りを露にしながら何かを言っていた気がします。


『あのやろう』とか、汚い言葉のオンパレードで言うその姿を見ていた私はすぐに理解しました。


 心底呆れてしまう。


 心底この男は屑だという念を込めて、私は聞いたんです。


 あ、いや聞いていませんね。私は呟いたんです。


 黄稽殿の話を聞いて呟いてしまったんです。


 パトロンか。ってね。


 おや? 初めて聞く言葉ですか? これは黄稽殿にも言われた言葉ですが、ここでも同じことを言いましょう。よろしいですかな?


 パトロンと言うのは――芸術家などに活動支援を与える人のことを指します。


 そう――()()()()()()()()()()()()()()()殿()()ことを指します。


 武神殿も初めて聞く言葉だったのですね? そうですね……。異国ではこんな言葉で指します。


 わかったのであればあとは簡単。と言うかもう猫を被る必要なんてありません。


 パトロンの存在を知ってしまったのですから、あとは聞くだけ。確認のために聞くだけなのですが、一応了解を得ようと黄稽殿に聞きました。


『意見を聞いてくれないか?』

 

 案の定――NOの返答でしたが、断る選択肢もないらしい様子で言ってきましたので、私も対抗してこう言ったのです。


『断る云々なんて、あなたにとってすればないも同然。ゆえに聞いただけ。私は大まかに思ったことを告げる。あなたのように鬼族のことを一ミリも考えていない輩に回答権はないだろう。鬼族のことを考えている思考回路を全く持っていない。己のことしか考えていない輩の言う事なんて……、吐き気が出そうなくらい耳に入れたくない』


 これは私自身の本音。本心です。


 それを聞いてか、この男は呆れる様な素振りで『合っている』と言ったのです。


 同族で、家族同然かもしれない。もしくは仲間であった鬼族達に対して彼は暴挙ともいえる様な事を言った。


 鬼族のことを考えていない。


 鬼にとって外道ともいえる様な事を、否定するような言動を黄稽は簡単に吐き捨てたこの男は私に向けて言ったのですよ。肯定として――ね。


 何にも考えていないとはっきりと告げて、私の質問に対して……、『鬼族のことを思っていない理由は? きっかけは?』と言う問いに対してこう言ったのです。


『時代だな』と――


『凝り固まった時代の中で死ぬなんて馬鹿のすることだと悟っただけだ。きっかけなんぞ忘れた』


 と、更にとんでもない発言をしてですが、私自身これは聞いてて胸糞が悪くなりました。


 汚い言葉で言うと、屑野郎と思ってしまいました。


 恥ずかしながら……私も人。人格思考何より性格と好き嫌いがある存在です。皆様にもあるようなことを私が持っていても何らおかしくない。


 異国にはこんな言葉があります。


『十人十色』


 これは人ひとり違うことを示すものでして、私自身も一人の人として、目の前にいたこの男の発言には心底軽蔑の眼差しを向けそうになりました。


 鬼族の苦しみを理解しながら、自分だけ助かろうとする自己満足の行動。


 一緒にいた方々のことを考えて言っているのかと思ってしまうほど、吐き気を催してしまいましたね。喉から胃液の味がしましたから、きっとまずかったのでしょう……。はぁ。


 本当はですね、ここでもう終わってほしかったのですが聞きたいことは山ほどありまして、胃液を押さえながら私は聞きました。


 今この場で気絶しているこの男の前で、この騒動を起こしたことやパトロンになったきっかけを、洗いざらいと……。

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