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PLAY14 アムスノーム②

 おじさんはずずいっと私に顔を近付けてきた。


 私は驚いたけど、それ以上に……。その、臭いが強かったので、顔を隠してしまう。


 それを見たアキにぃも、キョウヤさんもぐっと顔を顰めて鼻を抓んだ。


「ん? あ、ああっ! もしかして、におっちゃったか!?」


 そう聞いてきたおじさんは、自分のマントや服などを鼻に近付けながら臭いを嗅ぐ。


 スンスンっとした瞬間、「うごぉ!」と、自分も鼻を抓んでサングラスからでもわかるような零れた涙を拭いながらおじさんは言った……。


「す、すまん……。こうも材料集めに勤しんでいると……、時間が惜しいもんだから風呂や洗濯もしないで仕事に没頭しちゃうんだよ……、うぇ」

「うぇってなるくらいなら洗え」


 キョウヤさんは鼻を抓みながら突っ込む。


 それを見ていたヘルナイトさんは、そっと頭を抱えて、そして……、おじさんを見て言った。


「あなたは……、魔技師(まぎし)の……」と言って、おじさんは今まで気が付かなかったのか……ヘルナイトさんを見上げて言った。


「お、オオオオオオッ!? 『12鬼士』の大将さんかっ!」


 おじさんはヘルナイトさんの胴をバンバン叩きながら触って、そして興奮しながらおじさんは言った。


「無事だったんだな! いやはや無事で何より!」

「ああ、そうだな……。相変わらずの勤勉振りだな」

「仕事大好きの社畜と言ってくれ! あっははははは!」

「いやあんたそれでいいの? 社畜って自分で言っちゃっていいの?」


 そんなヘルナイトさんとおじさんの話を聞いていたキョウヤさんは、再度突っ込みを入れる。


 それを聞いてか、ヘルナイトさんは私達を見て言った。


 私は二人を見比べた。


 おじさんとヘルナイトさんは身長さがありすぎる。ヘルナイトさんが大きいからなのか、おじさんは小さく感じられる。


 それを見ながら、私はヘルナイトさんの話を聞いた。


「この人はアズール随一の魔技師……、アークティクファクトミストのガーディンゲイル殿だ」

「異国には長ったらしいだろうから、ガーディでいいぜ!」


 おじさんこと、ガーディさんはサムズアップしてニカッと笑ってから、私達に言った。



 □     □



「いやな。随一の魔技師っつっても、俺はただ素材を集めて、それを作ることが大好きなだけなんだ」


 あれからガーディさんは、私達を連れてどこかへ行こうと足を進めていた。 


 私達はライジンのところに行くのかと思っていたのだけど……、それは大きな間違いらしく……、ガーディさん曰く……。


「あぁ? 直接王様のところに行くなんざ、斬首しに行くようなもんだ。処刑のな。そのためには、俺じゃなくて、この町でかなりの信頼が持てる人と一緒に行った方が、王様に会えるし、ライジンにも会えるかもしれない」


 とのこと。


「斬首って……、なんでだよ」


 そうキョウヤさんが疑問の声を苛立った声で言うと、ガーディさんは歩きながら言う。


 街並みを見るに、明るくて、誰も疑心暗鬼になっている様子はない。それを見ていたのか、ガーディさんは言う。


「それはこの国の王様が通称『不審の疑王』って言われているからだ」

「不審の……」

「疑王?」


 アキにぃがピクリと眉を動かして、キョウヤさんが首を傾げる。


 そのことについてヘルナイトさんはこう説明してくれた。


「このアズールには、いくつかの大きな国があり、その国を総べる王には、各々の通り名となる王の名がある。砂の国の『バトラヴィア帝国』の王の通り名は『略奪の欲王』。『アルテットミア公国』の国王は『不動の盾王』。アクアロイアの王は『弱肉の臆王』と言う感じでな」

「露骨じゃね……?」


 キョウヤさんは引き攣って突っ込む。それを聞いていたアキにぃは顎に手を当てて言った。


「つまるところ、通り名は性格と同じってこと?」

「その通りだエルフのお兄さん!」


 ガーディさんは私達の方を向いて、後ろ向きに器用に歩きながら陽気に言った。


「王様の性格を反映して、人々がそう言っているんだが、前のアムスノーム国王は『無垢の信王』と呼ばれていたが……、まさかあんな凄惨なことに……」


 私はガーディさんの話を聞いて、顔を落とす。


 ガーディさんが言っていることは、きっと……、前王様が殺されたことなのだろう。


 それを思いながら、私はあの時おじいさんが言っていた言葉を思い出す。



 あの事件には裏がある。と……。



 言っていることは違うと思うけど、それでもそんなことを言っていたということは確かだ。だから私ガーディさんの言葉を聞いてから少し情報を聞こうと思った。


 さながら……、探偵のように……。自分でも言いたくないのだけど、おじいさん曰く――抜けている頭でなんとかしてこの国で起きた事件の真実を突き止めよう。真実を嘘で塗り固められたこの国を、ライジンと共に救うために――


 ………うん。ちょっと……、ドキドキする。ドキドキと言うより……、なんかこのセリフを吐いた瞬間に、恥ずかしさが……。うん。


 という、場違いなことを思いながら、私はガーディさんの言葉に耳を傾けながら聞いた。


「暗殺されちまったことに関してはご愁傷さまだな。うん」


「あの…………、それってどんな風に暗殺されたとか、知っていますか?」

「んあ? あーっと……、いやわかんねぇなぁ。俺はここの住人でもねえし、それにこの話を聞いたのはアムスノームで暮らしていた男性だったんだよ。そいつも暗殺って言っていたし、詳しいことなんてわかんねえだろう? ()()()()なんだし」

「そう、ですよね」

「第一そんなことを深く考えるほど、俺は暇じゃねえんだ」


 私はそれを聞いて、考える仕草をしながら今の話をもう一回頭の中で再生する。


 ガーディさんの言葉に嘘のようなもしゃもしゃはなかった。と言うか本当のことを話していた。それは感じられた。そのことから察するに、ガーディさんは嘘をついていないことが分かった。


 そして……、ガーディさんも、ガーディさんに話した男性も嘘をついていない。且つ……、()()()()()()()()()()()()()()()()…………。


 確かにアムスノームの歴史においてすれば大きいかもしれないけど、時代の流れで薄れて行ってしまうような昔の話。三十年前……。


 だけど、その昔の話でも……、悲痛な事件だったはず。だから()()()()のかな……?


 でも、一応王様にも会える。王様は前の王様の弟だから、何か知っているのかもしれない。あの事件の裏のことについて……、何か知っているのかも……。


 私は足を止めて長考の海に沈みながら思案を続けてしまう。まるで本当の探偵のように。私はなぜだろうか……、あのおじいさんが言った言葉に対して、心のしこりを感じてしまった。だから思ったのだろう。あの事件の裏を知りたい。あの事件のことを知らないといけない。そう私の直感が囁いた。気がした……。そう思っていると……。


「? ハンナ?」


 アキにぃは私の違和感を感じて、足を止めて振り向いて聞く。


 それをきいた私ははっとして、すぐに「う、ううん。なんでもない」と言って早足でみんなに追いつく。足を止めてしまって止めっていれば誰だって心配するよね……。うむむ。


 気を付けて考えてみよう……。そう思っているうちに、ガーディさんはピタッと足を止めて。ぐるんっとその建物の前で手を広げて、陽気に叫んだ。


「着いたぁー!」

「「「?」」」


 私達はその建物を見る。ヘルナイトさんはその建物を見て、「ああ」と声を漏らした。


 それは、納得と言うような音色だ。


 私達はそれを見て、首を傾げて……、驚いた眼でその建物を見た。


「ここって……」


 驚いた声で言うと、次の言葉を、ゆっくりと紡いだ。


「ぎ、ギル……ド?」

「そうだ!」


 そうガーディさんは私を見て、顔を近づけて私を見た後、私のポーチをとんとんっと空気を小突くように指してからこう言った。


「お嬢ちゃん、()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「!」


 ガーディさんは言った。


「俺は魔技師。魔技師は防具の素材を集めて、その繊維や武器の中に瘴輝石を埋め込む人でもある。俺はそう言ったことが苦手だから、いつもそれが得意な人に頼んでいるんだ。そのために、その武骨な四つの石を何かに埋め込まなきゃいけねえ。それができる技師が、ここにいるんだ」

「なんで……私が持っているって、わかったんですか……?」

「あ、種明かしするの忘れてた」


 と言って、私の質問に答えるかのように、ガーディさんはすっとサングラスを外した。それを見せながら、ガーディさんは言った。


 それ以前に、私達は驚く。


 ガーディさんの目が、普通の目ではなく……、まるで宝石のような目で、私達を見て、にやりとした笑みで言った。


「これな……、()()()()()()()()が混ざっている特別なサングラスなんだ。瘴輝石を感知できるっていう優れもんだ」

「……ダチ?」


 その言葉にキョウヤさんは驚いて、そしてガーディさんを指さして「まさか」と声を漏らすと……、ガーディさんは言った。


「ちゃんとした自己紹介がまだだったな! 俺はアズール随一の魔技師で、()()()()ガーディだ。ヨロシクな!」


 それを聞いた私達は、驚きで言葉が出なかった。


 そして、アキにぃは――



「……聖霊族だから、洗濯とかもしないんですね」



「あんたちょいちょいひどいこと言うね」



 ぎぃっと、マースさんやダンゲルさんがいたようなギルドほどではない、普通の木で作られたドアを開けるガーディさん。


 そのドアの向こうを覗くと……。


 私は目を疑った。


 そこはまるで、普通の酒場だったから。


 いくつかの席と、お酒が置かれているだけの、普通の、お客さんが全くいない酒場。


 それを見て、アキにぃは小さく「寂れている」と言った。


「何が寂れているだい? こんの青二才」

「っ!?」


 突然だった。


 アキにぃの声が聞こえていたかのように、お店の裏から出てきたのは、一人のおばあさんだった。


 おばあさんと言っても、私よりも身長が高い……、百七十センチ以上はある薄銀色の髪を一つのお団子ヘアーにして、紺色の足元が見えないくらい長いワンピースのような服を着て、その上に白い白衣を肩に引っ掛けているおばあさん。目にはフレームが緑色の片目だけにかけるメガネをかけていた。


 それを見たガーディさんは「お!」と陽気に手を振って「おーぅい! また来たぞぉ!」と言った。それを見たおばあさんは舌打ちをして、しかめた顔をしたまま――


「いちいち来るんじゃないよ。この幽霊もどき」


 そういいながらも、私達に近づいて、そして私の前に立ったおばあさんは、私を見降ろして睨む。


 じろっと、それはもう怖い目で……。


「っ」


 それを見た私は、肩を震わせた。あまりにも起こりすぎているその顔を見て、委縮してしまったのだろう……。それを見てなのか、ヘルナイトさんは私の後ろから、凛とした声で――


「そんな風に睨まないでほしいのだが」と言った。


 それを聞いて、おばあさんはじろっとヘルナイトさんを見て、そしてアキにぃ、キョウヤさんと言う順番で睨んでいくと……。


 舌打ちを一回。


 そして――


「で? ガー坊。今日はなんなんだい?」と、顰めた顔のまま言った。


 私はそれを聞いてほっと胸を撫で下ろしていると、ヘルナイトさんは言った。


「……あの人はいつもあんな感じだ」と……。


 それから、私達はその酒場……なんだよね? ギルドって書いてあったのに、人が全く来ない。


 それを違和感に感じながら、私達は酒場の椅子に座って、ガーディさんとおばあさんが話し終わるのを待っていた。ヘルナイトさんは、背が高いゆえに外で待機している……。


 陽気に話すガーディさんと、しかめっ面のおばあさん。


 不釣り合いな二人は何かを話している。


 それを見て、キョウヤさんは私達に顔を近づけて、小さい声で言った。


「あのおばあさん、本当にギルド長なのか……?」


 その言葉に対し、アキにぃはうーんっと頭をひねってから……。


「どうだろう……。っていうか、あのおばあさん怖すぎる……」

「マースさんと、ダンゲルさんとは違う雰囲気……」

「あれはないわ。うん」


 とアキにぃが頷いた瞬間だった。


 じゃきりと、アキにぃの首元にナイフがあてられる。それを見て、私たちはアキにぃの背後にいたおばあさんを見て、さらに青ざめる。アキにぃは私達以上に青ざめて、震える目で後ろにいるであろうおばあさんを見た。


 おばあさんは……、小さく、そして低い声で……。


「悪かったね……。愛想が悪くて」と言って、そのまますっとその場を後にした。


「「…………………怖っ」」


 二人はそれを見て小さく、か細くいう。


 それを見ていると、ガーディさんは私を呼んだ。


 ちょいちょいと、手招きをして……。その近くには、何かを持ったおばあさんが。


 それを見た私は首を傾げながら近付くと、ガーディさんは言った。


「な? 言った通りだろう?」と私を指さしていうガーディさん。それを聞いて、私をじっと見たおばあさんは、こう言った。


「あんた――四つ瘴輝石を持っているそうだね」


 その言葉に、私は一瞬言葉を詰まらせたけど、意を決して、頷く。


 私の行動を見たおばあさんは、手を出した。


「?」


 私はそれを見て、おばあさんを見上げると……。おばあさんはしかめた顔でこう言った。


「あんたが持っているその石、あたしが削るよ」


 それを聞いた瞬間、私はずっと、一歩後ずさってしまった。


 それを見たアキにぃ達は、私の名を呼びながら疑問に思って近付いて来た。それを聞いて私はぎゅっと握り拳を作る。


 それを見ていたおばあさんは、もう一回舌打ちをして……。


「……あたしはそんなに物騒な女に見えるのかい?」と聞いてきた。


 その言葉に対し、アキにぃは「正直なところ」と頷いたけど、おばあさんはじろっとアキにぃを睨む。キョウヤさんもついでにだろうか、「何でオレも……っ!?」とびくびくした音色が聞こえた。


 おばあさんは言う。


「でもね、そんな武骨な状態で、人間でいうところの丸裸っていうのは……、聖霊族にとってすれば恥ずかしいことだ。ちゃんとした土台と言う名の服を着せて、大好きな人間のためにその力を使ってほしいことこそが、瘴輝石(こいつら)の願いでもある」


 それを、無下にするのか? 宝の持ち腐れにするのか?


 そう聞かれた私は、ぐっと口をつぐんで、首を――横に振った。


 あのエディレスの言葉を、ヘルナイトさん達が言っていた……、聖霊族の気持ち。


 無駄にしたくないけど……、私は……。


「だからね。あんたが持っている石と、このガー坊が持っている防具を掛け合わせて、その石達を使えるように、あたし達が二人で、あんた達三人の魔道具――アークティクファクトを作るって言ってるんだ。その石のためでもあるし、あんた達のためでもある。マースとダン坊の頼みでもあるからね」

「……………………え?」

「オレ達の……?」

「魔導具?」


 三人で驚いていると、おばあさんはくるんっと後ろを向きながら白衣を靡かせ、にっと、しかめっ面以外の表情――強気な笑みで、おばあさんは私達を見るために振り向きながら言った。<


「あたしはアムスノームギルドのギルド長にして、このガー坊よりは劣るが、一応魔技師でもあるマティリーナだ。二人に頼まれて、仕方なく作るって言っているんだ。さ、さっさと丸裸の石達を出しな」

「おすすめの防具やアクセサリーなら、俺に任せろ!」


 ガーディさんもサムズアップして言う。


 それを聞いた私は、後ろにいる二人を見上げる。


 二人は頷いていた。


 それを見て私は、ポーチから四つの瘴輝石を取り出す。


 そのうちの一つは……。エディレスの瘴輝石。


 私はエディレスの瘴輝石を見つめた後一回目を閉じて、指で撫でながらそのぬくもりを感じた。


 もう冷たくなってしまっているけど……、それでも鼓動がある。そんな感じがした。他の三つもそうだ。


 目を開けて、それをおばあさんことマティリーナさんにそっと渡した。


 それを見て、石を掌二つに収めたマティリーナさんはにっと笑って――


「なら、さっそく削るか」と言った。


 そしてガーディさんを見て……。


「その前に……、あんたはさっさと風呂入れ! くさいんだよ!」

「お前もなのっ!?」


 怒ってガーディさんに向かって怒鳴り散らした……。

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