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PLAY130 些細な行動は大きな変化へと――④

 私達の前に現れた人物は――頭に三つの角を生やした男性だった。


 青と水色、そして白の三つの角を生やしていて、青と水色が混ざっているかのような髪の毛が肩まであって、顔を隠せるほど前髪が長い男性は後ろで一つにゆるく縛り、白い着物の上に黒い香りを羽織った状態で現れたその人は、私達の視線を一瞬だけ映して眼を細めた後、すぐにオウヒさん達に視線を移した。


 整っている顔はイェーガー王子を思わせる顔立ちで、一言で言うとすごい綺麗な顔。


 でもその顔から、雰囲気から出ているものは冷たいもので、温かさというか、何を考えているのかわからないような顔を見ると、不思議と第一印象が『極力関わりたくない人』になる。


 でもその印象も、その人の体を見た瞬間、変わった。


『極力関わりたくない人』から――『この人は一体誰なんだろう』と言う、謎の雰囲気が加わって。


 着物と羽織でわからなかったけど、着物の隙間が視界に入った時、私は息を呑んでしまったのだ。


 体に刻まれている切り傷の数々。


 一つとか二つとかじゃなくて、いくつもの傷痕が彼の半生を物語っているようにも見えてしまう。


 よくよく見たら、手首、そして右手に巻きつけられたボロボロの包帯の下から覗く痣も、彼と言う存在を――彼と言う名の人生が浮き彫りになっていくような姿を見て、私は三つの角を生やしたその人を見上げて思った。


 心の声でこう言った。


 ――この人は……、普通の鬼族じゃない。と。


「? あ」


 そう思うと同時に、視線が下に向かっていたのか、無意識に向けていた視線の先を見た瞬間――私は呆けた声を出した。


 小さな声で呆けた声を出したけど、私の声がアキにぃ達の耳に届いていたのだろう。


 アキにぃ達とヘルナイトさんは私のことを見て、私が見ている視線の先に自分達の視線を向けて、私と同じ呆けた声を小さな声を零した。


 あ、ヘルナイトさんは無言だった。


 私達プレイヤーが声を上げて、視線の先を見て驚きの顔を向けると、視線の先にいたその人達は一瞬時間が止まったかのように固まっていたけど、すぐに時間が戻り、動きを私達に向けて見せた。


「っ」


 障子戸の向こうで聞き耳を立てるように身を屈めていたシルヴィさんは、私達に向けて恥ずかしそうに頬を赤らめながら手を上げて。


「いぇーい」


 シルヴィさんの足元で床にねっこりがりながら私達に向けてピースサインを向けている蓬さん。


「おーい」

「ヨォ」


 シルヴィさんと蓬さんの後ろで大きく手を振って私達に存在を知らせようとしているリカちゃんと、その横で小さく手を振っているコーフィンさんと言う……、まさに異色な四人が障子戸越しの壁に――部屋の向こうで小さくなっていた。


 なんだか、シュールに見えてしまうその光景を見て、私はどう返事をすればいいのかわからず、コーフィンさんと同じように小さく手を振って、困ったように笑みを浮かべながら頭を軽く下げた。


 背後から聞こえた……「なんでこんなところに……」と呆れ半分、苛立ちが少々と頭が痛くなっているような残り苦悩のような声を零したアキにぃの魂の叫びを (音量は小)を聞きながら……。



 □     □



「お前は……蒼刃(アオハ)か!」

「! 赫破。お前もいたのか」

「ああ」


 一瞬の心の安らぎを感じていた私だったけど、アカハさんの声が聞こえると同時に、気持ちを切り替えて視線をアカハさんに向けると、アカハさんは今来た三つの角の男の人――アオハさん……、って言うんだ。アカハさんはアオハさんに向けて驚きの声を零した。


 もしかして……アオハさんってあまりここに来ない人なのかな?


 そう言えば私達が鬼の郷に来てから、オウヒさんの御守をしていた間も、全然見かけなかった。


 見かけなかったということは、郷の外で仕事をしているひとなのかな? と、頭の片隅で思っていると、アオハさんはアカハさんに向けて辺りを見渡して、部屋にいる鬼族の人、そしてオウヒさんを見た後、アオハさんはオウヒさんのことをギッと睨みつけて、一歩足を前に出した後――冷たい音色でオウヒさんに向けて言ったのだ。


 すごく冷たくて、低いそれで……。


「やっぱりお前だったか……桜姫。話は遠くまで聞こえていたぞ」

「あ、兄様……」



「「あにさまっっっ!?」」



「うぉびびった」


 アオハさんの言葉、そしてオウヒさんの言葉を聞いた瞬間、私とシェーラちゃんは大きな声で、まるで打ち合わせでもしていたかのような声の揃え方で驚きの声を上げてしまった。


 私達の声に驚いてキョウヤさんが驚きの声を上げたのも同時で、その声を聞いた後一幕置いて……、私ははっとして固まってしまった。勿論シェーラちゃんも。


 すごく大きな声で、しかも素っ頓狂に聞こえてしまうような声を上げてしまった。


 そのせいでアオハさんやオウヒさん、あろうことかアカハさんやリョクナさん、他の鬼族の皆さんの視線を奪ってしまう結果に……、悪い意味で。


 びっくりするのも無理はない。


 きっとシェーラちゃんだってそう思っているに違いない。


 でも、やっぱりと言うかなんというか、目立ち過ぎたのかもしれない。そう私は思い、シェーラちゃんもそう思ったのか、顔中を真っ赤にして俯いてしまった……。


「んだよ、突然大声出しやがって……、まぁオレも驚いているけど」

「てか姫様にお兄さんっていたんだ」

「兄妹か。確かにどことなく面影がある。きっとどちらかに親に似たのだな」


 キョウヤさんとアキにぃ、虎次郎さんの声が聞こえるけど、今はそれどころじゃない。恥ずかしいし突然声を出したせいで神妙だった……、シリアスだった空気が一瞬で寒い空気になってしまったのだ。


 原因として……。


 なんだろう……。驚いた時は考えてなかった。


 感情で動いてしまったせいか、あまりにもこの空気は苦しく感じてしまう。


 なんだか視線が突き刺さる様な、自分がまるで恥ずかしい事をしてしまったかのような羞恥まである。


 あぁぁ……、今になって過去の自分の口を塞ぎたくなった。なんだかすごく苦しい……、息苦しい……。これが、そうなんだ。


 穴があったら入りたい。


 まさに今私は、その状況に立たされています……。


 そう思いながら真っ赤になって熱くなってしまった顔を見せないように俯いていると、オウヒさんは小さな声で、「あ」と言った後……、きっとアオハさん達に説明しているのだろう。オウヒさんは慌てた様子で――


「あ。あのね……、兄様のことみんなに話していないの。だってモゴモゴ……、していたし、消化資するにしても兄様本人を見た方がいいかなーって思って、それに兄様、郷に来ることなんてあまりないから」

「桜姫――」

 

 と、聞いている限り言い訳にしか聞こえないような弁護を聞いていた私達は顔の熱が一瞬引いて、俯いていた顔をそっと上げようとした時、アオハさんの冷たい声がまた辺りを、雰囲気を凍らせていく。


 パキ……ッ。と言う氷に亀裂が入る様な音が聞こえそうなくらいの寒さに相当する静けさと重み、そして冷たさ。


 さっきまで羞恥でもう消えてなくなりたいという気持ちが一瞬で消え去ってしまうほど、アオハさんの言葉は重かった。


 重くて冷たい。まるで一言一言に魔法を放っているかのような……、そんな冷たさ。


 よく緊張が走る時のビリリッとしたそれじゃない。別の意味で……、怖い何かを感じてしまう。


 脂汗すら出ないような冷たさの中、アオハさんは呆れるような声でオウヒさんに向けて言葉を発した。


 顔を上げていたからわかったけど、アオハさんは呆れているけれど冷たさしかないその顔を見せながらオウヒさんに向けて――


「言い訳なんて聞いていない。それは別の場所で言う事だろ? ましてやお前は……、いや。今は説教をする空気じゃないな」

「………ほ」

「………………………」

「あ、ん、ううんっ!」


 と、少し説教をしようとしていたのか、腕を組んで、仁王立ちの状態で何かを射ようとした蒼刃さんだけど周りを見て、そしてリョクナさんとアカハさんのことを見て再度溜息を吐くと、オウヒさんから視線を外してアカハさん達のことを見ながらオウヒさんの説教を止めたアオハさん。


 それを聞いてオウヒさんは露骨に安堵のそれを浮かべた瞬間、アオハさんの一瞥を見て慌てて咳込んで姿勢をピッと真っ直ぐにして正す。


 視線を斜め上にして、なんだが変な笑みを浮かべて『何もしていませんよ~』と言うそれを出しているオウヒさんを見て、アオハさんは一瞬黙っていたけど……すぐに視線を戻してアカハさんに向けてアオハさんは聞く。


 聞く……は、違う。


 アオハさんは聞いたんだ。アカハに向けて――


「話は外まで聞こえていた。まさか、空中都市が」

「ああ、儂も驚いている。桜姫の話を聞くまではまさかと思っていたが……、どうやら、本当らしい」

「本当……で、なんでこうなっているんだ?」

「…………。簡潔に言うと、『国に手を貸すか貸さないか』それで口論しているんだ」

「………………………そうか」


「?」


 ふと、アカハさんと話しているアオハさんのことを見て、視界の端に入ったそれを見て私は一瞬首を傾げてしまった。


 アオハさんはさっきまで冷たい雰囲気を放っていた。もしゃもしゃでもわかってしまうほどの冷気で、寒くなってしまいそうな白い靄のようなもしゃもしゃを放っていたけれど、一瞬、一瞬だけその色にもう一つの色が加わった。


 加わった色は――青。


 これは、悲しみを表している……。


 そう思った瞬間、アオハさんはリョクナさんのことを見て、リョクナさんの名前を呼ぶと、リョクナさんは「あぁ?」と、喧嘩腰の声を上げてアオハさんのことを睨みつける。


 本当に喧嘩腰の声と凄んだ目だから、その目を見た瞬間障子戸越しでリカちゃんが小さな悲鳴を上げる声が聞こえた。


 確かに、あれは怖い……。


 アオハさんはリョクナさんのことを見て、老人の鬼族の人たちのことを見て――黙ってしまった。


 黙りながら考えているかのように目を細めて、少しの間黙っているアオハさん。


 一体何を考えているのだろうと思っていると、アオハさんはアカハさんに視線を向けて、アカハさんの名前を呼ぶとアオハさんはアカハさんに向かってこう聞いたのだ。



「お前はどっち側なんだ?」



 どっち側。


 その言葉を聞いた瞬間、視線が一瞬でアカハさんに向けられた。純粋な疑問と言う名の――確認。


 私達もそうで、一瞬で全員の視線を奪った (と言っても、アオハさんの発言でなんだけど……)アカハさんは辺りを見渡し、私達を見て、そしてオウヒさん達のことを見た後、懐の閉まっていたのだろう……、煙管を取り出し、それを口に咥えた後、アカハさんはアオハさんに向けて――


「そんなの簡単だ。この老いぼれの力でなんとかなるなら、儂はそれでいい。それに、それで()()ができれば何かと揺すれるかもしれんからな」


 と言った。


 少しだけ遠回しの返答、半分冗談が混じっているような返答だけど、それを聞いた瞬間――オウヒさんの顔から笑顔が溢れ、逆にリョクナさんの顔から激怒が溢れ……。


「――赫破ぁっ! それはどういうことだぁっ!?」


 ……る前に声が出てしまい、リョクナさんは荒げる声でアカハさんに掴みかかる様に立ち上がって詰め寄ろうとした。


「なぜ屑共のことを助けようとするっ!? なぜだぁっ! 儂等は他種族に命を狙われ、多くの鬼族が死んでしまった! 同胞が死んでしまった! その元凶を生み出した他種族に、なぜ命を賭けようとしているんだっ! 血迷ったか赫破ぁああああっ!」


 もう襲って首を絞めようとしているリョクナさん。


 血走って正常な思考なんて吹き飛んでしまったかのような形相で迫るその姿を見ても、アカハさんは避けなかった。どころかじっと見ている。


 リョクナさんの後ろにいた老人の鬼族の人たちも立ち上がろうとしたけど、それを見てかアカハさんはリョクナさん達に向けて、慌てる様子なんてない状態でこう言ったのだ。


 はっきりと、掴みかかろうとしてくるリョクナさんに向けて――


「屑はお前だ」


 と断言し、その言葉と同時にリョクナさんの動きが止まった。


 ちょうど――アカハさんの首元に添えるように手が止まって、いつでもつかめるような状況の中アカハさんは冷静な音色で言った。


 怒りと崩れてぼさぼさになってしまった髪の毛で、山姥のようになってしまっているリョクナさんに向けて言ったのだ。


「この郷は長い年月をかけてようやく見つけた安息の地でもあり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。儂等の(つい)の棲家なんだ。その棲家を易々手放せるわけないだろう」

「………………………っ!」

「それに、ここでの暮らしを経て、どうやら愛着が湧いたみたいだ。このボロボと言う国で軟弱なったみたいだ。儂はこの郷を守りたい。そう思った。それだけだ」

「~~~~本当に軟弱な思考回路になったようだな赫破ぁ! 他種族への憎しみはどうしたっ!? なぜそんなにも軟弱に」

「軟弱になってもいいだろう? 儂等はもう歳も歳だ。これからは若い奴が儂等の代わりに動く番。老いぼれはそんな奴らの背中を押し、進言を与えるだけでいい」


 もう――古い怨恨に縛らなくてもいい。


 そう思っただけだ。


 アカハさんははっきりと言った。


 怒りで歯を食いしばりすぎて口の端から血を零しているリョクナさんを見て、背後で怒りを爆発しそうになっている老人達をしり目にアカハさんは言ったのだ。


 この国のために――戦うことを。


 それを聞いてオウヒさんは泣きそうな顔で喜び、若い鬼族の人たちも喜びのあまりにお互いの顔を見て歪な笑みを浮かべて、私達はそれを聞いてお互いの顔を見て、再度アカハさんを見る。


 真っ直ぐで、嘘なんて一切ないアカハさんを見て……、大きな安堵をひしひしと感じながら……。

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