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PLAY130 些細な行動は大きな変化へと――①

「『これも幸先短い者の願いと思って、その命――捧げてくれ』だと? 何と物騒で悍ましい話だ。生憎その言葉に対し、私はイエスとは答えない。絶対にノーと答えよう。それも百パーセントで」


 突然現れ……、否――戦闘態勢の如く現れた黄稽に対し、ヌィビットは肩を竦め、不敵な笑みを崩さないまま答えを口にした。


 そんなお願いは駄目だ。


 まさに軽い返答と言わんばかりの言葉で重苦しく残酷な言葉に対して応えたのだ。


 とてつもなく軽い返答に対して、黄稽は一瞬返答に対して固まってしまうが、その固まりも一瞬で溶けてなくなってしまう。無くなると同時に思ったことは……。


 ――あぁ、そうだった。この野郎はこんな奴だったな。


 ――面倒なことだ。


 と思い、その思考を一旦脳内にしまうと、黄稽はヌィビットに向けて畳み掛けるように言葉を発した。呆れるように溜息を吐き、肩を竦めたヌィビットのことを困ったように牢屋越しで見降ろしながら……。


「そう言われてもなぁ……。今の状況を……と言っても分からんか。わかりやすく説明すると、国が滅んでしまうらしい」

「国が滅ぶか……。それはなんとも物騒且つ危険な話だ。その話が上がっているから地上は大慌てと言う事でいいのか?」

「ああ。そのとおりだ。みんな大慌てで、そのことで姫君様が突拍子もない事を言い出したんだ。そのことで今大喧嘩しているっちゅーわけで。まぁ儂はそんなことどーでもいいからここに来ているんだ。()()()()()()()()()()()()()()()()

「大喧嘩……、誰と誰がかな? 鬼族の皆様は凄い結束力がある。団結力と言う名の力を持っている。まさに団体戦の協議に出れば右に出る者などいないと言わんばかりのな……。団体戦に強いほどの絆を持っている一族が大喧嘩となると……内容は他種族が絡んでいるのか? それであればなぜあなたはここにいるのかね?」

「あぁ。儂はあんな湿っぽい話はめっぽう嫌いでな……。()()()()()()()()()()()()()()()()なんだ」

「行動……、なぜなのか。どうも辛気臭さというか、嫌なものを感じてしまう」


 嫌な物。


 その言葉がヌィビットの口から吐かれ、言葉として紡がれた瞬間、黄稽の顔色に僅かだが変化が起きた。


 ぴくり――と顔の筋肉を僅かに動かす。


 ただそれだけ。


 それだけなのだが、それでも僅かな変化はヌィビットに大きな情報を与えてくれることになった。


 変化は心の揺れ。


 僅かな揺れを出してしまえば相手に手の内を明かしてしまう。まさにパズルのように零れ、そのピースを嵌められてしまう。


 絵になっていない額の中にピースを嵌めると絵になっていくであろう。


 それと同じで、ヌィビットはその変化を見て、脳内で黄稽と言う人格の一部一部をピースとして嵌めて、組み立てて完成させようとしていた。


 よく容疑者の心境を、心の中を研究するプロファイリングのように、ヌィビットはそれをパズルのように行って組み立てて研究する。


 よく見て、研究して――相手を知る。


 それを目で見て、脳内で幾度となく組み立てながらヌィビットは黄稽に聞いた。


 そう――黄稽の心の柱を崩そうと畳み掛けて。


「あなたは重鎮という鬼の要なのだろう? よくある相談役なのだろう? ならなぜこんなところで油を売っている? 売るものはないみたいだが、それでも油を売って損をしているような感じではないな。と言うかここに来ること自体が目的と言う雰囲気が駄々洩れだ。さっきも言っていたが、私の命が欲しいのか? 欲しい理由は何なんだ? まさかこんな平和な世界で私と言う存在を絵に書けないようなことをするのか? それは少し思い切ったことをしているがやめておいた方がいいぞ? そんなことをして得などしない。損をして膝から崩れ落ちてしまうかもしれないぞ? それでもいいのなら……、なんて言えないな。私は真面目に言っているのですよ? そう私をあれやこれやとしても無駄だと……」

「いいや――()()()()()()()()()()


 瞬間――ばりぃ! と座敷牢内に迸る白い雷。


 否――これは静電気のような電流。


 一瞬しか走らなかった電気の流れが座敷牢を取り囲むように走り、ヌィビットを威嚇するように走った後も電流を放出し続けている。


 ばり……、ばち……。と――ヌィビットの耳に入るその音は人工的に作られた電気の音。


 雷のように一瞬ではなく、今もなおその場所にとどまる光景は静電気のように見えてしまい、ちらちらとあたりを小さく、小さく照らすその様子は可愛らしくも見えてしまう。


 見えてしまうが、その可愛さも目の前で影を濃くしたかのように暗闇の中で柔らかなそれを浮かべている黄稽の前では一瞬で崩れ去ってしまうもの。


 柔らかな物腰の裏に隠れる黒い顔。


 それを表しているかのように黄稽の笑みが黒く染まっていくと、その顔を見てヌィビットは言う。


「うーむ?」と、大袈裟に、素っ頓狂に近いような、男でも何とか出せる出来るだけ高い声を出しながら彼は聞く。


「私が欲しいと? それは物好きだ。私的にはあなたの考えていることに否定的なことは示しません。私達が住んでいる異国……では、そう言った人間の多様性を重んじるようにしているのですよ? 男女愛し合うことも、それ以外にも自由がある。それをダメと言う事で縛らない。むしろ恋愛の自由があるからこそ」

「つまらんことを言って首繋げても無駄だぞ? 儂はそこまで呑気ではないし、時間に縛られない性格(たち)じゃない」


 黄稽は言う。


 単刀直入ではなく、敢えて遠回しに言いつつ、確信を突くようなことを言いながら。


 それを聞いたヌィビットは回っていた舌を止め、開けていた口を閉じてから再度肩を大袈裟に竦め、一瞬間をおいてから溜息を鼻で吐くと、その後少しして小さく……。


「……やはり、殺すと言う事か」


 小さく、ヌィビットは言う。


 さらりと『殺される』ことを自嘲気味に言いつつ、飽き飽きしていると言わんばかりの雰囲気を出しながら言ったのだ。


『殺す』


 それは一般的にいい響きではない。完全にアウトの響きであるが、それを聞いた黄稽は声に越えた贅肉の頬を吊り上げ、今まで一瞬しか見えなかった歯を露見させるように口の弧を上げた。


 ぐにぃ。と――思い肉を持ち上げる様な擬音が出そうな行動の後見せた歯は、お世辞にも汚いを通り越していた。


 現代で言うところの歯周病が末期にまで到達してしまった姿を見せながら、それを敢えて見せて脳裏に、角膜に焼き付ける様に笑みを浮かべながら黄稽は言う。


 今まで見せていた柔らかさが狂気と混ざり、異常にして異質となってしまったそれを見せながら……。


「そうだ殺すんだ。殺して辻褄を作ればこの騒動は終わりとなる。そうなれば儂は二重の意味で幸せを掴むことができるっちゅーことだ。頭のいいお前のことだ――わかっているだろう?」

「……なんとなくだ。なんとなく理解はしていたし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()私にとって、造作もないことだった。だがまさかここまで外道だったとは思わなかったな」

「外道とは心外だな。儂は臨機応変ってだけなんだ。正直こうならなければお前さんを殺すだけにしておきたかった。だがそれもできなくなってしまった」

「理由は?」

「しくじったからだ! あいつらが……っ! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」


 荒げる声と共に豆粒ほどの唾液が黄稽の口から放出され、牢屋の床に楕円形の染みを残していく。


 残されていくそれがどんどん増えていくと比例して、黄稽の怒りも温度上昇の如く上がり、血液の流れも速くなり、辺りを迸る人工的な光も強くなり、音も大きくなっていく。


「っ!」


 電流と言う名の一瞬の痛みがヌィビットの足元にも走り、あとから大きな音がヌィビットの耳に入り、鼓膜を大きく揺らして反射神経と言う名の驚きを促す。


 促され、顔に出てしまったそれは一瞬の本音。


 本音を見せてしまうということは相手にとってすれば一瞬だけ勝った高揚感でしかない。


 だがそれを見ていない黄稽は苛立ちのままに角から魔祖を放出し、人工的な光を発し、制御すらしていない静電気を発生させながらなおも叫ぶ。


 荒げる声で彼は吐く。


 誰もそこまで聞いていないにも関わらず、黄稽は吐き捨てていく。


「せっかく情報を与えてやったっていうのになぁ!? あいつらは何の役にも立たないっ! こんな辛気臭せーところとおさらばしたいから儂は手を貸してやったって言うのによぉ? 結局『できませんでした』『申し訳ございません』しか言わない! 多額の金を費やしてやったっつ―のにまさかの裏切りだっ! いくらつぎ込んだ? いくらあの反組織に払ったと思う!? 投資してやった恩を忘れやがってっ! これでは儂の計画が台無しだろうがっ! こっちの手を汚したくないからあいつらを使ったって言うのに! 計画が台無しだ! 仕事ならしっかりこなしてきやがれ!」


 天井に向けてあげている手は空しか掴まない。だが掴む素振りはない。


 受け取る素振りでもなければ下ろす気もない素振り。


 下ろす気のないその手を上げながら黄稽は荒げる。


 荒げ、荒げ、荒げていくその様子は雨雲の雷のように。


 荒げの姿を見ていたヌィビットは対照的に冷静な面持ちで静観を徹し、言い終わったかに思えた話がまだ続いている光景を見ながら思った。


 呆れるように心の中で深い溜息を吐いて、彼は思ったのだ。


 ――あぁ、こいつも同じか。


 そう思うと同時にヌィビットは小さく現実の溜息を吐き、小さく、本当に小さな声で呟いた。


「そうか、お前はパトロンか」

「………! あぁ? ぱと……。?」


 小さな声で呟いた言葉は現実世界の言葉であり、黄稽はそれを聞いて、怒りを押さえつける様な面持ちのままヌィビットのことを見下ろす。


 射殺さんばかりの睨みつけと、浮き出ている額の血管。そしてあまりの怒りに切れてしまったのか、充血してしまった右目を見せつける黄稽。


 まさに苛立っていますというのを顔で表している雰囲気に、ヌィビットは哀れと言わんばかりに溜息をもう一度吐き捨て、頭を左右に軽く降った後、黄稽に告げる。


 最初に言っておこう。


 ヌィビットが最初に告げたことは――説明である。


「『パトロン』だよ。芸術家などに活動支援を与える人のことを指す。つまりはお前と同じ――()()()()()()()()()()()()()()()のことを指すのだよ」

「………ほぉん。異国ではそんな言葉なのか。それはいい勉強になった」


 一幕と言う名の一瞬の静寂。


 それはヌィビットの思考の整理には十分すぎる時間であり、黄稽の怒りを鎮めるのに十分な時間となり、理解できるまで十分な時間と言えるような静寂だった。


 そう――わかってしまったのだ。


 わかったからこそ、ヌィビットはもう被ることを止める。


 笑みと言う名の硬くて最強の仮面を。


 仮面を取り去り、本心と言う顔を黄稽に見せつけながらヌィビットは告げた。

 

 大まかと言ってもおかしくないが、それでも目の前にいる鬼を、みすみす野放しにしてはいけないと警戒しながら……。


「勉強になったついでに、なんとなくだが私の意見を聞いてくれないか?」


 ヌィビットは告げながら胡坐になっていたその体制を崩し、器用に二本の足で立ちながら語り続ける。ばりばりと迸る人口の雷を放っている黄稽に向けて――


「断る。と言ったら……どうするんだ?」

 

 だが黄稽はその要望を呑もうとしない。


 むしろ頷く方がおかしいと言わんばかりに黄稽は徐に広げていた手をだらりと下ろし、右手を人差し指をヌィビットに向けて指を指すと、その状態で黄稽は言う。


 黒い笑みとと共に、黄稽は言った。


「一応言っておくが、お前に断る選択肢はないぞ?」

「断る云々なんて、あなたにとってすればないも同然。ゆえに聞いただけ。私は大まかに思ったことを告げる。あなたのように鬼族のことを一ミリも考えていない輩に回答権はないだろう。鬼族のことを考えている思考回路を全く持っていない。己のことしか考えていない輩の言う事なんて……、吐き気が出そうなくらい耳に入れたくない」

「ふん……。鬼族のことを考えていないか。まぁ合っている」


 鬼族のことを考えていない。


 それは赫破や緑薙、そして鬼の郷にいる鬼族とは違う思考。


 鬼族は他種族を恨んでいる。だが同族を信頼し、心配し、助け合ってきたからこそ今の鬼族がある。


 あるのだが、それを否定するような言動を黄稽は簡単に吐き捨てたのだ。


 口ごもるなどしない。敢えて否定のそれを考える様子もない。


 正直な意見として、本音として告げたのだ。


 まぁ合っている。


 そんなこと考えていないと――肯定して。


「鬼族のことを思っていない理由は? きっかけは?」

「時代だな。凝り固まった時代の中で死ぬなんて馬鹿のすることだと悟っただけだ。きっかけなんぞ忘れた」


 黄稽の言葉を聞きながらヌィビットは質問を行う。


 黒いそれを浮かべている黄稽に向けて――きっと意味なんてない。だがヌィビットからすると意味がある質問を……。


「お前が支援している奴らは誰なんだ?」

「きっと姫君が話しているだろうな。まぁお前には関係ない。お前の首――悪魔族の首は鬼族の角よりはレアリティは低いが、貴重の分類だ。それ相応の価値はある」

「私を殺すというメリットは何なんだ?」

「言っただろう? 資金のためだ」

「まさかと思うが……、それは亡命の」

「いつまでそうやって時間を稼いでいるんだ? そんなことをしても――」


 無駄だぞ?


 黄稽は言う。


 牢の外で更なる人工的な光を放ち――周りに電流を走らせながら黄稽はヌィビットに言う。


 直立しているヌィビットに向けて、足元に走らせるそれを見せながら言うそれはまさに脅し。


 バリバリと音を立てて走るそれは危険な武器の音としか思えないような、否――人為的に作られた一瞬で命を奪う代物の罠が張られてしまったかのような狂気の沙汰。


 脅しと言う名の言葉、罠と言う狡猾な方法をしながらも、陽気に、比較的明るい音色で黄稽は言う。


「儂はな……雷の魔祖を操ることができる。それは英雄と語られている鬼族の女とは違うものだが、それでも痛いと思うぞ? なにせ儂の魔祖に触れた瞬間……周りに迸っている電気に触れた瞬間――体中に雷と同等、またはそれ以上の電流が体を走るんだ」

「電気か……、それは即死だ」

「そう即死だ! だが儂はそんなあまちゃんじゃないぞ? 長く、長く痛めつけるためにいい塩梅で電気を流して、時間をかけて甚振るんだ。時間をかければかける程――いい声で鳴く。いい具合に痺れ、痙攣して、苦しみながら死ぬ。ただ身体に電流を流して身体強化をするなんぞ甘い奴が考えることだ。もっとも……、一歩歩いただけで全身に激痛が走るんだ。命とりの一歩を行うほど、お前に度胸があるのか?」

「なるほど……、となると私は、何をしても死ぬことしかできない罠にかかってしまった獣ということか」

「んふっふっふっふ! いい例えを言うな貴様はっ! 初めて出会った時から思っていたが、気に入ったぞ? 勿論紫刃を殺したあの部下にも一目置いているんだ! もし遺言を残すなら聞いてやってもいいぞ? どうだ? 遺言残すか?」

「遺言……」


 黄稽の言葉を聞き、『遺言』と言う言葉を聞いた瞬間、ヌィビットは柄にもなく大きく反応をした。ただの反応ではなく、その言葉を聞いた瞬間フラッシュバックする光景と共に、その言葉に対して強い嫌悪を抱いているような気持ちを駆り立てながらヌィビットは思った。


 否、思っていたが、その思っていた言葉を――彼は声にして出したのだ。


 言葉には言霊と言う魂が宿る。


 まさにその言葉が正しいかの如く、ヌィビットは魂に誓った言葉を吐いたのだ。


 そうならない。それを心に決めて――


「しないよ。遺言は絶対にしない」

「あぁ? しない? もう死ぬかもしれない。何度殺しても生き返る様な力を持っている悪魔族のくせに何を」

「あぁ、私は悪魔だ。あくまで悪魔族と言う立場で言うと滑稽に聞こえてしまうかもしれないが、私は本気だよ。遺言なんておいて逝かない。私が死ぬときはまだまだまだまだ先なんだ」


 そう言いながらヌィビットは足を前に出す。


 前に出し、バリバリ迸る罠の領域に足を――


 勢いよく踏み入れ!


 ――だぁんっ!

 

 ――ばちっ。バリバリバリィッ!


「――っっっ!!!」

「っっ!? しょ、正気かっ!? 自ら足を踏み入れるなんて……! 馬鹿としか思えんぞっ!」


 刹那。全身に駆け巡る言いようのない痛みの地獄。


 それを体験し、全身で体験しているヌィビットは声すら出せないほど痛みを受けていた。否――耐えていたのだ。


 駆け巡る電気の痛みのせいで意識を何度も失いかけるが、悪魔族の特権を生かして死にかけては生き返り、死にかけては生き返りを行い、焼け焦げていく足を何度も何度も再生させていく光景はスプラッターに近いものを思わせる。


 あたりに飛び散るそれらは凄惨な光景を物語っていく中、黄稽は露にしていた笑みを崩し、驚きの顔をした状態で後ずさりながら黄稽は言う。


 お前は本物の馬鹿だ。


 その心意を表しているような言動を吐くが、ヌィビットは答えない。


 否――その言葉を無視して、電流走る体を無理に動かしながら彼は口を開いていく。


 電流など何のその。現実ではありえないが、悪魔族と言う力を使いながらヌィビットは歩む。思い足を持ち上げ、痛々しく、描写したくないそれを見せながらも、歩みと言う行動を止めずにヌィビットは一歩歩みを進める。


「馬鹿でもいいさ……! それでもいいさ……! 私は死にたくないのだから……、こんなことをするのは……当たり前だろうが!」


 進めて、足をつけた瞬間電流の罠が発動し、再び体中に走る痛みを感じながらもヌィビットは進む。


 黄稽に近付き、座敷牢の降りに近付きながらヌィビットは言う。


 ふらつき、もう歩めないのではないかと思ってしまうような足取りで、ボロボロになってしまっている体になっても、ヌィビットは歩む。


 無理に笑っているその顔を相手に刻むように――ヌィビットは言う。


「私は……こんなところで死ねないんだよっ! 死んでしまう……ことは! 私にとってしてはいけないこと、なんだ! まだまだ、やるべきことがあるんだ……! ()()()()()()()()()()()()()()()……! こんなところで……、死ねるか……! 大バカ者が……っ!」


 放たれた言葉はまさにヌィビットの魂の言葉。


 やらねばならないことがある。


 それは一体何なのかはわからない。


 後に明かされることであろうとも、それを今知ることはできない。


 ヌィビットの言葉に、威圧に、狂気に気圧されていく黄稽は、言葉を失い、青く染まっていく顔を露見しながら地下の壁に背をつけてそのまま尻餅をついてしまう。


 目の前にいる人物が、別の意味で悪魔を思わせる姿を垣間見て……、臆してしまいながら……。

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