PLAY129 溝と告白と衝撃の三重奏①
「はぁーぁ。んなことがあったとはな」
「まさかこの騒動に『六芒星』が関わっているとは……」
それから少し時間が経過した現在――エド達は現在進行形でクロゥディグルの背に乗り、次の目的地でもある『鬼の郷』に向かっていた。
勿論空中飛行と言う手っ取り早い移動方法で――だ。
現在エドと京平、ショーマ達はクロゥディグルの背に乗った状態でエドから事の経緯を細やかに説明している。
それは空を飛んでいるクロゥディグルも聞いているので、状況を聞いた時のクロゥディグルは驚きのあまりに体が揺れてしまったほどだ。
一種の強張り。
突然何かを言われた時や驚かされた時に体が強張るのと同じで、驚きのあまりに正しい姿勢で飛ばなければいけないその体制を崩してしまうほどのショックだった。
ゆえに体が一瞬曲がり、大きな揺れと共に一時エド達を危険に晒してしまうという失態を起こしてしまった。
揺れが起きたせいで落ちるかもしれない恐怖もあって、一時は険悪な空気になりかけていたが何とかそれを持ち直すことができ、現在に至り……、説明を終えて開口開いたのはコウガとデュランだった。
「俺達が大変な目に遭っている時に限ってか……。てかそれに巻き込まれなかったってことは俺達はラッキー……いやアンラッキーだったな。もし俺達も加勢していればこうは……、いやだがな……」
経緯を知ったコウガは胡坐をかきながらエドのことを見て腕を組んでいる状態。
言葉とは裏腹に行動が正直に見え、口元を隠して明後日の方向を向いているコウガの姿を見たエドは、頭で受け入れていないことを知り、いろいろと考えては消去をしていることを理解してしまう。
言葉で聞けばわかる。だが受け入れることは少々時間を要する。
要すると同時にできる可能性の数々。
自分達が加勢していれば。
それはまさに未来形の言葉。
だがそれが叶わなかった。
もっとあの時こうしていれば。もっとあの時……等々。
後悔の言葉がどんどん湧き水の如く出て来るコウガの姿は常人の思考そのものだ。
エドはコウガのことを見つつ、隙を見てコウガの胡坐の穴に入り込もうとしているむぃのことを一瞥しながら……。
「もう過ぎてしまったことは仕方がないよ。多分加勢したとしてもしなかったとしても、相手の攻撃でもしかしたらっていう最悪もあったかもしれない。この場合コウガさん達が別の行動が命拾いになったっていう風にとらえた方がいいですよ。まぁ言い方は嫌味っぽいかもしれませんが……」
「………………」
「それに……」
と言い、エドはコウガとコウガの胡坐の中にすっぽりと納まって座っているむぃのことを見て間を置いた後……、そっと口を開いて言う。
多分加勢できる態勢であったとしても、できないだろうということをやんわりと告げて……。
「ショーマ君のこと、聞きましたけど、もしスリがなかったとしても何かしらの事件に巻き込まれていた可能性もありましたし……、それは……多分」
「悪ぃ。それ以上言うな。あいつはマジで何かしらの事件を引き起こす厄介野郎だよ」
そう――たとえ加勢できる状況だったとしても、絶対にそれが阻害されてしまうことは薄々理解していたエド。
コウガ自身も顔を手で覆い、左手を突き出してエドに対してそれ以上言うなと告げるように止めると、内心そう思っていたのか深い溜息が口から零れ出てしまう。
溜息はどんどんクロゥディグルの背中に乗っていた人達にも伝染していき、コウガの近くにいたむぃ、遠くにいたデュラン、ツグミ、京平と言う順番に伝播して、その者達の心の声を一つにしていく。
ただ一人……、我関せずという形でみんなのことを見ているショーマを横目で見て……。
――本当にこいつは厄介を招く野郎だ。
と。
何故なのかはもうわかっている。
それは無差別に巻き込むその不運と言う名の体質の所為。
またはめったにない運のマイナス値の所為でショーマと一緒に行動しているコウガ達は災難な目に遭っているのだ。
ここで数えて説明してしまうと時間がかかってしまうので、最近の事例を言うと――
数日前のこと、ショーマはフェーリディアンの宿で暇を持て余していたが、その暇に耐えることができずに外に出るとスリにあってしまった。
しかもそれは全財産が入っている大事なもので、それを取り返すために追いかけたがなかなか捕まらず、捕まえようと躍起になっていたのだが運悪く掴まってしまうという事態に。
その集団はボロボ空中都市の王国近くに根城を立てており、その集団の根城で監禁のように捕まってしまい、何もできないというハンナ達とは違った緊急事態になってしまうことに。
たった一人だけ行動した結果捕まってしまい、食事も与えられない。何もできない状況の中ショーマは抗い、抵抗し続けていたが、やっとツグミ達が助けに来てくれて命を拾い、犯罪集団を捕まえて王国に連行した。
――と言うところでエドと京平に再会した。
………本当に、ハンナ達がいないところで別の物語が発展していたことに関してはあまり詳しく言わないでおく。
言わないでおくが、そんな不運に巻き込まれているコウガ達のことを見て、そんな体質を持っているショーマと幼馴染として一緒にいるツグミのことを見てエドは思った。
頬を掻き、困ったような顔をして笑いながら――
――大変そうだけど、『見捨てる』なんていう選択肢をしないところを見るに、仲間として認めているんだ。
と思い、ツグミ達に向けていた視線をショーマに向けて続けて思うエド。
――そこは、羨ましいな。信頼できるというか、何というか……。
――家族じゃないのに、温かいな。
――たぶん、おれが味わったことがない温もり。
エドの心境を察しているのか、エドの過去を知っているからこそ横目で見ていた京平は無言でエドのことを見て、そのまま視線をずらしてクロゥディグルに向けて言葉を発する。
『ところで』と言うと、クロゥディグルはそれを聞いて返事をすると、京平は質問をした。
「王様はあんなこと言っていたけどよ……。正直聞くべ。ボロボ空中都市の騎士団長さん……、えっと、憲兵竜騎団第二部隊隊長さん、でいいのか? 隊長さんから見て鬼族と手を取り合う事ってできるか? 正直どうなんだべ?」
「手を取り合う……ですか」
現在京平はクロゥディグルの頭に乗っている。
その場所から京平はクロゥディグルのことを見下ろして聞いたのだが、聞かれた本人は答えずらそうな面持ち。
どころか悪い創造しかしていないような、想定しかしていないような顔つきだ。
その顔のままクロゥディグルは京平の質問に対して、言葉を選んだのか少しだけ間を開けて答えた。
「……、そうですね。私一個人の返答になってしまいますが、それでもよろしいのであればお応えします」
「おう、いいべ。どうせ俺達余所者の回答なんて叶う事なんてねーポジティブ回答だからな。現地人で真面目さんのあんたの返答を聞きてーんだ。話してくれ」
「……わかりました。王から話は聞いています。シルフィードを止めてほしい事。それは大きなクエスト……『極』クエストと同等の願いでもあります。その場合あなた方では心もとない。心士卿などの心強い味方の協力は必要不可欠です」
「だからこれから鬼族の郷に向かってイカレ野郎にも協力を仰いで、そんで運良ければ鬼族の協力も仰ぎてーってところ。強力な助っ人大歓迎だけど、どうなんだ? 正直協力は」
「………………………」
「マジで正直でいいぜ? むしろ嘘つかれると逆に嫌だし、この際正直に言ってくれるとむしろ安心すると思う」
「正直に申しますと――」
――無理です。
断言。
クロゥディグルは一幕注意書きのような言葉を付け足した後、京平の言葉を聞いた後すぐに返答した。
否定と言う名の断言を。
真っ向からの否定を聞いていた京平は驚きはしなかった。むしろ静かにクロゥディグルのことを見下ろしながら耳を傾ける。
――まぁ、そうだろうな。
と思いながら……。
「鬼族のことは聞いていますよね? たとえ一人の思考が違えど、大勢の考えを完全に変えることは不可能なのです。その生き方しか知らない。その生き方で生きてきた。考えで生きてきた人からすると、急に生き方を変えるというのは難しい事だと思っています」
「おう。それは俺自身話したし、考えに対して違和感を持っている輩もいたけど、大部分は変わることは出来ね―ことは理解している。アカハとか言うおっさんは何とか協力できそうだけど、それ以外の二人は無理だ。ありゃ頑固を通り越して固定概念凝り固まった輩だべ」
「それを踏まえても、あの人たちは我々の協力にも聞く耳を持ちませんでした。それを考えてしまうと、どうにも負の感情と共に思考がそちらに偏ってしまいます」
「我々の? それって……」
「『偽りの仮面使』の時です」
「あー………」
クロゥディグルの言葉を聞いた京平は、納得したように天を仰ぎながら思い出す。
クロゥディグルの言葉通り、昔ボロボ空中都市は『偽りの仮面使』の所為で大きな被害を受けた過去がある。
鳥人族の郷の前族長が秘密裏に隠していた摂食交配生物であり、ショーマ達が苦戦を強いられた魔物でもあるが、そんな魔物がボロボに甚大な被害をもたらしたことは、京平達自身嫌と言うほど聞いたことがある。
歴史に残るほどの惨劇。
そう言ってもおかしくないほどの被害なのだから仕方がない。
その傷が言えていない状態でシルフィードが暴走したのだから、なおのこと記憶に残ってしまう。
惨劇の状況を思い出したうえで京平はクロゥディグルの話に耳を傾け続ける。
クロゥディグルは続けた。
「私一個人としての意見として聞いていただけると嬉しいのですが……、鬼の一族の悲しみは少しですが理解できます。もし自分の種族もと考えてしまうと、やはり悔しさもあります。悲しみもあり……、命を荒らした輩がのうのうと生きている光景を想像してしまうと……」
「まぁ、一個人としての意見も然りだけど、気持ちはわからんでもないべ。俺にも憎しみっつーもんはあるかんな」
「はい?」
「あいやこっちに話だべよ。まぁそう言うのは想定しておかんとな」
一個人としての言葉を聞いた京平は思った。
思った……と言うよりも、『やはり』と納得していた。
鬼族の協力は最高の助っ人となるが、それが叶わないからこそ最強なのだ。
鬼族の協力は出来ればほしい。欲しいがそれができないのが現実であり、それができるのであれば苦労はしない。
つまり――望み薄。
と言う事であり、まさに幸運の数値がよければもしかしたらと言う賭けに近いような状態なのだ。
――まぁ、モルグの運数値が良くても、こっちにいるショーマがそれを帳消しにしちまうから絶対に無理だろうけどな。
……まさにその想像が容易にできてしまう。
そう思いながら京平はクロゥディグルの頭の上で腕を組みながらうんうん頷くと、京平はクロゥディグルのことを見下ろし――
「まぁ戦うのは俺達でいいとして、避難誘導とかしてくれると有難てーんだ。そこだけは今から『よろしく』言っておくべ」
「!」
と言うと、それを聞いたクロゥディグルは驚いているのか、目を見開きながら京平のことを見上げ、おずおずと言ったような雰囲気で聞く。
「戦いに、加勢しなくてもいいと……?」
「むしろこれは俺達の仕事じゃねーか? 『浄化』の力を持っているあの子のことだ。きっと自分達でなんとかしたいってごねるだろうし、エドやあの小僧だってそうだ。みんなあんたらに傷ついてほしくねーから自分達でなんとか戦って、勝って、浄化しようとする」
「………………………」
「それは俺達にしかできねーことっていうか……、実際俺だってあんた等には死んでほしくねー気持ちなんだべ。王様だってあんたらに死んでほしくねーから一人で抱えて、無茶した。結果はあんなことになっちまったけど、王様の気持ちは分からなくもねー。むしろ納得だ。俺も今はそんな気持ちだし、エドも俺以上の気持ちを持っているに違いねー。あの小僧も、あの嬢ちゃんもだ。みんなには死んでほしくねーよ」
京平は言う。
王の気持ちは自分達も理解できる。
むしろ今しようとしていることは王と同じことかもしれない。
戦いの相手は『六芒星』と言う革命軍を名乗っている凶悪な集団。そして反旗を翻した大臣なのだ。
大臣に至ってはガザドラの両親を殺し、その結果を功績として塗り替えて上り詰めるという非道さを持っている。
持っているからこそ、野心と言うものがあるからこそ王を殺そうとした。
膨らんだ野心は風船の如くどんどん膨らんでいき、そして現在に至っている時点で、大臣の意思は本気なのだろう。
本気ゆえに、本気で邪魔者を殺そうとするに違いない。
まぁ、実際手を汚すのは『六芒星』なのだが、それでも止めなければいけない。
止めなければいけないが、京平達はそこまで悪ではない。ハンナ達ならばもっとそうしないはずだ。
だが、ここで過ごしてきた時間は京平達が長い。
長いゆえに思うのだ。
死なせたくない気持ちが沸き上がる。
情が沸き上がったが故の言葉。情が沸き上がったが故の気持ち。
本音をクロゥディグルに向けて吐き出す京平。
それを聞いたクロゥディグルは京平の言葉に対し、思わず感動してしまいそうになる。嬉しさと言うものが込み上げて来そうになるのをぐっと堪えつつ、冷静と言う名の蓋でそれをしまった後――クロゥディグルは頷いて言った。
「……そうですね。だからこそあのお方は相応しいと思います」
「だろ? だから俺達は協力するんだ。『浄化』云々関係なく、王様が守ろうとした国を、俺達も護ろうと思った。それだけだべ。深い意味なんてねーよ」
「………………………感謝しかないです」
「よせよせっ! まだ何も終わったわけじゃねーんだぞ? あ、でも鬼族は鬼族として考えて、幸運だったらそれでよし。できんかったら何とかする」
「何とかする……ですか」
「ん? 心配なんか? まぁ心配すんなって、そん時はそん時でなんとかする。保険として『蘇生薬』は何本もあるかんな。そこは抜け目なしで行く。後は任せて置け。王様のこと、頼むべ」
「……わかりました」
京平の言葉――もとい彼からの頼みを聞いたクロゥディグルは一瞬考えるように沈黙してしまう。しまうが京平の言う事を拒む理由はなく、クロゥディグルは快くその言葉を受け止める。
この場合、自分達の国のことなのだから自分達でなんとかしないといけないのが筋。
筋なのだが、それができないのも事実であり、ドラグーン王が命を賭けて止めようとしていた存在を――神を止めようとしている。
できなかったことを行おうとしている彼等は命知らずと言ってもおかしくない。
だがそうとは思えない。
どころか成し遂げてくれる。
そんな僅かな希望が大きくなっていくのを感じながら、クロゥディグルは京平の言葉に頷き、前を見つめて告げた。
京平――だけではない。エドとショーマ達に向けてクロゥディグルは告げた。
「見えました。鬼の郷です」
『!』
今までよどみがなかった空気に張り詰めと言う名の強張りが生じる。
一気に空気が変わり、ショーマ達はクロゥディグルの視線の先を見据えて顎を引き、気を引き締める。
王に頼まれた――頼むと。
頭を下げてまで頼まれたのだから、やらないと人として廃る。
廃るのだが、一抹の不安があるのも事実。
その不安はすぐに直面することになる。直面し、このまま事を荒立てることがない事を願いながらエド達は息を呑む。
きっとあの場所にハンナ達もいるはず。
――いけないんだけど……、なんか胃が痛くなってきた……。
この先で起きることを想像しながら、エドは小さな声で唸り声を上げて腹部を優しく擦る。
本当に胃が痛くなってきた感覚に困惑しながら……。
困惑し、到着して数分で――
――フラグ回収してしまう。




