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PLAY128 真実と本音の手紙③

 アダム・ドラグーンが記した日誌。


 それは『終焉の瘴気』が出始めた時期と、その一年後の出来事が書かれている物で、エド達自身興味しか出ない代物だった。


 王が書いた日誌よりも興味がある――『終焉の瘴気』のことに関しての情報。


 これは何も知らない。『残り香』のことしか知らないエド達からすると、その内容をしることができる絶好の機会。


 絶好のイベントなのだ。


 きっと画面越しで見ている人たちからすれば、スキップできないムービー。


 聞き逃してはいけない情報の塊。


 ――これは、ここで読んで情報を共有しないといけない。


 ――この情報は貴重だ。


 ――おれ達の目的でもある輩のことも分からない。今起きている緊急事態で、相手が向かう先が分かるかもしれない。


 そうエドは思い、表紙に手を添えると――そのままエドは日誌を開いた。


 ぱさり……。


 微かに鼻腔内を刺激するホコリと黴臭さ、書かれている紙の古さが時代の流れを突き付ける。


 なにせ二百五十年前の日誌なのだ。


 それでもその時の情報が詰まっているボックスでもある。


 一体何が書かれているのか。そんな好奇心と緊張を胸に、エド達は王の日誌に目を通す。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……。



 ◆     ◆



 虎月(とつき)ノ十四 (現代で言うところの二百五十年前の三月十四日)


 ボロボにも『終焉の瘴気』の被害が出始めた。


 まさか建国以来の窮地がこうも簡単に越されてしまうとは思ってもみなかった。


『終焉の瘴気』に浸食された魔物の凶暴化。国民の被害も広がるばかりで、解決の糸口すら見えていない。どころか悪化の一途だ。


 ボロボ空中都市憲兵竜騎団総動員でも被害を防ぐことができていない。


『偽りの仮面使』の傷も残っている状況の中の活動だが、それでも被害の拡大が尋常ではない。もう国民の被害が二百件にも及んでいる。


 あの瘴気が出始めてもう二ヶ月経っている。


 経っているにも関わらず進展どころか不穏な報せしか耳にしていないのは、それほどあの瘴気が常軌を逸した厄災ということになる。


 何とかして最善策を練らねばならない。


 あの者の協力も仰ぐことができればいいのだが、それを望んでいないだろうのも事実。


 時間がない。だが時間を要することばかり。


 何とかしないといけない。絶対に。


 ――――― ――――― ――――― ―――――


(なぜか虎月ノ十五 (三月十五日)の日付がなかった。このことに関してドラグーン王に聞くと、その日は忙しすぎて書く暇がなかったらしい)


(こんなことはたまにあるらしく、気にせず読んでくれとのこと)


 ――――― ――――― ――――― ―――――


 虎月ノ十六 (三月十六日)・瘴気発生から七十五日経過。


 対策として『鬼の郷』にいるあの男――蒼刃殿に協力を仰ぐことにしよう。


 本来ならば氷属性の力を持っている鬼族か、異国の冒険者に協力を仰ぎたかったが、生憎その力を持っている者がいない。


 赫破殿達にも協力をあおぎたかったが、鬼族の過去のこともあり、それは叶わない。敵わないかもしれないが、それでも対策をしておかなければいけない。


 いつどこで、何が起きるのかもわからないのだから。


 今日から『鬼の郷』に向かおう。準備は拙僧だけで十分。他のみんなに迷惑を掛けてはいけない。


 これだけは自分でしなければいけないのだ。王として。


 ――――― ――――― ――――― ―――――


 虎月ノ十七 (三月十七日)・瘴気発生から七十六日経過。


『鬼の郷』に着いた。


 もう五年と六ヶ月ぶりの郷だ。歳月が経ってしまうと新しい風景ができていたりしていたが、鬼族の心は変わっていなかった。


 赫破殿、緑薙殿、黄稽殿も拙僧のことをあまり快く思っていない様子だ。


 心が変わることは難しい事。


 人の考えを捻じ曲げることなどできないのは理解できるが、これを後世まで語り継ぐことはあまり肯定できない。


 肯定できないが、変えることができればそうしているのだが……、今はそれどころではない。


 赫破殿たちに蒼刃殿がどこにいるのか聞いたが、結局応えてくれなかった。


 どころかあからさまな無視をされてしまった。


 これが今の世間で言うところの『こみゅにけーしょん』の難しさ……。


 長く生きている拙僧でもわからないことがあれば、勉強しなければいけないこと、知識として蓄積しないといけない時もあるのだと思った。


 兎に角今はフェーリディアンに宿で対策を練ることにする。


 ――――― ――――― ――――― ―――――


(虎月ノ十八 (三月十八日)から虎月ノ三十一 (三月三十一日)・瘴気発生から七十六~九十日経過している二週間の間――ずっと内容は同じだった)


(たった数行――『対策を話そうにも相手にしてくれない。だが諦めない。このまま引き下がれない』と言う言葉しかなく、それ以降もこの言葉だけが書かれている内容が続いている)


 ――――― ――――― ――――― ―――――


(次のページの血痕と擦った血の跡と共に進展した内容が書き記されているが、一部血痕、ところどころ殴り書きになっているせいで文字化けかつ読みづらくなっている)


(空白が読みづらくなってしまい解読不可能の状態を意味している)


 卯月(うのつき)(はじめ) (四月一日)・ 気発   九   経 。


 ボロ    市憲兵竜  アクルジェドから連   った。


 凶報だった。


 なんと『終焉     浸食 れた■■■  が   てしまった。


 恐れてい    起きた。 のま  は国  れてしまう。

 

 だが    できて ない。


 何もできていないが、今は急ぐしかない。    よう。止めなければ。


 すぐにでも行かなければ。


 ――――― ――――― ――――― ―――――


(それから日誌の記録がない)


(どころかそれからの記述がないので、次に記録が開始されたのは三日後になる)


 ――――― ――――― ――――― ―――――


 卯月ノ肆 (四月四日)・瘴気発生から九十三日経過。


 被害は甚大だった。


 まさかの事態。まさかの予想の裏切りだった。


 こんなことがあっていいのか? そんな弱い心が浮き彫りになってしまいそうなほどの被害だった。


 多くの兵士達。多くの国民。未来ある子供達。


 そして――アズールの民達を多く死なせてしまった。


 王としてこれはあってはいけないことだった。それをしてしまった拙僧は失格だ。


 皆は私のことを責めたりしなかった。


 責めていなかったが、それでも拙僧は許せない。


 もっと早くこうすればよかった。もっと早く起こせばよかった。


 色んな後悔が頭を過る。後悔しかないとはこのことなのだろうか?


 だめだとわかっているのだが、気が滅入ってしまっているのかどんどん思考が暗い方向に向かっている。このままではだめだと思ってはいるが、時間がいるのか?

 

 いいやそんなことをしている暇はないのだ。


 している暇があれば民達の心のケアをしなければいけないだろう。


 拙僧は王。


 国を守る者としての義務を、己の後悔で捨てるな。


 捨てるということは、死ぬことと同じ。


 死んではいけないのだ。



 ◆     ◆



 一部の内容を見ていたエドは一旦読むことを止め、日誌を開いた状態で王のことを一瞥する。


 日誌を書いた張本人は現在進行形でベッドの上で正座をして待っている。エド達が読み終わるのを。


 正直それを待っている光景。


 視線が痛い事もあって、エドの心境はわずかに緊張と言うものが走っている。


 本当はこんな感情無しに読みたい気持ちなのだが、どうも視線を感じてしまうと不思議と体に力が入ってしまう。


 人間の仕組みなのか、それとも人格がそうさせているのか。


 ――はたまたは自分自身が緊張屋さんなのか……。


 ――なんとも難儀な体のつくりしてるな。


 そうエドは思いつつ、日誌の中に書かれていた内容を思い返す。


 王の文字で書かれていた内容――多くの兵士達。多くの国民。未来ある子供達。そして――()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 この内容は一見すると素通りしてしまいそうな内容だが、それを素通りできなかったエドは読むことを一旦やめ、唸る声を出しながら考えをまとめる。


 いいや――これは仮説。


 自分なりにどうしてなのかと言うことを推理する。


 絶対に当てることはできないが、簡単に――だ。


 ――まず、『終焉の瘴気』が出始めた時、王やみんなは大変な思いをして国を守ろうとした。これは分かる。というか設定上『終焉の瘴気』はラスボス的位置だから、これは当たり前かもしれない。


 ――京平曰く、ゲームの世界でこれは王道だって言っていたからな。


 ――それでなんとかしようと鬼の郷に足を運んで、何とか説得していた時に事件が起きた。


 ――そこらへんはもう殴り書きとか血で塗りつぶされていたし、何とか筆圧を見つつ、指でなぞって何を書いているのか確認したけど……、無理だった。


 ――日誌に使われている紙は普通の紙じゃない。ペンも万年筆じゃない。


 ――多分、羊皮紙と羽ペンで書いていて、その羽ペンの先が削れて文字がつぶれてしまっていた。だから読み取れなかったんだ。


 ――読み取れないから推測でしかできないけど、あとの内容を見てどうしてこうなった。と言う疑問が出てしまって、結局振り出し。


 ――正直な推理は、魔物か何かが来たか。もしくは『偽りの仮面使』の瘴気バージョンが来たか。だったんだけど……。


 ――いいや、こんなの甘すぎる。もっと最悪を考えろ。


 ――考えたくない思考は駄目だ。


 エドはそう推測しつつ、頭を振るいながら最悪の想定も考慮しながらもう一度日誌に目を通す。


 因みに余談だが、羊皮紙とはその名の通り羊の革で作った紙であり、高級品として扱われていた。


 現在も高いのだが。


 さて、ちょっとした小話はここまでとして、本題に戻ろう。


 日誌の続き――あの後王はどうしたのかを、文字で見届けて。


 ――――― ――――― ――――― ――――― 


 卯月ノ七 (四月七日)・瘴気発生から九十六日経過。


 あれから三日経ってしまった。


 前に記した日からずっと復興作業をしていたこともあって、本題に入ることすらできなかった。


 だが何とか復興のめどがつき、また『鬼の郷』に来て説得を試みたが、聞く耳持たずだった。


 重鎮殿達はやはり昔のことをよく知っている人物。そうそう協力してくれるとは思えなかったが、想像通りの結果だったのはかなりの痛手だ。


 あんなことがあったにも関わらず、彼等の心を動かすことができなかった。


 どころか黄稽殿と緑薙殿の言動がひどく、このまま続けばいいとまで言っていたほどだ。


 本音を言ってしまえば、掴みかかろうと思っていた。外道と言えど、過去に起きたことと言えど、そこまで言っていい事ではない。


 過去は過去だが、その過去の償いを死でしか償えないとまで豪語するその姿に、拙僧は恐怖を覚えた。


 あれは心あるものの言い方ではない。


 まるで、別世界で生きてきたものの言い方だった。


 そうとしか思えないほどの豪語の数々、暴言の数々だった。


 あの時の黒き笑顔は永遠に記憶に刻まれるだろう……。


 できればそうでない返答が欲しかったが、早々変わることはできないか。


 ――――― ――――― ――――― ――――― 


 卯月ノ八 (四月八日)・瘴気発生から九十七日経過。


 重鎮方に話をしても無駄かもしれないが、すがる思いで赫破殿と紫刃殿にも話をした。


 結果は何とかなった。何とか蒼刃殿が修行している洞窟の道を知ることができた。


 後はこの場所に行き、本人に交渉するだけだ。


 これ以上被害が出てはいけない。今はボロボ空中都市憲兵竜騎団全員が被害を最小限に抑え、復興を行っているのだ。一日でも、いいや一秒でも何とかしないといけない。


 明日では遅い。今から向かおう。


 一秒でも早い交渉の結果を届けなければいけない。


 ――――― ――――― ――――― ――――― 


 卯月ノ九 (四月九日)・瘴気発生から九十八日経過。


 蒼刃殿が修行に使っている洞窟に向かい、何とか話をすることができた。


 少しばかり最悪の事態も想定していたが、その想定は杞憂に終わった。


 蒼刃殿は拙僧の意見に賛同し、協力するとのことだ。有難い事だ。


 妹もこの国のことが好きであり、元々このボロボのとある場所の景色が好きで、その景色が壊れるのは嫌だったそうだ。


 国が壊れるという事に相当心を痛めていたらしく、快い返答をしてくれたことに感謝している。


 むしろ――協力してくれたことに頭を下げて感謝をしたいほどだ。


 拙僧の急な提案を呑んでくれた蒼刃殿に感謝しつつ、早々王宮に戻ろうと思う。


 無駄な時間はまさに命とりだ。


 国のためにも何とかしないといけない。


 大臣や皆の意見を聞き、この窮地を脱しようと思う。


 ――――― ――――― ――――― ――――― 


 卯月ノ十 (四月十日)・瘴気発生から九十九日経過。


 ようやく王宮に着き、みんなでどのようにして止めるかの話を進めた。


 要は長い間止めることが重要だ。


 長い間。何百年も止めなければいけないのだ。ちょっとやそっとのそれではだめだ。


 簡素なものではない。的確に、弱らせることができる力でないといけない。


 長い間封じ込めるということはそれ相応の力ではだめだ。永久的に、力を弱め続ける方法を思案しないといけない。


 弱め続けることは最善の解決にはならない。


 どころかこれで解決なんてできないことは百も承知。


 これはただの応急処置。


 ただの延命みたいなものだ。


 国の平和を延命させるだけの時間稼ぎに過ぎない。


 過ぎないからこそ時間稼ぎの最中に解決策を練るしかない。



 ボロボの神を、『八神』が一体シルフィードを止めるための対策を。


 

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