PLAY128 真実と本音の手紙②
「! おぉ! お前達、久しいな。どうだ? 試練の方は順調なのか?」
この言葉を言い放ったのは言わずもがなのドラグーン王。
普段と変わらない。エド達がよく見ていた雰囲気と顔、声色だった。
そう――普段通りの音色と変わらないそれは、いつもと変わらない王を思わせるには十分すぎるほど十分だった。
そう。これは普段であれば。
現在ドラグーン王がいる場所は謁見の間ではなく医務室のベッド。ベッドの上で本を手にした状態で、手や足、竜人特有の首元に包帯を巻き、顔に痛々しい処置後の止血を施された状態で言ったのだ。
一言で言おう。
ドラグーン王はボロボロの状態。
まさに重傷。
なのだが……、それを否定するほどドラグーン王は元気な様子でエド達に話しかけてきたのだ。
あろうことか、起きている状態で。
まさに元気ですと言わんばかりに声をかけてきたドラグーン王を見て、エドと京平は唖然と言わんばかりに口を開け、最悪奥歯が見えてしまいそうなほど開けた状態で黙ってしまう (エドに至っては鉄のマスクで見えないが、それでもエドも口を開けて唖然としている)。
黙った状態で見ている二人のことを見て、デュラン呆れるような溜息を吐き、その光景をデュランの馬の背中から見ていたむぃ。ツグミもそれを見て乾いた笑みを浮かべて思っていた。
――やっぱり。と……。
ショーマはそれを見て何かを言おうとしていたが、余計なことを言われても面倒になるだけだと思っていたコウガに口を押さえつけられてモゴモゴ語しか話せていない。
話せていないショーマから手を離さず、コウガはエド達に向けて話しかける。
「お前等、王様がやばいって思ってきたけど、生憎王様は無事でかなりぴんぴんしているぜ?」
「あ……ぴんぴん?」
「ピンピンっつーか、軽傷だべ?」
「ああ、そうだな。王からしたら軽傷らしいぜ?」
コウガの言葉はまさに衝撃発言そのもの。
その言葉を聞いた瞬間エドと京平はぎょっとした顔で振り向き、コウガ達のことを血走った眼で見ながら声を発する。
「「はぁっっっ!?」」
まさに素っ頓狂。
だが二人の心境を察するならば、この驚きは無理もないだろう。
なにせ重傷だと思ってここまで来た。国の危機でここまで来たのだ。急いで報告しに来た結果がこれなのだから、感情の起伏が激しいのも無理もない。
一言で言うならば――起伏が激しすぎて何が何だかわからない。一体全体どうなっているの教えて。
と言うもの。
それを顔で、そして雰囲気で見たコウガは後頭部をがりがりと掻きつつ、少しだけ視線を下にした後で顔を上げて二人に向けて言う。
後頭部に添えている手だけはそのままで、コウガは伝える。
この王宮で起きたことをできるだけ引き出して……。
「王様は確かに血まみれだったらしいぜ。俺達はその後から来たから状況とかは口頭でしか伝わってねぇ。実際治療とかをしたのはあの天族の女と爺ドラゴンだ」
「あぁ、リリティーネさんと、ラパルティラドさんか……」
「あのドラゴン爺そんな名前だったのか? 初めて知ったぜ……」
「そうだよ。あの人今は引退しているけど、元々はボロボ空中都市憲兵竜騎団第十部隊隊長をしていて、ボロボ空中都市憲兵竜騎団の生命線を担っていた人だったんだ。戦闘に歯でないけど治療とかが得意だって本人が昔話のように言っていた記憶がある」
「どんだけいるんだよ……その騎士団って。『12鬼士』でも十二人だけなのに……」
コウガとエドの話を聞いていたツグミは溜息交じりに言う。
確かに色んな騎士団がいることはツグミ自身理解しているが、その数が多すぎて覚えることがやっとであり、正直覚えることが困難だからこそツグミは嫌々と言わんばかりの顔をして突っ込んだのだ。
――竜人族だけでも多いって言うのに、それが軍団で団体ってなると……、覚えるのが大変だなー。AとかBとかで簡潔にしたいけど……。
――まぁそんなことを考えていること自体無駄だね。
無駄だという思考に至り、これを考えたところで今この状況が変わることはない。
ゆえにツグミは考えを止めてコウガ達の話に耳を傾ける。傾けて――一体この国で何が起きているのかを理解しつつ、この後どうすればいいのかを考えながら耳を傾けた。
……視界の端でモゴモゴとコウガの手を何とかしようとしているショーマを無視して。
コウガはの会話を聞いていたエドと京平は驚きの声を上げつつ、竜人族の頑丈な体に感動しながら再度ドラグーン王に視線を向けると、エドが開口を開いた。
「しかし……、王様すごいですね。血まみれだと思っていたんですけど」
「最悪危篤になってもおかしくねーぞ? あれは。オブラートに包むな」
なんとなく、直感で素直に『死にかけていた』と言う言葉を喉の奥にしまい込み、敢えてオブラートに包むように言うエド。
驚きと恐る恐るが合わさったような挙動がエドの落ち着きのなさを体現していて、且つ王としての凄さを言葉にしたエドであったが、それを崩しにかかったのはコウガ。
コウガは率直と言わんばかりに呆れた顔をして言ってきたので、それを聞いたデュランは小さな声でコウガの名前を呼んで制止をかける。
まるで小さい子供に注意をするような光景だ。
そうツグミが思ったが、巻き込まれたくないので口にしないようにしていると、エド達の言葉を聞いてドラグーン王は小さな声で「そうだな……」と言い、手にしている本を閉じ、膝の上に置くと、王はエド達に視線を向けて、目を見ながら腕をそっと上げた。
包帯が巻かれている腕。
真新しいようにも感じるが、ところどころから赤い丸が滲み出ている。
そう――今もなお出血しているという証を王はエド達に見せたのだ。
それを見せながらドラグーン王は言った。
「確かに、拙僧のことを見て安心すること自体おかしいかもしれない。色んな想像が心を荒ませていたことに関しては詫びる。だが心配するな。他の者達と比べて拙僧は軽傷に近いところだっただけだ。この腕の傷と肩の傷、あとは胴体にできた深い切り傷だけだからな。幸い内蔵は傷ついていない。竜人族特有の頑丈が功を奏したのか、それとも日頃の行いがいいのかもしれないが、今は幸運に感謝しないといけない」
「今さらりと胴体に深い切り傷出来たって言ったか? それってやべーんじゃね? 相当な出血量だったはずだべ?」
ドラグーン王の言葉を聞いていたエドと京平は息を呑み、ドラグーン王の言葉に耳を傾けながらその時の現状の言葉を聞いて、記憶に刻む。
刻んだ後、京平は何かに気付いたかのような顔をしてから王に向けて質問するが、ドラグーン王はそれを聞かず続きの言葉を述べた。
伸ばした腕を流れるように着ている医療服に伸ばしながら王は言う。
「だが、拙僧以外の部下達、アクルジェドは重傷だ。峠は越えたとラパルティラドが言っていたが、まだ安心できんとも言っている。不覚にも隙を見せてしまった結果こうなったのだと猛省している。そうでなければ、このような被害は出なかった。しかも王位継承具を奪われてしまうという失態は、拙僧の慢心と怠惰が招いた結果だ。すまないな」
「王位継承具? もしかして王様が腰に携えていた……、あの白い?」
王の言葉を聞いたエドが首を傾げ、思い出すような仕草をしたあと王に聞くと、王は頷きながら「そうだ」と言ってエドの答えに肯定を示す。
まさにそれだ。
それを付け加えて――
エドが思い描いた白いそれは、アダム・ドラグーン王は肌身離さず持っていた物であり、王の証ともいえる様な大切な物。
鍔と柄は白いそれで統一されているが、刀身だけは透明なそれで、刀身があるのか、ないのかわからないほど、その刀身の透明度は目を凝らさないといけないほど見えない業者。その柄の中央に埋め込まれている緑色の宝石が赤い鱗を持つグワァーダの背の一部を緑色に照らし、その刀身の透明度と緑色の石の煌きによりその美しさをより一層引き立たせる。
それこそがドラグーン王が持っている王位継承具、常に腰に携えていた剣であり、その剣の名を王は『永劫ナル氷菓剣』と呼んでいる。
その『永劫ナル氷菓剣』がない事にデュランは驚きの声を上げて、エド達と一緒に横に並ぶように前に出てから「ないのですかっ!?」と慌てた様子で聞くと、その問いにも王は頷いた。
肯定。
そう――イエスと。
王の言葉を聞いたデュランは頭……はないので、元々頭があるであろうその場所に手を添えて、少しだけ項垂れるように溜息を吐いた後――小さな声でデュランは言う。
「なんてことだ……。これは一大事だ」
「? 一大事ですか? 真っ白い剣がないとどうなるんですか?」
「そりゃ王としての威厳って言うの? 示しがつかなくなっちゃうんじゃない? 代々の王様が受け継いだものが無くなるってことだから」
デュランが発した言葉――『一大事』と言う言葉を聞いていたむぃとツグミは、どうしてなのかと言う疑問の面持ちのままそれぞれ思っていることを口にしていく。
正直その剣がとられたからと言って何が駄目なのか。
そう言った根本的な問題すらわかっていないツグミ達の言葉はこの場にいるこの世界の住人からすると、逆撫でにしかならない言葉の数々だ。
剣は王にとって大切な物。
王冠と同じ物なのだろうという見解でしかなく、あまり深く考えていない様子の二人に、デュランはとうとうしびれを切らしたのか、大きな溜息と共に荒げる声で言った。
「――そんな生易しいものではないっ」
「「っ!」」
生易しいものではない。
その言葉は酷く重く、軽く話していた二人の心境におもりをつけるように圧し掛かって来る。
ずしん。
そんな感覚が二人の心を襲い、気持ちを沈めて行く様は、まさに反省そのものだ。
驚きと同時に言葉と表情を伏せて存在感をなくしにかかる二人をよそに、デュランの言葉を聞いていた京平はデュランのことを見上げつつ、疑念を持った顔で質問を投げかける。
「生易しい物じゃねぇって、どういうことだべ? そんなにあの剣がレア級の武器だったんか? それとも……」
それとも。
その後の言葉を続けて言わない京平。
敢えて言わないその姿勢にデュランは顔のないそれで京平のことを見下ろし、一幕置いてから小さく……「多分だが、お前の考えている通りだ」と言い、今度はドラグーン王のことを見た後デュランは言った。
王が持っていた王位継承具――『永劫ナル氷菓剣』のことを簡単に説明して……。
「あれは元々封印のための鍵だ。あれがない。いいや盗まれたのであれば、それこそこのボロボの終わりとなる危ない代物なんだ」
簡単に言い終わったデュランの言葉エドと京平は目を見開いて言葉を失い、それを聞いていたツグミ、コウガ、むぃ、ショーマも驚きの顔のまま固まってしまっている。
暴れていたことでさえも忘れてしまうほどの衝撃。
先ほどの会話がまさに不謹慎であったことを突き付けるほどの衝撃。
そして、なぜあの剣が無くなってしまうと、盗まれてしまうと滅んでしまうのか……。
そんな疑問も生まれてしまうという三重の衝撃。
国の終わりと言う言葉が放たれた後、誰も言葉を発することはなく、しぃんっとした静寂が室内を支配し、異様な気持ち悪さをふつふつと湧き上がらせていく。
元々音がない世界問ううものはないが、それでも静寂を思わせる様な空気が辺りを包み込んでいるのだ。言葉を発したほうがいいのかどうかわからないのが正直な心境だろう。
どんな言葉を発せればいい?
何を聞けばいい?
開口何を言った方がいい?
そう思うのが普通かもしれないが、生憎彼等の頭にはそんな思考はない。
只あるのは――不安の想像。
国が滅ぶ。
それは人を簡単に絶望へと突き落とす再ダイワード上位に入り込んでいるもの。
上位ワードを聞いて『はいそうですか』と切り替えることなど、まずできない。
どころかそんなこと聞かなければよかったと後悔する。
誰もが想像の中で不安と言う言葉をどんどん零しては満杯にしていく最中、ドラグーン王だけは違っていた。
そっと竜の口を開け――開口と言わんばかりの言葉を、王は放ったのだ。
「ああ。そうだ。あれは封印の鍵。それを守るのも、王の務めだったんだ」
王の務め。
それを聞き、開口を聞いて静寂が無くなった時、エド達はやっと思考を何とか取り消し、現実へと戻ることができた。
出来たが残っている不安はまだある。
あるがゆえにその顔に浮かびあがる安堵ではないそれを見て、王は内心思った。
――あんなことを聞いた後だから当たり前か……。
当たり前の不安の顔を見て、王は手にしていたそれを徐にエド達に向けるように……、否、彼等にそれを手渡すように表紙を前にして見せる。
古い書物なのだろう……、ところどころに破れた箇所や経年劣化の所為でボロボロになってしまったページの端。
一見して古いものだということがしっかりと認識できるそれを見て、誰もが何なんだと思っていると、それを見ていたデュランはその本の表紙に書かれているタイトルを見て、一瞬言葉を失う。
なにせその書物に書かれているタイトルは一見すればありきたり物なのだが、多分この場にいる者達からすれば、アズールの者達からすれば喉から手が出てしまってもおかしくないほどの情報が眠っているボックス。
そう――触れてはいけないブラックボックスそのものだった。
「な、なんなんですか? その本」
「ああ、これは拙僧の日誌だ」
「日誌ってことは……、日記ですか? 随分使い込んでいますね……。ざっと見ても数十年ほど前に書いた日記ですか? 本の日に焼けがすごいです」
エドの疑問に対して王は淡々とした言葉で言うと、それを聞いていたむぃはデュランの背中からそれを覗き見るように見つめる。
むぃの言う通り王が持っている本は相当の年月を思わせるほどの古ぼけと日に焼けが目立つ。
目立つそれを見ながら、エドは手渡されたそれを手に取って、もう一度日誌の表紙を見て――「ん?」と言う何かに気付いたようなそれを零すと、それを聞いていたのか、王は言う。
単刀直入。
もう本題に入ってしまわないといけない。
隠すことなんてできないと思い、全部を明かそうと王は言った。
「一日も欠かさず記した日誌はまだあるのだが、それは」
今から二百五十年前と二百四十九年前に書いた日誌だ。
「!」
王は言う。
今まさにエドが手にしている日誌は二百五十年前と二百四十九年前の出来事を記した日誌だと。
そう……。
まさに『終焉の瘴気』がアズールを苦しめていた時の出来事。
それを聞いた誰もが驚きを浮かべて王のことを見ると、王は変わらない真っ直ぐな視線をエド達に向け、はっきりとした声で、偽りなどない言葉でこう言った。
「見てほしいんだ。この国のことを知ってほしい。そして――救ってほしいのだ」
二度とあのような悲しみを生み出さないために。
王の言葉に偽りなどなかった。
その後出た言葉にも偽りなどない。
すべて――本当にあったかのような物言い。
「………………………」
――一体……。
エドは思う。
手にしている日誌を握りながら彼は思った。
――一体、何があったんだ? 二百五十年前と二百四十九年前に、一体何が起きたんだ?
――たった一年。
――三百六十五日と言う月日の中、一体何が起きたんだろうか……?
――それを知るためには。
「っ」
エドは意を決するようにグッと口を噤み、手にしている日誌の表紙を、そっとめくった。
背後で見ている京平やコウガ達と一緒になって……。




