PLAY128 真実と本音の手紙①
それからハンナ達は一時別行動をし、応援要請もとい協力体制をとるため、それぞれが別々に行動、戦闘の準備を行おうと動き始めた。
ハンナ、ヘルナイト、アキ、キョウヤ、シェーラ、虎次郎はシロナと善と一緒に桜姫の安全確保のために一時鬼の郷に向かい。
エド、京平はそのままボロボに向かってイェーガー王子と心士卿に協力を仰ごうと試みる。
こう言った流れでそれぞれ行動に移していく。
一刻も早く状況を変えるために。
そして、ボロボを滅ぼした後の最悪の想定を崩すために……。
◆ ◆
「ひえー。そんなことがあったんすか? 俺達が大変な目に遭っている時に」
「そう。だね」
開口口を開いたのはショーマ。
エドと京平はあの後すぐに都市に向かって飛んでいた。
電光石火……とまではいかないが、それでも普段と違い早い速度で飛行し、一秒でも早い到着を目指して飛んだ結果、何とか一日経たずに飛ぶことに成功した。
元々ハンナ達はドラグーン王の命令の元、試練を受けるためにクロゥディグルの背に乗っていたのだが、それは何日も経ってしまうほどの飛行だった。
それ程遠かったのもあるが、クロゥディグルの性格上、けがをさせてはいけないことも考慮に入れて、安全飛行を行っていたのだ。
つまりはゆっくり飛行。
車で言うところの安全速度で飛行をしつつ、安全のために安全区域確保の野営をしていたほど、クロゥディグルはハンナ達を乗せて飛んでいた。
まさに安全運転の鑑。
責任感の塊。
だからこそ何週間もかかってしまっていたのだが、これを破った場合、どのくらいでボロボの中央都市につくだろうか。
結果は見ての通り――否、文字通り、半日ほどで着いた。
全力で走る様に飛行をした結果、京平は何とか都市に到着することができた。その代償として大量の乳酸と体力がなくなるという結果になってしまったが、休めば問題ない。
そう京平本人が言ったことでエドは休んでいる京平を後にして、すぐにボロボの城に入り、謁見の前に行こうとした時――
「あれ? エドさんじゃないっすか」
声をかけたのはなんとショーマだったのだ。
ショーマの登場には驚いてしまうエドだったが、今はそんなことに感情を使ってはいけない。なぜここにと言う思考もいらない。
そう思ったエドはショーマに駆け寄り、事の事態を細やかに伝え、ショーマの存在に気付いたツグミやコウガ、デュランとむぃも話に入り込んで、今に至ったという事なのだが、なぜエドが呆れるようなそれを零したのかと言うと、それはショーマの説明にあった。
曰く……。
「今から数日前っすかね……。俺達実はフェーリディアンの宿でゴロゴロしていたんすけど、それでも暇で仕方がなかったんで、外に出たらなんとスリにあっちまったんす。しかも俺達チームの全財産が入っているそれを盗られたもんだから『やばいっ!』ってなって追っかけて、それでも捕まらないから何とかして捕まえようと追っかけていたらスリ集団の輩に掴まっちまったんすよ。王国の近くの根城に掴まっていたせいで全然連絡取れなかったし、監禁めいたことされて何もできなかったんすよね」
「体中グルグル巻きの簀巻き状態にされて、与えられたものが少量のおにぎりとお水だけでもう空腹でしたよ。何か別のをクレーって言ったら顔面シュート喰らって顔面崩壊しかけて、もう散々だったんすよ。それから何日かしてやっとツグミと兄貴、デュランの兄貴とむぃに助けてもらって、今スリ集団を連行してきたんです。それでエドさんに出会ってって言う状態っす」
とのこと。
つまりショーマは視ない間スリ集団に掴まってしまい、根城で拘束され、監禁されていた。
ハンナ達が苦戦していた最中、試練を受けている最中、『六芒星』相手に闘っている最中……、ショーマはショーマで最悪の監禁を強いられていたことになる。
エドはこの時こう思った。
――おれ達が戦っている時に、この子はなんて不運な事態に巻き揉まれていたんだ……!
と。
そして同時に思った。
――ショーマ君、確か運の数値がマイナスとか言っていたけど……、悪運どころの話しじゃない。これはもう悪霊が憑りついて悪さをしているレベルの最悪具合だ……!
正直にエドは思った。
ショーマは何と不運な星の元に生まれてきたのだろうと……。
そんな心境などつゆ知らずのショーマは、首を傾げながらエドのことを見ていたが、そんな彼等の会話を聞いていたデュランは話に割り込むように「それで?」と言ってから、エドに向けてデュランは問うた。
「『六芒星』が現れ、このボロボを滅ぼすと言ったのだな? 脅し……ではなく?」
「きっとそれは、フェイクというか、ブラフをだと言いたいんですか?」
「実際、我は見ていない。聞いてもいないのだが……、まぁお前達が嘘をついてまで何かをしようと言う考えをしていないことは、今までの行動で目に見えている。悪意がない今の目もその証拠か」
「もしそうしたとしてもデメリットしかありませんよ?」
デュランの問いにエドはまさか……と言わんばかりの視線の鋭さをデュランに向ける。
首がない分どこに目があるのか、どんな顔をしているのかなどわからない。
わからないが声色で理解できる分有難かったエドは、肩をすくめるようにして言葉を口にする。
『まさか』
まさにそんなとぼけた顔をしているエドに対し、デュランは見ていたのだろう。
目の奥にある何かを。
正直それを見たところで何が見えるというわけではない。
だがそれを見てデュランは理解する。
勿論近くで聞いていたコウガも気付く。
エドは嘘なんてついていない。正直に言っている。言っていると同時に、この国で起きていることが事実であることも立証されたと、今まさに理解した瞬間だった。
理解したと同時にデュランはエドに嘘をついていないことを遠回しに告げると、それを聞いてエドは肩を竦めて言うと、そんなエドに向けてデュランは告げる。
「なら話が早い。王がお前達に話したいことがあると言っていたぞ」
王国にいないエド達に報告する――凶報と吉報を。
「重傷だが生きている。致命傷は避けているが元気だぞ。そして、ここからが凶報だ。きっとお前達の言う想定は――」
斜め上を行くぞ――
◆ ◆
デュランから発せられた内容は、エド達が知る由もなかった情報で、王国で起きた出来事を口頭で説明したもの。
つまりは――ディドルイレス・ドラグーン大臣の奇襲が起きた後の話となる。
あの後アダム・ドラグーン王は実際どうなったのか。
いろんな人がその後のことを知りたがっていたかもしれないが、事実彼のその後は案外簡潔で終わっている。
そう。あの後ドラグーン王は早急の治療によって事なきを得ていた。
勿論その場にいたアクルジェドも一緒だ。
二人のことを治療してくれたのはこの国に於いて――ボロボ空中都市において必要不可欠でもある二人の存在。
医療技術が発達しているという設定を生んだ張本人たちのお陰で、二人の大事にして国にとっても大切な存在達の命が救われたのだ。
救った二人と言うのは――ハンナがよく知っている人物達のことで、ハンナが怪我した時にお世話になった竜老人と、リリティーネという天族の女性だ。
リリティーネに関して忘れている人もいるかもしれないので、ここでもう一度説明をすると、初めてハンナはこんなことを思いながら彼女のことを見ていた。
雪のように白い肌、顔をなぜか白い布で隠している。そしてその白い肌に合うような薄金色のロングテール。結んであるところには金色のわっかがついた白いゴムで止めているようで、一見して見ると神秘的なものを連想してしまう。その連想を濃くするかのように、白い布で覆われたかのような衣服に腕には金色の腕飾り。足は素足だが綺麗な足で、その足には金色のアンクレットをしている――背に白い翼を生やしている天使のような女性――
とハンナが言っていたが、なぜこのようなところに天族がいるのかと言う疑問もあるかもしれないが、そこは彼女の過去に触れてしまう事でもあり、今はなすべき場面ではないことだけは告げて置く。
リリティーネはボロボと言う国の中でも特質すべき才能を持っている女性で、この世界において最も高等技術として認定している回復の力を持っている天族なのだ。
前に聞いたことがあるかもしれないことなのだが、アズールに於いて回復術を持っている人、回復魔法を習得している者は極々少数しかいない。
厳密にいうとそれを覚えるという時点で難しく、乗り越える壁が厚く、大きすぎるのだ。
ハンナ達が初めてこの世界に来た……、否、閉じ込められた時、とある冒険者達がこんなことを言っていたのを覚えているだろうか?
彼等はこの時こう言っていた。
異国だとすごい労働鬼畜な所なのかぁっ!? こっちじゃ一万人に一人と言う確率の……倍率百五十の所属なのに……っ!
ひぇーっ! 労働鬼畜反対っ! 俺アズール出身でよかったっ!
てか……、あの二人、まだ十代位だろう? 飛び級か……?
にしても……、勝ち組確定の所属じゃねえか……。
俺達のパーティーにも欲しいぜ……、可愛くて超勝ち組所属の子……。
そしてギルド嬢が話した内容も覚えているだろうか?
あの時のギルドの受付の女は困惑しているハンナに向けてこう言っていた。
じ、実はですね……、この国アズールは、衛生士なメディックと言う所属が、一際少ないんです。
その、回復の技術と言うそれは、並みの頭脳では取得が不可能なんです……。それに蘇生スキル、四肢修復スキルなどは、大量の魔力を消費します……。故に衛生士になる人など、ほんの一握り……。王国直属騎士団上位クラス級、それ以上のクラスで、衛生士とメディックは、アズールでもとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーっ、ても! 貴重で重宝されている所属なんですぅ!
そう。
これらを見てわかる通り、回復の術を持っている者はこの国に於いて重宝されている存在。回復と言う技術を持っている者は……言い方が悪くなってしまうが勝ち組なのだ。
現代で言うと超難関大学に入学するほどの頭脳を持っているのと同じ。
企業で言うと超大手の重役からスカウトされるほど、喉から手が出るほど欲しい職業と言うことになる。
そんな力を持っているリリティーネはまさにハイスペックの存在。
回復の術に関しては傷を癒すことや切断されてしまった四肢を繋げるといった――ハンナの『回復』スキルと同じものであるが、それでも彼女が持っている力は重宝の力だと言われてもおかしくないものだ。
勿論竜老人もリリティーネと同じ位置の存在であり、元々ボロボ空中都市憲兵竜騎団第十部隊隊長を務めていた竜人。
そんな力を持っている二人だからこそ、今回の奇襲で重傷を負ったドラグーン王とアクルジェドを救うことができたのだ。
この二人がいる時点で致命傷を負ったとしても、ドラグーン王が最悪死ぬことはない。
勿論このボロボにいる者達も、この二人がいれば、最悪死ぬことはないだろう。
そう……、最悪の場合を除いたら……。
その話に関しては追々話すことになるが、今はエド達の話を進める。
デュランの話を聞いたエドは驚きながら、王は大丈夫なのかと聞くと、デュランはその問いに対し肯定――イエスと言う返答をした。
「重傷だが生きている。致命傷は避けているが元気だぞ」
それはあまりにも衝撃的で、吉報とは言えないほど嬉しいニュースだった。
生きている。
それだけでも嬉しい知らせに、エドは見てわかる様な大袈裟な安堵のそれを零し、項垂れながら肩の力を抜いて行く。
だらーんっと両手を地面に向けて下ろし、張り詰めていた緊張から解放されたかのように脱力を体で表現した後、エドは小さな声で呟く。
よかった……。
エドは呟いた。起きていることに安堵のそれを言葉にして……。
王が生きている。
それだけでもいい知らせだと。
そう心から思ったからこそ、エドは安心したのだ。
のだが……。
でも――
その知らせと同時に頭を過る内容に、エドは内心首を傾げていた。引っ掛かりと言う物を感じた。
デュランが言った言葉――斜め上を行くぞ。と言う言葉に、エドはどういう事だろうと思いつつ、きっとディドルイレス大臣に関してのことかもしれないと思いながらデュランの案内の元着いていくことにする。
勿論京平もあとから追いつき、彼も一緒になり、ショーマ達も続いて王の元に向かうことにした。
王にディドルイレス大臣のことを伝えるために。
そして、滅ぼすことができる方法に関して心当たりがあるかどうかを確かめるために……。
確かめるために案内されて――王が寝ている医務室に到着したエドと京平は、王の姿を見て驚きの顔を浮かべる。
はっと息をのみ、目を見開きながら二人はそれを見て言葉を失う。
王の姿を見た瞬間、二人は一瞬言葉を失い…………。
思わず零してしまう。
「「は?」」




