PLAY13 vs死霊族(ネクロマンサー)!⑥
あの後、メィサさんと合流した私達。
メィサさんの姿を見た私は安堵のそれを浮かべて駆け寄ろうとしたけど、私はメィサさんの姿を見て歩むその足を止めてしまった。
簡単な話だ。
メィサさんしかいなかったから。
その中にヴェルゴラさんとロンさん、そしてみゅんみゅんちゃんがいなかった。
だから私はその姿を見て、突然心の中に生まれた怖いというか……、何と言うか、無性に安心できない様な気持ちを感じた。
最初こそその気持ちが何なのか理解できなかったけど、後から気付いた……。
あれは――不安だと。
それも、今まで感じたことがない異質で考えただけでく苦しくなるような不安だった。
その不安を抱えながらヘルナイトさん達がメィサさんの話を聞いていたけど、私はそれに対して聞き耳を立てることしかできなかったけど、内容はこうだ。
メィサさんはあの壁が出た瞬間――間一髪閉じ込めから回避できたと言っていた。
でもロンさん、みゅんみゅんちゃん、ヴェルゴラさんは閉じ込められてしまったらしく、メィサさんは何とかして壊そうとしたのだけど、背後から誰かに殴られて、今まで気絶していたらしい……。
アキにぃはそれをクロズクメだと言っていたけど、メィサさんは背後から襲われたので誰が殴ったのかわからないらしい。
閉じ込めが消えて、少ししてからメィサさんは探した。そしてすぐに見つかった。
でも見つかったのは……、ヴェルゴラさんだけ。
ヴェルゴラさんは一人で閉じ込められて、自分がいた場所とは違う場所で、大量の血痕と、戦いの跡。
そして……、壊れたバングルがあった。
バングルの液晶画面には……、ロンさんの顔写真が載っていて、その上から被さる様に、『GAME OVER』の赤い文字が浮かんでいた……。
ロンさんは……、ログアウトになった……。
ヴェルゴラさんは冷静に、血痕を残した人物がみゅんみゅんちゃんだと言い、血痕は森に続いていて、私達はすぐにみゅんみゅんちゃんを探した。
けど……見つからなかった。
私は、ひどく後悔した。
閉じ込められていたからという理由で、私はそっちを優先にしていた。戦う方を優先にしてしまった。救うことに、優先順位をつけてしまった。
先に、閉じ込められていた人達を何とかしなければいけなかったんじゃないか?
それが正しいのか、今となってはわからない。でも……。
本当ならばみゅんみゅんちゃんのことを必死になって探したり、なんでこうなってしまったのかを考えることが最善なのは――私自身わかっている。
でも、それを考えることもできないほど、と言うか、考えれば考える程最悪の想定が頭の中をよぎってしまい、正常な推理と言うか、思考ができない。
親友の死を間接的だけど体験し、その衝撃の事実が私の心を乱した。
本当ならあの場で、ネクロマンサーの襲撃の時に向かえばよかったんだ。なんでそんなことをしなかった。あの壁だってヘルナイトさんの力を使えば壊せたはずだ。
最善の道はみゅんみゅんちゃん達との合流で、それを先にすればこうならなかったはずだ。
これは私の所為だ。
それをしなかった私の判断ミス。
頭を酷使すればこうならなかったはずだ。
目の前の敵にばかりに集中してはいけなかったんだ。
完全にこれは相手の策だったのかもしれないけどそれも分からない。
でもその策に嵌ってしまった私はもっと馬鹿だ。
私の判断の誤りが――みゅんみゅんちゃんに苦しい思いをさせた。
みゅんみゅんちゃんに対して、私は間接的に苦しめてしまった。間接的な――拷問をしてしまった。
私は……友達を、見捨ててしまった……。
◆ ◆
「だいぶ参ってんな」
深夜。夜遅くのギルド内で、キョウヤとアキ、メィサとヴェルゴラは集まっていた。ヘルナイトは外で待機し……、肝心のハンナは……。
『……少し、外の空気を吸いに……』と、力なく言った後、そのまま一人で外に行ってしまった。
現状として、いるのはこの四人。
大人の時間と言うわけではないが……、彼らは四人で話をしていた。
それぞれ何があったのかと言うことを話している時、キョウヤは上の言葉を言ったということだ。
それを聞いたアキは、ただ腕を組んで、怒りを含んだ音色でこう言った。
「仕方ないだろ……、ああなっちゃったんだから」
「仕方がない?」
ヴェルゴラはアキに対し、一歩前に出て、そしてアキに詰め寄るように、彼も怒りを含んだ音色でこう言った。
「それはどこの口がそう言うんだ? おかげでこっちは犠牲者が出たんだぞ? それも二人だ」
「ちょっと……、ヴェル」
メィサも、いつものほんわかとした雰囲気ではない。彼を宥めようと必死になって止めようとする。しかしそれを片手で制してしまうヴェルゴラ。
「二人じゃないだろ? 一人だ」
「アキ――やめとけ」
アキもアキでヴェルゴラの言葉が癇に障ったのか……、彼も挑発的に苛立った口調で言う。キョウヤはそれを聞いて止めに入ろうとしたが、それも無駄に終わる。
「それはあんたの責任じゃないのか? 一人で閉じ込められて、何をしていたんだ?」
「決まっている。壁を壊そうとした」
「敵なんていなかったんだろ? なんですぐに壊さなかった?」
「壊せたらそうしている。それに、そっちに役立たずがいるから、救助が遅れたんだろ?」
「……妹のことを役立たずって言ってるのか?」
「そうだ」
「言っていいことと悪いことがあるって……、体で教えた方がいいかな……?」
「教えたいのはこっちの台詞でもあるんだぞ? お前達のところにいたENPCがいたのに、それでもネクロなんとかと言う存在にてこずったのか? 最強なのにあんな二人を一撃で倒せなかったのか?」
「……ヘルナイトのことは分からないけど、調子が悪い時もあればいい時だってあるだろ? 今回は運悪く調子が悪かったかもしれない。あの時は非常事態で手が回らなかったんだ」
「その言葉で片付けるつもりか? その言葉で『ああそうか』と納得させたいのか? そんな言葉で丸く収まるほどの事態じゃないんだ。最強ならば最強らしく攻撃でも何でもして状況を覆せばよかったんじゃないのか? お前か蜥蜴の男がそれを言えばよかったんじゃないのか? それも『非常事態だったから仕方がない』とかぬかすのか?」
「……さっきも言ったけどさ、逝っていい事と悪い事があるって言ったよね? 俺達も俺達で大変で、あんた達もあんた達で大変だった。全部を俺達の所為にされても困るんだよ。あんた何かできたのか? 何もしてねえじゃねえか。一人でただただ壊そうとしただけだろ? 結局何もできてねえじゃん。偉そうに言うんじゃねえ」
「人数が多かったお前達に、加勢しなければ勝てなかったお前に言われる筋合いはない」
「マジで撃ち殺してぇ」
アキはすっと、ライフル銃を掴もうとした。ヴェルゴラも槍を掴もうとした時……。
彼らの前に立って、それを制した――
「いい加減にしろシスコン」
「ヴェルもやめて」
キョウヤとメィサが……、互いの前に出て止めに入った。キョウヤはしゅるんっとライフル銃を尻尾を使って奪って、メィサは手を広げて前に立っていた。キョウヤとメィサは怒った音色で言った。
それを見て、聞いていた二人は殺気を止めることはなかったが……、キョウヤとメィサはそれに対し、畳み掛けるようにしてこう言った。
「オレ達大の大人が、そんなことで喧嘩していいと思ってんのか? 大の大人がねちねちと言い合いしていいと思ってんのか? 唯一十代の子供が悶々考えて、自分のことを責めているかもしれねえのに」
「それは……」
「なら、今は喧嘩なんて言う下らねえことすんな。わかれよ二十代。オレ達以上に、ハンナが傷ついてんだぞ? 一人になりたいくらい参ってんだ。今は喧嘩をしている場合じゃねえだろ」
「う」
「オレだって、あの時はそれどころじゃなかったって言い訳がましいことを言っちまうかもしれねえ。でも……、ハンナは誰も責めないで一人で背負込んじまってるんだぞ? 大の大人が大人げなく喧嘩している場合か? 今は怒り任せにしている場合じゃねえだろうが馬鹿シスコン」
キョウヤはアキに言い聞かせる。真剣で、そして怒りを含んだ音色で――
それとは対照的に……。
「確かに、弟がログアウトになったのは悲しいわ。すごく悲しい。みゅんちゃんのこともすごく悲しいわ。でも、今は喧嘩してすっきりしている場合?」
「メィサ……、なぜそいつらを庇う?」
「庇ってるとかそんなことを言っているんじゃないの。あの子は……、ハンナちゃんは友達が傷ついて、もしかしたらログアウトになっているかもしれないとか、嫌な事を考えすぎているの。それなのに、戦っている時にそんなこと考えられる? もし私がヘルナイトの立場だったら……、確かに助けたい気持ちもある。周りのみんなを助けたいし敵も倒したい。でもそれが一人だったら簡単だったかもしれないけど、周りには守る人がいた。その人を守りながら戦うことって、すごく大変だと思うの。庇いながらの戦闘は凄く大変なの。それは、ロンもよく言っていた。だからわかるの、ヴェルは分からない? 分かるわよね? だって同じ立場だもの。もう少しよく考えてから言って」
「だが……」
「それに、あの子がいなければもしかしたら、閉じ込められていたままだったかもしれない。私がいないままだったら閉じ込められたままで飢え死にするか腐敗死しちゃうところだったのよ? それなのに、役立たずって言う? 可哀想じゃない。ヴェル……、あなた前と比べたら……、少し厳しすぎるわ」
メィサはヴェルゴラに言い聞かせる。
今はそれどころではないと、互いが互いに言い聞かせている。
同じ気持ちなのはわかる。しかしそれでも、今はそれどころではない。
そう自分に言い聞かせながら、キョウヤとメィサは言った。
「……ごめん。気が立っていた」
「それならヴェルゴラさんに」
アキは俯き、小さく言うと、それを聞いたキョウヤはふんっと鼻息を吹いてすっと横に避けた。
「……そう、か……」
「なら、やるべきこと」
ヴェルゴラとメィサも、アキ達と同じように行動をとって、ヴェルゴラとアキは、ゆっくりと頭を下げて……。
「す、すみません。不謹慎なことを……」
まずはアキから。
そして――
「こちらこそ、すまなかった……」
次にヴェルゴラが謝る。
だが……。と、ヴェルゴラは言う。
「現実に起こってしまったことは……、変えられない。今回の徒党の件について……」
「ああ、オレ達にだって非がある。今回はなしっていう方向で。あと……」
キョウヤはすっと頭を下げる。それを見てメィサとヴェルゴラ、アキも驚いてそれを見る。キョウヤは頭を下げたまま……。
「無力で、すいませんでした」
キョウヤの発言に目を見開いたまま固まってしまうメィサ達。
……キョウヤも、助けられたかもしれないと思っていたのだろう……。しかし死霊族が出た……。
キョウヤ自身、それのせいにすることは自分のプライドが廃ると思ったのだろう。
結局、あの時何もできなかった。ハンナを守ることを優先にしてしまったせいもある。もし自分が、壁を壊したりしたら、何かが変わったのか? もっと考えを巡らせれば、何かが変わっていたかもしれない。そう思っての謝罪だ。
結局……、最悪の状況になってしまったのだから……。
首謀は、ここにいるのに対してだ……。
キョウヤのそれを見たメィサは慌てながら手を振って――
「あ、ううんっ! 元はと言えばこっちが誘ったせいでこうなっちゃったんだもの……っ! あなた達が全て悪いわけじゃないもの……っ」
と言って、そしてヴェルゴラの背中を押して……、彼女は申し訳なさそうに言った……。
「……明日、出発するんでしょ? あの子に言っておいて……? 『ごめんね』って」
「……言わないんですか? 妹に」
そうアキが怪訝そうに聞くと、メィサは申し訳なさそうに、疲れたような笑みを浮かべて、彼女達は、そっとその場を後にする。
まるで……、逃げている。そうアキには見えたが……、キョウヤには、そう見えなかった。
何となくだが、そう思った……。
メィサは言った。
「――っ。だって、言ったら、あの子……、みゅんちゃんのこと思い出して、泣いちゃうかもしれないもの」
□ □
あれから、一体どれくらい時間が経ったんだろう……。
私はあれからギルドの近くの少し大きめの岩に背を預けて、夜空に浮かんでいる三日月を眺めていた。
深夜だからだろうか、体が肌寒い。そう感じて私は腕をさすって……、そして右手首のバングルを見た。
みゅんみゅんちゃんが失踪した。そしてロンさんが……。
「っ」
私は首を横に振るう。でも現実は変わらない。何も変わることはない……。
もしかしたら……、みゅんみゅんちゃんも……。
「ハンナ」
「!」
突然、声がした。
私は、振り向かず、俯いた状態で、岩の向こうにいる人物に、声をかけた。
「どうしたんですか……? 何かあったんですか?」
私はできるだけ、涙声にならないように言う。でも、私の背にいる……岩の向こうにいるヘルナイトさんは何も言わない。そのまま少し待っていると……、ヘルナイトさんはようやく何かを言った。
「今君は――苦しいのか?」
その言葉に、今度は私が黙る番だ。
背を預けながら、ぎゅっと膝の上で握り拳を作って……。私は、黙ってしまった。
でも、ヘルナイトさんは返答を聞かずに……。
「ハンナ……。こんなことを言うのは、君にとってすれば不謹慎かもしれない。しかし、みゅんみゅんは生きている。私はそう思っている」
なぜだろう……。
この場合、『勝手なことを言わないでください』と言えば、それはそれで、いいのかもしれない。でも、なぜだろうか……、みゅんみゅんちゃんが生きている。そうずっと頭の片隅でずっと思っている。みんな死んでいるかもしれない。と言っていたのに対し、私はそう思わなかった。
きっと、それは……。
「なんで、そう断言できるんですか?」私は聞く。するとヘルナイトさんは言った。
「お前の、友達なんだろう? お前を置いてどこかへ行くなんてことはしない。お前のことを、一番心配していたからな」
それを聞いて、私は――みゅんみゅんちゃんのことを思い出す。
そして……。私の空想だけど、みゅんみゅんちゃんに怒られた。
こんな感じで。
『ちょっと! 勝手に人を殺さないでよ。あんた達は私がいないと誰があんたたちを止めるってのよ。心配で心配で死ねるかっつーの。てか……、私あんた達のお母さんじゃないんだけど……っ』
……ううん。これは一緒に遊んでいるときに言っていた言葉だ。記憶だ。
みゅんみゅんちゃんは嘘をつかない。そして、ヘルナイトさんの言うとおり、みゅんみゅんちゃんが死ぬなんてことは、ありえない。
みゅんみゅんちゃんは、何かに巻き込まれたんだ。
そして、心が強いみゅんみゅんちゃんが、諦めて死ぬなんてことはありえない。
そう思って、私は顔を上げて、岩越しにいるヘルナイトさんに言った。
思い出してくれたお礼と、私のことを心配してくれたお礼を合わせて……。
「……ありがとう、ござ……っ」
でも、言葉の最後で、詰まってしまった。突然来たのだ。
悲しさや、苦しさや、嬉しさとか、いろんな感情がまるでダムを壊すように、決壊するように……、私の心にダイレクトに当たってきた。
それを感じた私は、ぎゅっと座っていた体制を、体育座りに変えて膝に顔を埋める。
もしゃもしゃがぐちゃぐちゃになったそれをもみ消すかのように……。
みゅんみゅんちゃんが生きている。それは信じようと思う。ううん、絶対に生きている。
そう思っても、結局……、私は友達を助けられなかった。
苦しかったのかもしれない。そう思うと、心が張り裂けそうになる。
ごめん。ごめん。ごめん。ごめんね……。
そんな言葉が、私の体中を駆け巡る。どんどん青黒い感情が私を支配しようとした時……。
「……っ!」
私の左側から、冷たい何かを感じた。
それがなんなのかと思い、顔を上げようとした時……。
「まだ心の整理がついていないのだろう?」
「!」
ヘルナイトさんの声が、左側から聞こえた。そして、ぐっと、何かに抱きしめられている……。
ヘルナイトさんが、私を抱きしめているのかな……?
でも、なんだろう……、鉄特有の冷たさなのに……。
温かい……。
「……心の整理がつくまで……、一緒にいてやる。安心してくれ」
段々、青黒いもしゃもしゃが消えて、青いもしゃもしゃになって、私は……。
私の肩にそっと触れているヘルナイトさんの左手を、手の甲を包むように、片手で触れた。
そのぬくもりが、温かくて、大きな手が……、今日はより一層温かく感じられた……。
この感じ……、どこかで感じたことがある……。そう思っていたけど、私はそんなことを頭の片隅に追いやって……、そのぬくもりに甘えて……、そっと、意識を手放した……。
◆ ◆
ヘルナイトは内心、何をしているのかと後悔した。
それは、自分の腕の中でそっと意識を手放して寝たハンナを、今度は自分が羽織っているマントにくるんで、自分がまるで椅子になって、彼女を膝に乗せて寝かしている。
滑稽に見えるかもしれない。
それでも、どうしても気になってしまったのだ。
ハンナが、みゅんみゅんの話を聞いた時に見せた。一瞬だけ見せた……。悲しい顔を。
(思えば、ハンナは一回も、笑ってないような気がする)
ヘルナイトの言うとおり、ハンナは笑ってない。大笑いや爆笑と言ったそれではないが、にっこりと笑うそれは、見たことがない。
彼女は控えめに微笑む。それだけ。
まるで、その笑みの感情だけが一部欠損しているかのような……。悲しい笑み。
エストゥガにいた時に見せたあの微笑みも、どこか悲しい。そうヘルナイトは思って、あんなことを言ったのだ。
喜怒哀楽が一部破損しているかのような、その表情を見て、ヘルナイトは思った。
(あの時、ハンナを巻き込みたくないと思ったのは……、きっと、私の本音だ)
それは、死霊族を倒そうとしたとき、ヘルナイトがハンナに言った言葉だ。その真意は簡単なものであり、そして、大事なことでもあった。
(あの時、思い出した。私が命を変えて守ろうとした人が、自らの命を犠牲に、『終焉の瘴気』を封じ込めた。あのときの笑みが、ハンナに似ていた。似すぎていたから……。危険なことに巻き込みたくなかった)
(それは、私の自己満足だろう……)
(私が招いた、不覚……)
そう思って、ヘルナイトはハンナの背中を見る。
すでに傷は癒えている。しかしクロズクメのあらん限りに殴られたハンナを見た瞬間……、彼は後悔し、自分の選択を悔やむと、無我夢中で彼女を隠すように覆いかぶさった。
そっと彼女を起こさないように、マントでハンナを包み込んで――夜空を見上げる……。
(みゅんみゅんに、『ハンナを守れ』と言われたが……、正直、私はハンナを守れているのか、不安だ)
『12鬼士』で、そしてそのリーダーでもあるヘルナイトは自嘲気味に鼻で笑い……、ハンナの寝顔を見た。規則正しく寝息を立てて、そして目元を赤く晴らしているようにも見える。
それを見て、ヘルナイトはその目元を指で優しく、起こさないように撫でる。
もぞっとハンナが動いたが、深い眠りについているのか起きる気配はなかった。それを見た後、再度月を見る。三日月が、彼らを照らす。
エストゥガの時とは違う月だ。
それを見てヘルナイトは静かに、甲冑越しで目を閉じる……。
守るという言葉は、簡単に見えて実は重い言葉。
曖昧に聞こえるが、本当は重くて大事な言葉でもある。
言葉とはそういうもので、難しいものでもある。
ヘルナイトはそう思いながら規則正しく寝ているハンナを起こさないように、すっと薄く目を開けて三日月を見続ける……。
「ぐぎぎぎぎぎぎぎぎっ」
「やめれやめれ。歯軋りすんな。気付かれる……っ!」
「ぐぎぎぎぎぎぎぎぎっ」
「ダメだ。こん時だけは人語が崩壊している……っ!」
結局なのだろうか。
ハンナのことが心配になったアキとキョウヤは、恐る恐るハンナを探していた。見つかったと思ったがヘルナイトと一緒に座りながら寝ているそれを見たアキが歯軋りをして血走った目で隠れているが、隠れようとしていないようにも見えてしまう。
ヘルナイトを睨んで木に隠れているにも関わらずバキバキと指の力だけで木を折る勢いで握りしめている。
それを見たキョウヤが半分焦り、半分呆れながら見て頭を抱えだす。
そんな風景は深夜の時間ずっとではないが、小一時間行われていた……。