PLAY127 止めるために⑤
ヘルナイトさんが告げた内容は、当たり前に聞こえるような内容だった。
まず――大昔のアズールは一人の王様が統治していたらしく、その王様は今でいうところの『創成王』の遠い祖先らしい。
遠い祖先の『創成王』の一族はアズールをより良い国にしようと頑張っていたらしいんだけど、その頑張りを無下にするような、壊すような出来事が立て続けに起きてしまったのがきっかけなのだそう。
そのきっかけとは――他国からの襲撃。
要は領土拡大を企てた他国の攻撃を受けたことで、一時アズールは傾国の危機に瀕したらしい。
ううん。瀕した。
事実その時代の国は困窮どころの話ではなく、生きるために国民一人一人が疑心暗鬼になって、争いを繰り返すような治安どころか国そのものは壊れてしまったかのような光景になっていたらしく、魔王族含めた四種族は心を痛めていたそうだ。
他国の襲撃。
傾国。
国民の崩壊。
色んな負の連鎖が重なってしまい、国は滅ぶ一歩手前になってしまった。
これをアズールの歴史上『泥闇の時代』と呼ばれていて、闇のように底なしの真っ黒い何かが泥のように纏わりつき、底なしに嵌ってしまったかのように動けない状態を言葉にしたのがこの時代らしい。
困窮も何も解決できない。
どころか解決する暇さえ与えない他国の侵略。
侵略は止まることなくアズールに襲い掛かって、いっそのこと……。と言う思考に至りそうになったらしいけど、それを止めた人物がいた。
そう――何度も何度も聞いたことがある神様で、私と瓜二つの顔を持っている……。
サリアフィア様が、アズールの民達に、王に進言した。
これはいうなれば啓示。
神の啓示みたいなものらしく、啓示の内容は――至極簡単な事だった。
『他国からの侵略を防ぐため。国の平和を守るためには、一人の力では何もできません。一つの国が多くの国相手に戦うことはできないのです。アズールは大きい国。ならば――』
国を分け、いくつもの国の王がこのアズールを守ればいいのです。
当たり前なことだけど、この啓示は当時のアズール国王の目の鱗をはがすこととなった。
そう――目から鱗。
普通一つの国を何人もの王様が守るなんておかしいと思っていたのかもしれない。
国を分ける。
数名の王様が一つの国を守る。
まるで地球と言う国を守ろうとしている各国の人たちのような考えに、当時の『創成王』は驚きのあまりに脱帽したらしいとか…… (ヘルナイトさん曰く……歴史書と当時のことを知っている人の話しでそう言っていたらしい)。
脱帽して、啓示をいただいた後、すぐ行動に移したらしい。
行動と言っても、結局決めるのは王様だけ……、にはならず……。当時は色んな種族がアズールに暮らしていたから、当時は王様を決めるのもかなりの時間を要したそうだ。
王様を決める。
そんなの誰もがしたいことだし、一国の王になるのだからやりたい人とかいるに決まっているし、何より王様を決めるという重大なことを簡単に済ませてはいけない。
よく多数決で決める様な、ありきたりで簡単な決め方をしてはいけないということ。
多数決で『この人だ!』と決めても、決められ選ばれた人が野心家だったら元も子もない。
だから何人もの王様を決めることはかなり難航していたらしいけど、そんな難航を崩したのが――アダム・ドラグーン王と、後に『孤高の無王』と言われているナム王。
二人の王は元々『創成王』とは古い付き合いだったらしく、今の『創成王』とも友人として、共に戦う王としても関係を築いているらしいけど、友人となったのはこのことがきっかけだったらしい (ヘルナイトさん曰く)。
因みにだけど、ドラグーン王はそのころから変わっていないらしく、創世記時代から生きていることが分かってしまったのは言うまでもないし、その事実を聞いた瞬間、アキにぃと京平さんの素っ頓狂な『マジッ!?』と言う驚きと、エドさんと虎次郎さんの絶句の顔。キョウヤさんとシェーラちゃん、シロナさんと善さんの内心複雑な顔は、きっと忘れない。
私も、一体何歳なのと思ってしまったから……。
っと、話しを戻します。
その二人は元から王としての資質、王としての先見の明があったらしく、ドラグーン王とナム王の先見の明の元――王様としての資質を見て回り、ようやくできたのが今の王たちなのだ。
アルテットミア公国の王様。
アムスノーム王国の王様。
アクアロイアの王様。
バトラヴィア帝国の王様。
ボロボ空中都市の王様。
アンノウンの魔の大地の王様と雪の大地の王様。
天界フィローノアの王様。
そして王都の王様。
合計……じゃなくて、それぞれの王を決めた結果――九名の王様が決まった。
そのうち――ドラグーン王はボロボの王として、ナム王はアンノウンの魔の大地の王として。
天界フィローノアの王は、サリアフィア様が務めることになったことは言うまでもない。
この啓示は今でも語り継がれていて、今でもこれは続いている。
そして噂として語り継がれていることがあって――これは破ってはいけないルールだと言われているらしい。
何が破ってはいけないルールなのか。
それは王のシステムを変えること。
別にそれは年数を重ねれば、歴史が変われば、世界の状況が変わったらシステムだって変わることだってある。でも変えてはいけないと語り継がれていることもあってか、その噂も根強く残ってしまったとヘルナイトさんは言っていた。
どうして変えてはいけないのか。
それを聞いた後――ヘルナイトさんは言った。
凛としていて、とても暗い雰囲気を持った音色で、まるで世界から音が無くなってしまったかのような言葉でヘルナイトさんは言ったのだ。
啓示を踏み躙ることは女神への冒涜。
女神への冒涜を行った者は必ず罰せられる。
死よりも恐ろしい方法で罰せられ、生きることを強制される。
生き地獄と言う名の永遠を味わうことになるからだ。
□ □
「生き地獄と、強制……?」
只の啓示ごときで……?
ヘルナイトさんの説明が終わった後、一時静まり返ってしまった空間だったけど、沈黙を破ったのはアキにぃで、アキにぃは困惑の顔をして首を傾げながら腰に手を当てて言葉を零す。
まるで理解できない。
感情と言葉が露骨に現れたその面持ちで発した言葉は、今まさに私たち全員が思った――
「啓示って言っても、最も信頼して、この大地を統べる神様の言葉だよ? それを蔑ろにすることは重罪みたいな感覚なのかもしれない」
ううん。エドさん以外の私達が思ったことで、アキにぃの言葉を聞いて反論を述べたエドさんは平然として、冷静な口調で言うと、アキにぃは驚いた顔をしてエドさんのことを見た。
変に半音高い音色で『へ?』と言いながら……、まさに予想外の言葉が返って来たという驚きの顔をしてだ。
驚いているアキにぃを見つつ、心の中で思っていたことを私はエドさんに告げることにした。
アキにぃの言う通り、大事過ぎるかもしれない。
でも……。と思いながら私は告げる。
「……そもそもこの世界はサリアフィア様のことを崇拝している。その人のことを貶すようなことをするということは、神様のことを裏切ることに等しい。ってことだから、生き地獄なのかもしれませんね。大袈裟とかそんなこと関係なく、啓示に背いてはいけないと思っているのかもしれませんね」
「多分そう。元々人前に現れない神様だったら尚更背いたらだめって言う人間の心理が働いてこうなったのかもしれない」
私の言葉にエドさんは頷きながら指を指すような仕草をする。
今でいうところの『それな』的な感じの動作だ。
エドさんと私の話を聞いていたヘルナイトさんも頷きながら「かもしれないが」と言いつつ、その後少しだけ間を開けた後――ヘルナイトさんは神妙な音色で言った。
さっき話した啓示のことを踏まえつつ、国のシステムの話を取り入れた話を入れて……。
「その考えがどんどん薄れているのも事実だ。啓示は昔の考えと言う思考のが広まっている。邪な感情を持つ者がどんどん増えている」
「あー。王位を奪おうとしている奴のことか。今でいうところの大臣が王になろうとしている時点で野心溢れてるかんな」
ヘルナイトさんの言葉に対しキョウヤさんは納得したように言うと、ヘルナイトさんは頷く。
頷いたところで唐突にシロナさんが意見を述べるための挙手をして「あのさー」と言ってきたので、みんなでシロナさんのことを見ると、シロナさんははっきりしている言葉で言った。
「結局何が言いたいんだ? それとこれとでは話がわかんねーし、そもそも大臣はボロボって言う国を自分の国にしようとしてんだろ? それでなんでけーじっつー奴が関係してんだ? んなこと話している場合じゃねーだろ? 早くぶっ飛ばしに」
「黙りなさい戦闘狂の虎女」
「オメーもな」
シロナさんの言葉を聞いていたシェーラちゃんがすかさず静止の声を上げるけど、そんなシェーラちゃんに向けてキョウヤさんはいつもの光景を見ているせいか、何故か同類みたいに訂正を掛けてきた。
二人共至極まともというか、和ませる様な事は一切していない。
雰囲気を見ても分かるし、なんであんな……。
「あ」
私はすぐに理解する。
これはキョウヤさんの言っていることこそが最も正しいと……。
シェーラちゃんは元より戦うことが好きな傾向があるから……、シロナさんに言っていることはまさにブーメランなんだな……。
自分の思考の中で納得して頷いていると、シロナさんの言葉を聞いていたヘルナイトさんは「急ぎたい気持ちは分かる」と、シロナさんの気持ちに肯定して、その気持ちはみんな同じだということを告げると、噤木となる言葉をヘルナイトさんは言い放つ。
「だが、ディドルイレス大臣殿が考えている『ボロボを滅ぼす』と言うことを考えた時の想定しなければいけないことを確認したいんだ。『ボロボを滅ぼす』ことだけであればいい事なんだが、どうもそうとは限らない気がしている。とでも言えばいいのかもしれない」
「? それだけ、じゃないってことか?」
ヘルナイトさんは言う。
それだけだったらいい。
まるでその先があるみたいな言い方……、ううん。たったそれだけとは思うな。と言いたげな言い方に対し、シロナさんは首を傾げながらオウム返しをして、その後まさかと言わんばかりの言葉で返答した。
その返答に対し、ヘルナイトさんは頷いて――
「欲望が渇くことはない。欲する気持ちはまさに原動力にあらず。その欲が治まることはあるが、欲が膨らみに膨らんだ瞬間、崩壊を招くことにある」
『………………………』
ヘルナイトさんは言った。
すごく真面目に、まさにそうかもしれないと言わんばかりの言葉を聞いた瞬間、私達は考えてしまい、沈黙してしまう。
オウヒさんも驚いていたけれど、すぐに何かに気付いたのか私達と同じように俯きながら考え込んでしまう。腕を組んで『うーん』と言いながら……。
みんな黙ってしまった理由は、まさに自分も当てはまると思い、そしてヘルナイトさんの言う通り、このまま滅ぼして終わりと言う結果で終わりそうにないと思ったからだと思う。
欲望は人を潤すけど、欲をかきすぎるとそのまま崩壊してしまう。
よくおじいちゃんが言っていた。
我儘は駄目だ。我慢も大事なんだ。
欲しいという気持ちは大事だが、その気持ちを大きくしてはいけない。
大きくなってしまった瞬間、人は壊れてしまう。
何に対しても節度と言うものが必要であり、適度と言うものが必要になる。それを捨て、制止と言うものが壊れてしまえば、人は人でなくなり、獣となってしまう。
すべてに対して我慢しろとは言わない。
だが我慢しないで欲のままに動いてはいけない。
これはおじいちゃんの口癖と言うわけではなかったけど、おじいちゃんの親しい友人が体験した話って言っていた気がする。私達にも同じ思いをさせてはいけないという教訓めいた話だった気がするけど、これはまさにそれに当てはまる。
王になりたい人。
その人が辿る末路。
欲深き者の末路に感じてしまう内容。
だからこそ――わかってしまった。
大臣がしていることに対し、終わりなんてないかもしれないという想定に――
「えっと、これって、やばいの……?」
私達の沈黙を感じ、恐る恐ると言う感じでオウヒさんが私に話しかけてきた。
服の端っこを掴んで軽く引っ張る動作を腕を掴んで動かすという動作に変えながらも、やっぱりやっていることは一緒というか、軽く揺すっているような感覚なので、私はオウヒさんがいる背後を振り向きながら見て――オウヒさんの不安そうな、少しだけ嘘であってほしいという顔を見て、私は……。
「………………………」
口を開けることが、できなかった。
本当はそうであってほしくない。
これ以上の欲を出してほしくない気持ちもあるけど、早々うまくいかないのがこの世。
色んな想定外もあったし、色んなことがあったせいで楽観的に考えることができなくなっている。
考えすぎと言われても仕方がないかもしれないけど、考えれば考えるほど変にネガティブになっていく。
本当ならオウヒさんに対して『大丈夫』と言いたいんだけど、言えないのも本音で……。
どう言葉にすればいいのか分からないまま私は無言になってしまい、オウヒさんに更なる心配をかけてしまう。
そう……、そんなことがあるかもしれない。
それを示してしまいながら……。
誰もがオウヒさんの言葉に対して言葉にすることができない (シロナさんは話そうとしているその口を善さんが手を使って押さえている)。できない状況の中、唯一言葉を発したヘルナイトさんはオウヒさんのことを見て、凛としているけど神妙と、半分の申し訳なさをにじみ出して言葉を発した。
やばいことを示すように――
「桜姫様……。その通りです。今この状況はあなたの言う通り――『やばい』かもしれません」
「………………………っ!」
ヘルナイトさんの言葉を聞いたオウヒさんは驚きの顔をして顔面蒼白にした後、額から生えている角を撫でて俯いてしまう。
さすさすと、痛いところを撫でるような仕草をしつつ、俯いた状態のまま見開かれた瞳孔に映るのは、ただの絶望のそれ。
たったそれだけ。
それだけでもわかってしまったことに対して、誰もがこんなこと思いたくなかっただろうけど、考えてしまったらそれ以上を考えてしまうのが人間。
被害妄想と言う名の負のスパイラル。
こんなに考えなくてもいいんじゃないかと思ってしまってもいいのだけど、そう考えることができない。と言うかそれ以上するという予想が本当になりそうな気がする。
そう思ってしまっている。
だって、ディドルイレス大臣はボロボを滅ぼそうとしている。王様になろうとしている。
王様と言う事は国のトップになると言う事。
トップということは国においての頂点。
バトラヴィア帝国の帝王のように征服してもおかしくない状況になるかもしれないけど、ディドルイレス大臣はきっとその椅子に収まらない……と私達は見ている。
邪な感情。
欲望を持っている人からすると、これで収まれば収まる。
でも、それで収まらない欲望を持っている人がいたらどうなるだろう……?
王の座を手に入れたとして、それで収まらなければ、その欲望はどうなる?
どこに向けられる?
別の場所に向けられる?
更に大きな欲望になって、どこに向けられる?
………………………。
………………………。
簡単だ。
心に巣食った欲望は、ストッパーと言う名のダムがなかったら止めることなんてできない。
脳がやめておけと言う指令を出したとしても、止めることはできないのが人間。
味を占めてしまった瞬間――もっと欲しくなってしまうのが人間。
大臣であり、王様になることを欲望としていたディドルイレス大臣にとって、王様になった瞬間途轍もない快感を得るだろうけど、その快感は更なる高みの欲望へと変化するきっかけにもなってしまう。
簡単に言うと――それで終わらない。
このままだと――国を滅ぼしてしまい、自分だけの王国を作ってしまうかもしれない。
あまりにも突拍子もない事を言っているかもしれないけど、これは――あり得るかもしれない話なのだ。
欲望の赴くがまま動いた結果と言ってもおかしくないし、たくさんの国を数名の王が束ねて平和を保っている世界なんだ。誰かが反旗を翻してもおかしくない。
それが王の側近でもおかしくないし、もしかしたら兵士でもやってしまうかもしれない。
権力を持つということはそう言う事。
ディドルイレス大臣は今――その段階に踏み込んでいる。
大臣になって、王様になろうとして足を踏み込んで……最悪の場所にまで踏み込もうとしていたら……?
………………………。
考えたくないけど、ありえてしまう。
それは避けなければいけない。
阻止しないといけない。
いけないからこそ、私達だけでは力不足だ。
「やばい事を考えてしまったら――まずは行動しないと」
そう言って話を区切り、行動に変換するように言葉を切り出したアキにぃは、すぐに銃を抱えてヘルナイトさんに向けて聞く。
まずは――と言う言葉を最初に出して……。
「最初にすることは協力申請。協力できる人の招集から先にしよう」
「あ。しょーちゃん、ヌィビットさん達のこと?」
「ハンナのお友達のチームは信用できるけど、あの野郎だけは信用できない。癖の如く嘘やら言葉がドロドロ出て来るから、きっと裏切るよ? それでもいいの?」
「どろどろ……?」
アキにぃの口から出てきた言葉に私は納得して手を叩きながら言うと、アキにぃは頷いてはくれたけど、ヌィビットさんに関しての唇裂な言葉に私は困惑してしまった。
というよりも……、そんなひどい言葉がすらすら出てくるアキにぃの方がすごいと思うと思ってしまったけど、そんなアキにぃの言葉にエドさんは真面目な言葉で……。
「いいや、今は戦力が必要不可欠。できる限りの戦力は欲しいよ。おれも心士卿や王子にも声をかけておこうと思う、あの二人なら絶対に強力な助っ人になるから」
「あ、あの二人ですか……? 戦力になる……?」
と言ってアキにぃの言葉をいち早く否定したあと、強力な助っ人候補を上げるエドさん。
あの二人。
そう、イェーガー王子と心士卿。
ボロボに来るまでの空の旅の時、一時だけど一緒にいたんだけど、その後は別行動をしている。
心士卿は分かるけど、王子はどうなんだろうと思っていると、ヘルナイトさんもエドさんに同意見らしく、頷きながら「その方がいいかもしれない」と言って話を進めている。
進んでいく内容に置いてけぼりにならないように、私はすぐに考えを止めてみんなの話に耳を傾けると、ヘルナイトさんがまとめるように凛とした声で言う。
今後の行動についての流れの確認として――
「やることはだいたい決まった。私達はこれからショーマ達の所に向かってこのことを伝えに行こうと思う。ナヴィ――飛べるか?」
「きゅっ!」
ナヴィちゃんにどうなのかと言う意見を聞いた後、飛ぶ本人は胸を張って『任せて』と言わんばかりの行動をとると、それを聞いたアキにぃ達も頷く (あ、アキにぃだけはなんだか腑に落ちないような顔をしていたけど、そのあとすぐに納得しました)。
私もその一人として頷いてナヴィちゃんの頭を撫でて『お願いね』と頼む。
私達を乗せて運ぶナヴィちゃん本人はもうやる気満々の顔で鼻息をふかしている。
私達の方で話がまとまった後、ヘルナイトさんはオウヒさんを見て――
「鬼姫様は一旦郷へ送り届けます。安全のため、我々が戻るまでは隠れててください」
と言うと、オウヒさんは一瞬何か言いたげな顔をした後、ヘルナイトさんの言葉に視線を下に逸らして頷く。
小さな声で「わかった……」と言う承諾の声を出しながら。
「王子たちへの伝達はおれと京平がするよ。シロナと善はシリウス達とヌィビットさん達にこのことを」
「ん」
「わーってるよ! 隙あらば戦闘の協力申請煽っとく」
「頼んべオメーら」
エドさんはワイバーンとなった京平さんの背中に乗ろうとしている時にシロナさんと善さんにお願いするように頼むと、それを聞いた善さんはグーサインを出して、シロナさんも頷きながら頷く。
少し言葉に違和感を感じたけれど、それを気にしている暇なんてない。
京平さんもシロナさんと善さんに頼み、エドさんを背に乗せて両手の翼を羽ばたかせる。
羽ばたくと同時に別の方向から大きな風が私の服をなびかせ、髪を乱しにかかる。
それは後ろから。
押し寄せてきた背後の風を感じて振り向くと、そこには――ドラゴンとなったナヴィちゃんとヘルナイトさん達がいて、私のことを見てみんな待っていた。
「行こう――止めに」
みんなが待っている光景を見て、ヘルナイトさんの言葉を聞いて、私はぐっと口をきつく閉じるように噤んだ後――みんなの元に向かって走る。
そう、今は考えている暇はない。
今の私達では力不足だ。
今は多くの仲間の力が欲しい。
猫の手も借りたいくらいだ。
負けてしまったことは悔しいし、何よりできなかった自分に嫌気がさしてしまう。
嫌気がさしてしまうけど、今はそれを悔やんでいる暇もない。
暇さえ与えてくれない。
与えてくれない。ならば今は止めるために行動しよう。
どこに向かっているのかわからないけど、今はその情報も踏まえて聞かないといけないし、それに大臣さんのことも話さなければいけない。
そう思いながら私は駆け出す。
最初に向かうべき場所――オウヒさんの安全確保のために、鬼の郷へ。




