PLAY127 止めるために④
「あんな奴相手に負けたままも癪。リベンジして絶対にぶった斬る」
「妹を傷つけた罪はゾウよりも重いし、何なら水に向かってダイブして、顔面直撃するほどの威力で顔を叩かないと気が済まない……っ!」
「要は殺すってことだろ? お前等血気盛んだな。でもまぁオレも正直このままで済ませるほど穏やかじゃねえわ」
「儂もだ。あのまま逃げ勝ちをされてしまっては気位が廃れる。正々堂々と戦い、正々堂々の中の審議を以て判断したい」
「ん。んん」
「善も『同文だ。あんな勝ち方をされて『はいそうですか』と認めたくない』てよ。アタシも同意見だ。こんな形の負けは居心地が悪ぃ。それにこっちはまだ全力の『ぜ』すら出せていねぇのに」
「みーんな同意見だべ。俺だってそう思っている。欠けている状態で負けましただなんて、全力出さずに負けてしまいましたの苦い負けと同じだべ。みんな思っていることは同じだ」
あんな風に負けて悔しがっている暇なんてねー。
今はやるべきことを整理して向かうだけだべ。
シェーラちゃん。アキにぃ。キョウヤさん。虎次郎さん。善さん。シロナさん。京平さんがそれぞれの意思を述べるように言葉を並べていく。
みんなの体から零れ出ている戦う意志のもしゃもしゃを感じながら、みんなの言っていることも相まって、本気だと再認識した私は――みんなに向けて「はい。私もです」と言って、エドさんのことを見て私は続けて告げた。
はっきりと、自分の意思を述べるように――私は告げる。
「エドさん。私……、このままで終わりたくない。勿論皆さんも終わるつもりもないし、こうならなくても絶対に終わらせるつもりはありませんでした」
「うん」
「私はヘルナイトさんと一緒に……、ううん。みんなと一緒にこの世界を救うためにいるんです。浄化の力を持った責務でもありますけど、私の意思でもあります」
「うん」
「私はこの力を持ったことに後悔はしていない。むしろ嬉しいんです。いろんな人達と出会って、エドさん達のようなすごい人たちに出会って、仲良くなっていくのが楽しい。嬉しいんです」
「うん」
「本当は悪い人達を傷つけたくない。本当ならこのまま改心してくれたらうれしいんですけど……、それは我儘です。わがままで叶うことがないけど、やって良い事があるならば悪い事だってある。その悪い事をしているんならば、私は止めたいです」
「うん。おれもだよ」
「ボロボは色んな人達が暮らしている。色んな想いを持った人たちが暮らして、未来に向かって歩んでいる。この国を愛している人たちばかりだから……、滅ぼさせたくない。滅ぼさせない」
長い事――エドさんに自分の主張を述べていたと思う。
あまりにも長文で苦極感じてしまったかな? と思ってしまうほどの長文で、頭の中で整理したのに全然まとまっていない内容に、正直呆れてしまいそうになる私。
でも、それくらい私は言いたいことばかりだった。
言いたいことがありすぎた結果こうなってしまったけど、結局私が言いたいことは――こう言う事だ。
「エドさん……、みんな……、ヘルナイトさん」
私は言う。
みんなに向かって呼び掛けて、みんなの視線を目視で確認した後で私は言う。
すぅっと息を吸い、一幕置くように自分の気持ちを整えた後――私は言った。
「私……、このアズールが好きなんです。好きだからこそ失いたくないし、出会った人たちみんなを死なせたくない。私は戦うことができない非力で無力な回復要因ですけど、一緒に戦ってくれますか?」
できるだけサポートできるようにしますから。
私はみんなに気持ちを伝える。
純粋に守りたい。
純粋に救いたい。
それだけを胸に、それを言葉にして伝えると――一瞬沈黙が辺りを包む。
ううん。厳密には沈黙じゃない。
風の音が私の鼓膜を揺らしたけど、その鼓膜の揺れに重ねるように――声が響いた。
凛としている――安心するその声が。
「当り前だ。元々そのつもりだ」
声の主――ヘルナイトさんは私のことを見下ろして、抱えている手に力を入れて抱き寄せる。
ぐっと……、安心を与える様な抱き寄せと共にナヴィちゃんが私の肩に乗って来て、鼻をふかしながら「きゅきゅっ!」と言ってきた。
きっと……、ううん絶対に『僕も戦うよっ!』と言う意気込みで言っているのだろう……。
ヘルナイトさんとナヴィちゃんの言葉を聞いて、一瞬気持ちに大きな揺れが現れそうになったけど、その揺れを加速させるようにみんなが各々私に向けて言ってきた。
面倒臭そうという顔をしないで、各々私に向けてみんなが言ってくる。
「言われなくてもそうするよっ! というかハンナのことを邪魔とか役に立っていないとか全然思っていないってっ」
「一回でも『邪魔』とか言ったか? オレ達」
「そもそも回復は命綱と同等の価値なの。そこんとこ理解してなさい」
「儂はそんなこと一度たりとも思っておらんぞ」
「俺だって思ってねぇべ。思っているとすればここにいるゴリラが」
「あ? アタシのことか? てかあたしはゴリラじゃねぇし。そう言うならもう一度翼の骨圧し折」
「スンマセンデシタ」
「ん……。んん」
「善も『全然思っていないし、チームにとっての生命線はお前なんだから被害妄想するな』って。アタシだってそう思うよ。お荷物と思っている輩の思考がおかしいだけだ。ネガティブやめろって。胸を張れ」
みんなの言葉は正直そのもので、悪意なんて一ミリも感じさせない言葉の数々だった。
むしろ暖かくなる言葉。
優しい言葉だった。
私がプレイしていたこの世界の衛生士もといメディックは、まさに囮要因として使われることが多かった所属で、その行いの所為で色んなひどい事が起きていたことも知っている。
一種の差別に感じてしまいそうな非道な行いだけど、私はふとこんなことを思ってしまう時がある。
この世界で私はちゃんと役に立っているのか?
そんな些細な疑問なんだけど、私の中ではかなり重要な場所に位置している問題で、本音を言えば心配が大きなところ。
正直私はこの戦いの中では大きなお荷物なのかもしれない。
何度も何度も『大丈夫』と言われても、やっぱり心配になってしまうのが私と言う人間なんだろうな……。
『大丈夫』と言われても信用できない。と言う言葉は正直嫌な人間に聞こえるかもしれない。でも私はその人間の分類だ。
分類だからこそ、本音で聞いて、確かめないと気が済まない。
本当に私のことを庇ってみんなが死んでしまったら元も子もない。そもそも私が死んでしまったらだめなシステムなんだけど……、それを抜いて聞きたかった。
結果は――温かい正直な言葉。
もしゃもしゃも正直なそれを示してくれて、温かいそれを示してくれたから、私は思わず涙腺が緩んでしまいそうなった。
泣きそうになった。
嬉しくて、泣きそうになったけど……、それをぐっとこらえて私はみんなに向けて感謝の言葉――『ありがとう』を述べる。
述べた後で、私はまたぐっと顎を引いて空を見上げる。
何かを見つけたといかそう言う事ではなく、空を見上げて、きっとその先にいるであろう『六芒星』達のことを思い描き、あの時聞いた『アシバ』と言う名前を思い出して、決意を固める。
この国を滅ぼさせはしない。
絶対に。
そう想いを固めた後、ヘルナイトさんは私を下ろさないままそっと立ち上がる。
勿論私に声をかけて立ち上がって、私を横抱きにしたままヘルナイトさんはみんなに、私に向けて言った。
いつもと変わりない凛としている音色で――
「ならばやるべきことは一つだな――この件をデュラン達と彼等に伝えよう。彼らの協力も必要だ」
と言うと、そう言えばと言わんばかりにエドさんが顎に手を当てて考える仕草をする。
確かに、エドさん達はこれで全員じゃない。エドさんのチームにはリカちゃんとシリウスさんがいるけど……、シリウスさんもリカちゃんも、今戦える状態なのかわからない。
わからないけど、少ないよりはましだと思っての判断なのかもしれない。
こればかりはエドさん達の判断に任せるんだろうなと思っていると、私は思い出す。
ヘルナイトさんの言葉を聞いたアキにぃ達も『あ』と四人の声が揃うほど同じことを思い、そして同じ言葉を放ったのだから、絶対に同じことを思っていたに違いない。
しょーちゃん達もいたことを思い出したに違いない……。
フェーリディアンで探していた時、しょーちゃん達に伝えるような余裕がなかったから……、ごめんね。
「なら――善は急げだな。善なだけに」
「ん?」
「んな事言っている場合じゃねーべ。早くいくぞ。俺もワイバーンになって何人か背負うべ」
シロナさん、善さん、京平さんがお多賀の顔を見ながらそれぞれ準備をしようと動こうとして――
「あいつ等と協力とか、『残り香』以来か?」
「今度はしっかりしないといけないわね。だって今回は複数人を相手に戦うやり方だもの。人数は多ければ多いほどいいと思うわ」
「後方の支援は任せて」
「儂は前線を担おう」
キョウヤさん、シェーラちゃん、アキにぃ、虎次郎さんも頷きながら武器を手にして言う。
みんながみんな再戦と言う名のリターンマッチを望んでいる姿は、私から見ると本当に心強い。
この中にしょーちゃん達が入るとなると、すごい戦力になるかもしれない。
そしてヘルナイトさんが言っていた『あの人達』が入れば……。
でも、本当に呼ばなかったことを聞かれたら素直に謝ろう。本当にごめんね――しょーちゃん……。
心の中でしょーちゃん達に謝罪をして、ヘルナイトさんの言葉にみんなが同意を示した後でナヴィちゃんにお願いをした私。
今ナヴィちゃんは私の肩に乗っている状態でいたため、私は肩にいるナヴィちゃんに向けて声をかける。
お願いをするために声をかけて――
「それじゃ……、急いでしょーちゃん達に伝えて、これからのことを考えないと――ナヴィちゃん」
「きゅっ!」
元気よく頷いたナヴィちゃんは私の肩から『ぴょんこ』と跳び出して、その場で大きくなろうと体を力ませた時――
「あ、待ってっ!」
と、突然オウヒさんが声を上げたのだ。
オウヒさんの大きな声を聞いた私達は首を傾げながらオウヒさんのことを見ると、オウヒさんは少しだけ焦った気持ちを抑えるように深い深呼吸をした後――私達のことを見て言った。
はっきりと、勇気を振り絞った大きな声で――
「――私も連れてって!!」
『ダメ』
これが、本当のみんなの心が一つになった瞬間……なのかな?
そう思いながらヘルナイトさんとナヴィちゃん、虎次郎さんとエドさんと一緒にアキにぃ達の心が一つになった瞬間を見つめた。
□ □
「鬼姫様、あんた何言っているの?」
オウヒさんの発言――『私も連れてって』と言う言葉を聞いた瞬間、私とヘルナイトさん、虎次郎さんとエドさん以外のみんなが真顔……というか。断固として認めないばかりに気迫たっぷりの顔で『ダメ』と言った後、シェーラちゃんは呆れるように頭を垂らし、大きな溜息を吐いた後で今の言葉をオウヒさんに向けて言う。
腕を組んで、まさに『怒っていますが何か?』と見てわかってしまうような姿。
あの姿をしてあの言葉を面と受けてしまったら、多分怖い。
というか現在進行形でさっきとは違った重苦しい空気が辺りを包んでいるのだ。
もう言葉にすると……『ずももももっ』と言う黒いオーラがシェーラちゃんから漏れ出しているような、そんな空気……。
空気を察知したのか、エドさんがおずおずとした動作で躊躇いがちに手を伸ばして止めようとしているけど、結局引っ込めて見る方に徹してしまうことになり、シェーラちゃんのもしゃもしゃを直感で感じて一歩足を戻してしまった。
もうたじろいていると言ってもおかしくないほどの気圧され感。
エドさんのたじろいている姿を見た私は内心――やっぱり怖かったんだ。と思ってしまったのは、今は言わないでおこう。
そんなことを思っていると、シェーラちゃんはオウヒさんに向けて腕を組んだ状態で呆れの言葉をつらつらと吐き捨てていく。
さっきの言動は一体どういうことなのか。
圧を込めながら詰め寄りながら……。
「どうして今の流れであんたも一緒に行くという発言に至るの? あなた、戦えないでしょ? 戦えないから善の影に守られて、あの攻撃の中唯一無傷だったあんたが、一体どんな方法で戦おうとしているの?」
「た、戦えないわけじゃないもん。私だって何か武器を使えば戦えるかもしれないじゃん。私だって戦力になるかもしれないじゃん」
「じゃぁどんな武器を使って、どんな風に戦おうと思っているの?」
「えっと、木の棒を使って――『ブスッ!』と」
「逆撫でどころかダメージ一よ。そんなんで戦えるわけないじゃない。木の棒だけで戦えるほど敵は甘くないし、そんな棒一本で戦えたら金属製の武器とかアークティクファクトなんて言う武器なんて必要ないの。神器も必要ないの」
「じゃぁ砂を使って目くらましは? 目を塞いだ瞬間みんなが攻撃をする! すごいサポートじゃない?」
「目くらましなんて一瞬の隙みたいなもの。そんなことをして味方に迷惑が掛かるとか思わないわけ?」
「それが無理なら隠れて相手の脇とか柔らかいところに棒を突き刺す! 『ブスッ!』と」
「蜂じゃないんだから。というかあなた身を隠すスキル持っている? 索敵とか隠密とかのスキル持っているから断言できるの? できると思い込んでそう言っているならやめておきなさい。そのまま裏拳で即死だから。てか連れて行かないから」
「むぅ……。じゃぁ岩を使って投げて戦う。『とーてき』? こう……、大きな岩を持ち上げて、それを敵に向けて――」
「もう大雑把になったわね。敵に向けて投げたところでよわよわ放物線を描いた投擲なんて避けるの簡単よ。あなたの力わかっている? モルグの力見た? 殆ど家育ちの箱入り娘がいきなり戦いに出て戦の才能に目覚めたから無双します的な展開はないの。あなたは何もできないんだから連れて行けない。諦めて」
「………………じゃぁ」
「聞こえなかったのかしら……? 邪魔だから来るなって言っているの聞こえなかったのっ?」
あぁ……。シェーラちゃんの怒りのもしゃもしゃがどんどん大きくなっていく……。
なんか、それを吸っているのかわからないけど、どんどんシェーラちゃんが大きくなっているような気がする……。幻覚かもしれないけど本当に大きくなっている気がする……。
エドさん達もそれを見ながら強張った顔と恐怖のそれでシェーラちゃんのことを見ている。
もしかして、みんなも同じように見えているの?
そんなありえないようなことを思っていると、オウヒさんが震える口を開いて――「だってぇ……」と、今にも泣きだしてしまいそうな震える声で言葉を紡ぐ。
みんなの気迫に負けそうになっているけど、それでも勇気を振り絞っているような音色ともしゃもしゃでオウヒさんは話してくれた。
そこまでしてまで一緒に行きたい理由を……。
「だって……みんながこうなったのは元々私の所為だし、私が『買い物に行きたい』とか言わなかったらこうならなかったかもしれないんだよ? もし私が捕まらなかったらこうならなかった。私のせいでみんなが傷ついたから、私も何とかしてみんなの役に立たないとって思って……」
「………………………」
あぁ。そう言う事か……。
私は心の中で納得してしまった。
オウヒさんが言った言葉の心意に。オウヒさんが抱いた感情に対して、私は理解してしまった。
オウヒさんも私と同じことを思っていたんだ。
何もできない。無力で、力もないけど、みんな戦っている。
自分も役に立ちたい。
そんな純粋な気持ちが先走った結果が、今のオウヒさんの姿。
何もできなかったからこそ役に立ちたい。
純粋な気持ちの表れを見た私は、少しだけ心にジクリとした痛みを感じる。
本当ならオウヒさんの気持ちを無下にしたくない。
したくないんだけど……。
「なら連れ攫われるんじゃないわよ。寝言は寝てから言えじゃなくて寝ても寝言なんて言うんじゃないわよ――この箱入り女。力くらいつけてから言いなさい」
「「言い過ぎっっ!!」」
うーん。言うと思っていたけど、本当に言うとは思っていなかったよ。面喰っちゃったよ。
オウヒさんの気持ちは確かにわかる。分かるんだけど、結局オウヒさんを今連れて行く理由にならないのも分かる。
正直――シェーラちゃんの意見は概ね間違っていない。言葉は間違いまくりで言い過ぎだと思うけど……。
思うんだけど、結局……、何もできなければそう言う結果になるのかもしれない……。
……やっぱりシェーラちゃんの言い方はひどいね。
キョウヤさんとアキにぃの言う通りひどいかも――
「確かに。シェーラちゃんの言う通り、鬼姫様を連れて行くのは駄目だ」
「!」
と思っていた時、突然見ていたエドさんが唐突に声を上げて、オウヒさんに歩み寄りながら続きの言葉を放つ。
驚いている私達を無視して――だ。
私以上に驚いているアキにぃとキョウヤさんもエドさんのことを見て固まっているし、どうしてそんなことを言うんだろうと思いながらエドさんの言葉に耳を傾ける。
エドさんはオウヒさんに歩み寄りながら言った。
「今回の一件は簡潔に言うと『ボロボ』の崩壊。滅ぼすことを目的にしている。協力しているガザドラと言う人も止めようと関わったせいでこうなってしまった。そこは分かるよ」
「なら」
「ハンナちゃん――さっきの鬼姫様が言っていたよね? ボロボの大臣がいたこと。そして幹部と一緒にいて、ガザドラさんはやられてしまった。そこは聞いているよね?」
「! はい。オウヒさんの早口で聞き取れたくらいなんですけど……」
と言うと、その言葉を聞いたエドさんは少しだけ考える仕草をしてからすぐに私達を見て――さらりと衝撃のことを口にした。
本当にさらりと……、想像すれば出来たかもしれないことを。
「多分……、というか、絶対にだと思うけど、ボロボを滅ぼそうとしているのは大臣で、大臣が新たな国を手に入れるために、王に成ろうとしてこんなことをしているんだと思う」
「驚かないんだね? もしかして、わかっていた?」
エドさんの言葉に対して私はさほど驚くことはしなかった。
ううん。大臣さんの名前が出てきた時、なんでこんなところにいるんだろうとは思っていた。なんでオウヒさんと一緒にいたんだろうと思っていた。
でもエドさんの言葉を聞いた瞬間――納得してしまった。
それだと辻褄が合う。そう思ってしまった。
あの大臣さんならやりかねないという思考が先に出てしまったせいなのかもしれない。ナヴィちゃんがここまで来た理由が王様が大変なことになったからで、国の大臣がこんなところにいる時点でおかしいから。と言う不審点があれば、おのずと大臣が怪しくなる。
そんな中でエドさんの発言だ。
驚きなんてない。
だから私は頷いて――
「というよりも……、こんな廃れた場所に大臣がいることも変だと思いますし、ナヴィちゃんが来た理由も王様が大変なことになったからだから。そんな危険な状態なのに大臣がこんなところにいるなんておかしいですから」
と、心の中で納得したことを口にして言うと、それを聞いたエドさんは小さく溜息を吐いて、小さな声で「やっぱりか……」と零す。
その言葉から察して、やっぱり大臣さんが今回の事件の黒幕なんだと理解するのに時間は使わなかった。
かからないと同時になんとなくだけど、やっぱり地位が高くなるにつれて、王様になりたいのかな? と、昔見たアニメのことを思い出しながら考えていると、私の言葉を聞いてエドさんは続きの言葉を溜息を零した後で言う。
「いや……、そう言った権力を牛耳りたい輩はどの世界にもいるし、無欲な人間と言うか、無欲はないに等しいと思うから、こうなるのは必然かもしれない。必然かもしれないけどここまでするとは、想定していなかったのも事実なんだよな……」
「想定外……、ってこと?」
エドさんの言葉を聞いていたアキにぃが首を傾げそうな声を出して聞くと、エドさんは頷いて――
「この世界はシステム的に、いくつもの王族が幾つもの国を統率して、一つの国をまとめている。現実世界で言ところの連合みたいな感じで。それぞれ一つの王族が一つの国を統治することで大きな国をまとめることになる」
「確かに……。てか異世界って言うくらいだし、当たり前なんじゃね? A国のA王様とC小国のC王様的な感じで、そりゃ広く見れば当たり前だろうが」
エドさんの説明を聞いていた京平さんがうーんっと唸りながら腕を組んで異議のようなことを唱える。
「それのどこが変なんだべ? 変どころか当たり前」
「現実ではそれが当たり前だ。幸いアズールは海を隔てた国とは平和協定を結んで、今も友好関係を築き上げている。『創成王』から聞いた」
「なら――」
「だから、だからこそ今回は想定しなければいけなかったのかもしれない。って、言いたいんだよ」
『?』
エドさんは言う。
だからこそ今回は想定しなければいけなかったのかもしれない。
これが一体どういうことなのか。
想定しなければいけないことって一体何なんだろう……。
そんなことを思いながらエドさんの話を聞こうとすると、突然ヘルナイトさんが小さな声で……。
「そうだ……。思い出した」
と呟いた。
呟きをすぐ効くことができた私はヘルナイトさんがいる方に視線を向け――「どうしたんですか?」と聞くと、ヘルナイトさんは頭を抱えて、頭痛を起こしたかのように少しの間黙ってしまう。
黙って頭を押さえているこの光景。
これは――懐かしい光景。
そう……、これは、記憶を思い出した時の動作。
それを認知して、思い出したんだと喜びが顔に出て、声に出してしまいそうになった時、その声を遮るようにヘルナイトさんが凛とした声でエドさんの名前を呼んでこう言った。
「そうだ。その事態を防ぐために条約を結んでいたんだ。アズール各国の国王達は」
その言葉は、初めて聞くような内容だった。
内容と言うか、そんなこと聞いたこともない内容で、私達現実世界組は驚きの顔をしながヘルナイトさんのことを見る。
見ることしかできなかった。
オウヒさんも知らないような顔をして私達とヘルナイトさんの顔を交互に見ているから、きっと何も知らないんだろう。
置き去りにされかけている私達に歩幅を合わせるように――私達の歩幅に後ろ向きに歩むようにヘルナイトさんは告げる。
この世界のシステムを――




