PLAY127 止めるために②
ストーカー。
それは聞く側からすると良い方に聞こえないかもしれない。
むしろ怖いという恐怖が湧き立つ言葉に聞こえるだろう。
特に知らない間にされていた、知らない間に色んな情報が筒抜けになっていたと気付かされた時――恐怖しかない。
勿論ハンナ達に時代でもそれは例外ではない。どころか社会問題になりつつある問題。
いうなれば危険因子と言ってもおかしくない。
ハンナ達の時代はVRと言うコミュニケーションゲームが主流となっている時代であり、今でいうところのオンラインゲームがよりリアルになったというところを除けばさほど変わらない技術であり、勿論オンラインでも声無しでの会話もあったりなど、用途はさまざまである。
勿論この技術はVRというゲームだけに留まらず、社会の一部になっているのがハンナ達の時代だ。
昨今リモートと言うものが存在するだろう。
それをより実体化し、よりリアルを追求した結果がハンナ達の世界なのだ。
ゴーグルとアカウント、アバターだけあれば会議はおろかいろんな場面で近くで会話ができる。より世界の人たちと会話ができる様な世界になったのがハンナ達の世界だ。
リモート進化版の世界。
それがハンナ達の世界なのだ。
勿論それだけに特化せずとも、身近な人と接して会話したい。オンラインがわからない。アカウントやアバターなどの制作が難しい人はたくさんいる。そんな人達のこともちゃんと考えている。
考えているからこそあまり未来的な世界観ではない。むしろ少しだけ技術が進んだ時代と言ってもいいだろう。
技術の進歩は時代の歩みと言ってもいいかもしれない。
しかしその時代の進歩と同時に問題になっているのがアバター関連の事件と、オンライン関連の未遂事件、そして――ストーカー関連の事件。
他にもいろいろあるのだが、大まかに大きな問題となっているのがこれである。
まず最初はアバター関連の事件。
これはきっと誰もが想像できるようなことかもしれないが、大まかに言うと……、アバターを使い、VR空間に入って会議などを行うことができる時代になったが、技術の進歩は良い事もあれば悪い事にも進化を与えてしまい、アバターやアカウントを狙ってハッキングをする者が増えたのだ。
アカウントやアバターを奪い、その者に成りすまして情報を奪い、奪ったそれを私利私欲に使い、金目的に使ったりする。
そう言ったネットの被害が急増したのだ。
今の時代でもある被害がハンナ達の時代になってより巧妙に、より狡猾に、より凶悪になった。それはアバター関連の強奪、なりすまし、漏洩等々……。いろんな悪事が世に蔓延ったと言っても過言ではない。
アバターが奪われるということは個人情報が奪われてしまうのと同じで、進歩した時代を捨ててしまう人も多くいる。いるのだが、それを易々捨てることができないのも事実なのだ。
ネットが主流となっている時代――それよりもさらに加速してしまったハンナ達の時代にとって、アバターを捨てるということはネットと言う物を捨てるということで、ネットが主流となってしまった時代ではかなりのデメリットを抱えてしまうことになる。
ゆえに被害も拡大してしまい、更なる問題を発生させるきっかけになってしまう。
それが次に説明をするオンライン関連の事件。
これに関しては元々ある事件が大きくなったりすることが多々あるのだが、このオンラインの場を利用する輩が大きな事件を起こしてしまうケースが多くなっているのだ。
そしてこのケースの中に、ストーカー関連の事件があげられる。
これは主にオンラインゲームなど、世界の人と繋がっている人が巻き込まれるケースが多い事例で、最初に説明したアカウントを奪う事件の延長戦と思ってほしい。
オンラインの事件の多くは人間関係による精神的被害が多く、オンラインで出会った人同士で仲良くなり、親密になったところで現実世界で会う――これはよくあるオフ会のようなものなのだが、このオフ会を狙って事件を起こす輩が多いのだ。
性別を偽り、油断させたところで相手を襲うと言った計画的な犯行もあれば、親密になる過程でアカウントを奪い情報を掴み、それを使って脅したりする犯行。
突発的感情的となれば性別を偽り出会ったところで――と言う犯罪が多い。
これは真似してはいけない。良い子でも大人でも何でも、犯罪はしてはいけない。
絶対に。
だがしてしまうのが人間。過ちを犯してしまうのが人間であり、その罪を認めて償わなければいけない。
のだが、その罪に気付いていないというケースもある。
理解できない。
そんな言葉が出てもおかしくない言葉だろうが、事実行う側はそうなのかもしれない。
この時代のストーカー関連の事件はそう言ったケースが多々存在しており、年々増加傾向にある問題なのだ。
世に歯ストーカー規制法と言うものがあるのだが、それに関してもちゃんと改正など色んな対策をしている。しているのだが減らない。
減らない理由に関して言うのであれば……、VRと言う技術が普及したこと、そしてVRを使ったゲームやオンラインゲームの技術の進化が原因かもしれない。
ハンナ達の時代のストーカーと言うものは多種多様の人相があり、アカウント目当てで着け狙う者や、純粋な気持ちで近付こうとする者等々、様々な人がいる。
その中でも特に多いのが――純粋な気持ちを抱いて近付こうとする者だ。
純粋に知りたいと思ったから知ろうとした。
純粋に仲良くなりたいから、親密な関係になりたいからと言う理由で個人の情報を特定しようとする者や、個人で分析をして特定をし、その特定元で監視を続けて情報を得たりなどしていた。
純粋は時に恐ろしい。
それを間違った方向に向けてはいけない。
だが向けたいくらいの純粋な感情を抑えることができなくなった結果――事件を引き起こす。
計画性なんて何のそののような突発性の行動。
これらがどんどん大きくなって社会問題になってしまったのだ。
元々あった事件が更に肥大してしまったと考えてくれて構わない。
時代の流れを感じさせるというの言葉があるが、この関連に関してはあまり変わらない気がする。球に狂気に走る者もいるのだが、それはあまり語らないでおこう。
そのことに関してはハンナ達の時代の評論家や分析者が度々ニュースに出てコメントをしているものの、決め手にはなっていない。
完全なる撲滅は出来ずとも、減少することを目標にしてもできない問題。
なのだが……、ハンナの記憶の中に出てきたストーカーは、その中でも特に奇異な存在であり、ハンナ自身なぜこんな重大なことを忘れていたのかと恐怖に震える事態になってしまっている。
ニュースにも取り上げられないほど細々とした行動。
それに気付いていない母。
気付いてしまった娘。
断片的な映像の数々を見て、ハンナは思わず言葉を発することも忘れてしまうほど絶句してしまい、正直な反応で言うと、なぜ母をストーカーしているのか、まるで理解できなかったのだ。
記憶がないにしても、ハンナはそもそもあまりゲームをしない女子高生だ。
そんな彼女の近くにいる人物はどうして母を狙っているのだろうか。
母はゲームをしていたのか、それともソーシャルネットワーク関連の何かを使って仲良くなり、それを延長戦として近付いて来ているのだろうか。
そもそも母と男はどんな関係なのか……。
ここで人間の暗い一面が見えてしまいそうになる。優しく、大好きな母の裏を見てしまいそうで怖い感情もある。いいやその裏でさえも忘れてしまっているのだからそんなこと言える状態ではない。
だが分かったことはある。
母には秘密がある。
父にももしかしたら秘密がある。
元々ハンナの両親がどうなったのか覚えていない。どころか思い出そうにも思い出せないのが今の現状で、まだ何かがあるとしか思えないようなつっかりもある。
思い出せないのだから仕方がないのだが、それでもなぜ母にストーカーがついているのか全然理解できない。
そんな影、今までの記憶を見ても微塵も感じなかったのだから――
いいや、もしかしたら隠していたのかもしれない。
色んな思考や思惑、想定がハンナの脳を刺激に刺激しまくり、悶々としている気持ちがハンナのことを襲う。
先ほどの嬉しさが嘘のように枯れてしまったことはハンナ自身ショックだった。もっと感動に浸りたかったのだが、見てしまったものが衝撃だったのだ。塗り替えられても仕方がないかもしれない。
切り替えられ、考えに考えていく中ハンナは頭を酷使し、首を捻らせる。
考え、考え、考え――
考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え考え……。
考えていたその時……。
「……! ――!」
「――――――! ――い!」
「――――――――あああああっっ!」
「――――――き!」
「!」
それは聞こえた。
人の声であり、深刻に黒く染まっていく思考を明るくするような声達。
今の今まで、どうして? や、まさかなどの不安な感情がハンナの心を黒くしていったのだが、突然聞こえた声がハンナの耳に入り込んだ瞬間――その黒さが一気に払拭されていく。
黒い煤に呑まれかけていたからだが風によって吹き飛ばされたかのようなクリアな気分。
暗い世界に差し込む一閃の光が彼女のことを照らしていき……そして――
ハンナはそのまま、意識を現実に引き戻した。
色んな問題が発覚した。だが今はそれだけ考えている暇なんてない。
今は目の前のことをしなければいけない。
そう思いながら、ハンナは記憶に刻みながら現実へと戻っていく。
仮想の世界という現実に。
□ □
「おいしっかりしろっ! 生きているか? 死んでいるか?」
「物騒なことをここで言うんじゃありません……。ちゃんと生きているから。頭上見て頭上」
「起きなさいハンナッ! 寝ているなら叩いて起こすわよ?」
「馬鹿やめい暴力っ! んな事してまた気絶したらどうするんだよっ! お前は少しお淑やかを学べ」
「頬を叩いて起こすだけよ」
「それもそれで嫌だ――古いわ起こし方っ!」
「儂は朝一番、顔を洗う前に頬を叩いて目を覚ますぞ?」
「おっさんの意見は聞いてねぇっ! 痛くな」
「ハンナ目を覚ましてお願いいぃぃぃっっ!」
「きゅきゅきゃきゃーっっ! きゅきゃーっ! きゃきゃーっ!」
「おいおいナヴィお前は顔に近付きすぎだぞっ? いくらお前がマスコットの位置にいるからと言って俺はそんなことを許した覚えはないっ。少し離れろお前の毛が邪魔で起きられないかもしれないんだぞっ? 鼻に入ったらどうするんだ!?」
「ぎぎゃっ!? ぎゅぎゅぎゃーっ! むぎゃーっ!」
「おうやんのかこの野郎っ! ドラゴンになったとしてもチビであろうと容赦なんてしねぇかんなっ! いつもいつもハンナの肩に乗りやがってぇぇ!」
「うるせえええっっ! 全員落ち着けやぁ! 特に兄貴とモフモフ喧嘩止めろぉっ! 史上初しょうもない喧嘩を勃発すんなバカヤローッ!!」
なんだろう……。
すごい音がどんどん入っていく。
あ、これは声だ……。
すごいギャーギャー声が耳に入っていく。
聞こえた限り……、最初に放ったのはシロナさんで、エドさんがそれを突っ込んで……、シェーラちゃんの言葉にキョウヤさんは突っ込んだかと思ったら虎次郎さんが割って入って、それにもキョウヤさんが突っ込んで……。
そして大きな声で叫んでいるアキにぃはナヴィちゃんになぜか喧嘩を売っている……。
なんで喧嘩になっているの? どうして?
そんなことを思いながら悶々としているとキョウヤさんが突っ込んで……、あぁ――キョウヤさん滅茶苦茶大変だ。
大変過ぎて申し訳なくなってきた……。
あれ? そう言えばヘルナイトさんと善さんの声が聞こえない。オウヒさんの声も聞こえない……。京平さんの声も聞こえない……。
黙っているのかな?
あれ? そう言えば『六芒星』は?
そう言えば私……ヘルナイトさんが来てくれたからほっとして……。
「あ」
『!!!』
と、私は気絶する前のことを思い出した瞬間、勢いよく目を開けて声を出した。
間の抜けた声と言われてもおかしくないその一文字は言い争っていたみんなの耳にも届いたらしく、横になっている私の元に駆け寄りながら私の名前を呼んで心配してくれた。
わっと集まって、みんなが私の名前を呼んで『大丈夫か?』とか、色んな言葉を投げかけてくれたけど、寝起きみたいに頭の回転が疎かになってしまった私は思考が追い付かず、みんなの言葉を聞きながら「あ」とか、「えっと」としか言えなかった。
言えなかったけど、みんな無事みたい……。
よかった……。
安堵と共に溜息が出て、その溜息交じりに笑みを浮かべてみんなのことを見ていると……。
「よかったっ! 目ぇ覚ましたんだねっ? 本当によかった! 死んだかと思ったぁ!」
「お」
突然最前列にいたアキにぃとシェーラちゃんの間に割り込んできたのはオウヒさん。
オウヒさんは私の顔を見るや否や――大声で安堵の言葉を言い放ち、大粒と言ってもおかしくないほどの涙を流しながらわんわん私のことを見て泣いていた。
子供のように無くその姿を見て、大丈夫な姿を見て再度安心した私は、小さな声でオウヒさんに向けて言った。
「オウヒさん……、無事で何よりです」
精いっぱいの言葉をかけた私だけど、その言葉を聞いてオウヒさんはすぐに顔を上げて泣き止んだかと思ったら、突然私に向けて――
「私は無事だったけどハンナは大けがだったんだよっ!? なんで自分のことを心配しないのっ!?」
と、何故か泣きながら説教をしだした。
泣いた顔で説教をしているオウヒさんのことを見て、一瞬私は目を点にし、首を傾げそうになりながらも精いっぱい頭をフル回転させて考える。
――え? どういうこと? 大けがって……、手を怪我しただけ……なのに?
「そんな大袈裟ですよ……。手の怪我とかみんなだってしているし」
と言いかけた時――突然私の頭上から声がしてきた。
その声は今まで聞いたことがあって、安心できる凛とした音色の持ち主。
「大袈裟なんかじゃない」
ヘルナイトさんははっきりとした言葉でそう言ってきた。
私の頭上で……、ん? 頭上?
ふとした違和感に気付いた私は辺りを目だけで見渡し、見渡しながらも体に感じる安心する感覚と、ズ勝から聞こえた声。更に言うと座った状態でいる私の状況を感覚で認識しながらそっと上を見上げる。
見上げて――ようやく理解した。
私は多分今の今までヘルナイトさんの腕の中で気を失っていたみたいだ。
ご丁寧に二の腕辺りに手を添えて、ちゃんと支えている。やましい感情なんて一切ない安定感ある抱き寄せに驚きはしなかった。
いつも抱きかかえられる時と同じ安心感で、慣れてしまっているのか気付かなった……。
というか私、慣れすぎなのでは?
ふとした不安と言うか、私もしかして……? と言う思考が頭の中を過ったけど、ヘルナイトさんの抱く力が僅かだけど強くなり、私のことを少しだけヘルナイトさんの方に寄せられたことで一瞬で考えが吹き飛んでしまった。
なんだろう……、なんだかこうしてもらうと安心する。本当に安心するのはなんでだろう。
理由は、わからないけど……。
そう思った時、ヘルナイトさんは私のことを見て続きとなる言葉を投げかける。
さっきの『大袈裟なんかじゃない』の続きとなる言葉を――
「あのロゼロと言う魔女が放った技は相当の威力を持っていた。エドもその攻撃を受けて半分体力がそがれてしまったほどだ」
「え…………っ!? 半、分……っ?」
ヘルナイトさんの言葉を聞いて驚愕した私はすぐにエドさんに視線を向ける。
エドさんは肩を竦めて『大丈夫だよ』と言っていたけれど、よく見ると脇腹の所の衣服が破れている。
破れている箇所にこびりついている赤いそれが攻撃の強さ、そして敗れた面積から威力と傷の深さを知らせてくれる。
ううん。物語っていると言った方がいいのかもしれないけど、その傷を見た私は驚きながらエドさんに「ほ、ほんとう……っ?」と聞くと、エドさんは乾いた笑みを浮かべながら困ったように「いやー」と言い、その後のことを言おうとしていたけれど、少し間が開いてしまった。
無言の時間。
そう言えばいいのかもしれない。でも無言の時間は経ったの数秒。
その数秒の間エドさんは乾いた笑顔の状態で固まり、その後少しだけ視線を逸らすように目線を斜め下に向け、笑みを壊してしまう。
さっきまでの乾いた笑みが一気に気まずいその顔になる。
気まずさが顔に出た瞬間エドさんが無理していたことが明るみになり、それと同時に大袈裟ではないという言葉が本当になった瞬間を私は感じた。
思わず『え』と言う声が出てしまうほどの驚き。
それを察したのか、エドさんは傷ができていたであろう脇腹を指さしながら、私に説明を始めた。
「実は……」と、開口気まずさが増幅するような、申し訳なさが浮き彫りになった音色を出しながらエドさんは説明を始める。
「あのロゼロって言う魔女が放った技……、あれ相当な威力を持っている技だったみたいで、おれのHPはカンストして10★の15,695なんだけど……、攻撃を受けた瞬間――残りが8,695になったんだ」
「残りが……、八千くらい? と言うことは」
「そう。一撃の攻撃七千のダメージってことになる。多分だけど、体力があまりないハンナちゃんはきっと残り三桁だったと思うし、もしかしたら……」
と言って、エドさんはアキにぃとシェーラちゃんのことをチラ見するように視線を移す。
視線を向けられたアキにぃとシェーラちゃんは肩を揺らして驚きの顔を浮かべて固まってしまっている。
アキにぃに至ってはナヴィちゃんと喧嘩していたのに、喧嘩した状態で固まったかと思えば顔面蒼白の状態で引き攣っている。
よく漫画で見る様な血の気がないを表した顔に、ナヴィちゃんは「っへ」と、何故か見下した笑みを浮かべていたけど……、なんでだろう……?
エドさんの言葉を聞いたシェーラちゃんは腕を組んで、唸るような声を出した後、私とエドさんのことを見て『確かに』と呟きながら――
「私は何とか避けていたからよかったけど、もしかしたら……」
「おいやめろそんな最悪予想図っ。そんな未来の予想抗ってやるから大丈夫だよっ! あの時避けていたじゃんっ! 何とかなったから!」
「お前はドッチボールの要領で避けていただけだろ? 滅茶苦茶必死になって。戦う以前に何もできてなかったじゃねぇか」
「余裕の『よ』の字もねー避け方だったな」
青ざめているアキにぃのことを見てだんだんと声量を小さくしていくシェーラちゃん。
小さくした後の言葉が一体どんなものなのかはわからな……いわけではないけど、それでもアキにぃは必死になって『そんなことないっ!』異議を申したてるんだけど、キョウヤさんとシロナさん。そんな二人に応戦した善さんのこともあって、反論することもできなくなってしまった。
なんか……、ナヴィちゃんに『っへ』と言われながら落ち込んでいるアキにぃがかわいそうと思ったのは……言うまでもない。
けどそのくらいやばいという事だけはちゃんと理解できた。
私が言った『大袈裟』こそが場違いって言う事にも気付かされたし、それに……。
私が気絶した後、みんな必死だったんだ。
ボロボロになっているみんなを見て、この場所にいない敵を思い浮かべながら私は思った。
私達は、負けたんだ。と。
たった一つの攻撃を避けるだけで終わってしまい、最悪逃げられてしまった。
ヘルナイトさんがいなかったら最悪全滅していたかもしれない状況。
ヘルナイトさんが現れたから変わった状況。
私達だけで、勝つことができなかった現実はあまりにも重くて、あまりにも甘く見ていたことを露見した瞬間でもあった。
これは、沈黙。
重くて、苦しくはないけど、それでも居心地が悪い空気が私達にのしかかってくる。
今までかったことしかない私達からすると……、これは痛恨の負け。
言い訳なしの逃げ勝ちを許してしまった瞬間。
相手が強すぎた結果――逃げ勝ちを認めてしまった瞬間を、痛感してしまった。
「――逃してしまったことは、きっと一視点からすれば負けに見える」
でも――私達の空気を察したのか、ヘルナイトさんは突然そう言って、私達の視線を上に向けるように言葉を零していく。
明るくはない。でも暗くない言葉を――
「だが視点を変えれば、相手も苦渋の決断だった。と私は思える」
「く、苦渋?」
ヘルナイトさんの言葉に私はオウム返しをする。
みんなもその言葉を聞いて首を傾げていたけど、ヘルナイトさんは続けた。
たった一人だけ笑みを浮かべている人のことを無視して、ヘルナイトさんは私達に告げた。
「少しだけ、話しを整理したい」
私と京平殿が足止めをしていた間のことを――話してくれ。覚えている限りでいい。
その言葉ははっきりとしていて、聞き取りやすい凛とした声。
いつものヘルナイトさんの声。
いつもの――安心を与える声。
安心して耳を傾けていた私も、さっきまでの俯いていた感情は少しだけ右肩上がりになるのを感じたし、みんなの気持ちにも明るさが出始めていた。
黒い雲が白い雲になっていくような――そんなもしゃもしゃ。
そのもしゃもしゃは私達の暗い気持ちを明るくしてくれる。
光みたいなものなのかな……? そう思いながら私達はヘルナイトさんのことを見て話しを始める。
あの逃げ勝ちを許してしまった負けをもう二度としたくない。
それを胸に――私達は情報を共有することにする。
もちろん気絶した後のことも聞こうと思いながら……。




