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PLAY126 怨恨の魔女④

 それは、まさに槍の雨。


 一瞬でも黒い雨かなと思ってしまいそうになったけどそうはならず、何度も手も結局槍と言う例えしか出ない始末。


 そう、本当に黒くて細い――本当に槍のようなそれは私に向かって襲い掛かってきたのだ。


 この攻撃はロゼロが放ったもので、私はそれを防ごうと『強固盾』を発動させようとした。させようとした時にかざした手を負傷してしまい、痛みがひどく悶絶した時はまだよかった。


 痛いという感情、強烈な痛覚に関してはアムスノームの時以来で、カイルに殴られた時以来かもしれない。リョクシュとの戦闘の時は苦しさの方が勝っていたから、痛みに関しては上位かも……。


 そんなことを考えているほどこの状況は穏やかではないし、余裕なんて一切ない。


 この思考に関しても後々『よく考えたら……』的な、痛みを和らげる方法に近い。


 和らげる方法を考えてしまう。そう――そのくらい痛かった。


 初めて掌に何かが貫通したのだから、ほかにも手に怪我をしたのだ。殴られた時は一瞬で、()()()()()()()()()()()()()()けど、今回ははっきりと覚えている。


 はっきりと感じてしまった。


 の方がいいかもしれない。


 あの激痛を感じた瞬間、言いようのない声が出そうになった。『痛い』って叫びそうにもなったし思わず暴れそうにもなった。


 大けがをした時、人は叫ぶ。


 それは恐怖を表したものかもしれないけど、嫌味を和らげるための本能なのかもしれない。私は後者で、痛みを和らげるために叫びそうになったけど、それをぐっとこらえて、ナヴィちゃんの背に転がりながら傷ついてしまった手をもう片方の手で覆って止血をする。


 この時――『回復スキル』を使えばよかったかもしれないのに、私はその思考もすっぽ抜けてしまい。手で覆って止血をするという現実の止血の仕方をしてしまった。


 もしここで回復しておけば……、『小治癒(キュアラ)』をしていればこうはならなかったかもしれない。


 もし、もし……。


 ……まるで後悔していることを延々と思いつめる。後悔しかない過去を延々と考え続ける様な言葉。


 未来を変えることはできない。変えることができるのは今を生きる私達しかいないのに、ついさっき起きたことを今の私達が帰るなんてことはできない。


 長く話してしまったけど、そんな後悔を考えながら、今私は黒い槍の応酬を視界に収めている。


 横になって、転がるようにナヴィちゃんの背の中にいる私は、完全なる無防備。


 かざそうにも手がふさがってしまっている (片手は穴が開いて痛くて、かざそうにもできない。もう片方の手は傷ついてしまった手を抑えるのに手いっぱいなのでできないという負の循環)し、アキにぃ達のことも心配で、色んなことを考えすぎたせいで頭の中がパンクしている。


 情報量過多と言った方がいいのかもしれない。


 痛みも相まって全然脳が処理できていない。脳伝達もうまくいっていない。


 だから私はそれを見て固まってしまった。痛みを抱えながら私はそれを見て、固まったままになってしまう。


 まさにあまりの光景に体が動かなくなってしまったそれである。


 状況はスローモーションのように遅く見えるけど、きっと普通に見たら勢いがある降り注ぎなのだろう。


 あぁ、これが死ぬ瞬間の視界なのかな……?


 そんなことを私は思ってしまった。


 死ぬ。


 そんなこと私からするとかなり現実離れというか、現実世界で暮らしていても多分私はあまり関わらないだろう。事故を起こしたこともない。事件も起こしたことがない。しかも臨床体験もしたことがないし命に係わる様な事に関わったことがない私にとって、初めて感じるスローモーション。


 死ぬ瞬間って、こんなに長く感じるんだ。


 こんなに長かったら、刺さった時相当痛いだろうな……。


 なんとも間の抜けたことを考えてしまいそうになる。


 いや、もう考えてしまっている。


 あまりの光景に脳が思考を停止させて、あろうことか変なことを考えてしまっているのかも……。私は脳に関する知識はないから強くは言えない。


 言えないけど、これだけは強く言える。


 ああ……、まずい。


 そう思った時、ナヴィちゃんも気付いたのか慌ててて私の目の前を――私の視界をナヴィちゃんの頭と尻尾が横切って、そのまま重ねるように私のことを隠した。


 器用にというか……、首は背後を振り向きつつも少し長い首を使って顔を私に近付け、その状態のまま今度はフワフワの尻尾を上に掲げたかと思うと、そのまま私の頭上を覆い隠すように少しだけ下げる。


 尻尾を使って私を隠し、顔を使って私のことを守ろうとする。


『ぐるる』と唸っているその声はまさに威嚇そのもので、さっきの怒りが溢れ出ていた叫びとは違うけど、まだ怒りは残っている。


 残っているけど、怒りに任せている暇ではないかのように、周りを見ながら私を守ろうとしてくれたナヴィちゃん。


 どんどん降り注ごうとしている光景はまさに遅くなってしまった世界。


 スローモーションのような世界になっている。


 そんな世界の中で降り注いでいる黒いあれは恐怖そのもので、遅くなってもそれは収まらない。どころか大きくなるばかり。


 しかもそれが私だけではなく、ナヴィちゃんやみんなに危害を加えている。現在進行形で、且つ更に激しくなる。


 それだけは駄目。


 だめだと思ったら、行動するしかない。


 行動して、何とかしないと。


 そう頭の中で思った瞬間、痛みはまだ引いていない中――私は手を伸ばそうとした。


 ドロドロと流れる赤いそれが服を汚したとしても、穴が開いているとしても、痛みでもう頭の中が滅茶苦茶になっているとしても、痛くて痛くて腕が出せないなんていう我儘なんて言っていられない。


「っ!」


 何とか出さないと、何とかして、あの攻撃を防がないと……っ!


 弱音を吐いている暇はない。

 

 今は……っ! これを……!


 そう思った時――突然世界が変わった。


 黒い雨のようなそれが一瞬で雪のように細かくなり、私の視界の中央には見覚えのある人が見えて……。


「?」


 と思った時、私の視界が一気に揺れ動いた。


 ぐらりと揺れて、酔ったかのように視界と頭がぐらつく。


 痛みの所為なのか、それとも緊張のせいなのかわからない。でも、なんだろう……。ぼーっとして、かんがえがまとまらない……。


 あぁ……、そっか。


 わたしたぶん……、あまり、ち、だしていないから……。


 たり、なか……た……。



 ◆     ◆



 一瞬の出来事。


 その言葉が正しいかのように、ロゼロが放った魔法――『闇怨(アンク・)石火(バニッシャー)』は粉々になってしまった。


 いいや、粉々に切り刻まれた。


 の方が正しい言い方だ。


 無数の黒い雨のように降り注ぐそれはまさに槍の雨のように見えてしまう。


 しかもその攻撃力は高く、エド自身抉れてしまっただけで七千もの体力が減ってしまったほどだ。これはアキの体力が大幅に減ってしまうのと同じで、二発当たっただけで死んでしまう威力。


 体力が少ないシェーラであれば即死になるかならないかの境目だ。


 だがそれを必死に避けていたアキも、軽々と避けていたシェーラもさほどの致命傷ではなかったのが幸いだった。


 が――問題はハンナだ。


 ハンナはMPは異常なカンストをしている。


 しかし彼女自身致命的な弱点がある。


 簡単な話だ。




 ハンナは、体力がない。


 持久力の体力ではなく、HPがないのだ。




 ないと言ってもあれから変わっていないわけではない。彼女のレベルは王都を出発してから少しだがレベルが上がっている。


 あれから日にちが経っているのだ。変わるのは当たり前。だが伸びがあまりない事も事実であり、ハンナはその伸びない盲点を突かれて、気絶してしまったのだ。


 気絶の原因は体力がない瀕死に近い状態と出血多量による貧血。そして緊張が一瞬緩んだことによるもの。


 ロゼロの攻撃を受け、手に穴、そして爪がはがれてしまい指にも怪我を負ったのだ。無理もない話だ。


 他者からすれば軽いけがかもしれないが、あまり怪我をしたことがないハンナからすれば大きなけがであり、体力がかなり削られたことも相まって危機的状況であったことは――言うまでもない。


 王都を出発した時のHPのモルグは六で、数値にすると六千五百三十九。そして現在の数値は一上がって七の、七千九十九。


 つまり攻撃を受けてしまったことにより彼女の体力はあと九十九しかないということになるのだ。


 そんな状況の中でもハンナは抗おうとして、突然の危機脱出ととある人物の登場によって気絶してしまった。


 長くなってしまったが、これが事実であり、ここからはハンナが気絶してしまった後の話をする。


 ハンナが気絶した後、何が起こったのかを……。



 ◆     ◆



 ふっ……。と、糸が切れてしまったかのように目を閉じ、そのままナヴィの背中に向かって倒れてしまったハンナ。


 ぽふんっ。と柔らかいものに着地するように倒れる音。その感触を感じ、倒れた瞬間を見たナヴィは驚きながらハンナのことを見て心配と驚きの音色を上げる。


 唸るその声はハンナに届くことはない。

 

 痛みと出血多量による貧血。更には安心したことによる緊張の糸が切れてしまったことにより、彼女は気絶してしまったのだ。


 安心を与えた人物は彼女に向けて放たれた黒いそれを細かく切り刻んだ存在。


 そして――()()()()()()()()()()()()()()()()存在でもあった。


 一瞬。


 アキやキョウヤ、シェーラに傷を負った善と、善を守っていた虎次郎とシロナ。負傷していたエドに桜姫にも放たれていた攻撃を――一瞬の内に細切れにし、武器としての死を与えた存在はそのままナヴィの背に降り立つ。


 驚きの顔をしている『六芒星』の幹部と側近を無視し、攻撃が切り刻まれたことに驚いているアキ達を無視して、その存在は切り刻んだ体制から納刀する体制になりながら降り立ったのだ。


 重みなどない軽い着地をしナヴィに負担を掛けないように降り立つと、そのまま踵を返し、倒れてしまったハンナの傍に向かって歩みを進める。


 進めていくその足は少しだけ早足を思わせる歩幅で、大きく歩み、足の動きも少しだけ早めながら歩み、傍まで駆け寄るとその場で立ち膝をして屈む。


 流れる様な動作の中、屈んだ瞬間だけは静寂は辺りを包み込む。


 今までが一瞬であったことも相まって、この時間だけはゆったりとした空間になったように感じとられる。


 その最中、その存在は穴が開いてしまったハンナの手に指先を添えるように触れ、仄かな湿り気と生きているという証でもある温もり、そして今も流れ出ている感触を感じながら存在は沈黙を貫く。


 言いたい気持ち。

 

 感情を出したい気持ちを押さえながら……。


 その光景を遠巻きで、且つ部下達の手によって担がれていた『六芒星』幹部――ラージェンラは苦虫を噛みしめたような顔をしつつ、舌打ちを零しながら言葉を放つ。


 低く、怨恨を込めたその音色で彼女は言ったのだ。


「あの男……、ロゼロの攻撃を切り刻んだ……! あの幾万と言えるほどの攻撃を止めるなんて、ザッド以来の光景だわ……」


 ラージェンラは善の詠唱の所為で両腕が使えなくなってしまったが、起死回生と言わんばかりに両腕を己の血で固め、歪で不釣り合いな形にして強制的に動かし拮抗を試みようとした。


 ここで勝たなければならない。


 勝たないといけない意思を持って戦ったが、それもロゼロの攻撃によって中断になってしまい、攻撃が続く間は両手を固めていた血を使って己を守っていたのだ。


 さながら亀のように丸まって……。


 亀のように丸まっていたので彼女にロゼロの攻撃が当たることはなく、自分は身を守り、あとの者達はロゼロの攻撃で全滅。桜姫も死んでしまえばあとは角を回収して次の作戦に移行すればいい。


 そう思っていた時にこの事態だ。


 この場にディドルイレス大臣がいたら……、発狂するわね……。


 そう思いながらディドルイレスがいるであろう地下があった場所を覆っている血の幕の隙間から覗く。


 因みに――長い事ディドルイレスはどこにいるのだろうと思った人も多いかもしれないが、ディドルイレスは今までずっと地下で息を潜めていたのだ。


 ずっと、ほとぼりが冷めるまでじっと……、終わるまで彼は隠れていたのだ。


 理由は簡単。普通に死にたくないから。


 死んでしまったら野望なんて叶わないどころか、これからしようとしていることができなくなってしまうのは彼自身嫌だったこと。


 そして純粋にまだ生きたいことが理由に挙げられる。


 戦えないものが死ぬよりも、戦えるものが死ぬならばいい。戦える者同士が死んだとしても、自分にはあまり支障はない。もしこの場でみんないなくなってしまったらまた新たに雇えばいい。


 要は――自分が死ななければいいという考えの元、ディドルイレスは地下でじっと息を潜めていた。と言う事。


 なんともゲスらしいゲスのオンパレードの数々。


 ラージェンラ自身これを聞いた時は苛立ってしまいそうになった。が、『六芒星』からすれば革命のための資金を報酬としてもらっているので、ディドルイレスを見捨てることなどできない。


 できないからこそ比較的安全な地下に見を潜めて置くことを承諾したのだ。


 さて――ディドルイレスの現状を知ったところで現状に話を戻そう。


 ロゼロの攻撃を止めた存在を見て、ラージェンラは小さく溜息を吐き、血の幕の隙間から覗きながら彼女は小さく呟く。


 厄介だ。


 あの時、アルテットミアであった時から薄々感じていた嫌な予感が当たりそうな、そんな不安を抱きながら彼女は言う。


「あの子を助けるために現れたのね。そんなにあの子が持っている詠唱が大事ってことか、それとも……。まぁ、考えている暇なんてないわ。これはまずいわ。よりによって――あの最強が来るとは……」


『12鬼士』――ヘルナイト。


 彼女は言う。


 ハンナのことを――ハンナを含めた味方全員を救った存在、ヘルナイトの名を零すが、その声が届くことはない。


 いいや、むしろ聞いていない。


 なにせヘルナイトは目の前のことで頭がいっぱいなのだから。


 目の前で気絶している彼女の手を見て、ところどころ赤くなってしまった箇所を見てヘルナイトは何を思っているのか。


 アキやシェーラ、キョウヤ達の声など聞く耳持たずの状態で、彼は一体何を思っていたのか……。


 思っていることは一択。


 たった一択しかない状況で彼は彼女のことを見つめ、音もなく彼は手を伸ばし――ハンナの傷ついた手に触れる。


 まだ暖かい。だがその分出血のせいもあるのか熱く感じてしまう。


 一種の感覚の狂いなのかもしれない。


 だがそう感じてしまうのは先入観の所為なのかもしれないが、現実で冷たく感じなくてよかったと、この時ばかりはヘルナイトも安堵のそれを零しそうになった。


 最強の存在がたった一人の女に対してこんな光景はまさに体たらくかもしれない。


 むしろ最強の存在であれば逆境など些細な事だろうが、残念ながらヘルナイトも魔王族であり、言葉を変えるならば人だ。


 人だからこそ感情もあれば躊躇いもある。


 間違った選択もする。


 その時正しいと思っていた選択も、間違っていたと後悔することもある。


 後悔し、あの時ああすればよかったと思ったり、もっと早く来ればよかったと後悔することだってある。安堵だってする。


 チートと言えど感情ある者は間違いもする。後悔する。


 何もかもがうまくいくことなどない。


 それを思い知ったからこそ、その感情と同時に生きているという希望があったからこそ、ヘルナイトは安堵したのだ。


 詠唱などではなく、己の感情のままに――そう思ったのだ。


 しかしそれをずっとしている暇などない。


 ヘルナイトは一時期の安堵を体感した後、すぐに己の鎧につけられているボロボロのマントの端をビリッと破き始める。


 元々ボロボロのマントで長さなども統一されていないところもあったが、何とか統一できるように少しだけ長くなっているところを破き、それをハンナの穴が開いてしまった手に巻き付ける。


 手慣れている巻き方のお陰もあって、ハンナの手の出血も少し治まるが、これも一時しのぎのもの。


 すぐに回復スキルを使わないと塞がらない。


 唯一回復スキルを持っているハンナはこの状態。


 ならば……。


 思い出し、すぐに行動しようと思ったヘルナイトは、すっとハンナの項と腰に差し入れると、そのまま彼女を優しく、なるべく揺らさないように横抱きにする。


 大剣を持つヘルナイトは彼女を担ぐ時は片手であったが、今回はしっかりと両手で担ぎ、その場で立ち上がると、今度はナヴィのことを見上げて彼は言った。


 いつも通りの――凛としている音色で。


「ナヴィ――ハンナのことを守ってくれてありがとう。助かった」

「ぐぅ……、ぐるる」


 ヘルナイトは言う。


 ナヴィに向けて、感謝の言葉を。


 だが当の本人ナヴィはヘルナイトの言葉を聞いて素直に嬉しいという感情を浮かべることはなく、どころか腑に落ちないような……、自分は何もできなかったと言わんばかりの顔を向けるが、ヘルナイトはそんなことないと言わんばかりにナヴィの顎の付近をひと撫でする。

 

 ハンナのことを横抱きにしている場所――肩に添えていたその手をナヴィを撫でるそれに使い、ナヴィのことを見ながら続けてヘルナイトは言った。

 

 責めていないその音色で、怒っていないその面持ちで彼は普段通りに言ったのだ。


「後悔することは山ほどあるだろう。だが今はやるべきことをしないといけない。まずはそこに集中してくれ。怒ることも泣くことも――その後だ」

「ぐる……」

「まずは小さくなるんだ。後は私が守る」


 よくやった。


 そう言ってヘルナイトはナヴィの顎の所をゆるりと撫でる。


 撫でられ、『よくやった』と褒められたナヴィは唸りながら不服そうな顔をしつつ、褒められた嬉しさ僅かと守れなかった悔しさが合わさった顔を竜のそれで表している。


 歪んでいるその顔を見ていたヘルナイトは内心――と言っても、ナヴィの心境を考えると、この言葉は気休めに過ぎないな。と思いつつ、ヘルナイトは視界に端に入ったとあるものを見た後、ナヴィの名前を再度呼び、ナヴィの顔を見ながら頷く。


 それは何かの合図のように促しのそれを掛けるヘルナイトに、ナヴィは『ぐるぅ』と唸った後、竜の目をぎゅっと瞑ると――肩に力を入れるように翼をぎゅっと縮こませる。


 力んでいることが一目瞭然のようなその姿を見つつ、ヘルナイトは小さな声で「……あとは」と言い、とある方向を一瞥した後ヘルナイトは言った。


 凛としている。だがその音色に含まれるものが、視線の先にいる者達に緊張を走らせる。


 視線の先にいる張本人と側近たち、そして――ハンナと同じ冒険者の青年に向けて、ヘルナイトは告げる。


 張本人ロゼロを抱えているフルフィド。


 フルフィドの背後で上ずる声を出しそうになってしまったラランフィーナ。


 そしてヘルナイトのことをじっと見つめている青年アシバ。


 三人と気絶している一人を見て、ヘルナイトはそっと口を開ける。


 怒りを抑えに抑えたが、抑えきれなかった低い音色で――彼は言う。



「私がやる」



 瞬間――迸る空間の変化。空気の流れ。

 

 放たれた瞬間空気が張り詰める。


 びりりっと電流が走る様な空気はまさに強張らせるには十分すぎる程十分で、味方にまでも被害を及ぼすほどの気迫。


 殺気のように感じられるそれを当てられたフルフィド達は背中に溢れ出る寒気と汗を出してしまう。それはラージェンラも同じで、彼女自身当てられたせいで魔法の操作が拙くなっていくのを感じた。


 魔力操作は神力によって変化する。


 変化を及ぼしたのはヘルナイトの気迫で、当てられたことによって恐怖を植え付けたのだ。

 

 そう――嫌な予感を想像させるように……。


 いいや……、そんな言葉が優しすぎるほどの殺気に当てられたのだ。恐れない方がおかしいかもしれない。


 殺されてしまいそうな気迫に気圧されながら彼等は見つめる。


 まさに自分達を始末しようとしている鬼士を見つめて……。

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