PLAY126 怨恨の魔女③
「――『闇怨石火』」
ロゼロのその言葉が放たれ時、私は思い出していた。
ロゼロの言葉から放たれた『アシバ』という名前を聞いて、思わず思い出してしまった。の方がいいと思う。というかそっちが正解。
今まで思い出さなかったのに、今まで思い出そうともしなかった。あの時描いていた光景で全部と思っていたのに、なぜこんな時に限って思い出すんだろう。
しかも大事な時に、命が危ないって時に思い出すこれは、まさに妨害。
妨害なのにその妨害を受け入れてしまっている私も私だ。
振り切ればよかった。でもできなかった。
できなかったから、それを見てしまうことになる。
ロゼロの言葉が言い終わると同時に、足元に落ちていた黒い泥のようなものが突然どろりとスライムのように動いて、動いたかと思った瞬間――それが私の視界の端を横切る。
まるで弾丸が私の頬を掠める様な……。
ううん。まるで弾丸とかじゃなくて、本当に弾丸のように私の頬を掠めてきたのだ。
「痛っ!」
掠めて、頬に小さな痛みが走る。仄かに液体が流れる様なそれも感じる。
本当に何かが襲い掛かってきた。そう思った時には――
もう視界が、黒い楕円形の線でいっぱいだった。
黒い弾丸が高速移動しているかのような、目の前に死が迫っていることを表したかのような光景。漫画でよく見る集中線のようにそれが襲い掛かり、それは私の視界の前――正真正銘目の前にそれが迫っていた。
「――っ!? っ!」
黒い何かが私に向かって攻撃してきて、あろうことか、それが数えきれないほど襲い掛かってきている光景は一瞬で行動する反応を遅らせる。
遅らせて、鈍らせて、止める。
止めたことでこれは駄目だ。これは受けては駄目だと遅まきながら認識した私はすぐに右手をかざして、『盾』の準備を行おうとした。
した……のだけど……。
手を出した瞬間私の中指の右側と右手薬指の爪。そして親指と人差し指の薄い皮の所……、親指の付け根の所を抉り、あろうことか右手の小指の付け根にも黒い弾丸が突き刺さり、貫通した。
掠める音。爪をはがすような音。また掠める音に、最後に抉る音。
四つの激痛を奏でる音と共に流れる赤い鮮血と、とてつもない激痛が私を襲い――
「い……っ、た……っ!」
思わず右手を戻して訴えてしまい、右手を引っこめてしまった。
どくどくと流れていく赤い鮮血と共に熱も流れているような感覚。しかも初めて感じる感覚が二つもあることに、私は思わず感情を露にし、自分を優先してしまったのだ。
頭を殴られたことはある。
突き飛ばされたこともある。
何度も傷ついて、体の痛みも感じた。
感じたけど、この痛みに関しては例外だった。例外と言うか初めてのことで、爪がはがれるなんて言う事態体験したことがない。
掌の貫通もそうだし、爪がはがれるとこんなに痛いこと自体体験すること自体無いだろう。
だから痛みで手を引っこめてしまった。
引っ込めて蹲りそうになった時、アキにぃの声が聞こえたけどその声でさえも聴く余裕がなく、ナヴィちゃんが動いたことによって、私の視界も揺らいで、そのままナヴィちゃんの背にダイブするように転がってしまった。
その時間は――多分数秒。
十秒も経っていないたったの数秒。
その状況化の中、私はナヴィちゃんの背中で右手を左手で覆うことしかできず、何度も何度も襲い掛かる黒い弾丸のようなものが風を切り、何かを抉る音を耳で聞くことしかできなかった。
◆ ◆
ハンナの言う通り――時間からしてたったの数秒の間、それは起きていた。
遠くにいたアキ達もそれに気付き、襲いかかる黒いそれから逃げるようにアキは慌てて避け、シェーラとキョウヤは己のフィジカルを駆使して避け、虎次郎は負傷している善の元に駆け寄って『盾』スキルを発動し、シロナに至っては拳で応えようと構えていたところをシェーラによって妨害され、避けることを余儀なくされた。
『虐殺愛好処刑人』に至っては驚きはしたがハンナが放った『強固盾』が無くなったことにより、桜姫の危険が大幅に上がってしまい、無力で狙われてしまっている桜姫を守るために骨の手で桜姫のことを覆って守りの体制に入った。
内心――面倒くせぇなぁ! と思いながらだが……。
それぞれがロゼロの放った攻撃に対して想定外と言わんばかりに行動を変更し、それぞれが己の命を優先にして攻撃を躱すなどの己の命優先行動を起こす。
善の影でもある『虐殺愛好処刑人』もそうしているのだ。それを受けてしまったらだめだと危険信号が、本能がそれを警笛として鳴らしているのだ。
命の危機。
死と言う名の絶命体験。
この世界に来てしまえば誰もが体験することで、それはエドも同じことだった。
体験し、驚きを抱きながら彼はそれを捌いて己を守っていた。
拘束されていた状態ではあったものの、エドが持っていた聖槍を突き刺したことでその力も弱まり、何とか脱したところまではよかった。
エド自身、こんな攻撃は想定外だったのだ。
一言で言うならば――一掃。
よくアクション映画で見る様な槍の雨であったり、矢の雨を想像してしまいそうな黒い何かの応酬。
それが自分の身の目の前で起きている。
しかもそれは弾丸のように固く、素早い。且つ簡単に避けることができない様な狭さと、抉りに長けている回転。
弾丸と雨が合わさったかのような攻撃だ。
「っ! まず……いなぁ!」
それをなんとか槍を駆使して躱していたエドでさえも、苦戦の汗と声を零し、避けれるかと言う被害妄想が一瞬出てしまうほど、この攻撃はまずいものだった。
まずいと同時に誤算をしてしまったと後悔した。
エドが考えていた想定と現実があまりにも違い過ぎた。あまりにも想定以上の威力と範囲、そして速度であり、その想定外もあってエドの思考回路は高速処理で壊れてしまいそうになっていた。
エドの予想はこうだ。
ロゼロの放った魔法――『闇怨石火』が放たれるまで時間がかかるだろう。なにせ魔法だ。ラグと言う生成時間があることは、この時のエドは知っている。
京平にしつこく教育されたのだから忘れるわけがない。
だから魔法を使うということは少しのラグがあり、隙と言う名の攻撃の瞬間があると踏んでいたエド。この隙を、ラグを狙って攻撃をすればいい。そう踏んでいたエド。
幸いなのか、拘束もナヴィのような大きなドラゴンを完全に縛れるほどの力はなく、わずかだが伸縮性を持っている。
ゴムのようにそれは伸びては元に戻ろうと縮むと言った性質を持っている。
勿論ゴムにも強度と言うものがあるから、この力もきっと強度に限界がある。且つ黒いところから見るに闇属性の物と言うことを推測したエドは考えたのだ。
自分が持っている聖槍ならば断ち切ることができる。
闇属性は光属性を嫌い、光属性は闇属性を嫌う。
陰と陽の関係性は複雑で、優勢劣勢がころころと変わるのが常識。常識であると同時にこれは摂理なのかもしれない。
光あるところに影があり、影あるところに光ありと言う言葉があるが、この世界の常識から考えると光属性であれば闇属性の攻撃を打ち負かすことができる。
そう考えたエドはラグを狙い、ロゼロの攻撃が来るであろうその瞬間を狙って身構えていた。
だが……、その身構えこそが汚点だった。
身構えていたその間、エドは槍を黒い拘束に突き刺そうとしていた。何をするのかもわからない状況の中、敵の行動が予測できない状況の中であろうとも、自分はできる。
光と闇と言う相対性を勉強したからこそ、自分が先手をだせばいいと思っていた結果、先手を許してしまった。
否――
早すぎたのだ。
『闇怨石火』の言葉が放たれた時、この時を狙ってエドは拘束を槍の刃を使って薙いで切り捨て、その切り捨てと同時に自由になった体で猛進して、至近距離でロゼロの行動を、体を己の体を使って拘束しようとした。
放つ前に何かを話していたが、そのくらいロゼロが使おうとしている魔法は強力で、体力の消耗も激しいものであることは理解できた。
だからフルと言う男に後のことを任せた。離れろと言った。
――消耗が激しいものを使うということは、そのくらいおれ達のことを危惧している。危惧しているから速攻で殺そうとしているんだ。
――用心にというか……、最悪の人物が今まさに自分達の近くにいるんだ。それを考えたら無理もないか。
――最悪の人物をここで殺せば、弊害なんてないから楽になる。
――革命と言う名の……、国を崩すことが簡単にできる。
それだけは、させたくないんだよなぁ……。
エドは小さく、小さく言葉を零す。
自嘲でも何でもない。心の本音を、想いを詰めたであろう気持ちを言葉にする声は、霞のように消えて空気となっていく。
エド自身現実と言う世界の住人でもあり、もし要が死んでしまったら、ハンナが死んでしまうということは最悪の未来への道まっしぐらになってしまうからだ。
エドも現実世界に大切な人がいる。大切な物を現実に置いている。
消したくない大切なものがあるのだ。
失いたくない。
だからエドは殺そうとしているロゼロの行動を止めようとした。
した……のだが……。
「っ!」
エドは判断を誤り、早すぎた攻撃の波に呑まれかけ――今に至る。
至った結果、エドは声を零したのだ。
うかつだった。考えが甘かったということを踏まえて――
っ! まず……いなぁ! と……。
これは言葉通りの様子で、エド自身黒い何かの応酬を止めようと奮起し、槍を振るっては止め、エドの所属でもあるガーディアンのスキル――『闇吸魔』を使いながらロゼロの攻撃を止めて、聖槍を使いながら攻撃を躱しては止めて、なんとも脳が疲れてしまいそうなことを彼は何とかやり遂げようとしていた。
攻撃を避けながら吸収して、避けながら捌いては無傷でいようとする。
常人ではできない芸当。
もし何かを目標にしている人がいれば、練習さえすればできる……、いやできない。断固としてできないだろう。
それを成し得ようとする意志はまさに鉄のように固い。
固いが、その固さも万能ではない。
鉄も熱してしまえば熱くなり、更に熱くなれば曲がってしまう。
確固たる意志を持ったとしても、捌ける限度は決まっている。
誰もがヘルナイトのように全部を捌けるほどの力量を持ってはいない。
――どしゅっ!
「っ! 痛……! てぇ……っ」
刹那、エドの右脇腹に走る激痛と熱。
それは最初に熱と言う何かを感じた瞬間、それを追う様に走ってきた激痛であり、簡潔に言うと……、重症になりそうなけがを負ったという事を示唆する。
エドは驚きつつも、激痛の信号を放っている右脇腹に視線を向けた。
ちらりと、集中を崩すということなく、一瞬だけ見るという行動をとることでエドは避けることに専念しつつ、状況把握を行おうとした。
した結果――エドは更なる驚愕に突き落とされた。
彼の右脇腹からは己の体の内部から零れ出ている赤い原水が服を汚し、靴を汚して地面を赤い痕を残している。微かに出ている赤いそれが生きている証を残しつつも、凄惨な光景を物語っていることを知らせ、エドに精神的な攻撃をどんどん与えていく。
肉体的に抉れてしまったその箇所を、体の極々一部が無くなってしまったことに対して、むごたらしい攻撃を与えて……。
「っ!」
エドは言葉を失う。動向の動きに焦りが見え始める。焦点が定まらない中――彼は思った。
――抉れ。まさか今の攻撃で体が抉れた?
――想像以上の抉れだ。
――脇に穴が開いているかのような感覚……。
――痛い……っ。
――バングルのHPのメータの消費は……、おれのHPはカンストして10★の15,695だけど……、残りが8,695……、と言うことは、攻撃七千のダメージってことになる!
――こんなの何度も当たったら死んでしまうし、何より一発部位破壊じゃないかっ! 危ないし痛いしなんでこんな魔法を作っちゃったのかな……。あまりにもクレイジーでサディスティックな人が多いなぁ『六芒星』って……!
――いや、痛いよりも……、なんだ? この感覚……。
エドは思った。
否、感じながら考えた。
抉れたことに関しては驚きはあった。なにせ想像以上に抉れて、一発当たるだけで大きなダメージと化してしまうのだ。それは四肢のどこかに当たってしまうと一発で部位破壊になってしまうほどの威力で、カンストしているエドのHPを大きく削ってしまうほどの威力なのだ。
これを一撃でも受けてしまうとエドのようになってしまうが、これはあくまで命中ではない位置であり、言い方を変えるとラッキーなそれなのだ。
そう。ラッキーでない命中もあると言う事であり、もし、体力が七千以下の者がいたら、一発当たっただけで死んでしまうと言う事に変わりはない。
変わりはないが、それ以上にエドは攻撃を受けた後の感覚に違和感を感じたのだ。
受けた後の痛みや出血は変わりない。
だが違和感はある。違和感と言う言葉を表現すると……、本当に違和感しかない。そんな感覚がエドを襲っていたのだ。
まるで穴ができてしまったその箇所に何かが覆い被さっているような、血が出ているのになぜか押さえつけられているかのような、そんな感覚を……。
「わああああっっ!」
「っ!?」
突然聞こえた叫び。
声を聞いたエドは驚きながらも声がした背後を見ようと振り向きながら視線を変える。
勿論――迫って来ている黒い弾丸のような欧州にも気を付けながら……。
気を付けつつ、背後の声を聞いて一体何があったのかと思いながら視線を移し、視界に入れた瞬間――状況を理解した。
自分以外のところで起きているこの状況を……。
「あっぶなっ! 危ない危ない! 避けれるかこんなのっ!」
「口ばっかり動かしている暇があるならちゃっちゃと体を動かしなさいよインテリエルフかぶれっ!」
「かぶれとはなんだかぶれとはっ! 俺は現実世界でもインテリまっしぐらのサラリーマンだっ!」
「威張って言えることじゃないでしょ?」
「お前らが少し静かにしてろ。マジであぶねーんだぞ」
自分以外のところで、エドがいないところで起きていたことは――エドと大差変わらない状況だが、少し違うところは……、会話が入っている所為でそんなに危険ではないように見えてしまうところ。
先ほど大きな声で叫んでいたのはアキで、アキは今もな黒い弾丸の様なものからの応酬を必死になって避けている。体を大きく動かし、まるでドッチボールの玉から避けている人のようにアキは動かさないであろう体を必死に動かして、大袈裟と言わんばかりに避けていく。
必死さが見え見えのその顔からは余裕などない。
むしろ命の危険でもある絶体絶命さが浮き彫り状態だ。
口から出る『避けれるか』と言う言葉とは裏腹に、ぎりぎりの範囲で避けているところから見てフィジカルは高いのだろう。ドッチボールの容量で避けている時点でかなりの修羅場を潜り抜けていることは垣間見えた。
そうエドは思っていたが、アキのことを見て呆れのそれを零して叱咤していたシェーラに至っては余裕そうだ。
言葉通りの余裕。
剣を使っては捌き、剣をしなる鞭に変えては捌きを繰り返して、シェーラは持ち前の技術で事なきを得ている様子だ。
アキと比べてしまうとまさに体力の違いがバレバレだ。
そんな状況でも会話をしているのだから末恐ろしい雨と思ってしまったのはエドだけだろう。
なにせこんな緊急事態にこんな悠長に会話なんてできない。命の危機にさらされているのだからむしろ緊張感をもって避けるのは普通なのだ。つい先ほどまでの空気こそが普通のそれなのだが、その普通を塗り替えてしまうほどの会話に、エドの緊張と張り詰めていた感覚がほぐれそうになった。
勿論――槍だけで捌きつつもその場で動いていないキョウヤはもう汗など流していない。流していない且つ周りを見てよそ見をしながらアキとシェーラに怒りの声を静かにぶつけていく光景にも解れそうになったのも事実。
いくつもの修羅場を、いくつもの戦場を潜り抜けてきたものは精神的にも強い者。
潜ってきた修羅場の数だけ強い者であり、その修羅場の質が大きければ大きいほど、強者は更なる鷹峰と登っていく。
誰かがそんなことを言っていた。
そのことを思い出したエドは、まさにこれがそうなのかなと思いながら見ていたが、解れた緊張もすぐに張り詰めるそれに戻し、エドは再度背後に来た黒いそれを槍を使って振り向きざまに薙ぎ倒す。
「――ふっ!」
息を吐き、気合を入れながらエドは大きく振りかぶって背後から迫り来た黒いそれを野球の容量でないで叩き落とす。
横に薙いだこともあって、金属音が幾つもエドの耳に入ると同時にぼとぼとと黒いそれが地面に向かって落ちていく。
力なく落ちていくその光景を見ていたエドはふと、視界の端に入ったとある人物を見て目を見開く。
驚きを静かに表し、入った光景を現実と見て判断した時、エドは理解する。
あの時の会話はこう言う事か。
そう思いながら視界に入ったと同時に理解し、今がチャンスだと確信したエドはすぐに行動に移そうとした。移そうとした――その刹那。
声が聞こえた。
「い……っ、たっ!」
激痛の声が響くと同時に微かに聞こえた倒れる音。
その声を聞いた瞬間、エドは声がした方向に視線を向け、向けて言葉を失ったと同時に、体を動かした。
音も何もかもが聞こえなくなってしまった世界の中――一瞬しか音が無くなってしまった世界の中、エドは先ほどの思考を投げ捨て、感情的に沸き上がった思考を優先にして行動に移す。
今がチャンスと思っていた方向に――ではない。
今しがた声がした方向に向けて体を向け、足を使い地面を蹴って駆け出しながら、エドは走る。
一秒でも早く、コンマ一秒でも早くその場所につけるように。
否――その場所に降り注ぐであろう黒い流星群を止めるために、エドは駆け出す。
黒い流星群の向かう先……、白くやわらかな体毛で覆われた竜と、その竜の背に乗っている声の主に向かってエドは出来るだけ手を伸ばし……、否――伸びてもいいから手を伸ばして駆け出していく。
まるで地上で泳いでいるような仕草だが、エド自身これは本気でやっていることで、必死に走って追い着こうとしている行為。
一刻も早く追いつかなければ。それだけを胸に、それだけを願って彼は駆け出しているのだ。
見てくれなんてどうでもいい。無様でもいいから、追いつかなければ、それだけを心に留めて――
――このままでは死んでしまう。
エドは思った。
――このままでは、おれ達はこの場所に閉じ込められたままになってしまう。
――彼女は脱出の要。
――彼女が死んでしまったら、おれ達の希望は無くなる。
――最悪の事態を、ここで阻止しないといけない!
――ナヴィも彼女を守ろうとしている。しているが最悪も想定できる。
――防げなかったでは済まされない状況が今まさに起きようとしているんだ。
――ここで、おれが、何とか……しないと!
エドは思う。
避けることで必死な彼等よりも早く気付いた自分がすべきだと思い、これを狙ってやったのかと放った人物に対して怒りを覚えながら駆け出し、どんどん迫って来る黒い流星群――黒く輝く槍の雨を止めようと、彼女だけでも守らないとと心に刻みながらエドは駆ける。
駆ける、駆ける、駆ける――!
「――間に合えええええええええええええええぇぇぇぇぇっっ!!」
切実。そう感じてもおかしくない切望の叫びをあげ、脇腹に感じる激痛などお構いなしにエドは叫び、駆け出しては手を伸ばす。
叫びの中――聞こえていないその声が何かを言った。だが叫んでいる所為で聞こえない。
聞こえないからこそエドは駆けだしを止めない。
たとえそれが――無駄だと言われても……、無駄な足掻きとして認識されても、彼は伸ばす。
絶対に届かないであろうその手を伸ばし、ナヴィと彼女に降り注ぐであろう殺人の刃を止めるために……。
誰もが絶望する。
六芒星の笑みがこぼれるであろうその瞬間――
黒い流星群が、一瞬にして黒い小石に変えられた。
無数の切り裂く音が辺りに響いたかと思えば、一瞬の内に黒い流星群は小さな小さな小石……、否、一部は砂のように小さく削れ、ナヴィの体にぽろぽろと落ちていく。
砂の雨、小石の雨と言っても過言ではない情景を見たエドは驚きの顔でその光景を見て、『六芒星』の面々もそれを見て言葉を失う。
小石と砂を作るために切り刻み、ナヴィの背中に突然現れた存在――この世界で最も恐れられている鬼士を見ながら……。




