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PLAY126 怨恨の魔女①

「やめておけラージェンラ」


 その声は廃村と化した空間中に響き渡るように放たれ、声を聞いた誰もが一瞬動きを止めてしまった。例外なんてない。ないからこそ、ラージェンラも止まってしまう。


 ハンナやエドもその声を聞いて驚きながら辺りを見渡し、誰が言ったのだろうと思いながら疑問の視線で探し。


 桜姫も善の影――『虐殺(サディスティ・)愛好処刑人(デストロイヤーマニア)』の手の中でどこからと思いながら視線を泳がせている。


 だが、この時、()()()()()()()()()()()()がいたとしたら、どうするだろう……。


 まったく別の行動をし、何より次の行動に備えている者がいたとすれば、この先何が起きても安心だろうが、その安心には不穏と言うものがついていた。


 そう――全く別の行動をしていたのはナヴィ。


 ナヴィは唸る声を零し、竜特有の歯を見せながら威嚇を見せ、且ついつでも攻撃できるように待機していた。


 研ぎ澄まされた竜の爪は地面を少しずつ抉り、神経を研ぎ澄ませるように辺りを視界で見渡す。


 どこかにいるであろうあの聞いたこと蛾ある声を探り、見つけ次第手でつぶして拘束しようと、少々乱暴に感じてしまうような思考を巡らせながら、ナヴィは辺りを見渡す。


 そこまでしてしまったら、ハンナのいいつけを破ってしまうのではないか?


 そんなことを思う人がいるかもしれないが、ナヴィの思考では本当に殺すつもりで踏み潰すならできることでもあり、拘束目的で踏み潰すことは殺しに入っていないという思考なのだ。


 なのだが、それでも止められないかもしれない。


 何故なのか?


 理由は――聞いたことがあるから。


 否……聞いたことがあるからではない。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「ぐるるるるるるるる…………っ!」

「! ナヴィちゃん……?」


 唸るナヴィの声にハンナは驚きながらナヴィのことを見て首元を撫でる。


 よしよしとあやすように……、ではなく、落ち着かせるように彼女は撫でながら聞く。


「どうしたの? 何か感じ……」


 と言いかけた瞬間、ハンナは感じた。


 否――見てしまったの方がいいだろう。


 彼女がよく口にする『もしゃもしゃ』を。そのもしゃもしゃの色が赤と黒、そして、青や紫と言った、寒色で表されていることに気付いてしまったのだ。


 黒は憎しみなどの憎悪を表し、あかは怒りと言うものなのだが、寒色で表されているこの色は悲しみなどを表しているのだが、悲しみではないもしゃもしゃとしてあらわされることもある。


 そう――それは……。


 恐怖。


「ナヴィちゃん。まさか、怖い?」

「ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴッ」


 ハンナの言葉に対して、ナヴィはなにも応えなかった。


 答えるどころか唸るばかりで彼女の言葉など耳に入っていない様だ。


 どころか目の前のこと、感情が優先されている所為で頭が回らない様子らしい。


 よく聞く話――言葉より先に手が出たと同じように、気が付いたら殴っていたという仕組みと同じ物で、これは前兆なのかもしれない。


 さて――話を戻そう。


 気付いていないナヴィのことを見ながらもハンナは懸命に、気付いてもらおうと撫でながらナヴィの名を呼ぶ。


 心配だ。


 その心境が大きなものなのだが、それと同じくらい彼女は危惧していた。


 このままでは危ないかもしれないと感じていた。


 感じたというよりも聞いていたのだから当たり前の感情なのだ。


 あの時、『やめておけラージェンラ』と言う声が聞こえた瞬間から空気が変わっていたのだ。みんなの気持ちに強張りができたのだから仕方がない。


 だから、だからこそハンナはその声を聞いて怖がっているのかと最初思っていたが、そうではない。


 赤いもしゃもしゃを見てすぐにその考えは消去して次に思ったことことが本当の意味だと理解し、これの所為でナヴィは唸っている。


 警戒し、唸っているんだと理解した瞬間――下で待機していたエドは背後から来る音を逃さなかった。


 ――がさっ。


「!」


 音を立てず……ではない、草木をかき分ける様な大きな音を立てるその音はエドの耳にも入るほどの大きさで、正直潜伏をしている、ステルスをしている人間の動きではない音だった。


 そう――隠れる気がさらさらないその音にエドは一種の不振を抱きながら音がした背後を振り向く。


 がざがざがざがざっ。


 草木をかき分ける音と共に聞こえる踏みつける音。


 二つの音は普通に聞けば何にも警戒することはない。だが今は戦闘の最中、何が起きてもおかしくない状況。


 ゆえにエドは振り向きながら己が持っている武器を手にして応戦しようと試みる。


 さっきの攻撃はただ溜めたものをお返ししただけであり、エド自身はHPMP満タンの状態だ。


 今の今まではシロナたちならできると踏んで何もしてこなかったのだが、状況が変わった。


 自分もこの場で戦わないといけない。そう思いエドは武器を音がする方向に突きつける。


 突きつけ、何かが来たとしても戦う。


 たとえ一人になっても――そう思った。


 思った……が、その意思も崩れてしまうことになる。


 エドも予期していなかった事態と共に……。


 ガザガザと音を立てながら近づいて来る人物に対し、エドは槍を構えた状態で迎え撃とうとしている。


 何が来たとしてもどうにかしないといけない。


 応援が来たとしても何とかして止めないといけないと、エドは意を決するように固唾を呑む。


 緊張していないのだが、なぜか無性に喉が渇く。


 唾液を呑んで潤そうとしても、何故か潤わない違和感も覚えてしまう。


 体中が砂漠のように乾ききっているかのような違和感と、その違和感に重なっていく嫌な緊張。


 それはまさに最悪の予感を彷彿とさせる要因であり、一言で言うと嫌な言葉しか思い浮かばないような状態。


 色んな嫌な想定。


 色んな感情も入り混じりそうな、そんな嫌な予感。


 本当に一言で嫌な予感しか思い浮かばない様な状況で、エドはどんどん近づいて来る人物に対し警戒を研ぎ澄ませ、槍を向けたまま身構える。


 身構え、警戒しているエドのことなど知る由もない人物は草木をかき分け、音を消すことなく進みながら近づき――とうとう姿を現した。


 がさりと大きな音を立て、身を乗り出してその人物は見せる。


 一瞬見ただけで理解する――異常な姿を。


「――っ!」


 異常に感じてしまってもおかしくない中、エドはその人物を見た瞬間、何故か息がつまりそうな感覚に陥り、生唾でさえ飲めなくなってしまう様な緊張感に襲われた。


 背中に虫が這っているかのような嫌悪感と寒気。


 いいや、この場合は、爬虫類かもしれない。


 その男の瞳を見た瞬間、エドは思ったからだ。


 爬虫類のような目だなと。


 その目を見た瞬間背筋を這う何かを感じたから、この場合は爬虫類が正しいかもしれない。


 そう――その人物は爬虫類の片目に鉄でできたマスクと眼帯。黒い髪は伸ばしているけど肩まであるそれで、前髪も無造作に伸ばしている。そのせいか、その髪の隙間から見える目は怖い印象を植え付ける。服装は黒を基準としたカットシャツのような襟が立ったものに皮のズボンにロングブーツ。そして両手がなぜか機械のような両腕で、右手は壊れてるのかない状態の男。


 その男が現在進行形で歩みを進め、エド達がいる場所を……、否、それよりももっと向こうの方に視線を向けな柄歩みを進めている。


 エドの背筋を凍らせるような爬虫類の目を――氷以上に研ぎ澄ませ、まるでその視線だけで射殺さんばかりの目を向けながら……。


「――っ! ハンナちゃん伏せてっ! 身を隠せっ!」

「!?」


 ハンナから聞いてしまえば突然放たれたエドの怒声だろう。


 だがエドからすれば生存本能による叫びで怒ってはいない。


 むしろ逆で、彼は守ろうとして叫んだのだ。


 ヘルナイトのように無双は出来ない。何とか彼女に自衛を行ってもらおうと叫んだ次第だ。


 張り上げるようにも聞こえてしまう声を聞いて、一瞬怒っているような怒鳴り声が聞こえたハンナは肩を震わせて思わず身を隠すように頭を覆って体を小さくする。


 犬の芸――『伏せ』のように体を低くし、頭を隠した状態になると、ハンナはおずおずと小さな声でエドの名を呼ぼうとした。


 したが、その前にエドから出ているもしゃもしゃを見て、ハンナは呼ぶことを止めてしまう。


 背筋を這う寒気と共に、これは危ないと直感した後、読んでしまうと邪魔になってしまう。


 何かが変わり、その変化と共に最悪を呼んでしまうと踏んだハンナは呼ぶことを止めてしまう。


 ――だめだ。


 その直感を信じ……たのだが。




「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!」




 猛々しい咆哮を上げ、エドの視線の先にいる人物に向けて放ったナヴィの叫び。


 怒りが含まれ、憎しみを放つような叫びにハンナはナヴィの名を呼ぶが、ナヴィの耳にその声が届くことはない。いいや、目の前の人物を見た瞬間何も見えなくなったの方がいいだろう。


 血走った目で爬虫類の目の男を捕らえ、地面を抉っていた足を上げようとした時――男は、爬虫類の目をした男は零す。


 淡々としているその音色を。


 強弱どころか感情さえこもっていない様な、そんな音色で彼は言った。


 そう――ラージェンラと同じ幹部であり、同じ魔女である彼は言う。


「……『六芒星』が一角、機械人(ヒューマ・ノイド)。『憎悪機動兵』……憎悪の魔女。型番N00(ゼロゼロ)……、じゃないな。俺はそんな名前じゃない」


 そんな名前じゃない。


 いつぞやかガザドラが言っていた言葉を真似る様な言葉に少しばかりの懐かしさを覚えたハンナだったが、その言葉をひっくり返すように、塗りつぶすような彼は言ったのだ。


 型番N00――否。


「『六芒星』が一角、機械人(ヒューマ・ノイド)。『憎悪機動兵』……憎悪の魔女。ロゼロ。そして今は亡き亡国マキシファトゥマ王国次期国王にして、マキシファトゥマ二十五世の孫にして第二十七代目マキシファトゥマ王国国王――フィリクス・マキシファトゥマ」


 今日に至るまでの恨みを、ここで完済しよう。


 永遠の滅亡と共に。


 淡々と告げられた言葉は、聞いたこと蛾ある言葉と、聞いたことがない言葉の数々だった。


 割合で言うと聞いたことがある一割、殆どが聞いたことがない。


 比にすると1:9と言う状態になり、聞いたことがない数々の言葉にハンナは一瞬動転してしまうほど驚きを隠せなかった。


 隠せなかったが――その驚きを上書きするようにロゼロは放つ。


 唯一ある腕をすっと上げ、指を指すように人差し指をエドに向けた後――淡々としている音色で言ったのだ。


 指先にある、小さな小さな黒い球を放って――



「――『一寸の(スパルク・)黒蜘蛛糸(ジェイル)』」



 言葉が放たれた瞬間、指先に出ていた小さな小さな黒い球が、その場所で爆発した。


 ぱんっ。と小さな破裂音を放ち、一瞬小さな花火を思わせる様な音だと思っただろう。常人であればそう思ってしまうが、その一瞬の瞬間――エドとナヴィに向かって襲い掛かるように、無数の黒い糸が膨張し、意思を持っているかのように襲い掛かってきた。


 一瞬の出来事にして一瞬の刹那。


 小さな黒い球体から出る量でもなく、どころかそんな小さな球の中にどれだけの糸が収納圧されていたのかと思ってしまうほどの量。


 無数の髪の毛が襲い掛かって来ているかのようにそれはエドとナヴィに襲い掛かり――


「――ぐぅっ!?」

「ギャギャッ!?」

「っ! ナヴィちゃん! エドさん!」


 そのままエドとナヴィの体に巻き付き、身動きを止めてしまった。


 がっちりと四肢を拘束し、どうにも巻き付くとそのまま地面に突き刺さり、まさに鎖のように頑丈なそれが四肢に巻き付き、動きを止めてしまったのだ。


 まさに拘束と言っても過言ではない。


 ナヴィに至っては翼にまで泣きついてしまい、柔らかな体毛が傷ついてもおかしくない。


 否――抜けてしまってもおかしくないほど絡まってしまい、ナヴィは唸り声をあげ、嫌悪のそれを示しながら暴れようとする。


「がぁぁ! ぎゃああっ! ぐぎゃぁ!」


 人がよく言う『この。この』と言う言葉を体現しているかのような唸りと共にじたばたと足や翼、首にも巻き付いているそれを振りほどこうとするが、それも無駄な足掻きとなってしまい、引き千切るどころか何もできず、あろうことか背中もとい首元にいるハンナが危険に晒されかけるという事態を引き起こすだけだった。


「わっ。ちょ、ナヴィちゃんっ! きゃぁっ!」

「が……っ!?」


 ハンナの小さな悲鳴によってやっと冷静になったのか、ナヴィははっと唸り声を零し、その唸り声のままハンナがいるであろう首元を振り向きながら見ようとしている。


 エドもその光景を見つつも、何とか拘束を解こうとしたが、そんな一人と一体の行動を見てか、目の前の爬虫類の男は静かな音色で言った。


 嘲笑うわけでもない。ただ淡々と、機械に録音された声のように彼は言ったのだ。


「無駄だ。『一寸の(スパルク・)黒蜘蛛糸(ジェイル)』は硬度が高い分暴れれば暴れる程締め付けが強くなる。まぁ自分で自分の首を絞めるようなことだ。無駄な足掻きはやめておいた方がいい」

「っ! 足掻き……?」


 暴れれば暴れる程締め付ける。


 わかりやすく、シンプルな残酷が垣間見える言葉に、エドは一瞬強張りを見せてしまう。


 ぞっと、背筋を這う悪寒を感じてはいたが、強張りは一瞬しか見せず、その後は平静を装う様に笑みを浮かべて一言零すと、ロゼロはその言葉を聞いて『そうだ』と言い――


「お前達がしていることなんて、結局は悪あがきなんだよ。全部、全部……」


 淡々と、否――憎しみを込めている音色で彼はエドに告げる。


 エドの前に来て、エドの顔を見つめながら告げた言葉に、エドは感じた。


 感じてしまった。


 ――なんだ……? なんなんだ? この感覚は。


 ――この機械の男から何かを感じたけど、これはちょっとやそっととか、そんな生易しいものじゃない。


 ――純粋で、しかも重くのしかかる様なものだ。


 ――言葉じゃなく、力関係とかじゃない。


 ――おれの中にある魔王族の血がそれを警告として伝えている。


 ――おれに対して、危ないと、逃げろって騒いでいるこれは、まさに警告。


 ――サイレンのような警告だ。


 ――命の危険を知らせる感覚。


 ――人として、生物的本能として、生存本能が警告しているんだ。




 ――この男は……、()()が危険だって。




 一種の何かというまどろっこしいことはしない。


 しないが、それでも彼は感じてしまったのだ。


 ロゼロと言う男から発せられる――底なしの何かを。


 一言で言うと、黒。


 それだけがロゼロのことを覆っているかのように、否、ロゼロを中心にどんどん浸食していくかのような感覚に、エドは委縮してしまったのだ。


 エドの言う内面――それは人の内側。心を意味している。


 その心が危険。


 つまり精神的に危険と言うことを意味している。


 意味している、が――それを知った今、何ができる?


 拘束されてしまい、あろうことか貼り付けのようになってしまっている状態の中――何ができるのだろうか。

 

 できない。


 そう踏んでいるからロゼロは歩みを進めて、エドに近付きながら続きの言葉を吐く。


 息をするように吐き捨てられていくその言葉に、エドは耳を立てることしかできない。


 何もできず、ただただ聞く耳を立てることしかできなかった。


 ロゼロは言った。淡々とした――奥底が見えない真っ黒な音色で彼は言った。


 すた、すた。と――ゆったりとした歩みを進めて……。


「お前達は大勢で、ラージェンラ一人だと苦戦していたかもしれないが、今は俺達がいるんだ。形勢なんて、すぐに逆転……」


 あ、いいや――俺だけでも十分だったんだけどな。


 と言いながらロゼロは自分が出てきた場所を見ようと背後を振り向く。


 腰のひねりを使った中途半端のそれだが、それでも振り向きとしては成立している。


 だから振り向きを見たエドは彼が見ている光景――ロゼロが見ている光景を見ようと向けている視線を目で追い、その場所を見つめる。


 見つめて、ガザガザと音を立て………………ていない。その場所には黒い楕円形の何かが出てきており、一見すると渦ができているかのような黒い何かがあった。


 この時エドはそれを見て仮定する何かを思いつくことができず、追いつけないままそれは出た。


 ずるり――と、黒い楕円形の何かから出てきたのは、手だった。


「――っ!?」


 あまりの衝撃にエドは驚いてしまい、その手を見てエドは続けて思った。


 ――まさか、こんな時に……?


 そう、こんな時にこうも都合よく出て来るとは思っても見なかったのだろう。エドは困惑の視線のまま、揺らめく視界の中でそれを見つめる。


 正真正銘、緑色の手袋をしている手。


 本当に人の手がその楕円形から出てきたかと思うと、それはどんどんと前に出て、人としての姿を表していったのだ。


 ずるるるっと、流砂から這い出るようにそれは姿を現していく。


 一人ではない――複数の人物が姿を現して……。


 一人はふくよかな体つきで、肌と髪の毛を隠すようにすべてを白い防護服で覆っているかのような姿をしているが、その背に背負っている大きな機材がそのふくよかな体よりも目立つ姿をしている。手に嵌められている緑色のゴム手袋。黒いゴム製の長靴。そして素顔を隠すかのようにつけている『六芒星』の仮面をつけた男が最初に。


 次に出てきたのは――身長は大体百五十センチかそれ以下かの身長で、白い厚底のブーツのせいでその新調が本当なのか定かではないが……小柄な姿が印象的な人物。その小柄な印象であるにも関わらず、真っ白いフリフリのワンピースを着ており、現代の服装で言うと、その人物が着ている服はロリータファッション風のワンピースで、胸の辺りについている薄い水色のリボンがその服をより可愛らしく見せるが、服に付着している赤いそれのせいでそれも台無しだ。その服と一緒に、その人物はその場でくるくると回ったせいか、回転が終わると同時にひらり、ひらりと靡かせその人物の象徴となる灰色に近いような白い髪のツインテールを靡かせながら回り、魅せるように少女が出てくる。


 そして次……、否――この場合は最後になるだろう。最後に出てきたのは男だった。


 その男は――身長はショーマほどの身長で、頭には白いタオルで頭を巻き、右目を隠すように十字架の印が彫られた仮面を括りつけている紫色の髪の毛が印象的な青年ではあったが、左目から覗く鋭い眼光に口元を隠すようにガスマスクを装着し、左頬に残る三つの切り傷。首には黒いチョーカーをつけ、黒いロングコートに身を包んだ姿をしている。背に背負っている鬼の金棒めいた棍棒も更に彼と言う存在を強調させる。


 しかしそのロングコートの左腕のところはキレイに敗れてしまい、左腕の肩から手の先まで露出してしまっている。右腕はコートの袖ですっぽりと覆われているため見えないが、左腕には黒い布で覆われ、左手に装着されている黒い鉤爪は日の光を浴びてぎらりと輝きを放っている。


 足は黒いズボンに白いロングブーツと言ったオーソドックスな服装に見えるが、ここでも異様な光景を見せていた。それは――彼の左足だ。彼の左足だけは右足と違い異質なそれを見せていたからだ。簡単な話だ。彼の左足だけ欠損してしまい、急ごしらえの義足 (足と言っても、松葉杖の様な足になってしまっている)をつけられているだけの姿だったが、それを気にする余裕はなく、エドは最後に出てきた人物の右手首を見て、言葉を失いながら目を見開いてしまった。

 

 男の右手首に着いている白いそれは、エドが付けている者と同じ物で、何度も何度見たことがある者だったから。


 それは無くしてしまうと大変なことになってしまい、使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だったから。


 エドの驚きを視界の端で見つつ、何の反応を見せずロゼロは着た人物達を見て「遅いぞ」と言いながらエドのことを見るために正面を向く。


 向いて――ロゼロはエドのことを見て、その後視線をナヴィに向けて言う。


 背後にいる三人の存在達の前で、彼は言ったのだ。


 違う。


 彼はナヴィに向けて言っていない。ナヴィの背で驚きの顔をしながらロゼロ達のことを見ている浄化の天族に向けて言ったのだ。


 とてつもなく淡々として、冷たさしかないその音色で告げる。


 滅亡へと誘う言葉を――





「お前達の『浄化』も、ここまでだ。新しい棺は――こっちで用意しておくから」




 安心して――くたばれ。




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