PLAY125 ボロボを掛けた戦いの幕開け③
「暗鬼剣――『左腕切断斬』」
スキルを言うと同時に善さんは勢いと加速を加えた突きを繰り出した。シロナさんもそれを聞いて足刀の型を解いて足としての役割を担っていた手で地面から離れる。
逆立ちの状態から飛ぶような、まるで大道芸のような行動をしてラージェンラの視界を覆うと、そのまま彼女の後ろに上から跳んで回って……。
「っ。――っ!?」
ドシュゥ!
次に響いたのは、突き刺した痛々しい音と辺りに散らばる赤い鮮血。同時に響く何かが折れる音。
音と同時に痛みを感じて唸る声と顔を剥き出しにしたラージェンラは、叫ぶ声を堪えるように歯を食いしばっている。いるのだけど、それを行った善さんの剣は深々とラージェンラの左肩の付け根の位置に突き刺さっていて、抜ける気配がない。痛みも長く続く。
シロナさんは視界を覆うという役割を終えたのか、ラージェンラの背後に回って地面に足を着けて背後を振り向きながら状況を確認した。
ばっと振り向いて、善さんの攻撃がしっかりと直撃した光景を見て、シロナさんは小さいながらもガッツポーズをする。
アキにぃ達はその光景を見て驚いている。けど警戒と言う名の本能はまだあるみたいで、武器に入る力を抜いていない。
気を抜いていた。驚いたまま固まっていたのは――私だけみたい。
「………っ! ぐっ!」
突き刺さりが深く、そして広がっていくと同時に出るのはラージェンラの呻きと命の水。
真っ赤で、且つぼたぼたと剣先から零れるそれは生々しく見えるし、痛々しく見えて見るに堪えない光景だった。
思わず目をそらしてしまいそうなほどの光景で、私はうっと声を零してしまい、思わず手を覆ってしまいそうになる。きっとこれは普通の人からしてみれば普通の反応かもしれない。これ以上の反応を示せばもっと普通の人の反応だ。
でも、それをしなかった。
それを見て、思わず吐きそうになる気持ちが湧き上がらなかったのは、慣れているからなのかもしれない。
あと理性的に考えて、ナヴィちゃんの背中で吐くのは少しかわいそうと思ったから、本能がそれを阻止したのかもしれない。
そう思っていると……エドさんは私に向けて――私を見ないで「ね? だから言ったよね」と聞いて来て、それを聞いた私ははっとしてエドさんがいる方向に視線を移す。
移して……。ううん。厳密には移そうとしたのだけど……、振り向こうとした、視線を移そうとしたその時……。
「ぐ、う……うぅ……。ふ」
ラージェンラの声が聞こえ、その声が放たれると同時にラージェンラは目の前で刺突の状態で止まっている善さんに向けて善さんの剣を柄ごと掴むと、その状態でラージェンラは――
「うふふふふ、あははっ! あはははははははははははっ!」
笑った。
善さんの手ごと掴んで、逃げ出さないように掴んだ状態で彼女は笑みを零して、声に出して笑っていた。
その笑いを見て善さんやシロナさんはおろか、アキにぃ達も驚きながら見ていたけれど、警戒は怠っていない。もしゃもしゃの張り詰めを見ればわかる。みんな驚いているけれど警戒のレベルは下げていないみたいだ。
私は遠くから見ているから驚いて一瞬強張ってぎょっとしてしまい、『虐殺愛好処刑人』の手の中にすっぽりと納まっているオウヒさんはそれを聞いて『あ!』と言う声を上げて……。
「みんな! あの人を傷つけない方がいいよっ!」
と、大きな声で、私が発動した『強固盾』の中で必死になって呼びかけてきた。聞いてと言う意志がひしひしというものではなく、その意思がダイレクトに、大砲に当たったかのような衝撃となって伝わってくる。
オウヒさんの声を聞いたアキにぃ達は視界の端で見るように心がけながら (そのまま見てしまうと不意を突かれて殺されてしまうかもしれないと警戒しての結果なんだろうな……)、オウヒさんに聞いたのは――シェーラちゃんだった。
「っ、なに無理難題ふっかっけてんのよっ! そんなことできるわけないわ。第一なんで傷つけてはいけないの? あの掌から出てきた赤いそれと関係あるの?」
攻撃しないで拘束とか……、あの蜥蜴の試練じゃないんだからっ。
……最後の言葉を聞いた時、ふと懐かしく感じたのは私だけかな……?
でも今はそんなこと考えていつ暇なんてない。シェーラちゃんの言葉を聞いたアキにぃは驚きながら「それ無理だってっ。俺達だけでそんなことできるわけ……っ!」と言いかけた時、シェーラちゃんの言葉を聞いたオウヒさんは即答と言わんばかりの行動と言葉で返答を行った。
「うん! そう! 攻撃したら危ないから攻撃しないで戦って!」
『馬鹿野郎っっっ!』
まさにお約束と言わんばかりの怒声。
オウヒさんのはっきりとしている、且つ断言した発言に対してエドさんと善さん、虎次郎さん以外の四人が突っ込みを入れた。
まさに流れる様な突っ込みと言うか……、当たり前の突っ込みが放たれたと言っても過言じゃない。というか攻撃しないで戦えと言うのも無理難題にもほどがあるからね……。
そもそも、それはまさに『戦うな。戦わずして勝て』って言う頓智みたいな、且つ過激修行にも等しいような言動だもんね……。
「……無理がある」
「だね」
ぼそり……と呟いてしまった私。思わず本音が零れてしまったけど、それを聞いてか、エドさんも頷くような声を零して同意を示してくれて、ナヴィちゃんも言葉を理解しているのかうんうん頷きながら『ぐるる』唸っていた。
………やっぱり攻撃しないで勝てなんて、無理難題なんだ。
エドさん達も体験していることだからその苦労もわかるのかもしれない。でもオウヒさんは真顔で、真っ直ぐな顔でみんなに忠告しているんだ。
まさに善意。
まさにアドバイスなんだけど……。
「攻撃しないで勝つことができるかぁ馬鹿野郎っ! 相手は殺す気なんだから俺達も対抗しないといけないのに、それに対して手加減でもして勝てって言っているのかこらぁっ!」
「違うのっ! こう下K強いて血が出たらだめなの! あの人、血を操って攻撃をしているのっ! つまり出血とかしたらその血が武器になっちゃうってことなのっ! だから攻撃しないで、血なんて出さないで勝ってほしいのっ! 冒険者ならそれくらいできるでしょっ?」
「んなことできるかっ! 殴ったらそりゃ最悪血が出るっつーのに、そんなハンデありばおtるナンテできるかっつーのっ! それこそ死にに行くような縛りプレイだっ! 縛りをかけて緊張を楽しむほどアタシらは余裕じゃねぇっ!」
「でも傷ついて血が出たら危ないんだよっ? 危ないんだから攻撃しないで勝った方がいいでしょっ? お願いそれしかないから」
「「のぁーっっ! うるせええええええええっっ! いいから黙って球の中で体育座りしていろやぁあああっっっ!」」
「………とんだ縛りを与えて来るわね。あの鬼姫は」
「呆れじゃねー感情が込み上げて来るけどよ……、言っていることに嘘じゃねーことは理解できた」
アキにぃとシロナさんがオウヒさんの無理難題を聞いている最中、シェーラちゃんとキョウヤさんの冷静な会話が聞こえてくる。
内容はまさにオウヒさんが言っていること。
攻撃しないで勝って。
何度も何度も言うけれど、この内容はまさに無理難題で、戦わずして勝てなんてどこの世界に存在するクエストなんだと思ってしまうかもしれない。特殊なクエストならばあるかもしれないけど、普通はあり得ない。
倒さないと勝つことはできない。
常識だ。
勝敗はまさに戦って得て、架せられるものなんだから。
でも、オウヒさんの言葉に偽りなんて全然ないのも分かっている。
わかっているからこそ私は理解してしまった。
「……攻撃、しないで勝って。攻撃したらダメ。あの時見えた赤い武器を考えたら……」
あぁ、と。私は理解した。なんでこんなこと全然理解できなかったのだろう。なんでこんなこと見てすぐにわからなかったのだろう。
すごく簡単で、すぐに理解できるような内容で、オウヒさんの言葉がなくてもすぐにわかっていたはずの内容を、うっかり見落としていた。
あの紅いそれは血で作られている。
そう――体の中に流れている血を武器にして戦っている。
ガザドラさんが金属類を操るように、ラージェンラもきっとそれを血を媒体として、武器にして戦っている。
戦っているからこそ彼女は体を傷つけ、血を出して戦っている。
血を出すということは人にとって危ない事。
それを逆手に取る行動はまさに異常かもしれないけど、血を武器として戦っているラージェンラにとってすれば好機……、チャンスでもある。
そのチャンスが出血量だとしたら?
傷の数が多ければ多いほど血の量も多くなったら?
すごい威力の攻撃を受けて大量出血をしたら?
そうだ。
全部ラッキーに繋がってしまうんだ。
相手にとって、敵にとって最上級の、極上の攻撃手段が増えてしまう。
攻撃の範囲どころか攻撃が出る場所が増えてしまい、攻撃の数も増えてしまうと言う事。
例えるなら……、こんな感じかな……?
草原で戦っていた二人の戦士。それも力を持っている二人の戦士がいて、一人の戦士はたった一つの武器しか持っていないけれど、自由自在に武器動かすことができる人と、いくつもの武器を持っているけれど使える力は防御だけ。盾を作る戦士と言っておこう。
矛と盾のような矛盾を感じさせるような内容だけど、盾の力を持っている戦士の方が強くて、一つの武器しか持っていない戦士の武器を粉々に砕いてしまったらどう思う?
多分考えなくても、盾の力を持っている戦士が勝つと思う。
とある人が言っていた――防御こそ最大の攻撃と。
その言葉を体現して、もしかしたら勝つかもしれないと思っている人もいるかもしれない。
でも一つの武器しか持っていない人の力は物を自由自在に操ること。だから散らばってしまった武器の破片を使ってしまったら……、それは逆転のチャンスになってしまう。
勝つことはできないなんて言わない。勝てるという保証もできないけど、それでも逆転できることは十分あり得る。
そう……。まさにラージェンラも同じなんだ。
彼女が使う力が『血』ならば、その血を使うために彼女は必ず自分を傷つけて武器を増やすだろう。
武器の増やし方に決まりはない。ないからこそ増やせるものは増やして、そして使えるならばそれを使って攻撃する。
狡猾で、尚且つ不意打ちに等しい様な技を出すだろう。
傷口から武器を出して戦うなんて、どんなオカルトマンガなんだと思ってしまうけど、それを行っているのがラージェンラだ。体の傷が増える程血が出て、彼女の得物が、武器がどんどん溢れ出て来る。
まるで――武器生産機械みたいに……。
少し言い方が悪かった気がする。こんな言葉しか思い浮かばなかったから本当に申し訳ないけど、それでもその言葉しか浮かばなかった。
あの顔を見たら、それを狙っていたみたいな顔を見せつけられたら……。
「善っ!」
「――!」
思考の海に入っていた私を横目に、エドさんは善さんに向かって叫んだけど、その叫びを聞いた善さんは逃げることができずにいた。
さっきまでの苦痛とか苦戦も、『そんなのお芝居でした』と言わんばかりの笑みと共に、善さんの剣ごと手を掴んでいるのだ。逃げること自体遅すぎた。
遅すぎた結果こうなってしまった。
相手のことを見誤った結果がこれ。
その結果に行きついたアキにぃは舌打ちを零してアサルトライフルを構えて、シェーラちゃんも二本の剣を鞭のようにしならせ、虎次郎さんも居合の構えを取ろうと刀に手を伸ばそうとした。
瞬間だった――
「――お前ら手を出すなっ!」
「「「!?」」」
一気に緊張が張り詰めている中、声を上げたのはシロナさんだった。
シロナさんはオウヒさんに向けて無茶だと言っていたけれど、善さんのことを見て、アキにぃ達に制止の手を伸ばすその姿は――何か確信を持っているかのような迷いのない光景。
手を伸ばして、アキにぃ達に対して制止をかけている姿は――一見したら一対一の勝負だから手を出すなと言っているようにしか見えないし、聞こえない。
だからシロナさんの言葉に対してシェーラちゃんは『はぁっ?』と呆れているような、怒りがこもっている音色でシロナさんに向けて物申した。
まさに――反論だ。
「手を出すなって……! あんたこの期に及んでそんな余裕ぶったこと言わなくてもいいでしょうがっ! 緊急事態と言うか、この状況はまずいのよっ? わかっているの?」
「ああわかっている!」
「分かっているなら加勢させてっ! わかっているならばこの後起きることなんて容易に想像できるわっ! 死なせたくないでしょっ? 見殺しにしたくないでしょ? 見捨てたくないんでしょっ? あんたとあいつの中を取り繕うわけじゃないけど、死なせたくないなら」
「死なせたくねぇよ。だからお前らはいくなって言っているんだ」
「はぁ?」
二人の会話はこっちにいる私達にも聞こえる。
聞こえるからこそ私もシェーラちゃんの疑問の声に対して同意というか、同じ声と言葉しか出なかった。
誰もがその言葉を聞いて理解できないような顔をしていたけれど、遅まきながら理解した虎次郎さんと、最初から言葉を発していないキョウヤさんだけは善さんのことを見ることに徹している。
つまり――シロナさんの言葉に従った。と言う事。
シロナさんが言った言葉に対して、キョウヤさんと虎次郎さんは何を理解したんだろう。
私達に対して行くなと言う理由……。そして……なんだろう……。シロナさんから出てるもしゃもしゃが、あまりにもあべこべに感じてしまう。
言葉ではあんなことを言っているけれど、何故かもしゃもしゃは不安なんて言う要素が一切ない色をしていたから。
不安とか負の感情を意味している寒い青とか暗い色を象徴するようにもしゃもしゃが出ている。そうと思っていたけれど、シロナさんのもしゃもしゃからは黄色とか明るい赤とか、まるで夕焼けのような温かいもしゃもしゃの色を放っている。
明るくて、辺りを照らすような曇りのない光。
それはシロナさんの真っ直ぐさを表しているようで、迷いなんてないようなそれをもしゃもしゃに出している。
出しているけれど、そのもしゃもしゃは煙のようにどこかに向かって漂っていて、その先を見て私は目を見開いてしまった。
シロナさんの視線の先と同じように、もしゃもしゃは善さんに向けられていて、視界に映る光景を見た瞬間私は理解した。
理解して、言葉の意味も、何もかもを理解した。
結局――簡単な事だったんだと思いながら……。
そう思っていると――
「あらぁ……まさかのネタバレなんて、マナーがなっていないわよぉ鬼姫様?」
「うっ」
「!」
今までの会話を聞いていたのか、ずっと笑っていたラージェンラが私達のことを……じゃない。オウヒさんのことを横目で、邪悪な笑みを浮かべた状態で横目で見つめて言ってきた。
どこかのホラー映画に出そうな雰囲気とその笑みはオウヒさんの恐怖心を大きくさせたのか、オウヒさんは大きく声を上げてしまう。
まさに『ぎょっとした』と言う表現。
私やエドさん、そしてナヴィちゃんがラージェンラに向けて視線を向けると、ラージェンラは大袈裟に驚いたような顔――大袈裟と言うよりも、演技がかったような驚き方をしながら「あら?」と言って、オウヒさんに向けていた視線を私に向けて……。
「……そこにいるドラゴン……、どういうこと……?」
「へ?」
「ぐる?」
「?」
あ、私に向けられていなかった。
ラージェンラは私じゃなくて、ナヴィちゃんの視線を向けて声をかけたんだ。
さっきまでのおどけた音色が嘘のような、真剣な音色で……。
ナヴィちゃんに視線をやると、ナヴィちゃん自身どういうことだと言わんばかりに大きな首を傾げて唸っている。さっきまでの怒りが下がったかのように驚いた顔をして……。
私と同じように驚いているというか、不意を突かれてしまったことで一瞬敵意が、殺意が無くなってしまったかのような顔だ。
エドさんも同じようで、驚いた顔をしたまま私達のことを見上げているけれど、私はエドさんに向けて首を振って『わかりません』と言う意思表示をする。
一瞬のジェスチャーを見てエドさんも小さな声で「あぁ……」と言って理解したみたい。
理解した後私たち二人はラージェンラに視線を向け、未だに驚いている顔をしながらナヴィちゃんのことを見ている姿を見つめていると……、彼女はナヴィちゃんのことを見て何かを呟いている。
ぼそぼそと、何か独り言を言っているような音色でナヴィちゃんのことを見ながら言っている。近くにいた善さんが何かに気付いたのか、表情を僅かに気付いたそれに変えたけれど、結局聞こえない。
「……ナヴィちゃんのこと、何か知っているの?」
私は聞いた。おずおずと言うよりも、曖昧だけど深く掘り下げようとしながら私は聞いた。
ナヴィちゃんの何を知っているのか。ナヴィちゃんのことを知ってあんな言葉を言ったのか。
もしかしたら、ナヴィちゃんのドラゴンの姿を見て、何か知っているのかもしれないと思いながら……。
なんというか、確信はないんだけど……、女の勘が発動したというべきなのだろう。
ナヴィちゃんのドラゴンの姿を見て、且つ真剣な音色を言い放った瞬間ラージェンラの声色が変わった。たったそれだけなんだけど、何かを知っているような素振りだと察した私はラージェンラに聞いた。
本当に聞きたいとかもあるけれど、この言葉を聞いて話してくれればいい。でも本音は時間を稼ぐことも踏まえて聞くと、私の言葉を聞いたラージェンラは鼻で溜息を吐き、視線を再度善さんに向けて――
「そんなの聞いてどうするの? これからその先に行くこともできないって言うのに?」
「っ」
放たれた言葉を聞いて私は息を呑んでしまう。
驚きとかじゃなくて、話す気がない事を悟り、これ以上話しても意味がないと思っているラージェンラを見て、私は思ってしまった。
これから先に行くことができない。
それはつまり――
死ぬから……言わないってこと……。
悟った瞬間、それを絶望として認識したラージェンラはにっと邪悪で、色味のある笑みを浮かべた後背後に赤黒いそれを『ずるり』と出現させる。
赤黒くて、いくつもの鋭利な返しがついている槍のような物で、それをいくつも自分の背後に、クジャクの尻尾のように出現させた後、その矛先を善さんに向ける。
向けられた先がギラリと輝くけど、向けられている本人は驚くどころか感情を表に出さない。
冷静というか、変わりない普段通りと言う感じで見ていたけれど、そんな顔を見てラージェンラは呆れたのか、はっと鼻で笑った後――善さんに向けて言った。
馬鹿にするような、嘲笑するような声色と面持ちで――
「あらあらぁ。虚勢かしら? それとも威勢を張ろうとしている? 心配かけないようにしているのなら、やめておいた方がいいわよ? 私は『血』の魔女。血さえあれば何でもできる魔女なの。無駄な足掻きだからやめておいた方がいいわ。足掻いたら――あなたは即死だから」
と、自分の種を明かし、且つそれさえあれば何でもできることを私達に明かす。
自分は倒されない。それを言い聞かせるように言うその光景は優越感とか勝利を確信している余裕なんかじゃない。
あれは……、私達なら勝てるという強者の感情。
私達冒険者なんて弱いという認識で、戦ったことがあるから勝てるという、別の意味の余裕と勝利の確信だ。
そう確信して、私なナヴィちゃんに向けて善さんを助けるように言おうとして、みんなも善さんを助けようとしたけど――キョウヤさんと虎次郎さん、シロナさんとエドさんは動かず、キョウヤさんと虎次郎さんのことを見ていたシェーラちゃんは何か怒っている言葉を吐き捨てていたけれど、言葉を拾う余裕がなく、何を言っているのかも聞くことができなかった。
全部が聞こえない世界になって、スローモーションのよウニ遅くなってしまった世界の中、私の耳に入った言葉はたった一言。
それは最も聞きたくない人物の声で、その声だけが嫌に耳に残ってしまう。
加えて邪悪な顔が頭から離れなくなってしまい、角膜に焼き付いてしまいそうな衝撃を私達に与えながらラージェンラは言う。
矛先を善さんに向け、逃げることも驚くこともしない善さんに向けて――無防備の善さんに向けて彼女は言う。
別れと言う名のそれを……。
「――じゃあね」




