表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
723/833

PLAY125 ボロボを掛けた戦いの幕開け②

 エドさんが放った攻撃。


 それはあまりにも眩しくて、目を閉じてしまうほど、遮ってしまうほど眩しいものでよく見ていない。ううん。見ていないのは当たり前か……。だって目をつぶっていたんだから。


 瞑っていたせいで一体何が起きたのか。その過程までは分からない。


 わからないけど、何が起きたのかは――見たらわかってしまう。


 そのくらいエドさんが放った力は凄かった。


 前に見たヘルナイトさんの力と比べたら劣っているかもしれないけど、普通の人ならばこんな技は出せない。こんな規模の大きいスキルだったら、技だったらきっと誰もがバグと思うだろう。チートと思うだろう。


 そう。これはチートだ。


 チートだからこそ出せる力。


 ゲーム世界のチートではなく、前に聞いたことがある異世界ファンタジー系のチート。


 確か……チートスキルとか言っていたような気がする……。


 それを見たのは初めてだし、というかエドさんがこれを私達の目の前で見せたのは……、二回目だ。


 一回目はあの時、ボロボの『残り香』相手に使っていたから、私はこれを見るのは二回目。至近距離で見たのは初めてで……。


 ()()()()()()()()()()()()()()()は、もしかしたらヘルナイトさん以来かもしれない。

 

「っ!」


 愕然として、驚愕して自分がいた場所が抉れ、背後を見て攻撃の傷跡を見たラージェンラは、驚きの顔をしたまま固まっている。振り向いた状態で、私達から目を離している状態で。


「!」


 ラージェンラの姿を見て、驚きを見て同意を示しかけた時、私ははっと気付いた。というかこれは、当たり前かもしれないけど、エドさんの攻撃があったから、その威力のデカさもあって驚くことしかできなかったけど、私は気付いてしまった。


 これは――チャンスなのかもしれない。と――


 正直こんなこと思いたくないけど、敵が背中を見せているということは完全なる不意打ちのチャンスってことになるし、でもそれをしてしまうとなんだか罪悪感もある。


 こんなところで不意打ちを使っていいものなのだろうかって思ってしまうほど絶好の攻撃チャンス。


 きっとエドさんはこれを狙っていたんだと思うけど、それをしていいのかどうか……。私は戦わないからこんなことを言えるんだろうけど、正直戦う身としてはきっと隙があればあるほどいいのかもしれないけど……。


 うんうん唸りながら考えてどうしようかと私は頭を捻らせる。


 言った方がいいのかよくないのか。


 とてつもなくどうでもいい事なんだけど、私からしてみれば悪い事に感じてしまう様な事で……。でもこれは……。うーん、どうしよう……。


 なんともじれったい。


 イライラすると思ってしまう人もいるかもしれない。


 そう思っていた時――


「――今だっ!」


 エドさんが張り上げる。


 口元にメガホンを当てたかのような大きな声を張り上げた瞬間、驚きの顔をしていた私達チームの強張りが解消される。


 解消されると同時にラージェンラも茫然としていたその面持ちからすぐに気を張り詰めるようにはっと肩を震わせて、そのまま踵を返すように、私達がいる方向に視線を向けようとした。


 向けようとした――()()()()()()()()()()()()()()を見て、ラージェンラは言葉を失う。


「っ!?」

「オラァッ! これがハラショーだこらぁ!」


 ラージェンラが言葉を失う理由――それは目の前にいた人物達……、シロナさんと善さんが急接近していたから。


 前線を走っていたのは善さんで、善さんは姿勢を低くした状態で駆け出していて、まるで懐に入り込むように自分の得物を引き抜いている。影の『虐殺(サディスティ・)愛好処刑人(デストロイヤーマニア)』はオウヒさんを守るようにその場所でとどまっている。


 影を置いて単身前線を駆け抜ける善さんの背後……、じゃなくて、善さんの上空で構えていたのはシロナさん。シロナさんに至ってはシンプルなもので、手袋を脱いだ状態にして、露になった虎の手を剥き出しにした状態で空中で構えているシロナさんは、背後から見ていた私達からでもわかるくらいの気迫を放っていた。


 圧。なのかもしれない。


 おまけに気合を入れる言葉を叫んでいるのだから、気合は十分というか有り余りすぎているのかもしれない。


 そんなことを考えている間にも、シロナさんと善さんはラージェンラに向かって特攻する。驚きながらも掌から零れ出ている赤いそれを使って何かをしようとしている。何かを作ろうとしているその光景を見て即座に行動したのは――


「っ! あぶねっ!」


 アキにぃだった。


 アキにぃは反射的と言っても過言ではないような速度でライフル銃……、ううん。これは()()()だ。


 紺色の塗料が塗られているけど、ところどころに白い石が埋め込まれているような、そんなまばらの模様が印象的な長い銃。それを見て私は『あ』と声を零すと、その声と重なるようにアキにぃが引き金を引く。


 ドォンッ! と……、重くて乾いた銃声。


 それは今まで聞いて来たライフル銃とは違ったもので、銃声が聞こえると同時に攻撃をしようとしていた善さんとシロナさんは何かに気付いたようで、特攻したまま体を少しだけ傾けるようにして避けている。


 アキにぃの場所を確認した後で軽く曲げる程度のそれだけど、避けると同時にラージェンラは息を呑むような声を出して……。


 ――どしゅぅっ!


「――ぐぅっ!」


 一瞬。本当に一瞬の内にラージェンラの肩が抉れた。


「!」


 抉れる光景は一瞬驚いてしまう光景であり、最悪トラウマものかもしれないけど、なんだか不幸中の幸いなのか、慣れなのかわからないけど、私は大丈夫だった。慣れは恐ろしい……。でもその慣れと今までの戦いの経験がこの一瞬を与えてくれた。


 与えてくれた結果――ラージェンラに再度の隙が生まれた。


 銃弾が当たったという簡潔な言葉が出そうなそれが体現されたかのように……、ラージェンラの右肩にアキにぃが放った銃弾が当たり、貫通して……、周りを赤く彩っていく。


 絵の具が零れてしまったかのような出血。


 痛みの声を出した後ラージェンラは右肩を左手で押さえつけて、左手から溢れて、零れ出てしまうそれを見降ろしながら苛立ちの唸り声を零している。


 辺りが赤く染まるその光景はまさに凄惨だけど、それを見ても善さん達の特攻は止まることがない。というか、これはきっと好都合なんだろうな……。私達味方からしてみれば敵の攻撃が出たら絶対に先手を打たれてしまう。


 相手の攻撃も、相手が一体どんな力を使うのかもわからない。推測だけど血を使うのは分かってしまっているから、攻撃が出る前に速攻でなんとかしないといけない。


 いけないから、攻撃が出る前にアキにぃは先手を放った。


 放った結果攻撃が続く。


 まるで繋げるように……。


 それを見ていたキョウヤさんも『あ!』と驚きの声を張り上げて――銃を見ながら……。


「それアムスノームでおっさんに貰った銃じゃねぇかっ!」


 と言うと、それを聞いていたシェーラちゃんと虎次郎さんが不意を突かれたように『え?』と言う顔をしてキョウヤさんを見ると、アキにぃは「そうだよっ」と肯定しながら続けて言った。


「これは現実世界で言うSG五五〇型のアサルトライフル。有効射程距離は俺の記憶では六百以上出せるし、それにこの銃を作った会社は」

「いいってそれ以上言うなっ! 長々話をしている暇なんてねーだろうがっ!」


 アキにぃの長い説明が来ることを想像してしまったのか、キョウヤさんは即座に話を切り上げるようにしてシェーラちゃんと虎次郎さんに向けて「行くぞっ!」と促して駆け出す。


 勿論尻尾を使わずの普通の駆け出しだ。


 それを見てシェーラちゃんと虎次郎さんもあとから駆け出して善さんとシロナさんの応援に向かう。


 その最中、アキにぃの「なんだとこの野郎っ!」と言う声が聞こえたけど、空耳と思って私も手をかざしてスキルのサポート準備をする。


 戦いが始まる。そんなときでも私はサポートしかできないから何とも歯痒い気持ちになるけど……、それでも私はサポートに徹したい。


 私はメディック。


 みんなの生命線だから。


 そう思いながら戦っているみんなの姿を見てかざした状態を留めていると……。


「グルルルゥウウウウウッ! ウウウウウウッ!」

「! ナヴィちゃん……」


 ナヴィちゃんも唸る声を上げてバサリ! と大きな翼を羽ばたかせる。きっと戦う気満々なんだね……。ううん。止めようと奮起しているんだ。


 ドラグーン王のことで、ナヴィちゃんもきっと悔しかったに違いない。戦えればよかったのに、できなかった。逃げることしかできなかったことに、後悔もしているし、悔しくて悔しくて仕方がなかったに違いない。


 だって、目の前にドラグーン王を傷つけた人がいるんだから……。


 戦えなかった悔しさ。怖さ。


 それは私も感じている。でも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 だって、当たり前だと思う。


 戦えないからできないという気持ちよりも、戦えるのに戦えなかった。


 何もできなかったの方が悔しいに決まっている。


 決まっているからこそ私はナヴィちゃんの悔しさが、後悔が人一倍なのを知ってしまっているし、この戦いでラージェンラをどうにかしてしまいそうな気がした。


 それはラージェンラ以外……、他の人達に対しても、ドラグーン王を傷つけた人に対してもそうだろう。


 戦えなかった。戦おうとしていたのに、怖くてできなかった悔しさや後悔は、記憶に深く深く残って、自分をずっと攻め続けるから……。


「ナヴィちゃん」

「ぐる?」


 私はナヴィちゃんを呼ぶ。


 怒っている音色でもなければ悲しそうに言ってもいない。しいて言うのであれば……、いつも通りの音色で私は言う。


 ナヴィちゃんの背中の所を撫でて、犬の背中を撫でるようにかざしている手とは違う反対の手を動かしながら言う。


 怒りも悲しみもない、普段通りの音色で……。


「焦っては駄目。怒りたい気持ちも、くるしい気持ちも、嫌な気持ちは分かるよ。私もそうなったらきっとナヴィちゃんと同じように後悔して、悔しいって思ってしまうけど、焦ったら周りが見えなくなっちゃう。焦って思わずあの人を踏み潰してしまったら……、ドラグーン王に対して謝罪もできないよ?」

「うぅ?」


 ナヴィちゃんは驚きの顔をしているのか、私のことを見て目を見開いている。横目で見ていたからその目の見開きはよりわかりやすく見えてしまう。


 見えてしまうから感情もわかりやすくて、それを見ながら私は続けて言う。なでなでと――首の背中を――人で言うところの項らへんかな? その場所を撫でながら言った。


 音色を、少しだけ真剣に変えて……。


「悪いことをしてはいけない。そしてラージェンラ達『六芒星』がしたことはとても悪い事、とてつもなく悪い事なの。謝って許されるようなことではないと私は思っているし、みんなそう思っている。いろんな人たちが傷つけられた。オウヒさんだって傷ついた。傷ついて苦しんでいる。苦しんでいる人たちのためにも、この事態を収めるためにも、焦って怒ったりしてはいけない。謝って最悪の事態を引き起こしてはいけない。今は少し我儘になってしまうけど耐えて? 後ででも、終わってからたくさん言わせてあげる。それまで――我慢してほしいの。みんなのために……、今は戦ってほしい」


 殺さないで、あの人を捕まえることに専念してほしい。


 そう私はナヴィちゃんにお願いした。


 正直、ナヴィちゃんの気持ちを無下にしているように聞こえてしまうし、私自身ナヴィちゃんの気持ちを理解したうえで言っているのだから性格が悪いと思われても仕方がない。


 それでも、ここで怒り任せにしてしまったらと思うと、最悪の想定しか考えられない。それ以外の考えが今は浮かばない。浮かばないからこそ、私はナヴィちゃんに伝える。


 ナヴィちゃんの気持ち、怖かった、悔しかったなどの気持ちを理解したうえで、私はナヴィちゃんに酷なことを頼んだ。ラージェンラを倒さないでほしいと、とてつもなく酷なことを告げたのだ。


 倒したい気持ちが目に見えてわかる――そんなナヴィちゃんの気持ちに蓋をしてと言って……。


 これでナヴィちゃんが素直に頷いてくれるのかはわからない。多分しないと思うけど、してくれたらいいなと思ってしまう自分もいて、正直それはナヴィちゃんの気持ちを尊重したい。でも、でも……。


 ()ヴィ()ちゃ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……。


 最初に出会った時のことを思い出してしまう。


 あの時は怖くて暴れていたあの子だけど、あの状態のまま見ていたら、人を殺していたかもしれない。


 ナヴィちゃんは大きくてもまだ子供だけど、体はドラゴン。簡単に人を殺してしまう力を持っている。


 持っているからこそ、長い間一緒にいたからこそ、ナヴィちゃんにはきれいなままでいてほしいと、まるで親のような気持ちを抱いている。


 我儘だよ?


 自己満足だよ?


 だからこそナヴィちゃんの意思を聞いたら折れる気でいる。


 あれは、私の我儘だから。そう思っていると――


「オラァッ! 『豪傑ごうけつ――哭牙こくが』っ!」


 シロナさんの叫びと言うか、気合の入った叫びが聞こえたので視線をそっちに向けると、ちょうどシロナさんがラージェンラに向けて何かをしようとしているところだった。


 さっき見た時は空中に跳んで奇襲を仕掛けていたシロナさんは、今まさにラージェンラの懐に入り込むように姿勢を低くして走っている。その状態でシロナさんは両手の十指に力を入れ、爪で引っ掻くのかと思ってしまう様な体制でシロナさんは構えて……。


「っ! ちぃ!」


 今まで攻撃をしつつ防御をしていた――つまり攻防をしていた隙に繰り出されたことで、驚いて後ろに後退していくラージェンラに向けてそれを繰り出した。


 横に大きく振りかぶって――猫が可愛く『猫パンチ』をするような行動を、力強く――


 いや、猫パンチは違う。シロナさんが繰り出したのは――所属『モンク』のスキル。


 メグちゃんが確か言っていた気がする。さっき言っていた『ごうけつ、こくが』と言うものは二回連続で攻撃できるスキルだって。


 厳密には、『打撃と斬撃の攻撃を一回ずつ出せるスキル』で、SPの消費も少ないスキルだった。


 つまり……、あれは猫パンチではなく……。


 張り手と爪の引っ掻きの二連撃と言う事。


 避けようと大きく横に振るったシロナさんの攻撃を後ろに避けようとしたラージェンラ。掠っても対してダメージがないと思っての行動かもしれない。背中を伸ばすように体を曲げ、逸らすようにシロナさんの大きな薙ぐ攻撃を、大きく振りかぶった攻撃を避けようとする。


 流れるように、スムーズに時間が進んでいく最中の回避の光景は、一瞬目を疑う様な綺麗な流れ。まるで前もって相談していたかのような演出具合。アクション映画さながらの避け方に言葉を失いそうになったけど、今は戦っている最中。そんなこと考えていてはいけない。


 そう思っていると、シロナさんの攻撃がラージェンラの顎目掛けて繰り出され――


 …………繰り出されたけど、避けたこともあって完全に攻撃が当たることはなかった。


 しゅっと……、顎の先に爪が当たったくらいの掠れで終わってしまい、それを見てアキにぃは『うげっ』と言う声を零してしまう。


 当たらなかった。


 露骨な感情が浮き彫りになってしまい、声を聞いて、避けることに成功したラージェンラは微かだけど、懐に入り込んだシロナさんのことを見てにやりと笑みを浮かべている。


 まるで――馬鹿にするように見下して……。


 見下して何かをしようとした時、私は手をかざした状態でシロナさんの周りに『強固盾(シェルガ)』をだそうとした。このままでは危ないと思ってすぐに出そうとしたんだけど……、その行動に対して――


「待った。それは先行しすぎだよ」


 と、止の言葉を入れたのは、エドさんだった。


 エドさんの声は私から見て右側から聞こえた。聞こえたから私は視界を右に向け……ることができない (目を離したすきに何が起こるのかわからないから)ので、私は視線だけをエドさんにできるだけ向けるようにして聞き耳を立てる。


 聞き耳を立てて、『先行しすぎだよ』の言葉に対して私は聞く。


 一体何を言っているのか。それを別の言葉に変えて……。


「どういう……、ことですか? 先行しすぎているようには」

「いいや先行し過ぎている。きっと君はこう思ったはずだ。このままだとシロナが危ないって。それは確かに正しい事。正しい思考。そしてやっていることも正しい」

「なら――」

「でも、彼女はあくまで、おれ達の仲間」


 ()()()()()()()()()()


 そうエドさんははっきりとした口調で言うと、続けてエドさんは言う。


 終始穏やかなそれを崩していないその顔で。終始焦ってもいなければ戦闘の構えをしていないその姿で……。


 まるで、『戦わなくても大丈夫だろう』と言わんばかりの面持ちでエドさんは言った。


「まぁ見ていなよ」


 と言って、エドさんはシロナさんの方角に向けて指をさし、真っ直ぐ見ていてと言う思惑を乗せるように言ってきたのを聞いて、私は半信半疑ながらも視線を再度シロナさんに向けようとした。


 本当にまだ見ていない。視線を向けようとした瞬間なので正式には見ていない。だから何が起きたかなんて見ていないからわからないけど、向けようとした瞬間――何かが弾ける様な音が聞こえた。


 ――ばしゅっ!


 それは何かが裂けるような音で、それが聞こえた時私は一体何が起きたのかと視線を素早くラージェンラに向けて状況を確認しようとした。


 しようとして、息を呑んでしまった。


 それは一緒に見ていたナヴィちゃんも同じで、驚きのもしゃもしゃを出しながら困惑しているみたいで、『()()()しゃ()()しゃ()()()()()()()()()ジェ()()()も驚きを隠せない顔をして死角にいるシロナさんに視線を向けていた。


 避けた状態のまま止まってしまい、顎にできた切り傷から伝い落ちる血で衣服を汚しながら彼女は見下ろしていた。


 避けて、空を見上げているのに視線をシロナさんがいる下に向けて……小さく舌打ちを零したように見えた時、シロナさんは動く。


 姿勢を低くした状態を維持していた型を崩すように、大きく振りかぶっていた状態からすぐに地面に両手を付ける。


 逆立ちでもするのかと言わんばかりの勢いのある手の付け方。


 その状態のままシロナさんは続けて足を動かそうとする。思いっきり走る……と言う動作ではなく、手を付けた状態で地面を蹴って、蹴った威力を利用して足を持ち上げたのだ。


 あれは、見たことがある。見たことがある動作だ。


 あれは……、逆立ちをする時の行動だと思った時、シロナさんは自力で、勢いに手伝ってもらって持ち上げた足をなぜか空に向けてず、そのまま足を曲げて一旦動きを止めてしまった。


「っ?」


 その行動にはラージェンラも驚きの様子で、その行動を顎を押さえながら見ていた。だらだらと顎から流れるそれを右手で押さえて、右手の指から零れ出る赤いそれがまた服を赤く汚し、足の指先にも付着して、地面を赤く濡らしていく。


 濡らしているけれどそんなことお構いなしに、シロナさんは善さんに向けて名前を呼んで、その言葉を聞いた善さんは頷きながら無言でシロナさんに向かって駆け出す。


 駆け出す善さんを見てシェーラちゃんが『あ、ちょっとっ!』と声を荒げて静止の声をかけるけど、そんなこと聞こえていないと言わんばかりに駆け出した善さんの足音を聞いて、シロナさんは何かを待っているかのように体制を留めている。


「っ! なるほど……同時攻撃ね?」


 何かに気付いたラージェンラはにやりと顎を押さえつけながら笑みを浮かべると、止まっていないのにそのまま顎から手を離して、まだ傷口が塞いでいない手をシロナさんに向けて――頭上からそれを向けるとラージェンラは大きな声で高らかに言う。


 ずりゅっ。と、手の傷口と顎の屑口から何かを出して……。


「そんなの……、言っちゃったら駄目じゃないかしらぁっ!? 隠すのが、下手ねぇ!」


 そう言った瞬間、ラージェンラはの傷口から真っ赤な剣を勢いよく出して、それと同時に顎からも長い長い剣を出した。


 まるで仕込み刀を勢いよく出すかのように、それを『ずおっ!』という勢いの音を放って出したラージェンラ。一見すると格好悪く見えてしまいそうなそれだけど、剣の先はシロナさんと善さんに向かって放たれている。勢いの所為で避けることができない。


 善さんも避けれないし、シロナさんも避けることができない。


 それを見てまた手をかざしてスキルを出そうとした。


 出そうと思った、出そうと思ったその時には……、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 勢いも無くなってしまい、善さんの鼻の先で止まって崩れてしまう様に、それは善さんの目の前で崩れ、そのまま地面に力なく落ちてしまった。

 

「え?」

「は?」


 これには私も驚きだし、ラージェンラも驚きの声を出して唖然としてしまった。


 ううん。きっとラージェンラの方が驚きが大きかったに違いない。私も善さんが無事であったことよりも、ラージェンラを見て驚きが隠せなかった。


 それぞれが同じを見て驚いてしまった。呆けた声を出してしまった。


 善さんに向かっていた剣はラージェンラの顎から出ていた物だけど、それを折るようにシロナさんの足刀の突きが繰り出されていたのだ。


 ううん。折った。足の蹴りだけでそれを折って、シロナさんに向かっていた手から出ていた真っ赤な剣は、器用に避けているみたい。器用に避けて折るという芸当を、シロナさんはやってしまったのだ。


 これにはアキにぃ達も驚きの顔。


 でも善さんはそれに驚かず駆け出して、懐に携えていた剣を引き抜くと、驚いて一瞬の隙を突いているラージェンラに彼女の左肩の下に向けて……。


「暗鬼剣――『左腕(レフトハンド)四肢切断斬(ゴア・キラー)』」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ