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PLAY124 神器取り扱い説明書⑤

 迫り来る赤黒い根っこのようなもの。


 それは一種の触手にも見えてしまいそうになるけれど、今はそれを凝視する暇なんてないし、どころかそれをした瞬間に死んでしまうかもしれない。


 そのくらい今起きている状況は絶体絶命。


 迫り来るそれを見ていた私はすぐに行動に移した。


 それはみんなも同じで、即座に動いたのは虎次郎さんとエドさんで、二人共盾を構えた状態で前に躍り出て来る。


 みんなを守る体制のその姿は、まさしく騎士系統の所属らしい姿。


 エドさんと虎次郎さんの行動と同じ時に善さんも何かをしようとしていたけれど、それをする前にもう赤黒いそれは迫って来ている。大げさではないけれど、本当に目と鼻の先と言ってもおかしくない距離になりそうなくらいの距離。


 一気に迫るその光景を見た私はすぐに手を空にかざして――迫り来る赤黒い触手に向けて言い放つ。


「『囲強固盾(エリア・シェルガ)』ッ!」


 メディックの盾スキルでもある『囲強固盾(エリア・シェルガ)』を発動して、みんなを覆う様に守りを固める。


 大きくて強い盾を張ることになるのでオウヒさんの『強固盾』は無くなってしまうけれど、それでも今はみんなの命を優先にして、オウヒさんの命も優先にして、且つ――みんなのために時間を稼がないといけない。


 そう結論に至った私はみんなとオウヒさんを守るために大きな大きな『囲強固盾(エリア・シェルガ)』を発動する。


 発動した瞬間私達のことを覆う様に半透明の半球体が出現した。けどその行動も少し遅かったみたい。


「! あ」


 遅いせいで完全に防ぐことができなかった。


 全部がスローモーションのように遅くなって、遅くなってしまった世界で私は見てしまった。


 のろのろと遅くなった世界で、まるで延命措置を受けているかのような感覚。


 遅くなってしまった世界で、私は全部見ることができてしまった。


 防ぐことを前提にした『囲強固盾(エリア・シェルガ)』だったのに、それがいとも簡単に崩れてしまった瞬間は、まさに目に焼き付いてしまうものだった。


 なんで防ぐことができなかったのか?


 だって……。


 ()()()()()()


「嘘……っ!」


 私は声を上げてしまう。


 声を上げて目の前にある赤黒いそれを視界一杯に入れた状態で、私は驚きの声を上げた。


 上げて、目の前で変化したそれを見て、私は驚きを隠せないまま強張ってしまった。


「ちょ……! 嘘でしょっ?」

「マジかっ!」

「むぉおおっ?」


 シェーラちゃんとキョウヤさん、虎次郎さんがそれを見て驚きを露にして――


「っ!」

「エド……これまじーんじゃねーのかっ!?」

「っ! っち!」


 エドさんの驚きの声とシロナさんの困惑と焦りの声、そして善さんの大きな舌打ちが聞こえると同時に、みんなから零れる困惑と焦りのもしゃもしゃ。


 そして、ラージェンラから零れ出る嘲のもしゃもしゃ。


 まるでこうなることを見越して、こうすればもっと恐怖に落とせると思ったからやってみましたと言わんばかりの顔に、私は言葉を失う。


 でも、その策略にはまってしまったのが私達だ。


 だって、今の今まで赤黒い触手のようなそれが『囲強固盾(エリア・シェルガ)』を発動した瞬間一瞬止まって、それが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


囲強固盾(エリア・シェルガ)


「うそ……、まさか」


 思わず言葉を失ってしまいそうになるような予想外の展開。


 今の今まで『囲強固盾(エリア・シェルガ)』が壊れることは……、あった。けど、こんな風にすり抜けて攻撃を維持するなんてことは全然なかった。


 細くて、長くて、そして――その先から煌く何か。


 それはよくアニメとかで見る剣先が光る様な光景と同じで、長い張りの様に見えてしまう。


 それが『囲強固盾(エリア・シェルガ)』を放つ前に姿が変わって、『囲強固盾(エリア・シェルガ)』の中に入り込むように、……違う。そうじゃない。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 抜け道を縫うように入り込んで、私達を串刺しにしようとするその常軌を逸した行動。使い方は、まさに抜け穴を探すような狡猾なそれで、狡猾ではない (多分)な私達は予想していなかった。


 ゲームの世界と言う事を理解していたからこその落とし穴かもしれない。ゲームの世界だけどリアルの世界であることをちゃんと理解していれば、こうならなかったかもしれない。


 ゲームの世界ではこんな風に使うことはない。ゲームの世界だから壊れるなんてことは無いし、抜け道なんてないという固定概念があったからこうなったのかもしれない。


 攻撃もスキルもゲームの世界と同じなんだから、簡単に防ぐことだってできる。ずっとそうだったからできるという固定概念……、ううん。現実世界の思考があったからこうなったのかもしれない。


 こうなったのかもしれない。なんていう後悔をしたところで、結局同じなんだ。


 結局――私達は常人。


 戦っているひとでもないし、ヘルナイトさんのように百戦錬磨の人でもない。魔法を使って戦っているひとでもないし、命を賭して生き残っているひとでもない。


 私達は……、脳味噌は普通の人。


 現実世界と言う平和な世界で生きてきた人からすれば、こんな予想外の事態を想像することなんてあまりない。どころかこんな戦い方を見たのは初めてだったから、脳が追い付かなかった。


 違う。


 これは言い訳。


 甘く見ていたんだ。


 私やみんなは、今まで戦って負けたことがないから、勝てると確信して、慢心していたからこんな隙を生んでしまった。


 今はいないヘルナイトさんがいれば、こうならなかった?


 もし誰かがここにいたら、もしここに警戒心が強い人がいればよかった?


 すべてがスローモーションになった世界の中で私は思う。


 こうすればよかったとか、ああすればよかったという後悔だらけの世界の中でも私に向かって突き刺そうとしてくる赤黒い細い針は私の顔面に穴を開けようと迫って来ている。


 もうあと数センチかもしれない。視界がどんどんおぼろげというか、視点が合わなくなってしまったのか、ぼやけている。


 ぼやけている所為で距離感がバグっているようにも感じるけど、それでも私は確信していた。


 あぁ、このスローは……、スローモーションのそれは……。



 死ぬ瞬間の流れだと。



「――『殲滅槍(せんめつそう)』っっ!!」

「『虐殺(サディスティ・)愛好処刑人(デストロイヤーマニア)』――『斬切木端(ザンギリコッパ)』」

「やばいっ!」



 そう思った瞬間、視界一杯に広がっていた赤黒いそれが一気にばらばらになった。


 ばらばらになって、視界に黒い破片が目の前に散らばり、そのまま地面に、スローモーションになって落ちていく。


 ばらばら、ガラガラとそれは音を立てて落ちて、その音を聞いた私はやっと現実に思考を、すべてを戻すことができた。


 戻して、声の主の一人でもある人物に視線を向けて叫ぶ。


「キョウヤさんっ!」


 そう、あの時一番に声を上げたのは――キョウヤさんだった。


 その後声を上げたのは……、厳密には同時に声を上げたのは善さんと、エドさん。


 二人のことも気になっていたけれど、私は自分の仲間でもあるキョウヤさんに声をかけて、みんなの安否を確認しようと視線を向けた。万が一、怪我があれば回復スキルを使おうと頭の片隅で思いながら……。


 でも、そんな心配はどうやら杞憂みたいだった。


 私の声を聞いたキョウヤさんは真っ赤になって、大きくなっている槍の刃を軽々と片手で振り回し、その光景を見て驚きの顔をしている虎次郎さんとシェーラちゃんをしり目に手を振ってこう言った。


「おう! こっちは大丈夫だ! 何とか間に合ってよかったよっ!」


 てか一瞬で形変わるとか予想できねーって。てか、おっさんとシェーラは初めて見るっけ?


 そう少しだけ焦ったと言わんばかりに顎の汗を手の甲で拭うキョウヤさん。後ろにいた二人と銃を構えて臨戦態勢を整えたアキにぃはその光景を見て驚いている。


 アキにぃは前に見たから驚きなんてなくその光景を見ては小さく『久しぶりに見た』とか言っていたけど、シェーラちゃんと虎次郎さんは驚きの顔のまま固まっている。


 固まっているからなのか返答もしない。驚きのあまりにというか、詠唱云々よりもキョウヤさんのテクニックとかに驚いていたのかもしれない。


 そこは本人達に聞かないとわからない。


 わからないし私も勝手に想像してはいけないと思ったから、これ以上のことは想像しないけど……。


 そう思った時――私の背後から、みんなから見れば左側から大きな音と斬撃音が辺りを包み、衝撃が風となって私達に襲い掛かってきた。


「っ!」

「「「!」」」

「お」


 ブワリと来たそれは私達の髪をかき上げて、衣服を靡かせて驚きと言うそれを与えていく。


 本当に驚きを与えてくれるように風が私達のことを襲って、驚きで一瞬目をつぶってしまいそうになったけど、それに何とか耐える。


 アキにぃもキョウヤさんもシェーラちゃんも同じように驚きはしたけど目をつぶっていない。虎次郎さんに至っては全然驚いている素振りなんてないからそれにも驚いてしまう。


 驚いてしまうけれど、今はそれを気にしているほど悠長な時間ではない。


 ドラゴンになったナヴィちゃんは私を守るように翼で私の周りを固める。


 翼を盾代わりにして守るその行動を見つつ、私はナヴィちゃんの翼越しで背後で一体何があったのか。アキにぃ達から見て左側で何があったのかを見ようと振り向きを行う。


 振り向いて、視界に入った光景を見て私は驚きで息を吐いてしまった。

 

 はっと息を呑むように、私はその光景を見つめる。


 視界に入った光景……それはまさに、驚きの光景。その驚きは、攻撃を放ったラージェンラにも伝播していた。


 言葉を失って、驚きの顔をしたまま固まって視界に入る存在達を見ているラージェンラは、私達を視界に入れると、次に新たな存在を視界に収めて、記憶しているみたい。


 視界に入った存在は私も同じ人達で、簡潔に言うと、エドさん達を見て驚きを隠せなかったという事。


 エドさん達はそんなみんなの驚きを素通りするように立っている。


 ううん、厳密には経っているけれど、普通に立っているのはシロナさんだけ。他の二人――エドさんと善さんだけは違っていた。


 善さんは今まで手の形で姿を現していた影がやっと全身……、ううん。これは半身を表していて、善さんの影――『虐殺(サディスティ・)愛好処刑人(デストロイヤーマニア)』は手にしている武器を手の中でくるくると大道芸のように回しながらげらげら笑っている光景を呆れながら見上げている。


 全身が骸骨の姿で、その髑髏の左目にある赤い宝石の中には薄桃色に光る何かが埋め込まれていて、その光に便乗するかのように赤い宝石が心臓のような色身を帯び、手に持っているものは錆が異常なまでにこびりついたカットラス。カットラスのほかにも武器を持っているけれど色々な武器は隙間が空いている肋骨に差し込まれて、体からは黒い靄がうねうねと百足のように体を取り巻いている『虐殺(サディスティ・)愛好処刑人(デストロイヤーマニア)』は、カットラスの他にボロボロになってしまった大きな大剣を回して笑っている。


 喜びの笑いを上げながら、善さんのことを無視しながら『虐殺(サディスティ・)愛好処刑人(デストロイヤーマニア)』は笑っている。周りには赤黒い細長いそれらがバラバラになって落ちていて、きっと『虐殺(サディスティ・)愛好処刑人(デストロイヤーマニア)』が斬ったんだと思う。


 あの時聞こえた善さんの声がそれを予想させる。


 でも、『虐殺(サディスティ・)愛好処刑人(デストロイヤーマニア)』以上に私達が驚いたことは――エドさんだった。


 エドさんは武器を構えたまま……、盾を構えたまま微動だにしていない。でもそんなことに対して驚いていたのではなく、私やラージェンラが驚いた理由はそれでなく、盾から出ている何かを見て驚きを隠せなかった。


 あの時のエドさんは『やばい』としか言っていない。


 言っていないけれど、エドさんはラージェンラの攻撃を防いでいる。現在進行形で、しっかりと防いでいるのだ。


 盾を構えて、突き刺そうとしていたその攻撃を――()()()()()()()()()()……。


 エドさんの所属――『ガーディアン』は魔法攻撃の防御が得意な所属だけど、ラージェンラのような攻撃を防ぐことなんて、あまつさえ吸収するようなスキルなんてなかった……と思う。勿論詠唱かと思っていたけれどそうではないことにすぐ気づくことができた。


 気付くことができた理由に関しては簡単――詠唱の言葉を言っていないし、エドさんはあの時『やばい』しか言っていないから。


 言っていないからと言って技を放っていないわけではない。アキにぃのようにスキルの名前を言わずに放つことができるアイテムもあるし、それを使ってスキルを放っているかもしれない考えもあったけど、やっぱりそれはないと考えを改める。


 エドさんが持っている盾に突き刺さっていたかもしれない赤黒いそれが、どんどんと光を纏って吸収されて行くのだから――改めない方がおかしいかもしれない。


 これにはラージェンラも驚きだし、私やナヴィちゃん越しに見ていたアキにぃ達も驚きだ。


 驚きと同時に放たれた言葉は……、ラージェンラだった。


「『聖楯アナスタシア』と……、『聖槍ブリューナク』ッ!? アズールにしかない三つの神器……(シャイニガル・)武器(ウェポン)を二つも……っ!?」


 ラージェンラの言葉は驚愕そのもので、顔にも出てしまっているその顔で彼女はエドさんのことを見て言う。


 その言葉を聞いたエドさんは穏やかな驚きを表しながら攻撃を防いだ盾を掲げて……、ごんごんっと盾を軽く拳で叩きながらエドさんは……。


「あ、知っているんだ。というか(シャイニガル・)武器(ウェポン)って神器って言う言葉でも括れるんだ。それは初耳だ」


 と驚きながら言って、その後――


「おれが持っている『聖楯アナスタシア』は、普通に扱えば普通の盾として使うことができる。けれど、この武器にはたった一つだけ、それを持つと発動する特殊スキルを使うことができるんだ。この盾が持っているスキルは――『防御変換』。いうなれば防いだ攻撃を、この武器が持つ性質と()()()()()()()()()()()()()()物なんだ。水属性の攻撃が当たったらこの盾の場合(シャイニガル・)武器(ウェポン)の属性は光属性だから光の属性を溜める。それが一気に三つの攻撃が当たったから、今この盾には三つの光属性の攻撃が溜まっているってこと。簡単に言うと――三倍の光属性が序の盾にため込まれているってこと。あ。そう言えばこの世界には確か……、(ディザスター・)武器(ウェポン)があって、その武器にも溜める特性を持っているものもあるって聞いたけど、それはおれが知ることもないだろうから置いておくとして……。――ここであれって思ってしまうよね? 『()()盾に溜まっている光属性って一体何に使うつもりなの?』って、そのことに関しては、多分ゲームと同じで、簡単に言うと――この盾に物理攻撃をしてしまった敵に対して、跳ね返しと同時に光属性の攻撃を当ててしまう。シャーマーと同じようなそれを感じるけどね、この盾に溜まっているものは三倍の光属性。つまりはその三倍の攻撃が一気に来るということで、さっきの攻撃を防いだからそれと同等の光属性の攻撃が来るってこと。これが種であり、この『聖楯アナスタシア』が持つ力」


「それ以上はやめろ説明野郎っ!」

「あんたマジでそれ以上はやめて置けっ! 最悪大コマで吹き出しで埋め尽くされちまうほどの情報量だっつーのっ!」


 あとこれは説明を聞いただけだと頭に入らねぇっ!


 とまぁ、シロナさんとキョウヤさんの突っ込みによってエドさんの長い長い説明は一旦終わり豚ったんだけど、エドさん自身「えー?」となんだか不服そうな顔をしていた。まだ説明したりなかったのかな……? 律儀なのかもしれないけど、今はそれどことではないし、そんなことをしていたらまさに集中放火されてしまう。


 それだけは避ける意思を持ってエドさんに言った二人は、まさにファインプレーの塊かもしれない。


 説明を聞いていたアキにぃ達も茫然としている。というか……、長すぎる説明に呆れてしまっている。あれ? ラージェンラも呆れている……?


 そんなことを思っているとエドさんは「えー……、まぁ後ででもいいか」と言って、エドさんは手にしている槍の矛先をラージェンラに向けて……。


「おれが何とか隙を作るから、みんなはその後で体力をできるだけ削って」

「え?」


 と、先に宣言しては視線をラージェンラに向ける。


 向けられた視線に気付いたラージェンラは驚きながらもエドさんのことを見て、再度あの細長い針のような力を出そうとしているけど、そんな光景を見てもエドさんはひるまない。


 どころか、何かを含ませた笑みで彼は言った。


「おれもできるだけ削って、みんなの負担を減らすようにするから」


 そう言ってエドさんはその切っ先を向ける。


 煌々と光っている槍の先を……『聖槍ブリューナク』の先を向けて……。

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